網膜橋渡し研究アップデート
11.光遺伝学療法
栗原 俊英
1
1慶應義塾大学医学部眼科学教室
pp.162-166
発行日 2021年2月5日
Published Date 2021/2/5
DOI https://doi.org/10.18888/ga.0000002029
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遺伝性網膜疾患(inherited retinal diseases:IRD)は,希少疾患であるが有効な治療法がいまだ確立しておらず,失明原因の上位を占める。国内では,代表的なIRDである網膜色素変性症が視覚障害原因の第2位であり1),治療法開発は急務である。そのため,IRDの病態進行抑制や失われた視機能を再建する研究が,現在世界中で行われている。IRDの原因遺伝子は視細胞の光受容,外節や内節,結合絨毛の構造,視覚サイクル,網膜の発生,シナプス機能,小胞輸送,脂質代謝,貪食能などに機能する蛋白質をコードしており2),これまで300種類以上見つかっている(RetNet;https://sph.uth.edu/retnet/)。世界人口の約36%は少なくともひとつ以上の劣性遺伝のIRD保因者であるといわれている3)。そのうち,網膜色素上皮細胞に存在し視覚サイクルに関わるRPE65の変異により,Leber先天黒内障あるいは網膜色素変性症が発症しうるが,アデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus:AAV)ベクターを用いた網膜下注射によるRPE65遺伝子補充療法が,臨床試験で安全性と有効性が確認され4),2017年に米国で遺伝子治療薬「ラクスターナ」として認可されている。ラクスターナの登場で,Argus Ⅱ(2011年欧州,2013年米国で認可)やAlpha-IMS(2013年欧州で認可)などの人工網膜による視覚再建治療技術5)に続き,IRDに対する遺伝子治療が注目されている。本稿では,光遺伝学(optogenetics)技術を用いたIRDに対する遺伝子治療について解説する。
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