Neurological Surgery 脳神経外科 48巻9号 (2020年9月)

医官? 潜水医官? 和田 孝次郎
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 原稿依頼をいただいた今,例年より少し早めの桜が満開となり卒業シーズンです.残念ながら,新型コロナウイルスの影響で軒並み卒業式が中止や縮小され,めでたさも半分という社会情勢であります.この号が発刊される頃には感染が収束して,トイレットペーパーも薬局で普通に購入できるような,落ち着きを取り戻した社会になっていることを願うとともに,ウイルスで殺気立っている世の中に巣立っていく卒業生には,今まで以上のエールを送りたいと思います.

 防衛医科大学校(以下,防医大)の卒業式は,縮小する形ではありましたが,なんとか挙行されました.卒業式の前後,防医大の学生は,学校長の決断にて外出禁止となり学生舎に軟禁状態,ウイルス防衛対策の協力を求められておりました.防医大医学部学生は卒業すると陸海空自衛隊に任官し,医官と呼ばれます.医師たる幹部自衛官,つまり士官の階級をもつことになります.ちなみに,「防医大の教官に階級はありません」と言うと皆,怪訝な顔をします.われわれは自衛官ではなく文官(civilian)ですので,階級は存在いたしません.

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Ⅰ.序論

 この20年で高齢化率が倍増し,介護提供者の不足が大きな問題となりつつあるわが国において,介護が必要となる3大要因「歩けない」「物忘れ」「尿失禁」を主症状とする特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)は,脳神経外科医にとって慢性硬膜下血腫とならび身近で診療する機会の多い疾患である.

 しかしながら,慢性硬膜下血腫の穿頭血腫除去術とは異なり,症状が進行してから髄液シャント手術を行っても介護が必要なくなるほどまでの回復は困難であり,早期発見と適切な時期に手術を勧めることが重要である.ただしiNPH患者は,転倒リスクが高いために入院中に日常生活動作が制限されやすく,手術にはさまざまなピットフォールがあり,万が一にも合併症を来すと,容易に歩行・認知機能の低下に陥る.またシャント術後も,バルブの設定圧を適宜変更して髄液排出量を適正に調整し,積極的なリハビリテーションを行い,退院後も長期的に患者とその家族に寄り添う医療が求められる.

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Ⅰ.はじめに

 超高齢社会を迎えた本邦において,脳卒中患者数は増加の一途をたどっており,この分野の救急医療を担う医師への業務的負荷は無視できない状況になりつつある.特に地方都市における医師不足の状況はますます深刻化し9),働き方改革の号令とも相まって,過重労働の問題がクローズアップされる昨今である17).

 当施設は,長崎県央ならびに離島診療の中核を担う急性期病院である.離島常駐の脳卒中専門医は皆無であり,脳血管障害の救急患者に対しては,各離島の基幹病院(spoke:8施設)と当院(hub)間における遠隔画像伝送システムとヘリコプター(ヘリ)搬送(Nagasaki isolated islands telestroke system:NI-telestroke system)で,24時間対応してきた5,6).つまり,離島地域の脳卒中診療については,歴史的に一種のホットライン的体制がとられてきたとも言える.後述するようにこのシステムは,本土と離島双方の神経救急に常時対応する待機脳神経外科医への業務負荷が大きい.以上の背景から,本土救急外来の脳卒中患者には内科当直医が初期対応し,脳神経外科あるいは脳神経内科待機医をコールする初療体制をとっていた.一方,内科当直医は一般内科的救急患者への対応業務も多く,実際には適切なタイミングで脳卒中診療が行われないリスクもあった.

 当施設でも脳卒中担当医・専門医の不足は大きな課題であるが,現実的には各医師にかかる過剰な業務負荷を軽減しつつ,遠隔地を含めた脳卒中医療の質を落とさず担保・継続していく必要がある.医師の「燃え尽き症候群」を予防する上でも,モチベーションを長期的に維持できる新たな診療システムの導入が必要となった.一地方都市の急性期病院における脳卒中診療体制の新たな試みを紹介し,それらのもたらす臨床的効果について検討する.

