BRAIN and NERVE 73巻8号 (2021年8月)

特集 脳腸相関—脳-身体の双方向性制御

  • 文献概要を表示

神経系の状態が腸へ影響を及ぼし,また逆に腸の状態も脳に影響を及ぼす双方向の現象があることは古くから知られ,昨今「脳-腸相関」(brain-gut interaction)と呼ばれ注目を浴びている。また腸を含む多臓器間ネットワークと脳との相互の関係も内臓と神経系の相互調節系として捉え直され,従来の臓器別の疾患理解が大きく変化しつつある。実際に脳と腸は単に自律神経系だけでなく,ホルモン,サイトカインなどの液性因子を介して密に関連していることが知られており,消化機能だけでなく,内分泌機能,免疫機能にも関わっている。また,腸管の腸内細菌が脳-腸相関に多大な影響を与えることが明らかになり,脳-腸相関は精神神経疾患の新たな治療ターゲットとなる可能性がある。本特集では,この脳-腸相関の生理的機能を概説し,現在解明されている精神神経疾患との関わりについて解説していただく。

  • 文献概要を表示

自律神経には末梢臓器機能を制御する遠心性線維のみならず,末梢臓器から中枢神経に向かう求心性線維も含まれる。これら双方向性の神経線維に加え,求心性線維によって末梢臓器から中枢神経に伝達された代謝情報を基に,遠心性線維を介して末梢臓器の代謝状態を制御する,自律神経を介した臓器間ネットワークシステムが個体レベルでの恒常性維持に関わっていることが明らかになってきた。

  • 文献概要を表示

消化器症状を有するものの器質的疾患を認めない機能性消化管障害が,腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)を介して,脳への影響を与えている腸内細菌-腸-脳軸の機序が注目されている。本論では,腸内細菌の観点から機能性消化管障害の病態について整理し,プロバイオティクスや糞便微生物移植法などのディスバイオシスを復する目的で腸内細菌叢へ介入する臨床研究と今後の展望について考察する。

  • 文献概要を表示

パーキンソン病(PD)・レヴィ小体型認知症(DLB)と脳腸相関について述べた。中枢神経系と消化管との関連について,器質的神経疾患での報告はまだ少なく,今後の研究が期待される。PD・DLBでは,運動症状などをほとんど伴わず,便秘が初発症状となる形(レヴィ小体型便秘)も最近知られるようになった。これらの患者が,消化器科救急として偽性腸閉塞/麻痺性イレウスをきたす場合もある。その機序として,腸管壁内(アウエルバッハ)神経叢の変性・レヴィ小体出現を反映しているものと思われ,一部,大脳黒質・青斑核の病変も関与していると考えられる。早期診断・介入の立場から,脳神経内科と消化器内科の協力が今後ますます重要になるものと思われる。

  • 文献概要を表示

腸内フローラはストレス応答や腸のバリア機能において重要な役割を果たし,これらは脳-腸相関を通じて精神疾患の病態に密接に関与する。気分障害や自閉スペクトラム症のデータも蓄積され,短鎖脂肪酸を産生する菌や代謝関連の菌との関連が指摘されている。プロバイオティクスの有用性を示唆する臨床試験も報告されてきており,精神疾患の病態解明や治療法開発において腸内フローラ研究は今後ますます発展することが期待される。

  • 文献概要を表示

細胞から放出されるエクソソームは多様な細胞情報を遠隔臓器に伝えることができる。近年脳の監視網である血液脳関門をエクソソームが通り抜けることが報告され,がんの脳転移や精神神経疾患との関わりが注目を集めている。また,腸内細菌が放出しているエクソソーム(BEVs)も神経変性疾患への影響がある可能性が示唆された。本論ではBEVsを含む,エクソソームと精神神経疾患との関係性を最新の知見を含めて議論する。

