BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 70巻4号 (2018年4月)

増大特集 Antibody Update 2018

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特集の意図

2013年4月号増大特集で「Antibody Update」を取り上げた。それから5年が経ち,自己抗体研究はさらに進歩がみられている。本特集では前回の増大特集の内容から新たに加わった知見を盛り込み,それぞれの自己抗体の持つ意義や治療などについて各分野のエキスパートに執筆いただいた。

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自己免疫性神経疾患では次々と新しい疾患特異的自己抗体が同定され,臨床症状と密接に関わるバイオマーカーとして臨床的に用いられている。これらの自己抗体は血液脳関門を通過して,その標的である神経抗原,非神経抗原に到達し,補体介在性,抗体介在性の標的細胞傷害をきたす。神経系に対する自己抗体産生は中枢性・末梢性自己免疫寛容の破綻,自然免疫の関与が考えられている。自己抗体産生機序の解明は自己免疫性神経疾患の治療に直結する。

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自己免疫性脳炎関連自己抗体は,N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)を標的とするものが最も多い。抗体陽性例は特徴的な臨床像を呈する。抗体は病態に密接に関与し,早期の免疫療法が有効である。診断には,NMDARの立体構造を認識する脳脊髄液中の抗体をcell-based assay法で検出することが必要である。発症機序,経過・予後,至適治療法など,今後検討すべき課題が多い。

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視神経脊髄炎(NMO)は従来,多発性硬化症の亜型として考えられていたが,2004年に特異的な自己抗体NMO-IgGが発見されて以来,独立した疾患概念として確立されてきた。また,2012年には抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)抗体が関与する視神経脊髄炎関連疾患が報告され,抗MOG抗体が陽性の症例の中に視神経脊髄炎と類似の症状を呈するものが含まれていることも判明している。

橋本脳症と自己抗体 米田 誠
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橋本脳症は,慢性甲状腺炎(橋本病)に伴う自己免疫を基盤とした精神・神経疾患である。ステロイドを主体とした免疫療法が奏効するが,臨床症候が多彩なため診断は容易でなかった。筆者らは,橋本脳症に特異的な血清の診断マーカーとして,αエノラーゼのN末端領域に対する自己抗体(抗NAE抗体)を開発し,橋本脳症の臨床スペクトラムを明らかにした。橋本脳症患者の約半数がこの抗体を有する。発症年齢は広く,若年層と高齢者に二峰性に分布する。神経症候として最もよくみられるものは意識障害であり,幻覚・せん妄などの精神症状,認知症,不随意運動,てんかん,小脳性運動失調症(小脳失調)がよくみられる。脳波での基礎波の徐波化や脳SPECTでの血流低下が高頻度にみられる反面,頭部MRIの異常は,辺縁系病変と深部白質病変以外は稀である。認知症をきたすものとしては,辺縁系脳炎,白質脳症,クロイツフェルト・ヤコプ病mimicなどがある。脊髄小脳変性症においては,小脳失調型橋本脳症が鑑別診断に挙がる。日常診療の中で,治療可能な橋本脳症を常に念頭に置くことが必要である。

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電位依存性カリウムチャネル(VGKC)複合体抗体は,アイザックス症候群,モルヴァン症候群,さらに近時記憶障害とてんかんを主張とする辺縁系脳炎の病態関連抗体である。VGKC複合体の主要抗原はLGI1(leucine-rich glioma inactivated protein 1)とCaspr2(contactin-associated protein 2)である。これらに対する抗体が陰性の場合,VGKC複合体抗体が細胞内ドメインに反応しており,病態には直接関連はない。

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傍腫瘍性神経症候群(PNS)は腫瘍の遠隔効果を原因とする神経症候群の総称である。PNSに関連する神経由来抗原と腫瘍抗原を標的とした抗神経抗体が多数同定されている。抗神経抗体は免疫学的機序と治療反応の観点から,神経細胞内抗原に対する抗体と神経細胞表面抗原に対する抗体に大別される。今後も新規抗神経抗体が発見される可能性が高く,PNSの免疫学的機序と治療開発の両面で期待の持てるステージに到達しつつある。

