Neurological Surgery 脳神経外科 48巻8号 (2020年8月)

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 脊髄外科は,日本脳神経外科学会のsubspecialtyの1つとして公式に認められているが,順調に成長しているのかどうか心配になることがある.私が医学部を卒業し,医師国家試験に合格し,脳神経外科に入局した頃は,日本脳神経外科全体を見渡しても,脊髄に関する手術はあまり多くなかったと記憶している.

 私が入局した愛知医科大学は,教授,助教授のお二人とも米国での臨床経験が豊富な先生であり,脊髄手術もそれなりに日々の臨床で携わることができていた.脳神経外科手術の研修をしている過程において米国留学のお話をいただき,そのときに経験できた米国脳神経外科学会の中での脊髄外科の日常性に,大いに驚いたことをよく覚えている.私が研修した米国の大学にはもちろん整形外科があり,脊椎外科手術が教室の柱になっており,有名な脊椎外科医であるDr. Scott BodenとDr. John Hellerがおられた.脳神経外科教室でも高名な脊髄外科医であるDr. Regis HaidとDr. Gerald Rodtsが活躍されていた.その後,米国脊髄外科学会会長を経験することになるDr. Joseph Alexander,Dr. Praveen Mummaneniらが,ここで脊髄手術を研修した.私も米国で多くの脊髄手術に触れることができ,帰国後も教授のご指導をいただき,脊髄外科専門医を目指すことになった.

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Ⅰ.はじめに

 かつて頭部外傷診療は,初期診療から社会復帰まですべてを脳神経外科医が単独で担っていた時代もあったが,脳神経外科での専門診療はもちろんのこと,病院前救護,救急部門,手術部門,集中治療部門,リハビリテーション部門など診療局面が細分化し,さまざまな局面での診療内容が高度化したことにより,各職種のプロフェッショナルによる協働が時代の要請となった.職種や経験の異なるスタッフによる協働作業を円滑に進めるためのシステムが治療と管理の「標準化」であり,標準化の指針となるのが診療ガイドラインである.

 本邦における頭部外傷の診療ガイドラインとしては,2000年に日本神経外傷学会(現・日本脳神経外傷学会)監修の『重症頭部外傷治療・管理のガイドライン』初版が発行された.その後も改訂して版を重ね,2019年10月には日本脳神経外科学会,日本脳神経外傷学会監修の『頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版』として改訂し,新版が発行された.本稿ではその沿革と理念,主な改訂のポイント,今後の課題について概説する.

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Ⅰ.はじめに

 特発性脊髄硬膜外血腫は,突然の後頚部や背部痛に続き,四肢の不全麻痺,感覚障害や膀胱直腸障害などの神経症状が急速に進行する稀な疾患である2,10).発生頻度が低く認知度も低いことに加えて,発症様式や神経症状が脳梗塞と酷似していることから,診断に難渋することも少なくない.的確な診断を行わないと,出血性病変に対して抗血栓療法が行われてしまうこととなり,結果として出血の増大を来し,重大な後遺症をもたらす可能性があるため注意が必要である.近年の報告においても,脳梗塞との鑑別が困難であったとする例11)や,実際に脳梗塞と診断され抗血栓療法が行われた例4,6-8,13-24)も少なからず報告されている.

 今回われわれは,片麻痺で発症し,脳梗塞と判断し血栓溶解療法が行われた後に,特発性脊髄硬膜外血腫と診断された症例を経験した.脳梗塞と診断され抗血栓療法が行われた既知の症例と比較分析し,再発防止を踏まえて考察したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 副鼻腔骨腫は良性腫瘍として知られているが,時に眼窩や頭蓋内へと伸展することがある.また粘液囊胞の形成にも関与し,それが頭蓋底を破壊して頭蓋内へ伸展することもある.特に,硬膜内伸展を来した症例は過去に22例のみの報告しかなく稀であり,未だ治療方針は確立されていない.

 今回筆者らは,副鼻腔骨腫に伴った硬膜内粘液囊胞に対して手術加療を行った症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳実質内に100個を超える粟粒性脳転移(miliary metastasis)で発症し,分子病理診断によって原発巣の同定に至り,遺伝子変異に基づいた治療を施行した症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Retropharyngeal hematomaは気道と隣接した場所に発生する占拠性病変であり,稀に気道閉塞を来し致死的になることがある4).特に外傷性頚髄損傷の際にはほぼ必発であり,とりわけ抗血栓療法中は重症化しやすいとされる5).今回,外傷性頚髄損傷に伴ったmassive retropharyngeal hematomaにより気道閉塞を来した1例を経験したので,文献的考察を含め報告する.

