公衆衛生 39巻9号 (1975年9月)

特集 環境汚染への対応

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はじめに

 昭和30年代以降のわが国の高度経済成長に伴って,環境汚染は職場(生産と労働の場)から地域(消費と生活の場)へと急激に拡大してきた.重化学工業を中心とする生産施設の巨大化・集中化,太平洋沿岸ベルト地帯での人口の過密化,大量生産と大量消費との定着などに代表される環境汚染要因の質的ならびに量的拡大によって,「産業公害」,「都市公害」,「交通公害」,「食品公害」,「薬品公害」などと称される各種公害が発生してきたが,この事態に対応すべき汚染防止対策の著しい立遅れは公害発生に一層拍車をかけた.その結果,多数の労働者,地域住民の健康被害が全国的規模で,顕在的,潜在的に発生するという今日の事態を招き,このような深刻な状況は,environmental disruptionと表現される近年の世界的な環境汚染の中でも極めて特異的であり,「KOGAI=公害」と表現する以外にない特殊日本的特徴1,2,3)を有するものであることが,政治,経済学的分析によって指摘されてきた.

 数年来「公害」という社会的に定着しつつあるこの言葉に対して,「環境汚染」というむしろ自然科学的といえる表現が,主として「公害」発生源企業,行政および一部の学者らによって使われてきている.

「京浜喘息」への対応 助川 信彦
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「京浜喘息」本態追究の歩み

 昭和50年5月15日朝の朝日新聞によれば,「京浜喘息北上?」と題して,埼玉県高教組の研究グループが小児喘息の県内発生分布を調べたところ,県南地区にその発生率が高いことから,因果関係については明らかではないけれども,最近における公害現象の広域化に伴って京浜地区の大気汚染が北上してきてこのように発生率が増えているのではあるまいか——という見方もあるとのことである.

 そのような見解の当否は別問題として,「京浜喘息」あるいは「ヨコハマ喘息」の呼び名の源流をさかのぼってみると,約30年以前に辿り着く.昭和21年,米国の軍医が横浜に進駐したアメリカ軍人とその家族に,喘息様疾患が高率に発生したことを報告した.このことは,すでに専門家には周知のことであるが,Phelps H. W. らは,「大気の汚染や喫煙が人の気管支に持続的刺戟をあたえてヨコハマ喘息をひき起す.とくに,アレルギー体質をもつ者の場合は,少くとも,そうした刺戟が引き金となって気管支喘息の症状を悪化させる.ヨコハマ喘息は,慢性気管支炎や気管支喘息で始まりやがて肺気腫に進む」と述べた.Spotnizは「ヨコハマ喘息を起すスモッグは太平洋の黒潮暖流が関東地方の気流に影響を及ぼし,冬季にはこの地方を被う気温逆転層が煤煙の拡散を妨げ,濃いスモッグが丘陵部や山間によどむ状態をつくる」と報告した.

京葉地区の大気汚染対策 吉田 亮
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はじめに

 千葉県の大気汚染は,昭和25年千葉市今井町地先に川崎製鉄が誘致されたことに始まる.29年には東京電力千葉水力発電所も進出し,京葉工業地帯の造成が開始された.開発は東京湾に面している浦安町から富津市までの76kmにわたる長い海岸線を計画区域として,60年完成を目途に,約13,373ヘクタールの土地造成を目標に進められている.48年12月末までに全体面積のおよそ70%に当る9,396ヘクタールの造成が完了しており,約1,300社の進出が決定し,このうち900社が操業している.

 千葉県における土地造成は,まず進出企業を先に決め,これから埋立必要経費を予納させて工事を進めるいわゆる千葉方式によるものであり,必然的に企業主導型とならざるをえず,工場進出に関して種々の進出企業の恣意を許し,地域住民への環境整備の配慮などは二の次にされてしまった.さらに,日本経済の高度成長とともに急激に開発が進められた.35年2,101億円で全国第17位であった工業出荷額は,47年には2兆8,828億円,全国第8位にまで躍進し,全国平均の76.5%,109,000円にすぎなかった県民人1当りの分配所得は,691,000円,97.2%にまで伸びている.

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はじめに

 いわき市は福島県太平洋岸の浜通り地区の最南端に位置し,昭和41年10月1日平,内郷,常磐,磐城(小名浜),及び勿来の5市他4町6村が合併して誕生した.その面積約1,228km2は全国一であり,人口約33万は仙台市に次ぎ東北第2位である.世帯数は84,808である.