ストレスと脳腸相関 須藤 信行
  • 文献概要を表示

近年,腸内細菌が腸脳相関に関与する新たな因子として注目されており,腸内細菌,腸,脳という三者の関係は「腸内細菌-腸-脳軸」と呼ばれている。本論では,腸内細菌とストレス応答に関する双方向的な関連についてこれまでの研究成果を基に概説した。

  • 文献概要を表示

多発性硬化症の腸内細菌叢研究は,過去10年間で発展し,16S rRNA解析による菌叢組成研究にとどまることなく,全メタゲノム解析や代謝物解析を導入して,菌叢構成遺伝子機能の変調を探索する研究が展開されている。このようなアプローチにより,以前の研究で示唆された短鎖脂肪酸(SCFA)産生細菌の減少を裏付ける,酪酸代謝やプロピオン酸代謝,糞便中SCFAの低下が確認されている。腸内細菌叢変調の原因としては,食生活の欧米化に着目してきたが,今後は感染因子の関与する可能性を検証するためにファージやプラスミドを含むvirome解析が重要になると思われる。

総説

難聴と認知機能 佐治 直樹
  • 文献概要を表示

難聴は認知症の関連因子であるが,補聴器導入による認知症リスク軽減については未解明である。筆者らの研究データでは,地域在住高齢者に難聴があると認知機能低下の合併が1.6倍多かった。また,本邦の補聴器使用率は海外よりも低かった。補聴器装用と認知機能に関する臨床研究も現在実施中である。高齢者は聞こえにくさを自覚していない場合もあり,潜在的な難聴の存在に耳鼻咽喉科医師も内科系医師も留意するべきである。

  • 文献概要を表示

中枢神経系の免疫環境は,血液脳関門(BBB)により完全に体循環系と隔たれているとされていた。しかし近年,全身の免疫状態が中枢神経系にもたらす影響について知見が深まり,さらに新型感染症の拡大を皮切りに,BBBを介した体循環系-中枢神経系相互作用に注目が集まっている。新たな潮流への理解を深めるため,本論では中枢神経系の免疫細胞によるBBBの制御や体循環系免疫との相互作用について概説する。

  • 文献概要を表示

While the term ‘association areas’ is well established among those engaged in neurology and its related sciences, it is difficult to say precisely what it means. This review tries to better define it, and begins with a brief discussion of its history, how it came about and finally gained wide acceptance. I introduce the work of Theodor Meynert (1833-1892), and Paul Flechsig (1847-1929), both of whom played important roles in brain mapping. Furthermore, I review how the term is linked to the work of Joseph Jules Dejerine (1849-1917) on white matter, and to disconnection syndrome as proposed by Norman Geschwind (1926-1984). Lastly, I focus on brain maps, historically essential to the study of association areas, and discuss the numbering of brain areas.

  • 文献概要を表示

もの忘れと歩行障害を主訴として来院し,神経学的に緩徐進行性の認知機能障害と両下肢の痙縮を呈した47歳女性を経験した。頭部MRIのT2強調画像では大脳深部白質にびまん性に高信号を,造影T1強調画像では側脳室から放射状に伸びる多発線状造影効果を認めた。脊髄MRIでは,脊髄の腫脹とC7椎体レベルからTh12椎体レベルにわたる長大病変を認めた。頭部造影MRIの特徴的な画像から原発性中枢神経系血管炎(PCNSV)を疑い,脳生検を施行し,肉芽腫性PCNSVと診断した。脊髄の長大病変をきたす疾患として,PCNSVを鑑別診断に挙げる必要がある。

  • 文献概要を表示

Ⅰ.症例提示

〈症例〉 87歳,右利きの男性,大学卒。

 主訴 忘れっぽい。

 現病歴 X年9月頃よりクレジットカードや鍵を紛失する,同じことを何度も聞くなどの症状が出現したため,X年12月,当科を受診。

現代神経科学の源流・13

  • 文献概要を表示

神経科学と言語学の接点

酒井 今回は,チョムスキーの代表的な著作である『統辞構造論』の日本語訳(岩波文庫,2014年)をされた言語学者の福井直樹先生をお迎えして,現代言語学の源流から最新の動向まで,チョムスキーの人となりを含めてお話をうかがいたいと思います。

