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本年6月に慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授,神経内科の中原仁教授らの研究グループが筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者にロピニロールを投与する医師主導治験であるROPALS試験の安全性と有効性を報告し(Morimoto S, et al. Cell Stem Cell, 2023),関連したプレスリリース記事も発出された(https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2023/6/2/28-138679/)。本治験の特筆すべきところは,参加患者さんからiPS細胞を作製し,ロピニロールを患者分化細胞に投与することで,薬剤の効果予測を行うことができる点である。さらに,ロピニロールが神経細胞内のコレステロール合成を制御することによって抗ALS作用を発揮していることもわかってきた。今回の研究からはiPS細胞創薬の有用性が示され,有効な治療法に乏しいALSという神経難病への新たな治療選択肢の可能性が開かれた。
さて,本号ではALSの診断バイオマーカーとしての組織学的アプローチに関する優れた総説が掲載されている。また,特集は「Antibody Update 2023 Part2 末梢編」である。疾患特異的自己抗体の発見は神経系疾患の臨床を大きく変えてきており,本誌で最初にこのテーマを取り上げた2013年から,5年後の2018年,そして今回の2023年と,5年ごとに次々と新知見が登場してきて,日進月歩の感がある。これらの免疫学的発見やバイオマーカー,神経画像の進歩はさまざまなトランスレーショナル研究やリバーストランスレーショナル研究を推し進め,治験の仕組み自体にも大きな変革をもたらしてきている。
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