 当地は昔より産炭地で,明治中頃より常磐地区を中心として本格的に石炭鉱業地として発展して来たが,昭和12年小名浜地区に化学工場N会社が設立され,更に関連企業の進出を見た.以来その排出するSO2のため,周辺の黒松は全滅し,葉の厚い闊葉樹のみが枯死をまぬがれた.またその被害は農作物にもおよんだ.

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Ⅰ.大気汚染対策の推移

 いわき市は福島県の南端に位置し,昭和41年10月5市9町村が合併し,総面積1,228.18km2,人口33万都市として発足した市である.地形的には東は太平洋,西は阿武隈山脈にかこまれた太平洋低地帯である.昭和39年新産業都市の指定を受けて以来国際貿易港"小名浜港"を中心に磐城(小名浜)地区,勿来地区,常磐(湯本)地区に化学工業,非鉄金属製錬等を中核とする大手企業が相次いで立地され,太平洋に面した臨海工業地帯として急速な発展をして来た.その反面,小名浜及び勿来地区における火力発電所,工場・事業所のボイラー,非鉄金属製錬等から排出されるいおう酸化物,浮遊粉じん,あるいは化学工場及び非鉄金属製錬等から排出されるフッ化水素,塩素,重金属等の有害物質による大気汚染問題が発生し,特にいおう酸化物による生活環境への影響による地域住民からの公害苦情が多発した.

 当初の対策としては二酸化鉛PbO2法によるいおう酸化物測定にすぎなかったが,こうした背景のもとに昭和41年には大気汚染自動測定機による環境汚染濃度の測定を開始した.

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はじめに

 富山県の中央部を貫流し,富山湾にそそぐ神通川の流域に発生(図1)しているイタイイタイ病(以下「イ病」と称する)については,昭和43年5月8日に発表された「富山県におけるイ病に関する厚生省の見解」では,イ病の本態と発生原因を次のように述べている.

 1.Cdの慢性中毒によりまず腎臓障害を生じ,次いで骨軟化症をきたし,これに妊娠・授乳・内分泌の変調・老化および栄養としてのCa等の不足などが誘因となって,イ病という疾患を形成したものである.

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はじめに

 世界に前例のない「公害健康被害補償法」(以下「補償法」という)が昨年9月1日に施行されて以来,早くも1年経過した.本制度の実施により民事訴訟によって解決することがむずかしい公害健康被害者に対する補償も可能となったが,制度の実施に際していくつかの問題点に遭遇した.本綜説において補償法の概略,補償法による公害健康被害者に対する補償の現状,並びに補償法の実施に伴う問題点について述べる.

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はじめに

 東京都医師会の会員数は,12,675名であり(昭和49年12月1日現在),そのうちA会員数は9,542名である.日本医師会のA会員数は66,661名であるので,14.3%を占めている.

 昭和50年4月21日までに,その80%強にあたる7.693名の会員が公害医療機関を辞退したので各方面の注目するところとなり,賛否交々激励乃至は批判がよせられている.

発言あり

東京都民の平均寿命 , , , ,
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Care水準の高さか?

 0歳平均余命は地域集団の健康指標のうち総合指標といわれるものの一つである.すなわち,健康現象に関与する無限の要素の影響を総和し,トータルとして「どれくらい生きながらえる可能性」を持つかを示している.したがって,0歳平均余命の数値からそのよってきたる所以の個々を論ずることはできない.東京都の0歳平均余命が男子で1位,女子で3位であったことの理由を,環境汚染や医療密度などに求める論述をするとすれば,その論が成り立つための別途の検討方法が展開されるべきと考える.環境条件や医療条件や文化や経済が総合して人間の命にどう影響したかを示しているのが0歳平均余命であるから,その数値のみから特定要因との因果論をひき出すのは誤まりである.

 東京都のx歳平均余命をみると,男子で0歳,20歳は1位,40歳3位,65歳4位であり,女子で0歳3位,20歳4位,40歳6位,65歳14位となっている.すなわち,東京都は他の地域に比べて「若年齢者の死の危険性が少ない」状況にあることが推察される.

