看護学雑誌 57巻7号 (1993年7月)

特集 看護と生命倫理の現在

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はじめに

 最近,わが国においても「医療の倫理」が話題に上がることが多くなり,国民的関心が高まってきている.出生をめぐる問題としては,体外受精,顕微受精,代理母など不妊患者への福音となるべき新しい医療行為がもたらした難しい倫理問題や,出生前診断と先天異常,遺伝子診断と遺伝子治療,人工妊娠中絶の是非など,人間の存在そのものに関する哲学に基づいた深刻な問題を含む生命倫理がある.

 一方,終末期医療をめぐっては,告知の問題,植物状態患者や脳死者の取り扱い,生命の神聖性か生命の質のいずれを取るか,リビングウイルと尊厳死,慈悲殺と安楽死,臓器移植,骨髄移植,その他の先端医療,致死的疾患であるエイズや他の難病患者などをめぐる生命倫理的対応など,臨床における生命倫理的問題は山積している.

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生命倫理の考え方

 日本看護協会では,1988年に看護婦の倫理規定を発表しました(資料参照).その中には,「人間の生命を尊重し,人間としての尊厳および権利を尊重する」と明記してあります.さらにこの生命倫理の考えを深めるために,1993年度から生命倫理に関する委員会を設け,プロジェクトを予定しています.委員会には,医師,看護婦だけではなく,法律家,宗教家,といった幅広い分野の人も参画するように配慮しています.いわゆる科学の中で忘れてならないのは医の倫理,人間の尊厳だと思います.単なる延命技術だけを競い合うのでは困ります.ですから,委員会の中では臓器移植の問題についても話し合いますし,看護婦としての高い倫理観に基づいた看護判断や看護情報の提供,また看護領域における業務の権限と責務も明確にしていきたいと思います.

 臓器移植に関しましては,大学や病院にある「医の倫理委員会」などでも研究されていますが,看護婦が参加していないという事実もあります.私は常々,看護領域に深く関わることなので,参加できるよう努力することを勧めてきました.また,看護部長を中心に,生命倫理に関する研究会を開いて,ぜひ検討するようにとも言っています.看護はかけがえのない,1人ひとりの患者に対する畏敬と愛です.それを科学的,創造的にいかに実践するかなのだと思います.生命倫理問題は避けては通れないものです.

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はじめに

 東京女子医科大学付属病院NICUでは,児およびその家族にとって,最も意味のある治療方針を決定する際に,倫理的観点からの討議が行なわれる.対象となる症例は,致死的,あるいは予後不良と診断された症例である(高度の脳室内出血を伴った超未熟児や13トリソミー等).

 本来,医療は,その生命のある限り1分1秒でも延命に努めるべく治療を続けることで進歩してきたのかもしれない.しかしながら,新生児医療の場においては,濃厚な治療をむやみに続けることはいたずらに苦しみの過程を引き延ばし,悲惨な状況に至ることも事実である.それだけに,児の予後が絶対的に不良であることが明らかな症例に対するその治療方針の決定は,単に医学的な観点のみに止まらず,社会的,法的な側面からの検討も行なわれる.ことに,家族的な背景は重要な情報の1つである.そこで,当施設における倫理的治療方針の決定の過程と決定に関わる看護婦の役割について述べてみたい.

訪問看護の現場で 紅林 みつ子
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はじめに

 私たちの仕事は,いうまでもなく生命と向き合っている.現在訪問をしている人たちの最期に,いつ出会うかもしれないという思いが頭から離れることはない.病状が良いとか悪いとかでは判断できないことも多い.

 地域に出て看護の仕事をする場合,その場にいつも医師が居合わせることは少ない.その意味では,地域の仕事をする訪問看護婦は,その場で1人で判断しなければならないことも多いので,ものごとを考える力を身につけていなければならない.お互いに人格を尊重しあい,訪問看護婦として主体的に行動することが問われている.日常の訪問看護の場面で,果してそのような行動ができているのかどうか疑問であるが,現在訪問しているMさんとの関わりを通して,この問題を考えてみたい.

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生命倫理って何?

 生命や倫理などという言葉は,日常気軽に使用しているが,改めて「生命倫理」とは何なのか,しかも看護学における「生命倫理」の位置づけはどうなのかと,問いかけてみると筆者自身に明快な答えのないのが実際である.そこでこの機会に,日頃看護教育の場で実施していること,考えていることを振り返りながら,自身の生命倫理に対する考え方,看護教育への取り入れ方などについて整理をしてみたいと思う.