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Lambert-Eaton筋無力症候群(LEMS)は,シナプス前終末からのアセチルコリンの放出障害により,四肢筋力低下,腱反射低下,および,自律神経障害を呈する神経筋接合部・自律神経の自己免疫疾患である。LEMS患者の半数以上が悪性腫瘍,主に小細胞肺癌(SCLC)を合併する傍腫瘍性症候群でもある。SCLCを含む神経内分泌腫瘍に対する腫瘍免疫で自己抗体が生じ,シナプス前終末の活性帯に局在するP/Q型カルシウムチャネルをdown-regulationさせることが,LEMSの病態機序と考察される。

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スティッフ・パーソン症候群は体幹を主部位として,間欠的に筋硬直や筋痙攣が発生し,さらには全身へと症状が進行する自己免疫疾患である。免疫療法に反応するが,突然死を引き起こすこともあり,診断と治療アルゴリズムの確立が必要である。GABAの生成に関わる抗GAD抗体や抗アンフィフィシン抗体が,特に重要視されている。また,近年ではグリシン受容体α1サブユニットに対する抗体の存在も指摘されており,自己抗体からみた臨床像についても解説する。

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自己免疫性大脳基底核障害とは,大脳基底核の病変に伴い運動異常症を呈し,自己免疫学的機序の関与が推定される病態である。運動異常症を呈する自己免疫性脳炎としては抗NMDA受容体脳炎の頻度が最も高いが,抗リン脂質抗体症候群などとの鑑別も必要である。小児ではSydenham舞踏病や抗ドパミンD2受容体抗体関連脳炎などの疾患も知られている。一部の例では大脳基底核抗原に対する自己抗体が検出される。

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自己免疫性小脳性運動失調症の診断で使われる自己抗体としては,抗グリアジン抗体,抗GAD抗体,抗甲状腺抗体が知られているが,抗mGluR1抗体についても非傍腫瘍性自己免疫性小脳性運動失調症の発症が報告されている。これら自己抗体陽性例ではより早期の段階で診断治療を行うことが重要である。また,これらの自己抗体が陰性の自己免疫性小脳性運動失調症患者も存在しており,的確な診断治療のために新たな抗小脳抗体の検索方法の確立が待たれる。

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自己免疫性自律神経節障害(AAG)では抗ニコチン性自律神経節アセチルコリン受容体(gAChR)抗体の出現を血清中に認める。gAChRの構成サブユニットはα3とβ4であり,いずれかもしくはいずれに対しても自己抗体の産生が認められる。この抗gAChR抗体がAAGの病因であることを証明するin vitro実験は既に報告されており,患者血清IgGによる疾患移送もなされている。われわれは本邦におけるAAGの臨床像として,①慢性経過の症例が多い,②広範な自律神経障害を示すことが多いが,部分的自律神経障害(体位性起立性頻脈症候群,慢性偽性腸閉塞症など)の症例でも陽性と呈することがある,③extra-autonomic manifestations(自律神経外症状)として中枢神経症状(精神症状,記銘力障害など),内分泌障害などを呈することがある,④一部の症例において悪性腫瘍,膠原病などの自己免疫疾患の併存がみられる,などを報告してきた。これら以外の未解決の事項としてAAGと同じく自律神経障害を病態の主座とするニューロパチー(急性自律感覚ニューロパチーなど)が同じ疾患スペクトラム上にあるものか,異なるものか,が挙げられる。われわれはこれらの病像にアプローチするために他のニコチン性AChRサブユニットに対する自己抗体の検出についても研究を進めている。

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慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーで自己抗体の報告が相次いでいる。多くはランヴィエ絞輪部周囲の細胞接着分子を標的にするIgG4抗体で,ニューロファシン155とコンタクチン-1に対する抗体の病的意義に関する知見が集約されてきた。これらの抗体が陽性の例は,病理所見で典型的な脱髄像を欠き,免疫グロブリン大量静注療法抵抗性であるなど,一般に本症の特徴とされる所見を示さない。臨床医は自己抗体の意義を理解し,抗体測定を活用することが求められる。

