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2021年6月8日に米国食品医薬品局(FDA)がバイオジェン・エーザイのaducanumabを限定付きではあるが,アルツハイマー病の治療薬として迅速承認したというニュースが世界中を駆け巡った。それまでの諮問委員会の意見などから承認は厳しいだろうという大方の予想を覆しての結果は,日本でもマスコミが大きく取り上げた。間違いなく今年の医療界のトップテンに入る出来事だろう。これまでに承認されているアルツハイマー病治療薬はいずれも中核症状の進行を遅らせるという対症療法であり,とにもかくにも疾患修飾薬と言い得る薬剤が世界で初めて承認されたことは,世界の認知症研究者や臨床家,製薬企業にとっても弾みとなるイベントであり,何よりもアルツハイマー病の当事者や家族にとっては大きな福音であろう。
ただ,この承認を手放しで喜ぶわけにはいかない。国際老年精神医学会(IPA)のWilliam Reichman理事長は早々に“Aducanumab and Alzheimer's Disease: IPA's position on controversial FDA approval”と題したコメントを発信し,aducanumabの科学的妥当性や臨床的意義はともかく,この承認の持つ社会的インパクトについて警鐘を鳴らしている。アミロイドβをターゲットとした製剤であるaducanumabの使用にはいまのところアミロイドPETが必須であるが,この検査を受けることのできる患者はごく限られている。また,最大の有害事象であるアミロイド関連画像異常(ARIA)をモニターするには頻回のMRI検査も必要となる。医療費の高騰を心配する声も大きい。確かにaducanumabは現在の認知症の臨床における「医療格差」をさらに押し広げる結果になってしまう可能性もある。また,今回の承認はあくまでも限定付きであり,もししかるべき臨床効果が確認できなければ,むしろ後続の疾患修飾薬のブレーキになりかねない事態も懸念される。
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