 ところで,ここでのテーマである「生命倫理」という言葉は,Bioethics(バイオエシックス)の日本語訳であり,ギリシャ語のビオス(生命)とエシイケー(倫理)からきている複合語として生まれたとされている.この新しい言葉の語源や定義,歴史,研究分野,教育方法などについては,すでに多くの専門家が書籍や専門誌で語っている.あえてここで繰り返し述べることは避けたいと思う.

学生の広場

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はじめに

 看護は,コミュニケーション技術が大切であると教育されてきた.今回,臨床実習で腰背部痛があり,肝癌の診断で入院療養している患者を受け持った.患者は口数が少なく,自分の思いを看護者に伝えることはなかった.しかし,ゆとりを持って接し,患者の出すささいな言葉を大切に受け止め,言葉を「待つ」ことで,患者と看護者としての関わりだけでなく,人と人としての関係が成立できたと考えられるので,患者との関わりを振り返り考察する.

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はじめに

 「子どもが健全に育つためには,母と子の深い絆が基本となる.この絆は,母親または,その役割をする養育者の日常的な世話の中につちかわれるものである.もしも,語りかけのない,また,子どもへの愛情のない日常の世話が続くなら,子どもは心の安定を得ることがなく,情緒の不安定な状態になるばかりか,将来に問題になる」と言われている*1)

 *1)これは誰の言葉でしょう.引用ははっきりさせましょう.それとも単なる記載もれでしょうか.

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 この論文は,潜在看護婦であった私たちが,家庭での主婦業と両立させながら,看護職に復帰した記録である.

 看護婦という職業は,とても奥行きが深く魅力的なものと思う.もっと仕事を続けたい,できるならば結婚,子育てと両立させて働きたいと思っている人は数知れない.

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 おだやかな初夏の暖かさを感じさせる4月末,東京都下の奥多摩にある鳩の巣渓谷キャンプ場で,看護留学をめざす看護婦の会「CD CLUB」のバーベキューパーティーが催された.この日の参加者は,アメリカ人ナース(米軍横田基地病院勤務)を含めて25名.

 「CD CLUB」とは,1991年2月に発足した“Chick-a-Dee”(ヒヨッコ,かわいい子という意味がある)の頭文字からとった海外で看護を学ぼうと考えている看護婦・学生の会(看護学雑誌,56巻10号,プロフィール欄で紹介)であり,情報交換の場として,在日外国人看護婦との交流会も実施している.昨年は横田基地病院を訪問し,看護の現場を視察するとともに交流をはかった.今回は自然の中で,英会話の実践も兼ねて,2度目の交流親睦会となった.

連載 カラーグラフ

第一線に飛び出した修士ナースたち

食事ウェ〜ブ12か月・4

残菜『ゼロ』をめざして 小島 昌恵
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バラエティーに富んだ献立を

 「今日の夕食は何かな」

 退屈な入院生活で,献立表を見るのは患者さんの楽しみの1つになっています.

生体のメカニズム・19 [呼吸の生理・2]

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 「息をするのが苦しい」という訴えは毎日の看護の中でよく体験することと思います.今月号では,この訴えがどのような理由で生ずるのかを理解していただくために,私たちの体の中で行なわれている酸素(O2)と二酸化炭素(CO2)のガス交換の仕組みについてお話しします.

 「息を吸う」のは,私たちの体を構成している細胞それぞれが,活動に必要なエネルギー(ATP)を作り出すために空気中のO2を細胞に供給するためなのです.

褥瘡の治療と看護の実際・4

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はじめに

 高齢者における褥瘡は,加齢による身体的変化や基礎疾患が背景的成因,増悪因子となっている.そのため,持続的な圧迫,摩擦,失禁や発汗による皮膚の湿潤などの外因が加わると,褥瘡は容易に発生する(図1).一旦発生した褥瘡は,肉芽組織の形成や上皮化の遅延により遷延化する場合が多い.また,全身状態の悪化とともに褥瘡も悪化し,緑膿菌,大腸菌,その他の細菌感染により,敗血症に発展しやすく,生命の危機に結びつきやすい.

 以下,褥瘡の背景的成因,増悪因子となる加齢による身体的変化と基礎疾患および褥瘡の治療について述べ,症例を紹介する.

