小児外科 57巻10号 (2025年10月発行)

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特集　医療安全と事故・紛争対応への実際

医療安全

医療安全体制辰巳　陽一 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1013-1016

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Ⅰ．医療安全体制とは

　安全で質の高い医療を提供するためには，医療機関における組織的な取り組みが不可欠である。これを踏まえ，国の医療安全対策として医療提供組織の体制整備が検討され，“医療法施行規則第1条の11（医療安全管理体制の確保）”^1）において以下の4項目が義務づけられた。

患者（医療）安全学カリキュラム相馬　孝博 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1017-1023

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はじめに―用語の定義など

　広辞苑（第七版）によれば，カリキュラム（curriculum）とは学習者の学習経路を枠付ける教育内容の系列であり，シラバス（syllabus）はその教育内容の実施要項とされているが，後述するように海外文献では両者を厳密に区別していないようである。

小児医療におけるインフォームド・コンセント松村　由美 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1024-1027

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はじめに

　紀元前5世紀のヒポクラテスの時代から20世紀後半までの約2,400年の間，医療は医師中心の倫理観に基づき，医師が最善と判断した方針の下で提供されてきた。患者の自己決定権はほとんど尊重されていなかった。

診療記録記載の課題嶋崎　明美 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1028-1032

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はじめに

　なぜ私達は診療記録を作成しなければならないのか？　記載の目的は，チーム医療の共通媒体として専門的医療行為を支援する，患者と医療者のコミュニケーションの基本媒体となる，医療行為の公式証明を担う，教育・研究・病院経営の基本情報となることである^1）。

患者の声と情報開示城田　千代栄 , 檜　顕成 , 田井中　貴久 , 内田　広夫 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1033-1036

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はじめに

　外来や救急の場面では，患者・家族・医療者が同じ一次情報に，同じタイミングで到達できないことが，患者と医療者の意思疎通や合意形成を鈍らせる原因となる。

医療におけるヒューマンエラー河野　龍太郎 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1037-1044

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はじめに

　病院やクリニックなどの医療システム^注1は，安全を重視する航空や原子力システムと比較すると事故の起こりやすい構造になっている。医療事故が多数発生していることが，それを示していると考えられる^1,2）。そのリスクの高い医療システムのなかでも，小児医療は成人医療とは異なる特徴を有し，その安全確保には特有の困難が存在する。

臨床倫理コンサルテーション竹下　啓 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1045-1049

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Ⅰ．臨床倫理コンサルテーションの定義と歴史的背景

　臨床倫理コンサルテーション（clinical ethics consultation：CEC）とは，患者，家族，代理人，医療提供者，およびその他の関係者が，医療の実践と提供において生じる価値の衝突や不確実性に対処できるように支援する，個人，小規模チーム，または倫理委員会全体が行うサービスである^1）。スタッフに対する倫理教育や院内倫理指針の策定とともに医療機関における臨床倫理支援の中核であり，医療機関に設置された倫理委員会（研究計画の審査を主な目的とする委員会と区別するため，以下，臨床倫理委員会と呼ぶ）の主要な任務である^1,2）。

死亡診断書記載の問題点内ヶ崎　西作 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1050-1055

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はじめに

　多くの医師が一度は死亡診断書を書いたことがあるだろう。死亡者の「死亡の事実」「死因」，そして「死亡日時」を証明するのが死亡診断書で，医師と歯科医師のみが交付できる。その書き方にはお作法があり，そのお作法を逸脱したり，所定の欄に記載されるべき事柄が異なっていたりすると，交付者である医師や所属する医療施設のレベルや質に疑問を持たれる場合がある。家族と何らかの問題を抱えているような場合にいい加減な書き方の死亡診断書が手渡されると，その医師や医療施設への印象はますます悪くなる。ここで今一度，死亡診断書の意義，死亡診断書の書き方のお作法と注意点などについてあらためて確認する。

死亡時画像診断（Ai）の役割山本　正二 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1056-1060

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はじめに

　オートプシー・イメージング（以下，Ai）は，CTまたはMRIを使用して死因を特定するための検査手法である。現在Aiは犯罪見逃しを防ぐため，または医療関連死が疑われる場合に実行されることが多い。しかし，CT装置はすでに日本全国に多数あり，誰でもどこでもAiを実施することが可能である。今後，Aiは，社会的に受け入れられ，将来的にはもっと普及すると思われる。本稿では医療事故調査におけるAiの重要性について解説した。

事故対応

診療関連死の警察への届出小島　崇宏 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1061-1064

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はじめに

　診療関連死の警察への届出は，医師法21条の異状死体の届出義務との関連で，特に1999年の都立広尾病院事件以降，注目されることになり，その後，医療機関から警察への届出件数が急増した。この間，さまざまな議論がなされ，一定の結論が出たところではあるが，いまだに，医療者への周知がされていないところもあり，ここ数年も，医療機関から50件程度の届出が警察になされている（図1）。本稿では，医師法21条に関する争点を，歴史的な背景も踏まえて解説し，医療者が，医師法21条を正しく理解したうえで，診療関連死の警察への届出を適切に行える一助となることを目的とする。

