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あとがき
酒井 邦嘉
pp.1434
発行日 2019年12月1日
Published Date 2019/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416201468
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私が宮下保司先生の研究室で電気生理学を学び始めて少し経った頃(1990年),ジョン・C・エックルス先生が来日された。伊藤正男先生は私に,エックルスご夫妻を上野駅までお送りして鞄持ちをするようにと指示され,「これは一生の思い出になるよ」とおっしゃった。拙い英語で雑談をしながらも役得でエックルス先生のサインをいただいたところまではよかったが,駅に着いて立ち往生した。当時はまだバリアフリーとほど遠い状態で,構内の高い階段が高齢のご夫妻を阻んだからだ。そこで渋る駅員に掛け合って,業務用のエレベーターを乗り継ぎ,やっとホームまでたどり着くことができた。もし途中で捻挫でもされていたら,私は破門の憂き目にあったかもしれない。
伊藤先生は,そんな不肖の孫弟子にまであたたかかった。伊藤先生の日本学士院会員就任祝賀会(1989年)で撮影係をやっていたところ,スピーチの直後にわざわざ歩み寄って労をねぎらっていただいたことがある。日本神経科学学会の会場では,私のポスターにまで足を止めて議論してくださったことに感激した。そもそも私が初めて聴いた脳科学の講義は,伊藤先生の「東京大学医学部最終講義」だった。この講義を聴き終えて物理の研究室に戻ったところ,堀田凱樹先生が「屈指の名講義だった」と興奮気味におっしゃったことを思い出す。その場に居合わせた人は誰しも,生涯忘れられない講義になったに違いない。
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