臨床泌尿器科 72巻8号 (2018年7月)

特集 必読! 尿失禁マネジメントの極意

企画にあたって 小島 祥敬
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 厚生労働省が平成22年に発表した「国民生活基礎調査の概況」には,国民の症状別有訴者率が記載されています.それによると,頻尿の有訴者率(人口千対)は65歳以上の男性111.9,女性68.3で,特に男性の有訴者率のなかでは,腰痛に次いで第2位です.尿失禁も決して少なくなく,有訴者率は65歳以上の男性32.1,女性46.4で,75歳以上になるとそれぞれ53.2,67.1となります.

 2年ほど前,NHK番組「きょうの健康」で,「男性の尿もれ」というタイトルでテレビ出演をさせていただきました.NHKのプロデューサーの話によると,「尿のトラブル」に関するテーマはいつも視聴率がよく,視聴者の関心がとても高いとのことです.市民公開講座でも,「がん」の話題よりは「尿のトラブル」に関する話題のほうが参加者も多く,反響がよいような気がします.「尿のトラブル」は,高齢者の多くが自覚している切実な問題であるためではないかと思います.

〈尿失禁の種類と標準的治療〉

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▶ポイント

・トイレに間に合わずに漏れてしまうという患者の訴えにより,切迫性尿失禁があることが推測できるため,問診が重要である.

・治療は薬物療法が中心となるが,排尿記録や排尿習慣により行動療法が有用なこともあるため,必要な検査を行ったうえで適切な治療法を判断する.

・切迫性尿失禁があることで外出を控えるようになると,精神的ストレスも増え,健康寿命の延伸を妨げてしまうため,適切なパッドの使用などを含めたQOL改善に向けての指導も行うべきである.

腹圧性尿失禁 金城 真実 , 福原 浩
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▶ポイント

・最も多いタイプの尿失禁であり,骨盤底筋群の脆弱化が原因のため女性に多い.

・女性において下部尿路症状のなかで,夜間頻尿とともに最も困る症状である.

・治療の第一選択は骨盤底筋訓練,効果が不十分ならば手術治療が効果的である.

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▶ポイント

・機能性尿失禁は認知症と身体機能低下が重度になると悪化する.

・機能性尿失禁を歳のせいとあきらめず,排尿日誌を基本としてアセスメントに基づくケアが必要である.

・機能性尿失禁の改善は多職種チームが円滑に協働することが重要である.

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▶ポイント

・第一仙髄より上位の横断性脊髄損傷により尿意が大脳まで伝わらず,下位運動神経の脱抑制のために反射亢進となるのが原因.

・清潔間欠自己導尿が可能であるならば,低圧膀胱の維持および尿失禁の改善を目的とした抗コリン薬の内服が有効.

・清潔間欠自己導尿が不可能な場合は,排尿反射を利用した排尿で管理することになるが,排尿筋括約筋協調不全による排出障害は合併症を引き起こす可能性が高い.

溢流性尿失禁 藤原 敦子
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▶ポイント

・溢流性尿失禁とは,慢性尿閉状態で膀胱内圧が尿道抵抗を上回ったときに尿が漏出する状態のことをいう.

・QOLを低下させて腎後性腎不全の原因になりうるため,早期の治療開始が必要である.

・症状だけではほかの尿失禁と鑑別困難なことがあり,身体所見,エコー検査が重要である.

前立腺手術後の尿失禁 海法 康裕
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▶ポイント

・前立腺手術後の尿失禁はQOLに関わる重要な問題である.

・骨盤底筋体操など保存的療法で軽快しない尿失禁は人工尿道括約筋埋込術(AUS)の適応となる.

・AUS手術に際し,尿失禁がまったくのゼロにはならない,抜去・置換が必要な場合がある,排尿のたびにポンプ操作が必要であることに十分な説明・理解が必要である.

・AUSは尿失禁を術直後から有意に改善し,12か月後も効果は継続する.

婦人科手術後の尿失禁 松下 千枝
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▶ポイント

・婦人科手術の既往のある患者における尿意の伴わない持続する尿失禁は,膀胱腟瘻や尿管腟瘻など,尿路と腟に瘻孔ができている可能性を考える.

・治療のタイミングは術後6週間以降がよいが,放射線治療の既往があればその限りではない.

・手術は砕石位での経腟アプローチでも高い成功率であるが,熟達した技術が必要となる.視野がとりにくい場合は腹臥位開脚膝位での手術も選択肢の1つである.

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▶ポイント

・小児は自分の状況を医療者へ上手に伝えられないことが多い.保護者からの情報も主観的となることがあるため,客観的な情報把握に努める.

