産科と婦人科 92巻3号 (2025年3月発行)

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特集　産婦人科領域のトランスレーショナルリサーチの展開―若手医師への研究のススメ―

ねらい宮城　悦子 92巻3号 , 2025年3月 , pp.241-241

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　臨床の現場では，働き方改革のなかで「自己研鑽」の名のもとに，臨床医が行う研究については逆風ともいえる状況に陥っています．しかし，臨床を専門とする産婦人科医師が，最先端の医療に直結する基礎と臨床をつなぐトランスレーショナルリサーチの現状を理解することは，患者へのよりよい医療提供やコミュニケーションにもつながります．また自ら研究に着手している大学院生やポストドクターの産婦人科医師，アカデミアに所属する医師が，産婦人科領域の新たな研究を推進していくことは，産婦人科学の進歩に欠かせないことであると考えております．

Ⅰ．婦人科腫瘍

1．婦人科がんの新規免疫治療法の開発の現状小笠原　仁子 , 佐藤　正易 , 長谷川　幸清 92巻3号 , 2025年3月 , pp.245-251

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要旨

　子宮体癌に続き，子宮頸癌でも免疫チェックポイント阻害薬が承認され，婦人科がんの領域でも腫瘍免疫療法が身近になってきている．しかし，免疫チェックポイント阻害薬の登場による恩恵が受けられる対象は一部であり，様々な腫瘍免疫療法の開発が今も進められている．

2．婦人科がんのトランスレーショナルリサーチ―病理組織像，HRD，免疫チェックポイント阻害薬，ベバシズマブ― 松村　謙臣 92巻3号 , 2025年3月 , pp.252-258

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要旨

　私はこれまで婦人科がんの臨床に直結する研究を行うように努めてきた．そして，卵巣の高異型度漿液性癌の病理組織サブタイプ分類，DNA相同組替え修復異常の解析，免疫チェックポイント阻害薬の感受性予測，ベバシズマブの効果と限界について報告してきた．それらの研究を遂行し論文発表する際には様々な苦労があったが，その経験が臨床試験を含めた医学研究の論文を深く理解するために役立った．医学に携わるものは，情報リテラシーを高めるために，自らトランスレーショナルリサーチを行うことが勧められる．

3．子宮頸部胃型腺癌発生のメカニズムの解明宮本　強 92巻3号 , 2025年3月 , pp.259-264

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要旨

　実臨床での課題を研究テーマにできることは，臨床医が研究をする強みといえる．子宮頸部胃型腺癌（GAS）と分葉状頸管腺過形成（LEGH）の鑑別診断の臨床研究から，われわれはGASの発癌過程に着目し，クローナリティ解析から一部のLEGHは単クローン性の腫瘍性質をもつこと，LEGHを伴うGAS例の全エクソーム解析によりGASが併存するLEGHより発症したことなどを証明した．また，今後の研究のためのGASの実験モデル開発についても触れる．

4．子宮内膜癌の進展メカニズムの解明石黒　竜也 92巻3号 , 2025年3月 , pp.265-269

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要旨

　がんの進展・増殖・転移に，がん組織中の一部のがん細胞がおもに関与する「がん幹細胞理論」が提唱された．腫瘍形成能・自己複製能・分化能をもつ “がん幹細胞” の研究が多くのがん種で進み，がん幹細胞の特性の解明が新規治療への発展に寄与すると期待されている．本稿では，子宮体がんの進展に関与するがん幹細胞の当科の研究成果と，新規治療への発展について紹介する．

5．遺伝子変異解析を軸としたGnRHアナログによる子宮筋腫の縮小効果予測永井　康一 92巻3号 , 2025年3月 , pp.270-274

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要旨

　GnRHアナログは強力なゴナドトロピン分泌抑制作用により女性ホルモンを低下させる．子宮筋腫に対する術前使用では，筋腫核の縮小効果を期待してGnRHアナログを投与するが，すべての子宮筋腫が縮小するわけではない．期待した筋腫縮小効果が得られない場合，外科的治療介入のタイミングが遅れるだけでなく，エストロゲン欠乏による更年期症状や骨密度低下などの副作用が問題となる．薬剤効果を投与開始前に予測可能となれば，縮小の見込める症例に対して選択的にGnRHアナログを使用することで患者の負担軽減につながる．