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糖脂質抗体研究を軸に,ギラン・バレー症候群の病態解明は進んだ。単独抗原の検討から始まった糖脂質抗体研究は,2つの糖脂質の複合抗原に対する抗体の発見により,その領域をさらに拡大した。最近,ガングリオシドGQ1bとの反応にCa2+を必要とする抗体(Ca2+依存性GQ1b抗体)が,フィッシャー症候群関連病態で発見された。Ca2+はGQ1bのジシアロシル基と相互作用し,抗体はそのCa2+が結合した構造を認識していると考えられる。

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重症筋無力症(MG)は自己抗体介在性の免疫性神経疾患の1つである。MG患者の80%以上で検出される抗体が抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体である。MGにて産生される一部の抗AChR抗体の遺伝子構造は既に解明されており,それらの病原性も科学的に裏づけされている。したがって,抗AChR抗体はMG治療を目的とする創薬ターゲットとしての資質を持っている。本論では,抗AChR抗体陽性MGの治療を指向した分子標的治療薬の開発について論じる。

皮膚筋炎と自己抗体 藤本 学
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近年,皮膚筋炎に特異的な自己抗体が次々に同定され,本症において疾患特異的自己抗体が高率に陽性になることが明らかになってきた。これらの自己抗体は,臨床病型や合併症に強く相関することが示され,多彩な臨床像を呈する本症を自己抗体によってより均質な臨床病型のサブセットに分類できるようになってきた。皮膚筋炎に特異的な自己抗体である抗Mi-2抗体,抗MDA5抗体,抗TIF1抗体,抗NXP2抗体,抗SAE抗体について概説した。

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抗アミノアシル転写RNA合成酵素(ARS)抗体(抗Jo-1,PL-7,PL-12,EJ,OJ,KS,Ha,Zo抗体)陽性症例は抗ARS抗体症候群(筋炎,間質性肺炎,機械工の手,レイノー現象,多関節炎)を呈すが,陽性となる抗体ごとに臨床像の多様性もある。2014年OJ,Ha,Zo以外のARSに対する「抗ARS抗体」の測定が保険収載された。近年,筋線維の核内アクチン凝集や抗Jo-1抗体筋炎マウスが報告された。

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孤発性封入体筋炎は,手指屈筋や大腿四頭筋の筋力低下と筋萎縮を特徴とする筋疾患であるが,原因は不明で治療法は未確立である。本疾患の病態として,炎症と変性機序のクロストークが推測されるが,病態解明の端緒と期待されるのが近年本患者に同定されたサイトゾル5’-ヌクレオチダーゼ1Aに対する自己抗体である。本抗体は特異度の点から診断に有用であるとともに,直接的に筋変性を誘導する可能性が推測される。

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がん免疫療法の中心である免疫チェックポイント阻害薬による治療中に発症する神経・筋障害の有害事象は低頻度であるが,多彩である。薬剤との因果関係が明らかでない場合や免疫学的機序の関与が考えにくい疾患も含まれる。現在,確実な免疫関連有害事象として考えられているのが自己免疫性脳炎,脱髄性ニューロパチー,重症筋無力症,筋炎である。重症例が多いものの,免疫抑制療法は有効であり,迅速かつ適切な対応が必要である。

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耳鳴りは患者数の最も多い疾患の1つであるが,その病態は謎に包まれている。残念ながら今の医学では耳鳴りの有無すら客観的に判別できないのが現状である。科学的根拠に基づいた耳鳴り治療法の開発はますます重要となるが,そのためには耳鳴りの客観的診断は不可欠である。本論では,さまざまな視点から耳鳴りの客観的診断の可能性に関して論じてみたい。

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 ECTRIMS(European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis)は毎年秋に欧州で開催されていますが,3年に1度,北米の同様の組織,ACTRIMS(Americas Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis)と合同の会議を欧州と北米とで,交互に開催しています。3年前は米国ボストンでした。今回は2017年10月25〜28日に,パリ市17区の凱旋門北西にある,パレ・デ・コングレ(Palais des Congrès)で開催されました。テロによる多数の犠牲者を出した都市でもあり,会場の入り口では荷物のチェックがありました(ド・ゴール国際空港では3人組の武装警官が巡回していました)。オーストリアでは31歳の首相を首班とする,戦後の欧州にはなかった政治的潮流の政権が誕生しましたし,期間中の27日には国境のバスク地方を抱える,隣国のスペインのカタルーニャ自治州議会の独立宣言があり,政治的な変化を身近に感じる欧州でした。