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はじめに

 斑状歯問題という大きなテーマが与えられた.それは,最近問題となった,犬山市の簡易水道水,宝塚市の水道水,西宮市の水道水の飲用から発生した斑状歯問題がきっかけとなってのことであろう.犬山市の場合は,一応補償が決定された.宝塚市の場合は斑状歯専門調査会の答申がなされ,現在市議会で検討中,西宮は調査中ということで,本問題の全貌を示すことは勿論できない大変むずかしい問題である.

 しかし,歯科の立場からすればフッ素は蔓延しているう蝕に対する予防の重要なものの一つであり,フッ素は有害だからゼロにすべきとは簡単に結論できない.

研究

自動車交通による環境汚染 相沢 龍
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はじめに

 近年motorizationは激化の一路を辿り(1972年末現在の車両数23,869,198台…運輸省資料),車両交通量の激増や渋滞などによって,産業立地・地勢・気象その他の諸条件が複雑に作用しあい,広域的にあるいは局地的に自動車交通による種々の環境汚染が惹起され,住民の日常生活や健康に脅威を与えつつある.そのような環境汚染は光化学スモッグであったり,交通騒音振動として,あるいはNOx,CO,浮遊粉じん,anti-knock剤由来の鉛としてそれぞれ単独になど,いろいろの形で問題にされており,大都市を中心にそれらの環境汚染と影響にかかわる実態調査も数多く行なわれてきている.

 当教室でも,かねて長崎・佐賀県の諸都市で交通騒音問題の調査研究や,長崎市では自動車排ガス中の鉛による環境汚染と交通係警官への影響調査を行なってきたが,昭和48年からはCOによる環境汚染の研究を始めた.ここでは最近行なった長崎市内で交通渋滞のはげしい繁華街と対照住居地域での調査結果の概要を紹介し,激化する自動車交通に対する環境保全の活動になにほどかでも寄与したいと考える.

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はじめに

 昭和45年6月の種痘禍事件以来,各種予防接種事故の問題がクローズアップされ,世間の注目をあびるようになった.中央の予防接種事故審査会に各地より申請のあった事故件数は,昭和50年1月31日現在ですでに2,045件を数え,その6割以上は種痘(後)合併症であるという1)

 宮城県においても,予防接種副反応や合併症に関する認識が,患者,保護者,医師や行政担当者の間に年々高まりつつあり,種痘(後)合併症の届出数も増加している.

連載 公衆衛生の道・6

渋谷保健所 山下 章
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 渋谷保健所に就任して真先に開かれたのが三法(旅館業法,公衆浴場法,興行場法)運営委員会であった.「鳩森小学校の前につれこみ旅館を許可するとは何事だ」「静かな住宅地域であった千駄谷が,保健所のおかげでさかさくらげの旅館街になってしまった」「保健所は業者の味方で,住民の敵だ」といった住民感情が沸騰しているさなかであっただけに,三法委員会は大変つめたい雰囲気であった.新所長の考え方はどうか,どういう方向で行政をやってゆくのか,といった詰問ぜめに合った.ことばで御返事するより,行動でお示ししたい.しばらく時間を貸してほしい.という私の返答にも大変に不満の様子であった.

 人口28万1区1保健所,しかも渋谷駅を中心とする繁華街は,ようやくやみ市,バラック建から区画整理をされ,恒久的建築へ転換の最中であり,四谷とは比べものにならないほどスケールも大きいし,業務も繁雑であった.1日1日がただ雑務に追われるだけで終ってしまう.三法委員会で大見得は切ったものの仕事らしい仕事が手につかないまま,時間だけは過ぎてゆく.

日本列島

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 9月15日の敬老の日から始まる老人福祉週間を前に,厚生省は全国100歳以上の長寿者番付を発表したが,それによると兵庫県が31人でトップ,次いで広島29人,福岡と沖縄が共に28人,北海道23人の順となっている.少い県は岩手,秋田,佐賀の各3人である.しかしこれを人口10万当りでみると,沖縄県が2.96人と断然多く,次いで徳島1.63人,香川1.33人,鹿児島1.24人,広島1.21人となっており,少いのは埼玉,東京0.18人,福島0.21人などの順で,長寿県は比較的温暖の地方に多いようである.沖縄県は第二次大戦で多くの死傷者を出した激戦場となったが,その戦火をくぐり抜け以下述べるような不利な環境(?)下で多くの長寿者を出している.今年も総理大臣による表彰の対象となるものが7人もいる.これは明治8年4月1日から同9年3月31日迄の間に生まれた者達で,いわば数え歳100歳に達した人々で,これらを加えると35人となり,昨年の29人,一昨年の26人に比べ大幅にふえている.35人のうち29人は女性で,圧倒的な女性上位となっているが.最高齢は昨年の105歳から103歳にダウンした.