6．婦人科腫瘍におけるantibody drug conjugateの実用化と課題鈴木　幸雄 92巻3号 , 2025年3月 , pp.275-280

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要旨

　抗体薬物複合体（ADC）は創薬技術の進化に伴い近年登場した分子標的薬の一種である．がん細胞表面の抗原を標的とした抗体医薬と搭載する殺細胞剤の組み合わせにより，がんの多様性にあわせた創薬が期待され個別化治療への大きなブレイクスルーとなる薬剤である．すでに乳癌等の他癌腫で実用化されているものの，婦人科領域では国内承認薬は登場していない．婦人科領域におけるADCのおもな国際臨床試験の結果をもとに今後の展開を掴んでいく．

Ⅱ．生殖内分泌

7．初期胚発生の分子機序はどこまで解明されたか松沢　優一 , 山田　満稔 , 阿久津　英憲 92巻3号 , 2025年3月 , pp.281-285

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要旨

　ヒト初期胚発生は，受精から着床に至る過程を含む．近年の研究成果により，胚発生における細胞質格子様構造に含まれる母性遺伝子を介した遺伝子発現制御，染色体異常発生における活性酸素，染色体分配，DNA複製ストレスの役割など多様な機序の存在が明らかになっている．さらに胚盤胞における細胞表面の揺らぎが胚の系統分化を物理的に制御し，分化した原始内胚葉の着床における重要性が示されている．

8．胚発生とミトコンドリア伊集院　昌郁 , 上野　寛枝 , 葉山　智工 92巻3号 , 2025年3月 , pp.286-291

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要旨

　ミトコンドリアはATP産生にとても重要な細胞小器官であるだけではなく，それ以外にもいろいろな機能を有している．また，独自のmtDNAを有するなど構造としても特徴的である．ミトコンドリアの生殖領域における重要性はこれまでも多く報告されてきているが，その全容はいまだ明らかになっていない．本稿ではミトコンドリアの基礎的な解説，生殖領域におけるミトコンドリア研究の現状とともに，われわれのグループが行ってきた研究について報告する．

9．精子免疫と不妊症研究の最前線陳　月焜 , 本田　晴香 , 柴原　浩章 92巻3号 , 2025年3月 , pp.293-297

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要旨

　免疫性不妊症の要因である抗精子抗体に関する研究は半世紀以上にわたって続けられてきた．生殖補助医療の技術の進歩に伴い，免疫性不妊症の管理において，抗精子抗体および対応抗原の役割とメカニズムを理解することは，ますます重要となってきている．本稿では，精子免疫と不妊症研究において，対応抗原の同定方法と実験技術の進歩，抗精子抗体検出の臨床応用，免疫学的避妊ワクチンの開発等の話題について解説する．

10．着床前遺伝学的検査の進化佐々木　愛子 92巻3号 , 2025年3月 , pp.298-302

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要旨

　着床前遺伝学的検査（PGT）には質の高いART技術が必須であるが，2022年に保険診療となったARTも，過去には新しい技術として開発されたものである．PGTのような新しい医療技術を “どのような患者” に “どのように用いるか” といった臨床研究こそが，新技術と実臨床との橋渡しとなるトランスレーショナルリサーチである．生殖医療の分野においては，生殖細胞系列であるヒト胚を用いるため，安全性・有効性の確認はもとより，今後の生物界への影響を見据えた対応が求められることも忘れてはならない．

Ⅲ．周産期

11．妊婦の深部静脈血栓症メカニズムの解明根木　玲子 , 宮田　敏行 92巻3号 , 2025年3月 , pp.303-307

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要旨

　妊娠と分娩は，静脈うっ滞，凝固能亢進，血管内皮傷害などの静脈血栓塞栓症（VTE）の発症リスクを有する．凝固能の亢進は，凝固制御因子の減少，凝固因子の増加，線溶系の低下を伴う．凝固制御因子であるアンチトロンビン，プロテインC，プロテインS（PS）の各欠乏症は遺伝性血栓性素因として知られVTEの発症リスクを高める．日本人の約55人に1人は中等度VTEリスクであるPS p.Lys196Gluを保有し，本バリアントは妊娠関連VTEの危険因子である．

12．妊娠高血圧症候群の関連病態の発症メカニズムの解明熊澤　惠一 92巻3号 , 2025年3月 , pp.309-313

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要旨

　妊娠高血圧腎症（PE）は母児の生命を脅かす疾患であるが，いまだに根本的治療方法は妊娠の終了，つまり児の娩出のみである．病因論として様々な学説が提唱されてきたが，PEの発症にはsFlt-1の関与することが解明され，さらに胎盤形成期からの変化を踏まえて現在はTwo Step Theoryが広く受け入れられている．PEの予防・治療にはさらなる研究が必要であり，今後も多くの若手医師がこの分野の研究にかかわることを願ってやまない．

