臨牀透析 36巻2号 (2020年2月)

特集 透析液・透析関連排水の諸問題

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日本透析医学会透析液水質基準は2008 年に作成され,それ以後各施設の透析液清浄度は格段に改善された.しかし,これには生物学的汚染物質(ET,生菌)のみを示しており,化学的汚染物質に関しては示されていなかった.この化学的汚染物質管理の基本は原水,ならびに透析用水作製装置に依存している.「2016年度版 透析液水質基準」では化学的汚染基準ならびに透析用水作製装置に関する管理基準を加えた改訂が行われた.これにより透析用水より末端透析液までの清浄化が達成されることが期待される.

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透析用水作製装置は,濾過,イオン交換,吸着,膜分離,殺菌などを原理とした多くの機器類から構成され,原水中の生物学的汚染物質や化学的汚染物質を除去することを目的とする.清浄な透析用水を安定的に供給するためには原水水質と透析用水作製装置が適正に管理されることが重要である.原水水質は水道法に則って管理しなければならない.また,透析用水作製装置は化学的汚染物質の除去に重要な役割を果たす.透析用水作製装置を構成する機器のうち,化学的汚染物質の除去に深く関与する機器は活性炭濾過装置とRO ユニットである.

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2004 年に米国より生物学的汚染基準に生菌数を用いることをISO の新規案件とする提案がなされISO 23500 が2011 年に成立した.その間,日本透析医学会(JSDT)は2008 年にISO 基準に対応した改訂を行った.日本臨床工学技士会(JACE)は生菌数管理について現状調査を行い,透析液清浄化ガイドラインを2006 年に提案した.しかし水質基準をISO,JSDT およびJACE と三つの団体が示すことになり,臨床現場で目標が統一されていなかった.その後JSDT より改訂された化学的汚染物質の基準を加えた「2016年版 透析液水質基準」を機にJACE は「2016年版 透析液水質基準達成のための手順書Ver 1.01」に改訂を行った.本稿ではその経緯と管理の実際について述べる.

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日本透析医学会の「2016年版 透析液水質基準」では,それまでの生物学的汚染基準に加えて化学的汚染基準が追加された.それに伴い,2017 年の日本透析医学会統計調査から,化学的汚染対策の調査項目が追加された.生物学的汚染基準については,超純粋透析液の達成率は72.4 %,標準透析液の達成率は96.3 %であった.2017 年の統計調査結果からみた「2016年版 透析液水質基準」の達成度は,水質と汚染測定頻度などを考慮すると,達成度は80 %程度かと思われた.一方化学的汚染基準の認知度は80 %程度と低くはないが,化学的汚染物質の測定,残留塩素濃度の測定未実施施設の存在などを考慮すると,50 %程度の達成度であり,生物学的汚染対策に比べると軽んじられてきた感がある.今後,化学的汚染に対する認識と対策を普及させるためには,統計調査を継続し,なんらかの診療報酬上の施策の付加が望まれる.

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水道水には消毒のために塩素が添加されている.透析用水の化学物質基準は国際標準化機構(ISO)により22 項目が規定され,結合残留塩素と遊離残留塩素を合わせた総残留塩素は基準項目の一つであり,その基準は0.1mg/L 未満と定められている.また結合残留塩素は透析患者の貧血を惹起するため,透析用水から除去しなければならない.透析用水は水処理装置の活性炭で処理され,総残留塩素の基準を満たしていることをN,N―diethyl―p―phenylenediamine(DPD)試薬で確認する必要がある.

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現在,透析液濃度は,イオン選択性電極(ISE)が内蔵されている電解質分析装置やISE 付き血液ガス分析装置を用いて測定されるようになっている.しかし,ISE は,イオン選択性膜と電解質の種類にかかわらず発生する電極間電位を組み合わせてイオン濃度を測定するものであるため,共存イオンの影響を受ける.そのため,透析液濃度を測定しても,装置によって表示される値が異なっていた.どのメーカーの装置を使っても同じ値が測定されるためには,標準化が必要であった.そこで,透析液と組成がほぼ等しい透析液用の校正用標準液(常用参照標準物質)を検査医学標準物質機構に作製いただき,また,その値の決定方法を日本臨床化学会にて規定していただいた.関係メーカーの協力のもと,それを校正基準とすることで,校正後の測定値の精確さや測定装置間の測定値の互換性が確保できることを確認し,認証制度を確立することで標準化を行った.

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イオン選択性電極を用いた電解質測定装置を透析液濃度の確認や透析液作製装置の調整に用いる場合,確認・調整に用いる基準イオンを最初に決定するべきである.このときどのような透析液作製装置を使用しているかによってサンプリング液の安定性などが変わる可能性があるので,あわせてこの検証が重要である.当院においては詳細な検証により,結果的に基準イオンはナトリウム・カリウムとなったが,施設によって使用している透析液作製装置や透析液濃度確認のための検査機器は異なるので,基準イオンの決定には各施設での詳細な検討が必要である.