・器質的疾患がないと判断される尿失禁の場合,まずは生活指導・行動療法による改善を試みることが多い.

・小児という特性上侵襲性を考慮しながらの診療となるが,難治例では背後に器質的疾患が隠れている可能性を考慮する必要があり,侵襲的な検査を躊躇してはならない.

〈尿失禁に対する非薬物療法〉

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▶ポイント

・神経変調療法は,有効な尿失禁治療の1つであり,比較的有害事象が少ないのが特徴である.現在,保険適用になっている神経変調療法は,干渉低周波療法,磁気刺激療法,仙骨神経刺激療法の3つである.

・干渉低周波治療は,腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁を含めて適応範囲が広く,施設基準がなく,制限事項は少ない.

・磁気刺激療法や仙骨神経刺激療法の適応は,難治性過活動膀胱に限られ,磁気刺激療法は,女性に限られる.また,この2つの方法では,常勤医の人数などの施設基準がある.

・やや侵襲性の高い仙骨神経刺激療法の保険点数は高いが,干渉低周波慮法や磁気刺激療法の保険点数は低い.

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▶ポイント

・人工尿道括約筋植込術(AMS-800)が,保険収載され,重症尿失禁患者に対する治療は大きく前進した.

・AMS-800において,尿道萎縮,故障,感染に伴う除去,再留置対象例の増加が予想され,知識・技術の普及が必要と思われる.

・軽症〜中等症尿失禁患者に対して,自然排尿を担保する外科治療である尿道スリング手術および幹細胞注入療法の発展が望まれる.

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▶ポイント

・女性腹圧性尿失禁手術に対する標準術式はTVT(tension free vaginal tape)とTOT(transobturator tape)などの中部尿道スリング手術である.

・本術式は中長期成績も良好な優れた術式であるが,穿刺に伴う血管や臓器損傷による重篤な合併症を来す危険性を秘めている.

〈尿失禁マネジメントの現状と課題〉

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▶ポイント

・急性期における安易なおむつや尿道カテーテル留置管理により,一生排泄の介助を必要とする高齢者も多く,専門的知識と技術をもったチーム医療による尿失禁マネジメントが求められている.

・チームで情報共有して関わり合うことで,尿失禁など下部尿路機能障害を有する高齢者の身体・心理・社会的に複雑に絡み合う問題を整理して介入でき,排尿自立の可能性が広がる.

・多職種が施設内,施設間で連携して継続的に排尿自立支援するなど,より広いチーム医療が求められる.

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▶ポイント

・高齢者の尿失禁の頻度は在宅→老健→特養の順に高いが,問題視されていない.

・排尿自立指導料の保険収載によって,高齢者尿失禁への医療・介護職の関心度が高まることを期待する.

・高齢者の尿失禁マネジメントには膀胱用超音波画像診断装置を用いたうながし排尿が有効.

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 抗がん剤投与による骨髄抑制は臨床上しばしば経験する副作用である.尿路上皮癌におけるゲムシタビン/シスプラチン併用化学療法(GC療法)による骨髄抑制に対するTJ137加味帰脾湯(かみきひとう)の投与効果について検討を行った.2014年1月〜2016年12月にGC療法投与1クール目より血小板数が10万個/μL以下に減少した15症例(男性9例,女性6例)を対象にした.加味帰脾湯投与前後における比較では,加味帰脾湯投与後に血小板および白血球数の最低値は改善する傾向にあった.また,G-CSF投与回数も平均5.4回から3.6回に有意に減少を認めた.加味帰脾湯投与による副作用での投与中止症例はなかった.加味帰脾湯服用はGC療法における骨髄抑制の改善が期待できる漢方薬であり,その有用性が示唆された.

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 78歳男性.CTで右水腎症,右骨盤底リンパ節腫大を認めた.PSA値は164.41ng/mL,前立腺生検でAdenocarcinoma,Gleason score 4+4=8を検出した.ホルモン療法を開始後,PSA値は低下したが4か月後に会陰痛が出現した.MRIで10cm大の直腸を圧迫する腫瘤性病変を認め,経直腸生検で扁平上皮癌が検出,前立腺の腺扁平上皮癌の最終診断となった.

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 昨年8月,中高年の男性患者が陰囊内の「しこり」を主訴に受診したところ,左精巣上体炎の診断で初診医により抗菌剤が投与された.しかし,「しこり」の存在に一切変化がなく,治療効果が認められないので,抗菌剤を飲み続ける必要があるのか,また何か悪いものではないかとの疑問を抱き,予約外で私の外来を受診した.

