--------------------
あとがき
三村 將
pp.1228
発行日 2013年10月1日
Published Date 2013/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416101630
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
私が精神・神経科に入局したのは約30年前になるが,当時,統合失調症や躁うつ病といったいわゆる「内因性精神病」では脳の形態的異常はないものと教えられた。もちろん精神疾患の生化学的異常や電気生理学的異常の研究は数多くあったが,神経病理学的に脳の組織や構造を調べても異常は見出せないと考えられていた。だからこそ「器質性」ではなく,「内因性」なのだと。しかし,今月号の特集「神経系の発達メカニズム――最近の話題」においては,例えば久保と仲嶋「大脳皮質の神経細胞配置と統合失調症」(1133~1145頁)の冒頭で言及しているごとく,「統合失調症の脳病理所見として,大脳皮質の微細な組織構築の異常が指摘されている」のである。通常の顕微鏡や染色では異常を検出しえない精神疾患の脳組織において,大脳の神経細胞配置をはじめとした構造異常は明らかに存在することが今日ではもはや前提となっている。その意味では,生物学的精神医学領域の技術の進歩には目を見張るものがあり,一世代前とは文字どおり隔世の感がある。統合失調症や気分障害,自閉症スペクトラムをはじめ,多くの精神疾患は発達段階からの脳構造の変化が指摘されており,さらにさまざまな環境要因の影響を受けて,形態的にも機能的にもエピジェネティクな変化が生じてきている。このような問題をさらに解明していくには,精神科領域でのブレインバンク・バイオリソースの集積が不可欠である。
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.