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あとがき
酒井 邦嘉
pp.670
発行日 2018年6月1日
Published Date 2018/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416201064
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最近になってヴィオラを習い始めた。きっかけは2つある。1つは,なじみのヴァイオリン工房で弾かせてもらったヴィオラの響きが素晴らしかったことだ。それまで私が抱いていたヴィオラの音のイメージは,暗く沈んだ鼻声のようなものだった。そもそもヴィオラはヴァイオリンより一回り大きいだけだから,チェロのように堂々と鳴ることは期待できない。ところが,そこで手にしたヴィオラは明るく朗々と響き渡り,まさに目から鱗が落ちる思いだった。
2つ目は,チェロの曲をヴィオラで弾けることに気づいたことだ。バッハの無伴奏チェロ組曲は,1オクターブ上げて(ドから1つ上のド),調を変えずに弾ける上(ただし5弦用の第6番を除く),原曲の雰囲気も損なわれない。もちろん,ヴィオラがヴァイオリンより5度低く(例えばソからドへ)調弦されることは知っていたが,チェロよりちょうど1オクターブ上に調弦されるということは意識していなかった。面白いことに,音程の知覚では,オクターブの差はあまり問題にならない。実際,無伴奏チェロ組曲をヴィオラで録音したCD(例えばRowland-Jonesの演奏)を聴いてみると,違和感がないばかりか,清々しく軽やかで優美な響きに魅了されるのである。
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