連載 [ルポ]訪問看護はいま・16

デンマーク訪問記・2

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 前回のデンマーク訪問記では,夜間帯の訪問看護に同行した内容を報告したが,このような素晴らしいサービスがどうして展開できるのかを探ってみたい.デンマークの社会保障全体や医療福祉の基本的な考え方をみることがその答えとなるだろう.

 前回の24時間在宅ケアのあり方は,デンマークの社会保障の大きな特徴であるが,自治体単位での社会保障の実態を,私たちが訪れたカルンボー市においてみてみたい.

連載 [インタビュー]第一線に飛び出した修士ナースたち・7

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 井部 若狭さんとは,以前私が病棟婦長をやっていた頃,一緒に働いたことがありますが,よりよい看護を追求する姿勢が強く印象に残っています.その後修士課程に進まれて,現在では,臨床で最もどろどろしている看護婦の精神的な問題や,患者や家族が抱える心の問題の専門家をされているわけですが,まずリエゾン・ナースを目指された動機をお伺いしたいと思います.

 若狭 約10年間の臨床経験で,医療が複雑化し,身体的な部分での看護が重視される傾向にある中で,悩んだり,葛藤を引き起こしている患者・家族への精神的な看護の重要性を改めて感じました.同時に,私たちがその専門的な知識,技術を持ちえていないということも痛感させられました.

連載 海外レポート[カリフォルニアの病院で見たこと・考えたこと]・3(最終回)

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 今回の海外リフレッシュ研修で,私が最も興味をひかれたのは,アメリカにおける依存症の治療サービスについてであった.

連載 Good コミュニケーションをあなたに・7

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 お互いに一生懸命に伝えあいたいという熱意があるのに,コミュニケーションがくいちがってうまく進まないということが時々ある.それらのズレは多くの場合,医療者と患者との間にあるいくつかの構造的な立場の違いによって起こることが多いようだ.今回はこうしたくいちがいがどうして起こるのかについて原因を探ってみよう.

連載 日々の看護ケアと生命倫理と・7

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 前回,多胎妊娠の減数出産のための手術について触れました.私の迷いを記すにとどめましたが,医師の立場に立った時,私はどう対処するのか.迷いだけでなくいまなりの決断を,いまなりの意思表明をしておくべきかとを思っています.といいますのは,前回の原稿を書き終わって数日後,長野の一産科医が,自分は減数手術を行なっていて,産科医としてそれを是とすると,自ら申し出をされた記事を新聞で読んだからです.テレビでも大きく取り上げ,コメントしていました.賛成,反対,いろいろな意見がありました.

 私がその記事を読み,まず思ったことは,減数出産は,ある意味では医療高度化の中での医師の責任の取り方なのかもしれないということでした.第1回目にも書きましたが,生命倫理が単に生命を考えるのか,人らしく生きる,人として幸せになるといった生活までも考えるのかということを,もう一度思い出しています.この減数手術を行なっていると告白し,自ら問題提起をされた医師も,決してすべての多胎妊娠の方に手術を勧めたのではなく,どうするかを尋ねて,希望された方に実施したとのことです.

連載 私が癌看護に魅かれる理由・2

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出会い

 優れた闘病者として印象の深い「仏のトミさん」に私が出会ったのは,治療部門のクリニック(当時)に勤め始めて半年余り経った2月末のことだった.

 剣道で長年鍛えたガッシリとした体格と,血色のよい笑顔を見ていると,胃癌の手術後の全身骨転移があるとはとても信じられなかった.本人も,こういう致命的な状態に進行してしまうまで,自覚症状はなかったと言う.

連載 でも、やっぱり歩きたい[直子の車椅子奮戦記]・19

外泊 滝野澤 直子
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おいしいビール

 「外泊は楽しいよね.文句なしだよね」

 この前アルバムを見ながら母が言った.うん,うん,ほんとだね.外泊はいつのときでもみんな楽しかったねえ.とびっきりだった.

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 患者が身体の不調を、一生懸命に訴えているのを聞いている時に、「こっちのほうがもっと調子わりいよ〜」って思うこと、あるわよね。

 不定愁訴しまくる奴とかを見てると、もう、それ自体が自己表現になってる。病気が多い奴ほど威張っているのが、病院という世界のおかしさ。

基本情報

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看護学雑誌
57巻7号 (1993年7月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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