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はじめに
2014年に発刊された『看護研究』第47巻3号への特集論文掲載がご縁となり,このたび,質的・量的アプローチのハイブリッドである混合研究法註1(mixed methods research ; MMR)について6回にわたり連載記事を書かせていただくことになった。看護学は私の専門分野ではないが,リサーチ・メソドロジストとして,この連載を通して看護研究者の皆さんに混合研究法をできるだけわかりやすく紹介したいと思っている。皆さんが日常従事されている医療実践の中では,患者のバイタルサインの測定,血液検査や尿検査による異常値の同定,MRI,CT,レントゲン画像の解析,診断の手がかりを得るための問診など,常に量的データと質的データの両方が用いられている。正確な診断は,量的・質的データを統合することによって初めて可能となる。つまり,医療実践そのものがすでにミックスド・メソッド(MM)であるということだ。したがって,医療研究を混合研究法のアプローチを用いて行なうことは,ある意味とても理にかなっているといえよう。
看護職のもつ特色を活かした研究とは何か。つまり,看護師という立場だからこそできる研究テーマとその上で用いられ得る研究アプローチは何か。そのような問いをもとに研究計画を立てれば,真に意義のある研究が,意義のある形で実践できるのではないだろうか。看護研究者の中には質的研究に傾倒する方たちが多いと聞く。それは,看護実践の特徴と質的研究のそれの間に重複する部分が多いためと考える。看護師は医療従事者の中でも最も密に患者と接する機会と時間を有し,疾患だけでなく,全人的存在としての患者とかかわる機会が多い。そして,そのことが,研究を実践する上で調査者と調査参加者の相互作用を重視する質的研究と看護研究の親和性を高めていると考える。したがって今回の連載では,近年看護研究に強い影響を与えつつある,「質的研究主導型混合研究法(qualitatively-driven mixed methods)」も議論の中に含めながら,混合研究法に関する基礎知識や研究事例などをわかりやすく紹介していきたいと思う。
初回にあたる今回は,前半で昨年6月に米国ボストンで開催された国際混合研究法学会(Mixed Methods International Research Association ; MMIRA)の第1回大会の報告を簡単にさせていただく。その上で,混合研究法コミュニティの多様性と寛容性を認識していただく目的で,後半では混合研究法コミュニティを牽引する主要な研究者の背景および彼(女)のもつ混合研究法に対するスタンスの違いを紹介させていただく。混合研究法コミュニティがもつ多様性とそれに対する寛容性は,さまざまな研究者が独自の観点から混合研究法を発展させることを可能にする。そして,それぞれの立ち位置から,他の研究者が有する混合研究法へのスタンスに対し知的な挑戦を試みる。混合研究法はどうあるべきかの主張に対し安易に収斂を求めないこのコミュニティの姿勢は,混合研究法のさらなる発展を牽引する健全な学術活動といえる(Mertens, 2010a)。その一方で,初学者が混合研究法を理解しようとする時,コミュニティ内の多様性は時に障壁となって立ちはだかる。一体混合研究法とは何なのか。誰の主張が正しいのかと。そこで連載第1回の本稿は,まずはこうした障壁を取り除くために紙幅を割きたいと考える。
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