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Ⅰ.はじめに

 Germinomaは放射線感受性が高い腫瘍の1つであり,以前は放射線治療単独で治癒が期待できるものと考えられ治療がなされていた経緯がある4-6,8,17).しかしながら,長期生存が期待できる反面,放射線による副作用や精神発達遅滞(知能や認知機能の低下),間脳下垂体機能障害,放射線誘発二次的な脳腫瘍,脳主幹動脈閉塞などの晩発性放射線障害がしばしば問題となり,とりわけ放射線誘発性の悪性脳腫瘍の出現は,生命予後にも直結するため極めて深刻である1,11-13,16)

 今回われわれは,治療29年後に発症した放射線誘発性のglioblastomaの症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Diffuse leptomeningeal glioneuronal tumor(DLGNT)は脳実質内への浸潤や腫瘍塊形成を認めずに,脳表の軟膜を中心にびまん性に分布することが特徴的な腫瘍である.過去の報告では,disseminated oligodendroglioma-like leptomeningeal neoplasmやprimary leptomeningeal oligodendro-gliomatosisなどの名称で呼ばれていたが,特徴的な病理組織学的・分子遺伝子学的性質を有することがわかり,World Health Organization(WHO)分類改訂第4版(2016年版)7)より独立した存在として記載された.小児から若年成人に多くみられ,やや男性に多い5,10,11,14).多くは緩徐な経過を呈するが,急性の経過を呈する例が一定数報告されている2,4,5,9-11,16)

 今回われわれは,経過中にくも膜下出血を合併したDLGNTの1例を経験した.文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Erdheim-Chester disease(ECD)は,非ランゲルハンス細胞性組織球症の中でも稀な疾患である.1972年に提唱され,2004年まで世界で100例にも満たない報告数であった.しかし近年,報告数の増加とともに,2013年の米国サンディエゴでのシンポジウム以来,世界的に研究が進められBRAFV600E遺伝子変異との関係も明らかになっている.

 今回,大脳鎌およびテント部,鞍上部に多発性に発生したECDの手術症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 上衣腫は脊椎脊髄腫瘍の中で髄内腫瘍として最も頻度が高い腫瘍であり,原発性脊髄髄内腫瘍の1/4を占めるとされている6,7).硬膜内髄外腫瘍の形態をとるものは,終糸や馬尾を母地として発生する粘液乳頭状上衣腫であることが大多数である2).しかし近年,硬膜内髄外腫瘍の形態で発生する上衣腫の報告が散見される.画像所見や発生形態,術中の所見,経過は粘液乳頭状上衣腫とは一線を画し,特に術前診断において注意を要する病態とされている.

 今回われわれは,胸腰椎移行部に硬膜内髄外腫瘍として発生した脊髄上衣腫の1例を経験した.文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy:CAA)は,高齢者の脳皮質下出血の原因の1つとして有名である11).CAAの中には急性〜亜急性の認知機能障害の進行や白質病変の進行を呈する病態があり,CAA関連炎症(CAA-related inflammation:CAA-I)と呼ばれる9).CAA-Iは副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬が奏効することがあり,早期診断・治療が重要とされている11)

 今回われわれは,CAA-Iと考えられ,短期間に脳出血を多発した症例を経験したため報告する.

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Ⅰ.はじめに

 くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)後に腹腔内出血を来す症例は稀である.近年,頭蓋内動脈瘤破裂によるSAHと腹腔内動脈瘤破裂による腹腔内出血をほぼ同時期に合併し,その原因をsegmental arterial mediolysis(SAM)とする報告5,7,18,22)が散見される.SAMは腹腔内動脈瘤での報告が多く,中膜が分節性に融解するために動脈瘤を形成し出血を来すが,疾患の認識率の増加とともに報告が増え,頭蓋内病変の報告も認められるようになった.SAMは未だ原因不明とされているが,ノルエピネフリンを原因とする報告10,24)がある.

 今回われわれは,SAH後に脾動脈瘤破裂を来し,腹腔内出血を起こした症例を経験した.SAHによるカテコラミンサージが影響し,SAMを引き起こした可能性があり報告する.

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Ⅰ.はじめに

 交通事故以外で第三者による目撃のない2歳未満の急性硬膜下血腫は,欧米では虐待と診断される.本邦では従来,家庭内での軽微な頭部外傷によるaccidentalな乳児急性硬膜下血腫の存在が報告されており,中村のⅠ型血腫と呼ばれてきた8).これら虐待や事故により生じた乳児急性硬膜下血腫では,特に重症例において術後数日経過してからCTで大脳半球に広汎なlow density areaを生じる病態があり,Big Black Brainと呼ばれている5)

 今回われわれは,中村のⅠ型血腫の術後に生じた,このBig Black Brainと呼ばれるhemispheric hypodensity(HH)の病態解析のためperfusion MRIを施行した1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 手掌部での尺骨神経の絞扼性障害であるギオン管症候群は,肘部管症候群と比較し発生頻度が低く,また,疾患の認知度も低いことから見逃されやすい疾患である.今回われわれは,肘部管症候群の術後残存症状がギオン管症候群に対する神経剝離術により改善し,良好な臨床経過をたどった1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈症例1〉 65歳 男性