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Ⅰ.はじめに

 転移性下垂体腫瘍(pituitary metastases:PM)は,Benjamin3)が1857年に初めて報告した稀な疾患である.剖検例ではPMは悪性腫瘍患者の1〜3.6%で発生し1,16),すべての頭蓋内転移性腫瘍の0.4%,下垂体腫瘍に対する手術例の1%と報告されている14,24).原発巣として最も多いのは肺癌と乳癌であり,次いで,腎細胞癌,胃・大腸癌,前立腺癌の報告例が多い2,10-12)

 PMに伴う症状はさまざまであり,下垂体前葉機能低下症(adenohypophyseal dysfunction:AD),尿崩症(diabetes insipidus:DI),複視,視覚障害などの脳神経障害,頭痛などが2.5〜30%程度にみられると報告されている6,11,15).従来,ADとカヘキシアの鑑別は困難であり,PMは担癌患者の末期で発見され,予後不良と考えられていた11,19).ところが近年,画像診断の進歩により原発巣に先行してPMが発見されるようになり5,19,21),ホルモン補充によって全身状態が安定すれば,放射線治療,分子標的治療,化学療法を追加することにより,ある程度の予後が期待されるようになってきている.しかしながら,現時点ではまとまった報告例は少なく,実際の予後は不明である.

 今回われわれは,当院で経験した7例のPM症例を検討し,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 海綿状血管腫は血管奇形の一種で,中枢神経系に発生する血管奇形の10〜15%を占め,好発年齢は40〜50歳台とされている14).部位別発生頻度は脳の容量に比例していると考えられ,テント上の発生頻度が80%程度であるのに対し,テント下では20%程度である1,13).テント下の中でも橋と小脳に発生するものが大半で,中脳に発生するものは比較的稀である13).

 中脳は脳深部に存在し,神経核や錐体路を含む神経機能の集合体である.ゆえに,中脳海綿状血管腫は出血により多様な症状を呈し10),同部位に対する手術は難易度が高くなる.『脳卒中治療ガイドライン2015』では,症候性海綿状血管腫(出血,コントロール不良な痙攣,進行性の神経症状)のうち,病変が脳幹を含む脳表付近に存在する症例では外科的切除を考慮してもよい(グレードC1)とされている.しかしながら,中脳海綿状血管腫に対する手術に確立されたアプローチ法はなく,血管腫の局在を見極め,神経機能の障害が最も少ないという観点から,前頭側頭開頭眼窩頬骨弓アプローチ(orbitozygomatic approach),前方経椎体骨アプローチ(anterior transpetrosal approach),側頭下アプローチ(subtemporal approach),後頭部経テントアプローチ(occipital transtentorial approach),外側後頭下アプローチ(lateral suboccipital approach),正中後頭下アプローチ(midline suboccipital approach),そして,テント下アプローチ(infratentorial approach)などが考慮される12,15,17)

 今回われわれは,中脳正中部,特に中脳上部に発生した海綿状血管腫に対し,前方半球間裂経脳梁経モンロー孔アプローチ(anterior interhemispheric transcallosal transforaminal approach)を用いて摘出した症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 斜台部血腫は,後頭蓋の脳実質外出血のうち約0.3%と稀である4).斜台部血腫の報告の多くは小児例であり,高エネルギー外傷を契機としたものが大多数である11).成人例における斜台部血腫は小児例よりも稀であり,小児と同様に高エネルギー外傷が原因の場合が多いが,稀に下垂体卒中2,9)や動脈瘤破裂3)が原因として報告されている.

 斜台部血腫は硬膜外血腫か硬膜下血腫に分類されるが,その鑑別は困難であり,過去の報告例でも診断がはっきりとなされていないものが混在している.斜台部血腫が硬膜下血腫であることの診断には,血性髄液の証明12)や脳室内出血(intraventricular hemorrhage:IVH)の存在10)を確認する必要がある.成人例の斜台部硬膜下血腫の報告では下垂体卒中や動脈瘤破裂といった原因がなく,特発性とされた症例は6例の報告にとどまっている6,10,12,13)

 今回,MRIによりIVHの証明に加え,特にT2強調画像の矢状断において脳底動脈前面に間隙と髄液の頭尾側方向のflowを認め,血腫が硬膜下にあることを示唆する所見が,血腫の局在を診断するのに有用であった成人の特発性斜台部硬膜下血腫の1例を経験した.

