皮膚病診療 42巻5号 (2020年5月)

特集 これだけは知っておきたい間葉系腫瘍

Editor's eye 向井 秀樹
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 間葉系腫瘍は,発生の初期に内・外胚葉の間に落ち込んだ細胞からなる組織であり,支持組織(結合組織,脂肪組織,軟骨・骨,血液やリンパ)や筋組織が分化した腫瘍である.同じ範疇の軟部腫瘍は,間葉系の軟骨・骨,血液やリンパを除き,末梢神経を加えたものをいう.間葉系腫瘍の大部分は良性腫瘍であるが,今回の特集号には皮膚線維腫が多発している例に膠原病を併発,多発性の平滑筋腫例には遺伝性で腎細胞癌を併発することがあり興味深い.

 間葉系悪性腫瘍はH-E染色だけでは診断がつかず,数々の免疫組織所見を総括して診断することが多い.以前は,電子顕微鏡像が掲載されていたが,免疫組織の染色法の台頭により姿をみなくなった.Topicsである“Merkel細胞癌”は高齢者の露出部に好発するが,多彩な臨床像を呈し良性と誤診されることもある.最近,新種のポリオーマウイルスが本症の8割に検出され発癌との関連性が明らかになった.それ以来,本腫瘍の研究は飛躍的に発展しており,治療法を含めて解説がわかりやすい.皮膚血管肉腫は高齢者の頭頸部に好発し予後は極めて悪い.先人の苦労により治療法が確立され延命効果は上がったが,今後免疫チェックポイント阻害薬などが開発・研究され画期的な治療法ができることを願っている.臨床像をみながら疾患の解説を読んでいくと,間葉系腫瘍も意外におもしろい.是非とも明日からの診療に役立てていただきたい.

Topics

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 Merkel細胞癌は1972年にTokerが“trabecular carcinoma of the skin”として最初に報告したまれな皮膚原発悪性腫瘍である1).Merkel細胞との類似性からその名称が使われるようになったが,組織発生や発癌メカニズムは不明な点が多く,臨床像,病理組織学的所見,臨床経過も多様性に富み謎の多い腫瘍であった.

 2008年に新種のポリオーマウイルスであるMerkel cell polyomavirus(MCPyV)がMerkel細胞癌の約8割で検出されることが報告され2),発癌との関連が明らかとなってきた.MCPyVの発見以来,本腫瘍の研究は飛躍的に発展し,臨床面でも近年大きな進歩があった.以前は根治切除不能なMerkel細胞癌に対して予後を改善する化学療法がなく,本邦で保険適用のある薬剤もなかったが,2017年に抗PD-L1抗体であるアベルマブが本邦でも保険適用薬として承認された.従来の化学療法と比べ長期的な予後改善効果が期待されている.また,2018年にはMerkel細胞癌に対するセンチネルリンパ節生検が保険収載された.

(「はじめに」より)

総説

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 間葉系腫瘍は,筋肉,血管など支持組織または結合組織と呼ばれる間葉系組織から発生する腫瘍で,ヒトの癌全体の1%程度を占める.近年の細胞生物学や分子生物学的技法の進歩により,多くの疾患の分子基盤が明らかにされつつある.肉腫を含む間葉系腫瘍についても例外ではなく,症例の集積とともに詳細な解析が進んでいる.とくに,軟部肉腫には上皮性腫瘍にはみられない種々の染色体異常が知られていたが,現在までに,ほぼすべての特異的染色体転座による遺伝子異常,すなわちキメラ遺伝子の単離が行われた.この結果,いくつかの骨軟部腫瘍の分類がよりわかりやすく,また論理的に整理された.

 さて,間葉系腫瘍は,非常に多様な腫瘍を含むものである.その中でも本稿においては,とくに皮膚科領域で高頻度にみられる間葉系腫瘍のうち特異的な遺伝子異常を有する疾患に関して述べたい.