 触診では,左精巣上体頭部に小指頭大に腫大した平滑で充実性・弾力性を有する腫瘤を認め,圧痛軽度,ペンライトにより透光性を認め,超音波検査で当該部の囊胞性所見を確認した.精液瘤と判断し,穿刺を行い,約2mLの混濁した水様液を採取した.検鏡では精子の存在は認めず,白血球が多数見られた.この患者には,精子が見られないが,感染を伴った精液瘤であり,当面手術の必要はなく,再発時には穿刺吸引で対応すればよいと説明した.

学会印象記

「第33回EAU」印象記 小島 崇宏
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第33回欧州泌尿器科学会総会(The 33rd Annual EAU Congress)が2018年3月16〜20日にデンマークのコペンハーゲンで開催されました.筆者がオランダに留学していたとき以来,EAUは6年ぶり2度目の参加となりました.デンマークも留学時以来の再訪となります.デンマークは北欧らしく空港,ホテルの建造物から,そこにある家具,照明まであらゆるものがおしゃれであり,シンプルかつ機能的です.物価が高いこと以外は大好きな街であります.首都コペンハーゲンは空港から電車で15分とアクセスは非常に良好です.街がコンパクトであるため,学会の合間に気軽に観光に行くことができます.3月といえども北欧はやはり寒く,特に学会前半は雪がちらつき,暴風であったため,厳しい寒さでした(体感温度は−10度以下!!).後半は幸い天気が回復し,晴天に恵まれました.

 学会はBella Centerで行われました.学会場とは思えない北欧らしいデザイン性の高い建物でした.今年のEAUのポスターセッションでは,89のさまざまな分野から発表がありました.例年日本からの多くの発表がベストポスターに選ばれていますが,今年も12のセッションで選ばれました.“Poster 64 Seeing is believing : Advances in imaging and optics in urothelial cancer”では,人工知能による膀胱鏡診断の発表で当科の池田篤史先生も受賞することができました.

「第33回EAU」印象記 寺西 悠
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記憶が確かであればCohen法の手術中だったかと思います.突然,大家基嗣教授から直接私の院内PHSに着信があったので,ついにクビかと腹をくくり,数年間のレジデント生活が走馬灯のように駆け巡りました.が,実際は2018年3月18〜20日にコペンハーゲンで開催されました第33回欧州泌尿器科学会総会(EAU2018)にJUA/EAU Resident Programmeの一員として採択されたという喜ばしい連絡でした.その場で手術を指導していただいていた浅沼宏准教授も一緒に喜んでくださり,高揚感で地に足がつかないような状態であったことを昨日のことのように思い出します.チーフレジデント中であり,幸い?症例が多くいろいろなことが重なり,今から振り返りますとやや困憊していた時期でもあり,神様からのプレゼントと思うことにしました.海外では粘膜下トンネルもロボットでつくるのかななどと,すでにうわの空でした.

 寒さには強いと自負しておりましたが,デンマークは北欧であり期間中はとにかく風が強く,寒さと強風で涙が出たのは初めてでした.到着日にレジストレーションだけはすませておきたかったので,トラムを乗り継ぎながら欧州有数の学会場であるBella Centerまで辿り着きました.日本と比べますと鉄道網は比較的わかりやすく,Centerまでは無事に着いたのですが,夜のCenterは薄暗くいまだ閑散としており,入ってはいけないエリアに迷い込み,夜の学会場に閉じ込められるという貴重な経験をしました(外を通りかかったスタッフに訴え開けてもらいましたが,鬼の形相のJapaneseが必死にガラス窓を叩いているのはさぞかし恐怖であり滑稽だったかと思います).

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目次

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 大家 基嗣
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 本誌2018年4月号の編集後記で,英国の作家カズオ・イシグロ氏の処女長編小説『遠い山なみの光』(ハヤカワ文庫,小野寺健訳)で表現されている,戦中・戦後を過ごした女性の楽観性と思い込みの強さ,異国への憧れについて触れさせていただきました.

 お笑い芸人である矢部太郎氏の書いた漫画『大家さんと僕』(新潮社)がベストセラーになり,第22回手塚治虫文化賞を受賞しました.87歳の大家さんの自宅の2階に間借りした矢部氏と大家さんとの心温まる交流を描いたお話です.大家さんは小柄でとても上品な方.干しっぱなしの洗濯物を取り入れてくれるなどの世話を焼いてくれます.家賃を手渡しに行った際に部屋に上げてお茶をくれました.話題に困って,男性のタイプを聞いてみたところ,帰ってきた答えが“マッカーサー元帥”でした.「哀愁があってどこか遠くへ連れてってくれそうで」というのが理由です.『遠い山なみの光』で描出されていた戦争を生きた女性の感覚を再認識しました.

基本情報

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臨床泌尿器科
72巻8号 (2018年7月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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