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 東北の湯の町鳴子町の体育館を会場にして,昭和50年9月12日,宮城県岩出山保健所開所30周年(昭和19年1月設置認可,20年2月7日開所)を祝っての大会が盛大に行なわれました.

 今までは公衆衛生組合だけの「公衆衛生大会」が毎年会場を各町村に移して行なわれていましたが,今年からは関係衛生団体共催の形に変り,こことに今後とも「健康を守る加美玉造大会」の名称のもとに,同様にやっていくことになったのが特徴的であります.

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 沖縄県土の主要部分約12%を占有している米軍基地の存在は,県民生活にいろいろな影響を及ぼしている.そのうち公衆衛生上の問題の主なものとして,麻薬中毒,伝染病(性病を含む),人身障害(交通事故を含む),環境破壊,公害等がある.このうち公害問題が最近大きくクローズアップされてきた.まず騒音については,沖縄本島に存在する4飛行場における航空機騒音が問題となっている.特に本島中部にあるアジア最大といわれる嘉手納飛行場からの騒音は,ベトナム戦争当時は100ホンを越える回数も多く,付近住民の不眠,いらいらの原因となり,健康障害を惹起しているといわれている.県が昭和47年9月20日から24時間測定した結果,70ホンを越えた回数は194回,持続時間合計2時間20分,昭和50年5月12日から24時間測定した結果では60ホン以上が150回を越え,延べ時間数も2時間余となっており,減少傾向はみられなかった.かつて騒音発生の主役となっていたB52爆撃機は姿を消したが,ジェット戦闘機,大型輸送機や偵察機等が発着したり,エンジン調整をしたりする事による騒音は絶える間がなく,法的に規制が困難なところから,県,関係市町村はその対策に苦慮している.

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 近県の食中毒の発生は今年は今のところ少ないようですが,宮城県内は例年にない食中毒多発の状態にあり,県も保健所も食品業界も衛生教育や指導監視(業界の自主的指導パトロールを含めて)などの対策に懸命に努力しております.

 昭和50年7月31日現在,医師より届出られた発生件数は107件,発病者数は844名で,昨年同期の9件217名に比し著しい差があります.原因施設別では家庭が64件208名で最多で,次が旅館15件217名,飲食店8件78名,事業場5件,集団給食施設1件,その他5件などの割合でした.また原因物質別では腸炎ビブリオが40件259名で第1位,ブドウ球菌が2件15名,ウエルシ菌1件1名,サルモネラ菌1件1名です.ことに木県で初めてのエルシニア菌による食中毒が1件あり,166名が罹患いたしました.不明は10件で他は調査中であります.

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第24回総合医学賞入賞論文発表
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 第24回総合医学賞論文が下記14論文に決定した。この入賞論文は昭和49年1月号から12月号までの小社の原著収載雑誌からそれぞれの審査をへて最優秀論文が選定されたものである。各論文に対し賞牌・賞状・賞金10万円,および副賞が贈られる。

 総合医学賞は昭和24年いらい.中断もあつたが本年の贈呈をもつて24回を数えこの間の全入賞論文数は145編である。これらの入賞論文が研究の進展に寄与した点は高く評価されている。この間,審査・決定方法についてはさまざまの変遷がある。募集論文の中からだけ選定する方式,全原著を選考の対象とする方式,入選論文を誌上発表し,その中から入賞論文を選定する方式などがとられたが,最近では各誌で選定した原著論文をもつて入賞論文とする方式がとられて来た。その間,原著を収載しない雑誌が増加したことや,基礎・内科の原著雑誌を持たないようになつたことなどもあり,現在の「総合医学賞」の制度は第24回を最後に中止し,雑誌のあり方と併せて再考することになつた。この間格別の御支援を賜わつた寄稿者・審査委員・読者各位に深甚の謝意を表するとともに,今後とも雑誌への御援助をお願いする次第である。

基本情報

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公衆衛生
39巻9号 (1975年9月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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