(「はじめに」より)

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 ひらがなの「がん」とは,われわれがよく耳にするいわゆる胃がん,肺がんなどの上皮系悪性腫瘍である「癌:carcinoma」,骨肉腫などの間葉系悪性腫瘍である「肉腫:sarcoma」,および白血病やリンパ腫などの血液系悪性腫瘍の総称であり,全国に16カ所ある「がんセンター」はそのいずれも扱うため「癌センター」ではなく「がん」という用語を使用している.しかし,それらは等しく発生するものではなく,圧倒的に「がん」が多い.アメリカのデータによると,2010~2014年までに集計された悪性腫瘍の中で肉腫全体の発生数は,上皮系から発生する癌の1%にすぎない.血管肉腫は脈管内皮細胞由来の非常にまれな肉腫で,その頻度は肉腫全体の数%程度とされているが1),わが国における正確な罹患率のデータはない.

 血管肉腫は大学病院クラスでも年間数例といった悪性腫瘍であるため,これまでの報告はそのほとんどが症例報告か少数の症例集積研究である.したがって,胃がん,肺がんといったメジャーながんと比較して,多くの症例が必要な第III相ランダム化比較試験といったエビデンスレベルが高い研究がほとんどない.そのため,実際に患者を目の前にしたときどのように考えて治療を組み立てていけばよいのか,自信をもって提示することができない点が問題であり,現状では施設による治療選択のばらつきが大きい.本稿では,血管肉腫について(皮膚科領域なので皮膚血管肉腫を中心に)治療の現状と新しい治療の展望について解説したい.

(『1 背景情報』の「1.1 はじめに」より)

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・単発の皮膚線維腫は日常診療でしばしば遭遇するが,まれに多発することもある.

・多発性皮膚線維腫(multiple dermatofibromas:MDF)は自己免疫疾患などの基礎疾患のある患者に発症することが多い.

・基礎疾患として全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)とSjögren症候群を合併した症例はまれである.

(「症例のポイント」より)

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・小児の第II趾背側に生じた石灰化腱膜線維腫を経験した.

・病理組織学的所見では,紡錘形の線維芽細胞様細胞が束状に増殖する部分と石灰化部分がみられた.

・石灰化腱膜線維腫は,局所再発が多い腫瘍とされており,注意深い経過観察が必要である.

(「症例のポイント」より)

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・爪甲下に生じた皮膚骨腫を経験した.

・病理組織学的に肉芽組織反応を認めたことから,続発性皮膚骨腫と診断した.

・肉芽組織反応/化膿性肉芽腫から続発する皮膚骨腫は非常にまれである.

(「症例のポイント」より)

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・隆起性皮膚線維肉腫(dermatofibrosarcoma protuberans : DFSP)は硬結として初発し,結節を形成する例が多い.

・今回,われわれはこうした典型的な症状に加えて,病変内に萎縮,陥凹が認められた例を経験した.

・臨床的に萎縮がみられた部位では,病理組織学的に真皮の菲薄化が認められた.

・萎縮性病変を伴うDFSPの本邦報告例を検討した結果,比較的若年層の体幹に好発する傾向がみられた.

・真皮の菲薄化がみられた部位では腫瘍細胞が皮下脂肪組織から筋膜直上まで浸潤していた.こうした腫瘍細胞の下方への浸潤によって真皮が菲薄化し,萎縮性病変や陥凹が形成されると考えた.

(「症例のポイント」より)

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・高齢者の顔面および大腿部に生じたatypical fibroxanthoma(AFX)を経験した.

・AFXはとくにundifferentiated pleomorphic sarcoma (UPS) of the skinとの鑑別がむずかしく,CD74を含めさまざまなマーカーが報告されているが,一定の見解がない.両者の鑑別は,臨床像,病理組織学的・免疫組織学的所見を踏まえ,総合的に判断する必要があると思われた.

(「症例のポイント」より)

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・高齢者の未分化多形肉腫を経験した.