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これまでイオン選択性電極法を原理とした透析液成分の濃度測定では,測定値の信頼性を保証することができず,精確性を示す物差しが存在しなかった.2017 年より透析液成分濃度の測定に用いる分析装置を対象にした認証システムが稼働し,精確な測定値を得ることが可能になった.一方,認証された透析液成分濃度測定装置で得られた値と認証前の値が大きく異なる場合は,透析液の濃度調整が必要となる.透析液濃度の調整においては,きわめて慎重に行う必要がある.とくに急激な濃度変更を避ける,患者の症状を詳細に観察する,変更に関する確実な情報共有を行う,などに留意しなければならない.

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平成29 年度に23 区内で発生した下水道施設の損傷事故は,透析医療機関から排出された酸性排水によりコンクリートが腐食したことが原因であった.23 区内の透析医療機関について実態調査を行ったところ,96 カ所の透析医療機関において下水道施設のコンクリートが損傷していること,複数の透析医療機関の排水がpH に関する下水排除基準を超過していることが確認された.現在,東京都下水道局では透析医療機関に対して,排水の中和処理装置を設置するなどの指導を進めている.

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2018 年春,東京都下水道局より日本透析医学会,日本透析医会,日本臨床工学技士会の3 団体に対して「酸性排水の影響による下水道の損傷事例」の指摘がなされた.3 団体はこの指摘を緊急かつ重大事案として受け止め,透析排水管理ワーキンググループ(WG)を立ち上げ,対応策の検討等を開始した.東京都下水道局から3 団体に対し「透析システムからの排水調査」の依頼があり,現状を把握するため都内441 透析施設に対し調査を実施した.その結果,323 施設から回答があり,透析排水を未処理との回答が200 施設(63.5 %)あることが判明した.結果の概要は,下水道局より東京都医師会,関連省庁(厚生労働省,国土交通省)に報告がなされ,現在WG を中心に本調査結果を踏まえ対応策の検討,全国の透析医療機関への啓蒙活動を実施している.

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透析施設からの排水を適正に処理しないと下水道事業に支障をきたすおそれがある.一方,中和処理等の対策を講じている透析施設は限定的である.ここでは透析関連排水の適正管理の基本的な考え方について論じる.管理の主体となるのは,以下の3 点である.① 中和処理システムの設置:下水道法および条例で規定されている水素イオン濃度(例:東京都23 区の規制ではpH:5 を超え9 未満)と温度(温度45 ℃未満)を満足させる必要がある.② 適正な消毒剤・洗浄剤の使用,③ 適正な排水管理:排水が基準を満たしているか,日常的な排水モニタリング(pH 測定等)を通じて適正に管理する必要がある.

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「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」(透析会誌 2014;47:269―285)が発表されて,ほぼ6 年が経過する.本提言では,① 治療方針の決定は医療チームと患者が協同する共同意思決定(shared decisionmaking;SDM)で行い,十分な情報開示の下に患者が的確な自己決定を得られるよう支援する,② 患者が自己決定した治療方針は最大限尊重される,③ 維持血液透析開始前に透析同意書を取得する,④ 維持血液透析の見合わせ(※一時的に透析を実施せず,病状の変化によっては開始,または再開する意味)について検討する状況,⑤ 維持血液透析見合わせ後のケア計画の策定と緩和ケアを提供,などが記載されており,これまで概ね肯定的な評価を受けてきた.

OPINION

オーバーナイト透析 中野 敏昭
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透析効率の指標であるKt/V などは透析量を決定する指標として有用であることが知られるが,透析時間に関しては,長い時間をかけて透析を行うほうが体重管理や血圧管理に優れ,尿毒素も十分に除去できる.われわれの施設では5 時間の血液透析を行うことを基本としている.短い時間で透析が終了すれば患者は楽と思うかもしれないが,5時間の血液透析を行うほうが体調は良くなることを患者に説明し教育している.それ以上長い血液透析を施すのは,患者にとって拘束時間も長く負担になるため,長時間透析を行うためには,患者の生命予後を改善したいと願う熱意のある透析従事者の存在によってはじめて可能になる.

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症 例:51 歳,女性 主 訴:労作時呼吸困難 既往歴:27 歳・34 歳時に妊娠高血圧症,高血圧 内服薬:オルメサルタンメドキソミル(20 mg)1T 1X,ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(5 g)2T 2X,セベラマー塩酸塩(250 mg)12T 3X,炭酸カルシウム(500 mg)3T 3X,シナカルセト塩酸塩(25 mg)2T 1X 生活歴:喫煙(-),飲酒(-) 現病歴:原疾患不明の末期腎不全のため48 歳時より血液透析導入となり,以後当院外来透析へ通院中であった.X 年に入り体重の著明な増加はないにもかかわらず,徐々に心胸郭比(CTR)の拡大を認め,労作時呼吸困難を認めるようになった.

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粟粒結核は結核菌が血行性に全身に播種され,多臓器に結核病変が形成される疾患であり,結核のなかでももっとも重症な病態である.透析患者における結核の発生率は非透析患者に比べて高く,とくに細胞性免疫能の低下により肺外結核や粟粒結核の頻度が高く重症化しやすい.今回,特徴的な画像所見から診断に至り,重症化する前に加療しえた粟粒結核の1 例を経験したので報告する.

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目次

次号予告・頻出略語一覧

編集後記

基本情報

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臨牀透析
36巻2号 (2020年2月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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