 突然の頚部痛と左半身脱力のため,発症から2時間で当院へ搬送された.来院時,意識清明で左側運動感覚障害を認め,National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)は6点であった.心筋トロポニンTは0.05ng/mL未満,CK-MBは0.5ng/mLと正常範囲で,頭部・胸部CTと心電図検査で異常所見はなかった.頭部CTと心電図の再検と頭部MRIが追加されたが,左傍側脳室に亜急性期脳梗塞を認めた(Fig.1)のみで診断が確定せず,搬送3時間後に当科に連絡された.

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

脳神経外科と働き方改革 馬場 武彦
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Ⅰ.はじめに

 政府の「働き方改革」推進の流れの中で,2016年9月に「働き方改革実現会議」が発足し,翌2017年3月,「働き方改革実行計画」が決定された.これを基に2018年6月,「働き方改革関連法案」が可決・成立した.2017年の「働き方改革実行計画」の中で,医師については時間外労働規制の対象とするが,医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要であるとされた.具体的には,改正法の施行期日の5年後を目途に規制を適用することとし,医療界の参加の下で検討の場を設け,質の高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指し,2年後を目途に規制の具体的な在り方,労働時間の短縮等について検討し,結論を得るとされた.

 これを受けて,2017年8月より厚生労働省において,「医師の働き方改革に関する検討会」が立ち上げられ,筆者も構成員に選任された.「医師の働き方改革に関する検討会」の報告書は2019年3月に取りまとめられ,5年間の準備期間の後に2024年4月より施行される予定である.医師の働き方を大きく変えるものであり,とりわけ脳神経外科医に与える影響は多大であろうと予想される.一方,報告書には地域医療提供体制を守る観点からの配慮も多くみられ,医療機関は内容を吟味した上で適切な対応が求められている.

連載 脳神経外科日常診療に必要な運転免許の知識

(2)てんかん 川合 謙介
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POINT

●道路交通法第66条は,正常な運転ができないおそれがある状態の運転を禁止しているが,てんかんにおいては運転免許資格の法的基準が設けられており,その基準に則って判断すれば法的には問題ない.

●てんかんがあっても,覚醒中に意識や運動が障害される発作が2年以上ない場合は運転免許の拒否は行われない.

●運転中の発作が自動車運転操作にどう影響するかは極めて重要な情報であるが,科学的なデータはほとんどなく,推察で議論されている状況である.

●自動車運転に関する説明・指導の前提には,適切なてんかん診療が不可欠である.

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目次

欧文目次

次号予告

編集後記 貴島 晴彦
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 今年度の日本脳神経外科コングレス総会が終わりました.開催様式だけでなく開催場所にも紆余曲折があり,運営の方は大変苦労されたと察しますが,会長が積極的に新しい形を導入されたことと,その素晴らしいホスピタリティーで大成功に終わったと感じました.今年のコングレスには現地でもWebでも参加しました.そこでは,未来の学術集会のあり方を垣間見たような気がしました.コングレスは,脳神経外科医としての生涯学習と知識のアップデートを目的とした会でありますので,たくさんの人が大きな箱に集まることだけではなく,限られた条件の中でもさまざまな工夫を凝らせば,多くのことができるということを目の当たりに教えていただきました.これから社会が落ち着いていったとしても,今回の学会で築かれた新しい仕組みが生かされていくことを期待いたします.

 本号の扉では,防衛医科大学校の和田孝次郎先生から,防衛医官としての米国留学という貴重な経験を紹介していただきました.なかなか経験できない興味深いお話です.山田茂樹先生からは総説として,新しいiNPHのガイドラインの紹介をいただいています.馬場武彦先生からは「脳神経外科と働き方改革」というタイトルで,具体的にそのシステムについて詳細にご解説いただいています.また,川合謙介先生からは,連載の第2回目として,てんかん患者の運転免許について,われわれの日常診療にすぐに役立つ原稿をいただきました.原著として,長崎県の救急科が初動する脳卒中ホットラインについての報告があります.長崎県には離島も多数あり,first touchを行う医師が脳卒中専門の医師であることが困難であり,逆にこれをうまく利用してシステムを構築し,さらにそれを評価しているものです.その他にも症例報告が8編掲載されています.また,教訓的症例に学ぶシリーズでは,脊髄硬膜外血腫の診断についての報告があります.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
48巻9号 (2020年9月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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