医療事故の判断と調査田畑　雅央 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1065-1069

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はじめに

　医療事故調査制度は2014年6月に成立した医療法の改正に盛り込まれた制度で，2015年10月から施行された。医療事故調査制度は医療法の「第3章　医療の安全の確保」に位置づけられている。医療法第6条の10で「病院，診療所又は助産所（以下，この章においては「病院等」という）の管理者は，医療事故（当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し，又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて，当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものをいう。以下，この章において同じ）が発生した場合には，厚生労働省令で定めるところにより，遅滞なく，当該医療事故の日時，場所及び状況その他厚生労働省令で定める事項を第6条の15第1項の医療事故調査・支援センターに報告しなければならない」と定められており，また第6条の11で「病院等の管理者は，医療事故が発生した場合には，厚生労働省令で定めるところにより，速やかにその原因を明らかにするために必要な調査（以下，この章において「医療事故調査」という）を行わなければならない」と規定されている。本制度は，医療の安全と再発防止を目的とし，医療機関が自主的に原因を調査・究明することを基本としている。その根幹は，個々の医療従事者の責任追及ではなく，得られた知見を基に再発防止策を講じる点にある。医療現場において予期せぬ死亡・死産事例に直面した際，医療機関の管理者は，本制度に基づき，それが「医療事故」に該当するか否かを判断し，該当する場合には速やかに医療事故・調査支援センター（以下センター）に届けて院内調査を行うことが医療法で求められている。

エラー分析（事故の原因・ファクターの分析）石川　雅彦 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1070-1073

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はじめに

　インシデント・アクシデント事例の分析には複数の方法があるが，本稿では米国退役軍人省の患者安全センターにて開発された根本原因分析法（root cause analysis：RCA）による事例分析について記載する

紛争対応

カスタマーハラスメントと診療拒否福田　梨沙 , 墨岡　亮 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1074-1080

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はじめに

　2025年4月，東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が施行されたことで，カスタマーハラスメント（以下略：カスハラ）が初めて明文で禁止され話題となった。2025年9月1日現在，東京都のほかにも，都道府県レベルではすでに北海道および群馬県においても同様の条例が施行されているが，今後これに続く自治体も多いと予想される。

過失による医療事故と損害賠償責任丸山　英二 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1081-1084

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はじめに

　本稿では，過失のある医療行為によって患者に健康被害が発生した場合に医療従事者や医療機関（正確には，診療所や病院を設置・経営する者）が問われる民事責任（損害賠償責任）について解説する。

医療事故における責任中野　雅文 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1085-1089

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はじめに

　医療に関わる場所で，医療の過程において発生する人身事故のうち，医療従事者に何らかの過失があるという場合（以下，このような場合を「医療事故」と定義する^注1），法的には，民事的な責任，刑事的な責任および行政的な責任が発生することが考えられる。

証拠保全と訴訟手続き田邉　昇 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1090-1096

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はじめに

　医師，特に人体への直接侵襲行為を生業とする外科医にとって，その医学的成否や患児や家族の満足度はもちろん，不成功・不満足に終わった場合の責任追及は，各医師の診療スタンスや医療機関，ひいては医療制度や医学の在り方にも影響を及ぼす大きな問題である。

医療事故紛争の防止大磯　義一郎 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1097-1100

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Ⅰ．紛争化の要因

　広く知られていることであるが，適切な医療が行われたか否かと，紛争化とは相関関係がない。1980年代に行われたHarvard Medical Practice Study（HMPS）において，ニューヨーク州の51病院の入院患者約3万人の診療録を検討したところ，医療過誤と判断された280例のうち，実際に医療訴訟に至った事例はわずか8例（2.9％）のみであった。また，上記3万件中，医療訴訟となった47例中39例（83％）で過誤が認められなかったと報告されている^1）。

社会対応

社会への情報公開／記者会見入田　和男 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1101-1104

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はじめに

　各医療機関の医療安全研修で繰り返し強調されている項目の一つは，事故対応三原則「隠さない，逃げない，ごまかさない」であろう。「隠したい，逃げたい，ごまかしたい」と直感的に考えてしまいがちな人の特性を考慮し，現場職員にインシデントならびに事故の報告を励行してもらうことは，医療安全の出発点といえる。しかし，事故対応三原則を理解し，実践すべきは組織のトップであり，情報公開あるいは謝罪会見に対するトップの姿勢にこそ，組織のガバナンス，つまり組織の品質が表れる。

報道関係から見た情報開示前村　聡 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1105-1108

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はじめに

　「医療ミスが起きたとき，なぜ自ら公表しなければならないのか」。私が長年担当させていただいている医療事故・紛争対応研究会の人材養成講座の最終時限で「記者の立場から見た情報開示」というテーマで医療事故の情報開示の大切さを伝える講義をすると，受講している医療安全担当者からこのように質問されることがある。もちろん「自ら公表しなければならない」という法律などのルールはない。それでも私は「自ら公表したほうがよい」と伝えている。それは，①社会的な信頼を獲得できる，②組織内に安全で公正な文化（Just Culture）を醸成して次なるミスを防ぐ―ためである。

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目次 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1010-1011

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バックナンバー 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1109-1109

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投稿規定 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1110-1111

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あとがき・次号予告 57巻10号 , 2025年10月 , pp.1112-1112

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基本情報

小児外科
57巻10号
(2025年10月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0385-6313 東京医学社

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