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はじめに
私たち「保健師のスキルアップを目指す会」がクレームへの対応に関する研究に取り組み始めたきっかけは,保健師となった卒業生の一言でした。「乳幼児健診時の保健師の対応が悪いと言って父親が電話をかけてきたのですが,私はパニックになり,ひたすら謝って電話を切りました。その後,所内での報告もできていません」と。
保健師は,基礎教育でカウンセリングや相談対応技術の基本を学びます。しかし,突発的に起こる住民からの訴えに対しては,基礎的な相談技術では対応が難しいのではないかと感じ,保健師のクレーム対応に関する研究を始めました。
まず,2009(平成21)年に実態調査を実施しました。その結果,静岡県内の市町村保健センターで母子保健に従事する保健師193人中,6割の保健師がこの1年以内に「クレームを受けた」と回答しました1)。なお,筆者らは,クレームを「住民が提供されるサービスに納得できずに起こす陰性感情を伴う申立て」と定義しました。
一般的にクレームは,「いやなもの」「避けたいもの」と否定的な捉え方をしがちですが,クレームは自身では気付きにくい課題を改善するためのヒントとなり,サービスの質を向上させる貴重な声でもあります。また,保健分野で起こるクレームは,申立者の抱える何らかのSOSのサインである場合も多いと考えます。それを「単なる苦情」と処理してしまうか,「支援・介入の契機」と捉えて対応できるかによって,住民に必要な支援につながるかどうかが分かれます。そのため,クレームへの対応は保健師としての力量が試されるところです。
そこで筆者らは,クレームを教材とした保健師の援助技術の向上と業務改善を図るための研修が必要であると考え,研究グループ(保健師のスキルアップを目指す会)を組織し,2011(平成23)年より研修を実施しながら研修プログラムの開発を続けてきました。
本稿では,クレームへの対応術とともに,保健師のスキルアップ,業務改善に生かしていくためのポイントや,クレームに強い組織づくりについてご紹介します。
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