Neurological Surgery 脳神経外科 11巻9号 (1983年9月)

「脳死」のメモ 竹内 一夫
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 最近,しきりにテレビや新聞で脳死関係のニュースが報ぜられている.多くの脳神経外科医にとっては余り興味がないかもしれないが,一般にはかなり注意を惹いているようである.とくに臓器移植関係の人々にとっては,今のところ脳死の問題が最大の課題となっている.この際,脳死研究の昔話をしてみるのも無駄ではないと考えた.

 1950-55年(昭和25-30年)頃は脳外科病棟で脳ヘルニアによる呼吸停止が起これば,受持医は直ちに患者にまたがって人工呼吸を行ったものである.当時はいまだステロイドもマニトールもなく,わずかに脳室穿刺による髄液排除か,50%ブドウ糖液の静注程度の治療法しかなく,蘇生はおろか短時間で血圧も降下し,心停止・死亡してしまったものである.ときには一晩に3人の患者に人工呼吸をしたり,数時間の人工呼吸で医者のほうがヘトヘトになってしまうこともあった.

総説

スローウイルス感染症 立石 潤
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I.はじめに

 スローウイルス感染症または遅発性ウイルス感染症28)は,周知のようにアイスランドの獣医学者Sigurdsson44)により1954年に提唱された概念であるが,それ以前に北欧ではヒツジの慢性病が知られており,その1つのスクレピーscrapieについては実験的伝播も行われていた9).Sigurdssonの提唱した概念は,①数ヵ月から数年にわたる長期の無症状潜伏期間ののち,②徐々に発病し,③遷延性,進行性で,④予後が悪く,⑤感染が1種類の動物の,単一の臓器または組織に限定して起こることである.このうち⑤は彼自身予想していたように,その後の動物実験の結果からは削除するほうがよいと思われるが,自然感染においてはほぼ妥当する.このうち既知のウイルスによる神経系の遅発性感染として麻疹ウイルスによる亜急性硬化性全脳炎SSPE,パポーバウイルスによる進行性多発性白質脳症PML,アデノウイルス32型や風疹ウイルスによる亜急性脳炎が知られている.これらは個々のウイルスと宿主側の要因,特に免疫機構との組み合わせにより持続性感染persistent infectionの形をとることが多い.

 さらに全く原因不明の発病因子が徐々に増殖して発病する亜急性海綿状脳症の1群がある.その代表はクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob病,CJDと略)であるが,動物への実験的感染とともに,人では臓器移植,手術,外傷などとの関連性が問題となっているので,以下この群を中心に述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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I.はじめに

 脳下垂体の手術の最初の試みは,1893年,頭蓋内前頭葉下経由であったが,最短距離は頭蓋外経鼻法であることから,種々の方法が試みられた.

 今では想像もできないような顔面のT字状の切開,(Eiselsberg),鼻の下縁の切開(Kanavel)などの方法を経て,1910年にHalsteadの口唇下切開(sublabial in-cision)による手術が行われ,同時期にCushingによるsublabial submucous transseptal approachによる現在行われている方法が発表された.オーストリァのHirschも経鼻孔法を改良して経鼻中隔法を行った.

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I.はじめに

 頭蓋内原発悪性リンパ腫は極めて稀で,その頻度は0.3-1.5%3,9,32,38)とされていたが,近年CTなどによる診断技術5,10,23,32)の向上に加え,免疫抑制剤の使用13,24,32,38).放射線の影響38)などにより,発生そのものも増加しているといわれ注目されている13,24,32,38)

 われわれは,過去7年間に15例の頭蓋内原発悪性リンパ腫を経験し,これらの臨床像の特徴を検討するとともに,病理学的にはH-E標本による須知らのLSG分類33)を行い,一部では表面マーカーと細胞内免疫グロプリンの検索と,電顕による観察を行い興味ある結果が得られたので報告する.

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I.はじめに

 metrizamide(Amipaque®は従来の水溶性造影剤iothalamate塩(Conray®やiocarmate塩(Dirax®などと異なり,非イオン性のため神経毒性が小さく,けいれん誘発作用が極めて低く,かつ油性造影剤に比しやや鮮明度が落ちるが,診断のためには十分鮮明な撮影像を得ることができる.したがって今日では脊髄造影にはmetrizamideが主として用いられている.

 metrizamideを用いた脊髄造影の手技および被検者の体位は,この水溶性造影剤の拡散・吸収の速いことを考慮し,頸椎・胸椎・腰椎各部の解剖学的特徴に応じて決めなければならない.頸部脊髄造影では撮影体位は腹臥位で行われるのが普通である.造影剤注入のための穿刺法には,後頭下穿刺法5),腰椎穿刺法11,12,22),第1-2頸椎椎間の側方穿刺法(C1-C2穿刺法)1.4.15.20)の3種類があげられる.それぞれの穿刺法には一長一短があるが,著者らの施設では腹臥位でC1-C2穿刺法を用いている.この方法では拡散の速いmetrizamideの性質にもかかわらず,比較的低濃度で少量の造影剤の使用で明瞭な撮影像を得ることができ,被検者に無理な体位を強いることがなく,副作用も少ない.

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I.はじめに

 乳幼児水頭症には種々の髄液動態や形態(脳室)の変化が見られる,たとえば以前から問題となっているcompensated type,arrested type,slowly progressivetypeなどの水頭症例の判別にはまだ困難な点が数多い.今回はこれらを総括したかたちで,特に頭囲が正常の上限にあるため,一見,正常児と思われ,それが故に何らかの理由で未シャントのまま3-5年間follow-upされた水頭症6例を中心に,その予後と頭蓋内圧変動および脳室との相関を検討したので報告する.