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Ⅰ.はじめに

 成人下垂体機能低下症の原因として,本邦の報告では腫瘍性病変が多く,その内訳は下垂体腺腫が27.4%であり,次いで特発性21.5%,頭蓋咽頭腫13.3%,胚芽腫7.3%, Sheehan症候群6.4%と報告されている18).一方で,頭蓋内動脈瘤が原因で汎下垂体機能低下症を呈することは0.17%と稀であり6),内分泌機能の回復に関するまとまった報告はなく,詳細は不明である6,13,16).今回われわれは,汎下垂体機能低下症を呈した未破裂内頚動脈瘤の治療後,内分泌学的機能の改善が得られた1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 眼動脈起始異常の中では中硬膜動脈(middle meningeal artery:MMA)起始部や海綿病脈洞部内頚動脈(internal carotid artery:ICA)からの分岐が多く報告されているが,前大脳動脈(anterior cerebral artery:ACA)A1より眼動脈が起始する症例は極めて稀である.胎生期でのprimitive ventral ophthalmic artery(PVOA)遺残がACA A1からの眼動脈起始につながったものと推測される.本症例は,傍前床突起部内頚動脈瘤を精査中に眼動脈がA1に起始する破格が判明した.今回われわれは,眼動脈起始異常に合併した傍前床突起部内頚動脈瘤の1例を経験したので,文献的考察を踏まえて報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患者〉 80歳 女性

 現病歴 7カ月前に歩行障害を主訴として前施設を受診し,腰部脊柱管狭窄症に伴う間欠性跛行と診断された.2日前に同施設で全身麻酔下の腰椎椎弓切除術を受けたが,出血量は150mLで術中の硬膜損傷や髄液漏は確認されていない.

連載 脳神経外科と数理学

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Ⅰ.はじめに

 厚生労働省がとりまとめている2018年の人口動態統計によれば,わが国における脳血管疾患による死亡率は全体の7.9%に上り,108,165人である4).これらの統計をさらに詳しく年次推移でみてみると,脳血管疾患は1970年をピークに減少し始め,1985年以降は死因の第2位から第3位となり,現在は,悪性新生物,心疾患,老衰に次いで第4位となっている.一方,わが国は超高齢社会を迎えており,その影響は老衰および肺炎による死亡率の増加として統計にも表れている.肺炎の原因としていくつか挙げられるが,大きな要因としては,脳卒中後の嚥下機能の低下による誤嚥性肺炎がみられる8).このように,脳血管疾患による死亡者数および死亡率は減少しているが,その一方で,肺炎などのように間接的に影響を与えている.

 脳血管疾患は,脳梗塞あるいは脳内出血やくも膜下出血などのように,血管が詰まったり,破れたりすることで,脳内の血流に異常が生じて発症する.脳血管疾患や心疾患などの循環器系疾患において,疾患の発生や進行,ひいては動脈瘤の破裂などの病状悪化には,血液の流れが密接に関与していることが知られている1,5,7,13).このようなメカニズムの解明には,血液の流れを把握することが必要となる.CTやMRIなどの医用画像診断装置により,疾患の形態を非侵襲で発見し,把握することはできる.また,体内の血流の状態は,phase contrast(PC)-MRIや超音波などにより得ることができる.特に最近では,4D-Flowにより血流とともに,壁面せん断応力などの血行動態を算出することも可能となってきている.しかし,時間・時間解像に限界があることから,詳細な情報を得ることは困難である.

 そこで,医用画像と血液の流れの数値流体力学(computational fluid dynamics:CFD)を組み合わせたpatient-specific simulationにより,患者個別の詳細な血流・血行動態の情報を得ることが可能となる9,10,12,14,15).循環器系のCFDは血流を扱っていることから“computational hemodynamics”とも呼ばれており,さまざまなCFD手法および医用データの同化手法の開発および改善により,patient-specific simulationは2000年以降,目覚ましい発展を遂げている.現段階のpatient-specific simulationは実験と比較して,見えづらい現象を可視化することができるとともに,血流の状況を精度よく再現することが可能となってきている.

 最近の動向としては,臨床現場への応用に向けて,心疾患を対象としたHeartFlow®にみられるように,高価な診断をシミュレーションに置き換え,医療費の削減に向けて新しい試みがなされている2).実際に,HeartFlow®は診断用プログラムとして,米国,欧州,そしてわが国でも認可を受け,臨床の現場で用いられるようになってきている.