 さて,会議自体は15のトピックをシンポジウム風にまとめた教育コースや数多い招待講演や口演,シンポジウム,2,000以上ものポスター発表が20時頃まであり,その後もメーカーによるセッションが開催されました。開会の挨拶の後,冒頭にウィーン大学のLassmann教授による“From neuropathology to new pathophysiological concepts and clinical perspectives”と題した45分の特別講演がありました。公式の挨拶と特別講演の間に,開催都市ならではのイベントがいつも舞台でプレゼンされるのですが,驚いたのは,今回は「天国と地獄」のおなじみのメロディーをバックに,10人以上の20世紀初頭風の踊り子たちが,キャバレーで行うような「本格的」なフレンチ・カンカンを踊ったことです。とても他の国の学会場ではできません。さすがフランスです。

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目次

欧文目次

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 『BRAIN and NERVE』誌2017年11月号に「こころの時間学の未来」というタイトルの増大特集が掲載された。「こころの時間学」とは,2013〜2017年度までの5年にわたる科研費新学術領域研究〔代表:北澤茂(阪大教授)〕の名称であり,この特集号は,その領域研究における成果の集大成の一部としてまとめられている。

 「時間とは何か」という概念的な問いに対する論考は,主に哲学の文献に数多く見出されるが,一方で,これまで科学的な研究対象として「時間」を扱ってきたのは,主に物理学,特に力学の分野であろう。しかしながら,それを主体の中で知覚,認知するメカニズムの科学的探求については,これまで決して目覚ましい発展があったわけではなかったように思われる。その理由は,心理的な側面として「時間」を正確に取り出すことの難しさにあったものと推察される。極論すれば,時間が関与しない知覚・認知処理など存在しないわけであり,あらゆる現象には時間という要素が付帯されてくる。ゆえに,時間のみを取り出そうとしても,他の要素を排除することが困難になってくるのが常である。よって,心理的な意味での時間の謎に迫るためには,時間を多次元的に捉え,その共通要素を炙り出すということが必要になってくる。

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 今月の表紙写真はとてもユニークです。そして,なんだか不思議な患者が写っています。

 この写真は,メージュ(Henry Meige; 1866-1940)の「右腰-坐骨神経痛を合併した交代性側弯」1)という論文からのものです。坐骨神経痛を合併する交代性側弯とはなんなのか,おわかりになりますか。論文はこう始まります。

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あとがき 三村 將
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 このあとがきを書いている今,2カ月半にわたって開催された東京国立博物館の仁和寺展が幕を閉じた。この展覧会「仁和寺と御室派のみほとけ」では,総本山である仁和寺の阿弥陀如来坐像をはじめ,大阪・道明寺の十一面観音菩薩立像,兵庫・神呪寺の如意輪観音菩薩坐像,徳島・雲辺寺の千手観音菩薩坐像など,普段滅多に拝むことのできない秘仏が目白押しであった。福井・中山寺の馬頭観音菩薩坐像に至っては33年に一度ご開帳される秘仏中の秘仏である。これほどまでの寺宝が一堂に会する機会はまずないであろう。しかし,極めつけは大阪・葛井寺の千手観音菩薩坐像である。1,041本もの手を持つ千手観音像としては最古であり,1,300年も昔の天平時代にこれだけ美しく完成度の高い脱活乾漆像がつくられたことにはただ驚嘆する。この像は頭上に十一面をいただき,各手の掌にはよくみると眼が描かれているから十一面千手千眼観音菩薩である。千の眼で慈悲の心をもって衆生をみつめ,千の手で漏らさず救済しようとしているとされる。千の手それぞれには,蓮華や水瓶,宝剣,宝弓,数珠など,ありとあらゆる状況に対応できるようにさまざまな「救済手段」を持っている。中には難病を払いのけるとされる柳を持っている手もある。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
70巻4号 (2018年4月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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