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I.はじめに

 術後症例の多くは出血および非コロイド溶液の補液によって血漿膠質浸透圧低値を示す傾向にある25,30).Starlingの法則25)によると血漿膠質浸透圧は毛細管膜を介して,間質液を毛細管内へ吸収させるための重要な一因子である.膠質浸透圧を維持するために最も重要な血漿タンパク成分である12,13,18,25,28,30)albuminを投与し血漿膠質浸透圧を上昇させると,理論的には脳組織間液の毛細管内への吸収が促進され,頭蓋内圧の下降が期待される.また,逆に血漿膠質浸透圧の低下は頭蓋内圧亢進に悪影響を与える可能性が充分に考えられる.しかるに,頭蓋内圧亢進例に対するalbuminの減圧効果についてはいまだ一定した見解が得られていない1,4,6-10,18,19,22,24)

 そこで,われわれは術後症例に対して血漿膠質浸透圧の維持を意図し,頭蓋内圧亢進のoncotic therapyを兼ねて,albumin投与を行い,主としてalbuminの頭蓋内圧に及ぼす影響について検討した.その結果,albumin投与は頭蓋内圧下降の手段として,臨床上多角的に有利であることが示唆されたので報告する.

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I.はじめに

 Katzman13)によれば,脳浮腫の定義は,脳組織内水分含有量の増加の結果,脳容積の増大した状態とされ,一般的に脳浮腫はvasogenic edemaとcytotoxic edemaに区別されている9,13)

 いわゆるvasogenic edemaの主病変部は臨床的4)にも実験的3)にも脳白質細胞外腔へのPlasma成分の異常貯留状態であり,vasogenic edemaの本態解明の鍵は,この状態における液体の移動,吸収および脳細胞,脳血管の反応に対する研究にあると考えられる.

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I.はじめに

 脳膿瘍は,抗生物質の発達による肺炎・腹膜炎・髄膜炎など各種感染症の死亡率の著しい改善にもかかわらず,その治療成績は必ずしも向上せず予後不良な疾患とみなされてきた1,2,4,12,22,33,38).しかし近年CTの導入により本疾患の治療成績は著明に上昇してきている5,7,11,14,18,21,24,26,27,33)

 最近われわれは過去1年間で種々の原疾患に続発する脳膿瘍の4例を経験した.その治療内容は,保存的治療2例・被膜外全摘術2例で全例軽快退院しており,良好な成績を収めている.そのうち1例は極めて予後不良といわれる脳室穿破例であった.これらのCT所見の特徴と治療に関して検討し若干の所見を得たので報告する.

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I.はじめに

 血管外皮26)に由来する腫瘍をStout&Murray22),Stout21)は血管外皮腫と称し,その半数は筋や骨格に発生する,髄膜に発生した血管外皮腫についてはBegg&Garret4)が1954年に初めて報告した.このものは髄膜に付着し,肉眼的に髄膜腫と差がなく,Baileyら3),Russellら18)は血管外皮腫を悪性徴候のなし血管の豊富な髄膜腫と天幕上の良性血管腫を一括して血管芽細胞性髄膜腫(angioblastic meningioma)としている,Ker-nohan & Uihlein10)は髄膜に発生した血管外皮腫において多数の核分裂像と豊富な格子線維網の存在,および再発傾向から髄膜腫と区別して肉腫の一種としている.Simpson19)も髄膜に発生した血管外皮腫を未分化肉腫と呼んでいる,WHO分類(World Health Organiza-tion,1979)27)によると血管外皮腫を髄膜腫の一型とし,その悪性度はgrade IIとしている.以上のように血管外皮腫の位置づけに見解の一致をみていない.

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I.はじめに

 先端巨大症に伴う脊椎椎体の骨変化と脊髄障害の関連につき言及した報告例は少ない.われわれは長年月にわたり腰痛,下肢痛,歩行障害を主訴とした先端巨大症の1例を経験したので,先端巨大症と脊髄障害の発症について若干の文献的考察を加えて報告する.

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I.はじめに

 代用硬膜は硬膜欠損部の補充,あるいは外減圧術の際に用いられることがあるが,これを用いたために生ずる合併症2,3,9,11)も少なくない.

 現在用いられている代用硬膜の中でサイラスティッケ(Silastic sheetingシリコンゴムシート,Dow Corning社,U.S.A.)硬膜補填材は表面平滑で可撓性があり操作しやすく,水を通さず,さらに水密に生体硬膜との縫合が可能であり,また膜自体の変化や,周囲組織との癒着もない,などの利点があり,われわれもしばしば用いてきたが,手術の数日後にサイラスティッケ代用硬膜直下に,その形状に一致した限局性の凝血塊ないしは血腫の発生をみるといった合併症を数例ならず経験した.

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I.はじめに

 わが国における多発性嚢胞腎(以下PCKと略す)と脳動脈瘤の合併例の文献的報告はこれまでのところ少数である7,11)

 今回われわれは,PCKに罹患した37歳女性に対し予防的見地から頸動脈撮影を行ない,両側中大脳動脈に非破裂動脈瘤を認め,直達手術を施行した経験を得たので報告する.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
11巻9号 (1983年9月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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