臨床外科 26巻2号 (1971年2月)

特集 緊急手術後の合併症・Ⅰ

緊急手術後の腎不全 太田 和夫
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はじめに

 ショック状態で運ばれてきた患者の診断をくだし,輸血,輸液や強心剤などショックに対する処置をして手術にもちこむ.手術中,麻酔医は低血圧や頻脈などに悩まされるが,とにかく手術は無事に終り,麻酔からも覚醒した.やれやれと胸をなでおろしていたところ,1〜2日してから,どうもあの患者は尿量が少ない,などと連絡をうけ,さては急性腎不全に陥ったかと愕然となつた経験は外科医ならば1度や2度はもっているものである.

 今回緊急手術後の合併症として術後の腎不全をとり上げたこの特集に,たまたま「術後腎不全をどうするか」という立川共済組合病院外科の川野博士と私の対談が同時に収録されることになり,この対談の中で,術後急性腎不全の治療面における具体的な問題が述べられているので,それとの重複をさける意味もあつて,ここではイレウス,消化管出血,閉塞性黄疸など緊急手術の対象になりやすい疾患とこれらの場合に見られる急性腎不全の特殊性について紹介し,あわせてそのback groundとなるべき病態生理についても触れてみたいと思う.

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はじめに

 糖尿病昏睡は,わが国では余り多いものではない.その発生頻度は,1958年〜1965年の8年間における糖尿病患者811名の剖検例中,昏睡死は51例6.3%であるという.しかし糖尿病昏睡の死亡率は53.2%で,一度発症した場合の死亡率が著しく高いことは他の疾病には類をみないほどのものであり,その診療上の困難性を予想せしめる.この糖尿病昏睡発生の因子としてインシュリン作用の不足が第一にあげられており,それは細胞飢餓に通ずるものであるが,手術に伴い経口飢餓が強要される外科領域にあつては,糖尿病患者が昏睡に陥る機会が多いことを推察せしめる.このような観点から,ここでは外科領域における糖尿病昏睡とその治療ならびに対策について,症例を呈示しながら,治療内容を病態生理学的見地から述べてみることにする.

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はじめに

 頭部外傷患者の緊急手術の目的は,開放性または閉鎖性外傷を問わず,脳実質への機械的圧迫(血腫)の除去,脳腫脹に対する減圧手術,および感染原の除去にあるといえる.特に重症頭部外傷による脳嵌頓の徴候の出現は,一刻を争う緊急性が要求される.したがってほとんど術前の正確な検査不足のまま手術が施行されることになるが,この場合,術後様々な合併症の起こつてくる危険性が大であることは当然といえよう.しかしながら,いかに緊急性を要求される場合でも,頭部外傷の実態は多様であることを認識し,術前の神経学的検査,および可能な限りのレントゲン検査その他の補助診断法を用いて頭蓋内病変を正確に把握した上で,対策を講じることこそ術後合併症を減ずる第一段階であることはいうまでもない.術中の問題においてもしかりである.重症頭部外傷手術の重点は,一カ所に結集した頭蓋内血腫の存在だけではなく,頭蓋(脳)全体の問題である点を忘れてはならない.

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はじめに

 過去5年間の腹部外傷は117例で,頭部外傷の合併手術を行なったものを除き腹部外傷が主となつたのは109例であるが,その中術後消化管出血をきたしたのは5例,4.6%に当る.これを従来より腹部外傷術後合併症として一般に報告されている遺残膿瘍,横隔膜下膿瘍,イレウスなどの7例に比較すると意外と発生が高率であるといえよう(第1表,第2表参照).外傷では来院時既往歴も十分知りつくせぬことも多々あり得るが,術後の消化管出血もまた突発的のこともあり,予期せぬ合併症の範疇のものとして外傷故にいたし方ないとそのまま放置してしまわれ,不幸な転帰をとる傾向にあるが,たとえ以前にまったく正常と自他共に自覚していた患者でも,かかることが発生し得るということを念頭におくならば時に救命し得ることもあるので,われわれはこれらの症例を個々に反省し,診断,特にどのような場合に発生するか,なし得ればその予知,さらには処置をいかにすればよいかなどを2,3の代表例をあげ,その経過を追い検討してみたいと思う.

