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あとがき
酒井 邦嘉
pp.312
発行日 2012年3月1日
Published Date 2012/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416101157
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今年は,デンマークの建築家フィン・ユール(Finn Juhl;1912-1989)の生誕100周年にあたる。フィン・ユールは,国連本部会議場やスカンジナビア航空機の内装をはじめ,家具などのデザイナーとしても世界的に有名で,機能主義の伝統に群れることなく,あくまで独自の「機能美」を追究した孤高の天才であった。彼の誕生日である1月30日あたりから,100周年記念の催しが始まっている。フィン・ユールが自ら設計した自邸は美術館の一部として公開されており,その調度品の全体がみごとに調和している。
フィン・ユールがデザインした家具といえば,100種を超える椅子が中心である。中でも「フィン・ユールの45番」と年号で呼ばれるイージー・チェア(安楽椅子)は,彼が初めて独立して建築事務所を開いた年にデザインしたもので,「世界で最も美しいひじ掛けを持つ椅子」と称賛されてきた究極の椅子である。私は「椅子のストラディヴァリ」と呼んで愛用している。あらゆる部分が流麗な曲線でデザインされており,革新的な構造上の工夫を随所に施すことで,座と背が一体となってひじ掛けのフレームから離れ,空中に浮遊しているかのようにみえる。この浮遊感を与える軽やかさが,「座り心地」という意識に直接響くのであろう。「フィン・ユールの53番」では,斬新な凹みがひじ掛けに掘り込まれており,安定してひじを支えるようにデザインされている。これらの椅子の設計図面は水彩で丹念に描かれていて,ため息が出るほど美しい。
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