Neurological Surgery 脳神経外科 48巻10号 (2020年10月)

時の流れを感じながら 鰐渕 昌彦
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 「知らず知らず 歩いて来た 細く長い この道 振り返れば 遥か遠く 故郷が見える」は,『川の流れのように』の歌詞である.昭和63年12月に発売されたアルバム『川の流れのように〜不死鳥パートⅡ』の表題曲で,美空ひばりさんの遺作となった本楽曲は,翌年1月11日にシングルとして発売された.昭和64年は1月7日までなので,昭和から平成にかけ元号の変わり目に発売されたことになる.私は,昭和の時代に札幌で医学を学び,平成の時代に北海道で医師として研鑽を積み,令和の時代に関西で後進を指導する立場という僥倖を得た.平成から令和へと変わった年に職場環境ががらりと変化した自分にとって,『川の流れのように』はいろいろな意味で感慨深く感じる曲である.

 川が流れるのと同様に,「時」にも流れがある.本原稿を書いているのが令和2年4月で,元号が変わってから既に1年が過ぎようとしている.医師になってから,「時」は常に早く過ぎ去り,年を経るごとに加速しているように感じる.日が積み重なって月となり,月が積み重なって年となり,年が積み重なって10年単位の流れができている——と思えるようになったのは,医師になって約30年が経過した今であって,若い時は振り返る余裕などなく,ひたすら目の前の患者さんに向き合ってきた.医師になりたての頃はプライベートな時間と呼べるものはほとんどなく,今はなきポケットベルという見えない鎖に繋がれていた.“Work-life balance”という言葉は世の中にあっても,自分を取り巻く環境の中にはなかった時代である.平成前半の年越しは,そのほとんどを術場で迎え,令和という新元号の発表時も手術中であった.自身の脳神経外科医人生の中で,転機のカギとなってきたのが常に手術であり,今でもうまくいった手術の場面,痛い目にあった瞬間などが脳裏をよぎることがある.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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Ⅰ.はじめに

 近年の内視鏡手術の発展に伴い,脳神経外科においても経鼻内視鏡手術が普及しつつある.さらに,さまざまな副鼻腔空間を経由して頭蓋底に到達する経鼻内視鏡頭蓋底手術(endoscopic endonasal skull base surgery:EESS)は,手術手技の効率化やエビデンスの蓄積とともに,頭蓋底疾患に対する治療選択肢として確立されつつある.

 EESSでは,脳神経外科医に馴染みのない領域の解剖知識や内視鏡手術特有の手技の習得が必要となる.本稿では,EESSを理解するための解剖・手術アプローチを中心に具体例を提示しつつ,さらにEESSに習熟した耳鼻科医とのチーム手術の実際と利点を交えながら概説する.

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Ⅰ.はじめに

 脳血管内治療は,経大腿動脈アプローチ(transfemoral approach:TFA)により行われるのが一般的であるが,大動脈病変の存在や解剖学的理由によってはTFAが困難もしくは危険を伴うことがあり,その場合は上肢や他の部位からのアプローチが考慮される9).また,TFAでは後腹膜血腫という重篤な合併症を生ずる可能性があり14),周術期に抗血小板薬を服用していることが多い脳血管内治療症例において,そのリスクは看過できない.

 冠動脈領域では,TFAから経橈骨動脈アプローチ(transradial approach:TRA)への転換が進んでおり,重篤な穿刺部合併症は減少しているが5,12),近年,従来のTRAよりさらに遠位であるanatomical snuffboxからアプローチする遠位橈骨動脈アプローチ(distal radial approach:DRA)が行われており,注目を集めている6).Anatomical snuffboxは手関節部橈背側の凹みで,外側を長母指伸筋腱,内側を短母指伸筋腱および長母指外転筋腱に囲まれており,この中を橈骨動脈のdeep palmar branchが走行しており(Fig.1),DRAはこれを穿刺してアプローチする方法である.

 われわれは,2018年9月から一部の脳血管内手技に対してDRAを応用しており,本稿ではその初期経験について報告する.

