EDITORIAL
食事療法における香辛料
阿部 達夫
1
1東邦大・内科
pp.688
発行日 1967年5月10日
Published Date 1967/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402201784
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香辛料は熱量源としての意義はほとんどなく,単にその香り,色,味などにより食事の風味を増し,また同時に食欲を亢進させる作用がある。したがつて食事療法において,食欲不振時などに香辛料を適当に使用できればたいへんありがたいことになる。ところがワサビやカラシがつんときて涙が出たりするところから,病人食事にはなんとなくあまり好ましくないように考えられ,ことに腎,肝,胃腸疾患などには禁忌とされているようである。かつて私は,はたしてそれほど害になるものかどうか臨床的ならびに実験的に調べてみたことがある。
まず腎疾患であるが,ネフローゼの場合は問題ないとして,腎炎のさいはどうか。結論的にいつて香辛料の使用に対してあまり神経質になる必要はないということである。高血圧患者でも同様で,2週間にわたつて毎日1食はカレーライスにしてみたことがあるが,ほとんど悪影響はなかつた。シロネズミにいたつては,体重100gについて1gという大量のカラシを毎日強制投与1カ月におよび,そこで腎を組織学的に調べたがなんの変化もなかつた。もちろん悪食家のネズミとヒトを同日に論ずるわけにはいかない。またヒトに必要以上の大量を無理に与えるいわれもない。また香辛料が食欲を亢進させ,そのために肥満をまねいたり,口渇のために多飲になるようなことになれば有害である。ただ腎疾患や高血圧のさい食欲不振の対策として,あるいはときどき嗜好として適量の香辛料を用いることはなんらさしつかえはない。
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