・エリブリンによる化学療法で肺とリンパ節の転移に対して部分奏効を得た.

・エリブリンを減量投与することで化学療法による重篤な有害事象を回避でき,患者のQOLを維持できた.

(「症例のポイント」より)

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・術後1年で肺転移をきたした隆起性皮膚線維肉腫(dermatofibrosarcoma protuberans:DFSP)を経験した.

・病理組織学的に線維肉腫様の変化を認め,fibrosarcomatous variant of DFSP(FS-DFSP)と診断した.

・DFSPは肥厚性瘢痕やケロイドと判断されて確定診断が遅れることがあり注意が必要である.

(「症例のポイント」より)

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・遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(hereditary leiomyomatosis and renal cell cancer:HLRCC)は,多発皮膚平滑筋腫や腎細胞癌,女性においては子宮平滑筋腫によって特徴づけられるまれな常染色体優性遺伝疾患である.

・両側腎細胞癌の手術歴と18年前の左肩の皮膚結節が平滑筋腫であったことからHLRCCと診断した.

・フマル酸ヒドラターゼ(fumarate hydratase:FH)遺伝子を検索した結果,新規の変異(c. 431G>C, p. G144A)を認めた.

・HLRCCの予後は腎細胞癌で規定されるため,積極的な腫瘍検索と,血縁者への遺伝子検索が勧められる.

(「症例のポイント」より)

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・左右上肢に異時多発した脂肪肉腫の1例を経験した.

・経過・部位・組織型の違いなどから再発ではなく多中心性発生と考えた.

・10年以上の経過を経て多発する症例は非常にまれである.

(「症例のポイント」より)

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・イミキモドクリーム外用が著効した古典型Kaposi肉腫を経験した.

・古典型Kaposi肉腫では,腫瘍の分布や内臓病変の有無,重症度などから個々の症例に最適な治療法を検討する必要がある.

・イミキモドクリームは古典型Kaposi肉腫の治療法として忍容性の高い局所療法の1つであると考えられる.

(「症例のポイント」より)

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・寛解時に点滴刺入部位より再発した節外性NK/T細胞リンパ腫を経験した.

・点滴刺入部位より再発した症例は調べうるかぎり報告はなく,まれな1例であると考えた.

・NK/T細胞リンパ腫の患者において,静脈炎を契機に,蚊刺過敏症と類似の機序で腫瘍性NK細胞が再活性化した可能性を考えた.

・NK/T細胞リンパ腫は,外的刺激により局所再発する可能性があり注意が必要である.

(「症例のポイント」より)

Editorial

最近の病名 山本 俊幸

日常診療に役立つ豆知識

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 爪囲紅斑や爪上皮延長,そして凍瘡など,膠原病を見出すサインとして皮膚症状は重要である.一方,皮膚科で膠原病患者の診察を長らく行っていると,抗核抗体が陰性であっても,初期の膠原病は否定できないことも痛感する.そこで,本稿では,筆者が日常診療において膠原病を疑う臨床検査所見,膠原病を疑った場合に行う臨床検査について述べたいと思う.

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・下腹部に生じた皮膚原発粘液癌の1例を経験した.

・汗腺由来の腫瘍だが,臨床的には間葉系腫瘍とも鑑別を要した.

・皮膚原発粘液癌はslow growingな腫瘍である.

・転移症例では放射線治療や化学療法に対して治療抵抗性であるため治療方針の確立が待たれる.

(「症例のポイント」より)

リレーエッセイ 私のワークライフバランス

譲れない前提 藤山 幹子

皮心伝心

いつわりの仮面 川端 康浩

診察室の四季

新緑 斉藤 隆三

皮膚科のトリビア

第179回 浅井 俊弥

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目次

次号予告

基本情報

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皮膚病診療
42巻5号 (2020年5月)
電子版ISSN:2434-0340 印刷版ISSN:0387-7531 協和企画

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