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あとがき
酒井 邦嘉
pp.654
発行日 2021年5月1日
Published Date 2021/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416201813
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先日,「国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展」を訪れた。中でも目を惹いたのは,エジプトの繁栄期にあたるアマルナ時代(前1351〜前1334年頃)の作品群である。特に《ネフェルティティ王妃あるいは王女の頭部》は,それまで二千年も続いたエジプト美術の伝統とは一線を画し,気品のある顔立ちを生き写しのように再現していた。今回は日本にこなかったが,見事な彩色が施された《ネフェルティティ王妃の胸像》や,黄碧玉を磨き上げて麗しい唇を表現した《王妃頭部断片》(メトロポリタン美術館蔵)もまた,アマルナ時代の傑作として名高い。
そうしたリアリズムの追求を特徴とするアマルナ芸術は,アクナーテン王の時代に生まれたのだが,それは彼の高潔な思想と美意識を反映していたようだ。アクナーテン王は遷都と宗教改革を断行したことで知られており,その背景には神官たちの目に余る横暴があった。そのあたりの事情は,アガサ・クリスティの『Akhnaton』という作品(1937年に書かれ1973年に出版)で活写されている。この戯曲には,アクナーテンとネフェルティティはもちろん,のちに王位を継承するツタンカーメン,アイ(神官),そしてホルエムヘブ(軍人)も登場する。「古代エジプト展」では,アクナーテン王の横顔をレリーフで見ることができて,当人たちの舞台にタイムスリップしたかのようなリアリティを感じることができた。ちなみにツタンカーメンはアクナーテンの実子だったことが,ミイラのDNA鑑定で判明している。
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