13．子宮頸管熟化の制御機構下川　理沙 , 近藤　英治 92巻3号 , 2025年3月 , pp.315-319

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要旨

　子宮頸部は妊娠初期から軟化を開始し，分娩時には炎症シグナルやプロスタグランジンの作用により急速に熟化が進行する．妊娠に伴う子宮頸部の変化はコラーゲン，ヒアルロン酸，免疫細胞など多様な因子により調整されている．子宮頸管熟化の制御機構はいまだ十分には解明されていないが，近年の科学技術の進歩により，細胞レベルで子宮頸管熟化に関与する遺伝子やシグナル伝達の包括的な解析が可能となりつつある．本稿では子宮頸管熟化の機序に関して最新の知見も含めて概説する．

14．網羅的遺伝子発現解析法を用いた胎盤トロホブラスト形成にかかわる新規ERV遺伝子の同定杉本　潤 92巻3号 , 2025年3月 , pp.320-327

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要旨

　ヒトゲノム中では，これまでに約2万の遺伝子の存在が明らかとなっているが，いまだゲノム全体の約半分がその生理的意義が不明な未知の配列である．トランスポゾンとよばれるこれらの配列は，ヒトの生殖や発生に深くかかわることが推測され，産婦人科領域の研究者にとって非常に魅力的な研究対象である．本稿では，この未知の領域から新規の遺伝子・機能蛋白を発見するまでの過程と，その先に広がる可能性を胎盤形成不全を伴う周産期異常とのかかわりも交えて紹介する．

連載　漢方よもやま話・第15回

麻黄湯能㔟　充彦 92巻3号 , 2025年3月 , pp.328-331

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1．はじめに

　今回ご紹介する処方は麻黄湯です．

連載　弁護士が答えます！法律にまつわるあれこれ

患者情報の漏洩にはどんな対応が求められるの？水上　裕嗣 92巻3号 , 2025年3月 , pp.332-333

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Q　患者情報が院外へ漏洩したことが判明した場合，どのような責任を負うことになるでしょうか．また，どのような対応をしなければならないでしょうか．

連載　専門医・認定医をとろう！私の体験記・第21回

女性心身医学会認定医（日本女性心身医学会）紫藤　史 92巻3号 , 2025年3月 , pp.334-335

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女性心身医学会認定医とは

　女性の心身の健康と福祉に貢献し，女性心身医学の拡充と発展を目的としています．また，女性心身医学の分野で活動する方を認定することで，質の向上と斯学の推進を図ることを意義としています．会員歴が継続3年以上，かつ会費を完納していること，入会後に認定ポイントを40ポイント以上取得し，かつ学術集会と研修会の認定参加ポイントをそれぞれ最低2回以上取得していることが申請資格となっています．

　詳しい制度や試験の内容などは日本女性心身医学会のホームページをご確認ください（https://www.jspog.com/index.html）．

原著

40歳以上の月経困難症に対するGnRHアンタゴニストとジエノゲストを組み合わせた新しい治療法―予期せぬ不正子宮出血を防止するために― 合阪　幸三 , 土屋　富士子 , 板橋　香奈 , 森嶋　かほる , 山村　菜実 , 長谷川　亜希子 , 能瀬　さやか , 髙橋　優 , 成田　吉央 , 加藤　匠 , 平池　春子 , 長阪　一憲 92巻3号 , 2025年3月 , pp.337-340

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要旨

　ジエノゲスト（D）投与中の予期せぬ破綻出血を防止する新しい治療法の開発を試みた．D（1mg/day）投与前に2週間GnRHアンタゴニスト（G）を先行投与した群，および直接Dを投与した群に分け，D投与開始から不正子宮出血出現までの期間を比較した．Gの先行投与により不正子宮出血出現までの期間は有意に延長した．GとDを組み合わせることにより，患者のQOLに配慮した月経困難症に対する長期間の薬物療法の可能性が示唆された．

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目次 92巻3号 , 2025年3月 , pp.242-243

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投稿規定 92巻3号 , 2025年3月 , pp.344-345

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投稿論文チェックリスト 92巻3号 , 2025年3月 , pp.346-346

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投稿同意書 92巻3号 , 2025年3月 , pp.347-347

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バックナンバー 92巻3号 , 2025年3月 , pp.350-350

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本号掲載広告一覧 92巻3号 , 2025年3月 , pp.351-351

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次号予告 92巻3号 , 2025年3月 , pp.352-352

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基本情報

産科と婦人科
92巻3号
(2025年3月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0386-9792 診断と治療社

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