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はじめに

 消化管出血で臨床医がしばしば遭遇し,その判断と処置が問題となるのは主に上部消化管の大量出血であるので,以下これを中心に述べたい.このような上部消化管の大量出血に対しては短時間に適切な診断と適切な処置を必要とするが,判断を誤つて不幸な転帰になつた症例,あるいは,悲観的と思われた症例が決断と迅速な手術で救命し得た場合など,種々の経験を有する外科医が多いと思う.しかしこのような症例に緊急手術を行なつたが,さらに手術後,再び大量の出血をきたすような症例に遭遇することもあると思われる.著者も過去に2例経験しているので紹介し,上部消化管の大量出血例の手術に対する私見を述べたい.

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はじめに

 大阪大学特殊救急部は昭和42年8月に設立され大阪市ならびにその近辺の重度外傷患者を選択的に収容しそのintensive careを行なつてきた.その治療にあたつてわれわれはできるだけ検査をくり返し行なつてその結果にもとづき方針を決定することを主眼としてきた.われわれの行なつた重度外傷者に対する呼吸管理もその一つで,やみくもに気管切開を行なつたり酸素投与を行なうことは避け,主として血液ガス分析の結果を中心にそのデーターにもとづいて治療をすすめることにした.幸いなことに酸素電極やCO2電極の進歩により血液ガスやpHの測定が簡単に行ないうるようになつたため動脈血の採血から数分以内にその結果を得ることが可能になつた.われわれの特殊救急部もその中にベッドサイドラボラトリウムともいうべき検査室をそなえ重症患者の管理に必要なさしあたつての検査が常に迅速に行ない得るようになつている.われわれは,この検査態勢を完成するとともに,その機能をできるだけ利用して外傷患者の病態を把握するように努めてきた.

カラーグラフ 交通外傷シリーズ・2

腹部外傷の臨床

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 前回はもっとも多くみられる実質臓器損傷として肝破裂の症例を図説した.本号では,膵損傷のように比較的少ない損傷と腸破裂の如く多数みられても診療上あまり困難のないものなどについて,なるべく多数の症例をあげて図説を試みる.

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 複雑多彩な交通災害腹部外傷の治療を記述するのは容易ではない.しかし腹部外傷の手術処置はすべて基本的な外科的治療法の応用あるいは組み合わせに過ぎないとみなすこともできるので,ここでは主として日常の外科で遭遇することが比較的少ないと考えられる部分に重点を置いて略述する.

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 人工腎臓や腹膜灌流など人工透析療法の導入で急性腎不全に対する積極的な治療が行なわれるようになり,その成績も一段と向上してはきたが,まだ50%に近い死亡率であり,十分満足すべきものとはいい難い.これには多くの原因があるが,急性腎不全に対する認識の不足も大きく影響していよう.今回は術後に急性腎不全がおきた場合,どのように考え,いかに対処すればよいかという点を実際的な面を中心に話し合つていただきました.

外国文献

熱傷,他
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 皮膚を広く損傷したら健康皮膚で蔽つてやらないと感染体液喪失など不利がつづくが,十分なautograftが間に合えばよい.しかし20-25%以上の熱傷面積になるとautoでは足りないからhomoを使わなくてはならなくなる.allograftが棄却で,一過性にすぎないのは当然だが,10-14日生きていてくれればautoが十分ひろがるから,alloを10-14日もたせたいものである.さてBatchelor(Lancet 1:16,1969)はその方法を考案してきたが,今回(Lancet 2:581,1970)はalloが長くもつにはHL-A抗原が影響大であるという考え方で,25%以上熱傷16例に,ABOとHL-Aとの抗原をしらべ,ABOは全く型が適合,HL-Aはその1つだけ多少適合しないという厳重なtissue typingを行なつて,その上でallograftingを行なつた.技術失敗を除けばclose matchでは最低24日,最高93日もつた.close matchはpoor matchに比しχ2=4.3,P<0.05で有意に永く保たれた.45%以上熱傷でfull thicknessなどというのにはこうしたHL-A適合alloが必要であろう.

患者と私

患者と家族 佐野 圭司
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□Sanoの意味について

 「患者は最良の師である」「臨床の研究はベッドサイドに始まる」「病気を治すのでなく患者を治すのである」等々いずれも医師の拳々服膺すべき名言であると思う.

 私自身若い頃Aegrotos Sanoなどとサインして得意になつていたこともある.Sanoはラテン語で「私は治療する.健康にする」という意味であり,Aegrotosは同じくラテン語で「患者(複数)を」である.つまり「私は患者(複数)を治療する,健康にする」という意味である.

