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あとがき
三村 將
pp.484
発行日 2018年4月1日
Published Date 2018/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416201026
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このあとがきを書いている今,2カ月半にわたって開催された東京国立博物館の仁和寺展が幕を閉じた。この展覧会「仁和寺と御室派のみほとけ」では,総本山である仁和寺の阿弥陀如来坐像をはじめ,大阪・道明寺の十一面観音菩薩立像,兵庫・神呪寺の如意輪観音菩薩坐像,徳島・雲辺寺の千手観音菩薩坐像など,普段滅多に拝むことのできない秘仏が目白押しであった。福井・中山寺の馬頭観音菩薩坐像に至っては33年に一度ご開帳される秘仏中の秘仏である。これほどまでの寺宝が一堂に会する機会はまずないであろう。しかし,極めつけは大阪・葛井寺の千手観音菩薩坐像である。1,041本もの手を持つ千手観音像としては最古であり,1,300年も昔の天平時代にこれだけ美しく完成度の高い脱活乾漆像がつくられたことにはただ驚嘆する。この像は頭上に十一面をいただき,各手の掌にはよくみると眼が描かれているから十一面千手千眼観音菩薩である。千の眼で慈悲の心をもって衆生をみつめ,千の手で漏らさず救済しようとしているとされる。千の手それぞれには,蓮華や水瓶,宝剣,宝弓,数珠など,ありとあらゆる状況に対応できるようにさまざまな「救済手段」を持っている。中には難病を払いのけるとされる柳を持っている手もある。
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