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Ⅰ.はじめに

 吸収性コラーゲン人工硬膜(DuraGen®, Integra Lifescience, New Jersey, USA)は開頭手術において硬膜補塡材料として使用されており1-4),日本でも2019年7月から使用可能となった.しかし硬膜欠損部が広い場合,DuraGen®に直接硬膜外吊り上げを施すことができないため,術後硬膜外液貯留が問題となることが報告されている.今回われわれは,DuraGen®に対する硬膜外吊り上げ手技を紹介する.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋内神経鞘腫は全脳腫瘍の約8%を占める良性腫瘍であり,滑車神経に発生することは稀である.特に,神経線維腫症を伴わない滑車神経鞘腫は非常に少ない.今回われわれは,滑車神経鞘腫における好発症状である複視に加え,病的笑い発作を併発した滑車神経鞘腫の1例を経験したので,外科的摘出の際のアプローチ法と病的笑い発作を来す機序を含めた考察を加え報告する.

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Ⅰ.緒  言

 視機能障害を伴う鞍部および傍鞍部炎症性疾患は,診断・治療ともに難渋することがある.症候性であるから,手術による減圧と組織診断を行うことは理に適っていると思われる.臨床経過や画像所見だけでは腫瘍性疾患と鑑別が困難な場合があり,組織診断においても確定診断に至るまで一筋縄ではいかないことも多い6).さらに,炎症性疾患として診断がついても,手術のみならずその後の内科治療も効果が得られないことがある.

 当科で経験した視機能障害で発症した鞍部・傍鞍部炎症性疾患(リンパ球性下垂体炎を除く)のうち,経鼻内視鏡手術を要した症例を後方視的に検討したので,その特徴や治療反応性,機能予後について報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳内出血の原因としては高血圧症が最も頻度が高い6,13).高血圧性脳内出血は被殻,視床などの大脳基底核や歯状核(小脳)に発症することが多く,これらは穿通枝動脈の脆弱化に起因する一次性脳内出血に分類される.一方で,脳腫瘍の存在は,頻度は低いながらも脳出血の重要な原因の1つである4).特に,脳皮質下出血など高血圧性脳内出血の好発部位ではない場合には腫瘍の合併を念頭に置いておく必要がある.

 今回われわれは,被殻出血で発症し保存的加療を行い,経過中の精査にて血腫とはやや離れた場所に脳腫瘍を認め,膠芽腫の診断に至った1例を経験したので文献的考察を含めて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋内奇形腫は小児期に好発する胚細胞腫瘍であり,原発性脳腫瘍のうち約0.1%と稀である.また,好発部位として松果体部や第三脳室内が知られている2).その初発症状は,頭痛,痙攣,運動・感覚障害などであり,振戦を来すことは少ない.Holmes振戦は安静時や企図時に上肢でみられる低振幅の振戦で,中脳や小脳における変性疾患,血管障害,外傷などで起こることが多く,脳腫瘍での報告は極めて稀である13)

 今回われわれは,Holmes振戦を主訴とした5歳男児の第三脳室内巨大成熟奇形腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Carotid blowout syndrome(CBS)は,頭頚部癌患者の経過中に頚動脈が破裂し大出血を起こす致死的合併症であり,しばしば血管内治療によるsalvageが試みられる.脳虚血耐性の不十分なCBS患者に対し,covered stentを使用し救命し得たものの,34日後に再出血を来した1例を提示し,CBS診療の現状と問題点について報告する.

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Ⅰ.はじめに

 びまん性星細胞腫(diffuse astrocytoma:DA)は成人の大脳半球に好発する髄内腫瘍で,World Health Organization(WHO)脳腫瘍病理分類ではgrade Ⅱに分類される.近年の分子生物学的研究により,DAを含む星細胞腫系腫瘍(astrocytic tumors:AT)は,「IDH(isocitrate dehydrogenase)1/2変異あり」かつ「1p/19q共欠失なし」という2つの遺伝子的特徴を有することが明らかとなり,2016年に改訂されたWHO脳腫瘍病理分類(WHO 2016)7)では,本特徴が診断基準として明記された.一方,WHO 2016以前では顕微鏡検査に基づいて病理診断が行われていたことから,過去にDAと診断された症例群の中には組織所見が類似するIDH野生型神経膠腫あるいは乏突起膠腫(oligodendroglioma:OD, IDH1/2変異および1p/19q共欠失あり)が含まれ,したがってDAに関する従来の臨床研究は,遺伝子診断に基づいた純粋なDAの治療成績を反映していないとされる2,9,10,14).WHO 2016以降,DAの長期的な転機に関する報告は未だ少なく,的確な治療を行うためには多くの症例の蓄積が望まれる.