 本稿では,脳血流を対象として血流の流体力学的な特徴をまとめるとともに,CFDの基礎を解説する.また,具体的なpatient-specific simulationの例を交えて,脳神経外科分野におけるCFDの可能性についてまとめる.

連載 脳神経外科日常診療に必要な運転免許の知識【新連載】

(1)総論 中村 磨美 , 一杉 正仁
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POINT

●道路交通法および同法施行令には,運転免許を与えない,または取り消すことのある疾患が定められ,てんかん,脳卒中,認知症もそのうちに含まれる.

●各疾患の患者は,運転免許申請または更新時に病状申告の義務がある.

●各疾患における運転免許の可否は,それぞれ治療状況や身体機能の基準を基に判断される.

●疾患に伴う運転免許の取り消し等には,主治医の診断書が求められる.

●医師は,患者が安全な社会生活を送れるよう,自動車運転に関する適切な知識を基に診療・指導を行う必要がある.

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 この本には独自性がある.特に,手術の理解に必要なイラストが手順を追ってたくさん描かれていることに驚嘆する.イラストレーターと著者の綿密な打ち合わせなしにはできないことであろう.また,Memo,Tips,Troubleshootingなどのコラムも実践的で役に立つ.特に目をひかれるのは,総論の森田明夫先生の「良性腫瘍の手術適応と取り方」で,これは頭蓋底腫瘍だけでなく,良性腫瘍一般に使える技術である.「どうしたら神経や血管を傷つけずに腫瘍を取れるか?」という微妙な技術を絵で表している.これは,熟練した術者の奥義とも言うべきもので,今までの本にはほとんど記載されたことがないと思う.また,総論では血管解剖やモニタリングの図もわかりやすい.各論で目をひかれるのは,「頭蓋底悪性腫瘍」と「頭蓋底手術の修復」の項目である.頭頚科の角田篤信先生と形成外科の清川兼輔先生の参加で,今までの頭蓋底外科の本ではなかった知識と技術が披露されているのも大いに評価される.頭蓋底外科が両科の参加で成り立っていることをあらためて認識されよう.

 一方,改良すべき点もある.経鼻内視鏡手術は各論の2と7にあるが,手術法には現在いろいろなバリエーションがある.しかし,その方法,適応や手術道具が図に紹介されていない.現在,最も興味をひかれている分野なので,総論に別項目としてこれらを図とともに記載したほうがよかったのではないだろうか.もう1つ改良すべきは,各論の髄膜腫であろう.これは,頭蓋底手術の最も重要な部分で,部位によって手術法のバリエーションも多い.長谷川光広先生の担当範囲は頭蓋底全体とあまりに広く,執筆に大変苦慮されたことと思われる.5つの副項目に分類されているが,それぞれの内容が多いので,図や症例を挙げてこれらをすべて1人が執筆することは困難であろう.できれば,寺坂俊介先生の題目のように,これらの項目を別々の著者に依頼したほうが手術法の詳細や症例提示をより詳しくできたのではないだろうか.

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目次

欧文目次

次号予告

編集後記 冨永 悌二
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 今月号の扉には,水野順一先生による「日本脳神経外科学会における脊髄外科」が掲載されている.脊髄外科が日本脳神経外科学会のサブスペシャリティー分野であり,歴史も長いにかかわらず,未だ十分成長していないのでは,との危惧を述べられている.超高齢化社会を迎えて脊椎変性疾患のニーズは高まっているものの,日本の脳神経外科医の脊椎脊髄手術数は諸外国に比べて圧倒的に少ない.さまざまな要因はあるが,「『日本神経外科学会』ではなく,『日本脳神経外科学会』という名称が脳偏重の手術を生んでいる」という指摘は一理あるかもしれない.本来,脳神経外科は「脳・神経外科」として出発したものの,昭和40年,医療法に診療科として加えられる際に,法律上「・」を入れることができず「脳神経外科」となった.このとき「脳・」を除けば,事態は変わっていたかもしれない.

 総説では,刈部博先生が「新しい頭部外傷ガイドライン」について述べられている.『頭部外傷治療・管理のガイドライン』の歴史的変遷,理念,改訂のポイント,今後の課題などが要領よくまとまっている.一見,ガイドラインのみを扱っているようにみえて,その実,ガイドラインをプリズムとして頭部外傷の考え方や疫学の変遷,時々の研究成果,現在のトピックの概要などがわかるようになっている.共同著者として手前味噌で恐縮だが,ぜひ若い先生に一読を勧めたい.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
48巻8号 (2020年8月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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