海外だより

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はじめに

 Bostonには数多くの日本人医学者の方々が留学され,この「海外だより」の欄にも諸先輩がいろいろと書かれておられます.Massachusetts General Hospital(以下MGHと略)にClinical and Research Fellowとして70年4月に留学してからまだ1年にもなりません.私の知識では不十分な点も多々あると思いますが,印象的に感じたことなど述べてみたいと思います.

外科教育を考える 外科医の卒後教育について・6

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 外科医の卒後修練制度の確立と共に,市中病院がクローズアツプされてきた.しかし,まだ受入態勢が完全でないために,種々の障害が山積している状態である.その矛盾をどうやつて打開するか,済生会宇都宮病院を中心にご執筆をいただきました.

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 第32回日本臨床外科医学会(会長・瀬田孝一・岩手医科大学教授)は,岩手県盛岡市において1970年9月28日(月)から30日(水)まで3日間にわたつて,盛況裡に開かれた.同学会では実地臨床に密着した多数の演題の他にも,特別講演として「医療の法律的責任」(穴田秀男・東京医大)や,シンポジウムとして「外科医の養成についての今日的課題」をプログラムに組み,医療と法律・倫理,また外科教育について論議されることが多い折から注目されたものである.各シンポジウムを司会された先生方に,その報告を感想をまじえてご執筆いただきました.

最近の麻酔

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はじめに

 副腎皮質機能異常患者に対する手術は診断法および治療の進歩により,今日では決してまれなものではなくなつてきた.したがってこれらの患者に対する術前,術中,術後の管理がしめる役割は手術手技に優るとも劣らぬほど重要であることは論をまたない.

 本篇では副腎の機能,副腎皮質機能亢進症,副腎皮質機能低下症などに関して,麻酔管理の面から述べてみたい.

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 前回においては,肝動脈の解剖学的変異について,外科的視点よりまとめたが,今回より疾患単位にその動脈撮影像を考えてみたい.

 腹部臓器の中でも,管腔性臓器の病変の把握は,最近のファイバー結腸鏡やファイバー十二指腸鏡などの開発により,ほとんど余すところなく及んだの感が深い,その結果,実質性臓器の腫瘍は,一向に治癒成績の向上をみないまま,ますますとり残されていくようである.なかでも,膵臓癌や肝臓癌は年々増加の傾向をみせつつも,その長期生存例は本邦ではまだ10指を屈するに至つていないといつた現状で,これら疾患の診断および治療上における動脈撮影の意義については,十分に考察をめぐらす必要があろう.そこで今回と次回の2回にわたり,とくに肝癌と膵癌をとりあげ,動脈造影との関連において,われわれの得た知見を述べてみたい.

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はじめに

 最近の開心術における成績の向上は,手術手技の発達もさることながら,適切な術後管理と相まつて,体外循環法の進歩に寄与するところが大きい.

 われわれの教室でも,1956年より1960年にかけて行なつた低体温法の後,Dewall-Lillehei型人工心肺をへて,右心バイパス法1),Cooley型人工心肺からThermo-Helix-Oxygenator2)へと進み,1962年,Thermo-Disc-Oxygenator(T.D.O.)3)4)を開発し,1448例に施行,そのきわめて秀れた安全性と実用性を確かめてきた.

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はじめに

 1955年4月から1970年3月までの15年間に山口大学第2外科に入院した硬膜外血腫の患者は64例あり,これは同期間に入院した頭部外傷患者1518例の4.3%に相当する.このうち手術前に死亡したもの,および保存的に治療したもの7例を除く57例に,開頭術を行なつて血腫を除去した.このうち1例は術後1年目に再び頭部外傷を受けて,同側の硬膜外血腫をきたして手術を行なつたので,別個の症例として取扱い,合計58例について種々の面から検討を加えてみた.

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 乳幼児に見られる肥厚性幽門狭窄症はよく見られるものであるが成人に見られるものは稀で報告例が少ない.最近われわれは癌による幽門狭窄を疑われて送院された例で術後組織検査の結果本症であると判明した症例を経験したので報告する.

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はじめに

 胃好酸球性肉芽腫は比較的まれな疾患であり,おもに胃粘膜下に好酸球浸潤を伴い,その中にアニサキス幼虫の虫体が発見されることがあり,最近では寄生虫による肉芽腫として報告されている.われわれは最近,漿膜を中心とした好酸球浸潤がみられ,付近の筋層にアニサキス幼虫の虫体を確認した1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

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臨床外科
26巻2号 (1971年2月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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