 今回,初回摘出術後にテモゾロミド(temozolomide:TMZ)単独療法が行われ,11年の経過で再増大および悪性転化したDAの1例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 くも膜囊胞および脳動脈瘤は,日常診療でも遭遇する機会の多い,いずれもよく知られた病変であり,以前と比べその診断率は向上しているものの両者の共存は比較的稀である1,3-8,10-19,22,24-27,30,31)

 今回われわれは,以前よりくも膜囊胞を指摘され,破裂脳動脈瘤を合併した稀な2症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 動脈硬化性変化を生じた内頚動脈によって視神経が圧迫を受け視神経障害を来す症例報告は散見される1,3-6,9).眼科所見のほかに特徴的所見が乏しいため,確定診断には難渋する.

 今回われわれは,半年の経過で進行し,一側性の視神経障害で発症した,内頚動脈による視神経圧迫症候群を経験したので報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈症例1〉 79歳 男性

 右頭頂葉の脳腫瘍病変(anaplastic oligodendroglioma)に対し腹臥位にて脳腫瘍摘出術を施行した.術後のMRIにて対側左半球に新規梗塞が認められ,種々の検査にて左茎状突起による内頚動脈圧迫が原因と考えられ,茎状突起過長症候群(Eagle症候群)と診断した(Fig.1).

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 84歳 男性

 主 訴 左上下肢麻痺,構音障害

連載 脳神経外科日常診療に必要な運転免許の知識

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POINT

●自動車の運転は,注意機能と視空間認知機能を含めた認知機能のさまざまな領域を複合的に活用する作業である.

●認知症の重症度とともに運転事故の危険性は高まり,中等度以上の認知症では運転すべきでないという点について,世界的にコンセンサスが得られている.

●日本では75歳以上の高齢運転者に対して,3年に1度の免許更新時に高齢者講習と,それに先立つ認知症のスクリーニング検査である認知機能検査を受けることが義務化されている.

●認知機能検査にて認知症のおそれがあると判定された高齢者については,医師の診察(臨時適性検査)の結果,認知症であると診断されると,都道府県公安委員会の判断に基づき運転免許取消し等になる.

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目次

欧文目次

次号予告

編集後記 村山 雄一
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 9月を過ぎ,新しい生活様式の試行錯誤が続いていますが,医学生の教育への影響は大きく,大学人として学生の感染リスクを抑えつつ,効果的な外科系教育のあり方はどうすべきか模索しています.学会の開催形式もweb方式が一般化し,会議もZoomで事足りるようになり,ある面仕事の効率化が図られたプラスの変容もありますが,新しく臨床実習が始まる学生たちに効率化だけではない,生身の患者さんの診療をオンラインの時代にどう組み込んでゆけばよいか,大学の枠を超えた横断的な情報共有が必要であると頭を悩ませています.

 本号手術手技では,慶應義塾大学の戸田正博先生による「脳神経外科と耳鼻科合同による経鼻内視鏡頭蓋底手術」が掲載されています.脳神経外科は神経系の外科領域として耳鼻咽喉科をはじめ眼科,形成外科,整形外科などの複数の専門科とかかわりがあり,小型の聴神経腫瘍や脊柱管狭窄症などの疾患ではそれぞれの診療科で診療が完結できるため,時には競合にもなり得ます.患者さんにとって最大の利益である質の高い安全な治療は何かを明確にすれば,それぞれの科の得意なところを生かすことができ,患者さんにとって大変有益な治療チームとなります.お互いに尊敬の念を持って競合ではなく,協業することの大切さを示された内容です.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
48巻10号 (2020年10月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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