 まず,神経科学でなぜ言語学を取り上げるのか,というところを説明しておきましょう。言語学はいわゆる「文系」の学問であるというイメージが根強いわけですが,言語や心は脳の高次機能ですので,最終的には脳科学で説明できる現象であると私は考えています。その意味で,言語学を自然科学の一分野として捉える必要がありますし,例えば失語症の理解にも言語学の知識と分析が必須です。

連載 臨床神経学プロムナード—60余年を顧みて・6

  • 文献概要を表示

(1)Kojewnikoff(1883)の初報とCharcot・Marie(1885)の追証

 意外にも,錐体路が大脳の内包を通ることを初めて指摘したのはロシアのKojewnikoff(1883)1)で,しかも,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の剖検例によるものであった。CharcotがALSの病理所見を初めて明らかにしたのはSalpêtrière病院における金曜講義であったが,この講義録集は1877〜1888年に編纂出版されたので(本シリーズ第4回参照),ALSの講義が何年になされたか判然としない。しかし,Kojewnikoffは自己の症例が「Charcot教授がALSと称した疾患であると確信している」と述べていることから,CharcotのALSの講義は1883年より前と推定される。その講義で,Charcotは「ALSでの錐体路変性は脊髄から延髄,橋まで追えるが(中脳については明言せず),内包は侵されないのが常である」と述べている(本シリーズ第3回参照)。このような背景から,Kojewnikoffは論文の表題を「錐体路変性が大脳を貫通したALS症例」と題し,「変性は内包の3/4番目にあり,大脳ではRolando溝に面する中心前回にある」と述べている。〔筆者註:内包は,解剖学的に,レンズ核を内側から包むを意味し,従って,内包の前方部(前脚)はレンズ核と尾状核との間にあり,後方部はレンズ核と視床との間を指す。それより後方は(内包ではなく)聴放線や視放線が走行する領域である。しかし,内包とこれら放線はいずれも線維集団であるので,その境は肉眼的にも,顕微鏡的にも捉え難い。そのため,この後方部も内包と誤解されることがある。CT,MRIを観察する際に留意する。視床,レンズ核の両後端を結ぶ線を目安にする。〕

 Kojewnikoffの報告の2年後,Charcot・Marie(1885)2)は,Kojewnikoffの論文に触れつつ,新たに2例のALS剖検脳で内包の病変(変性顆粒)を視床とレンズ核との間に認め,更に「大脳皮質で大型錐体細胞(Betz巨大細胞のこと)が全く,或いは殆んど消失している」と述べている。

  • 文献概要を表示

 本DVDを視聴して,摂食嚥下障害治療の第一人者であるそれぞれの編者の話を,本人の目の前で聞いているような感覚を持った。全編が実践的動画を含む講義形式でコンパクトにまとめられており,日常の摂食嚥下障害で直面する疾患・症候についての基本的事項から,治療・リハビリテーション・対処法まで,内容がストーリー性を持ってまとめられている。摂食嚥下障害は原因疾患や障害部位によってパターンが異なり,その対応については病態のメカニズムや個人の摂食嚥下障害の特徴の理解が重要となってくる。本DVDでは疾患の病態から嚥下障害のメカニズムについて特にわかりやすく図表を使って解説されており,その鑑別のヒントや臨床上のtipsも多く示されている。

 本DVDの内容は,摂食嚥下障害の頻度として最も高い脳血管障害については球麻痺と偽性球麻痺に分けて詳説されており,またパーキンソン病をはじめとする神経難病やサルコペニアについての最新の内容も盛り込まれている。さらに, 小児疾患による嚥下障害, 頭頸部手術後の嚥下障害など,普段はあまり指導されることのない(日常臨床ではしばしば経験されるが,その内容を指導してくれるエキスパートがいない)分野もカバーしている。

  • 文献概要を表示

 Palliative emergency medicine(救急緩和)というのは,世界でも比較的新しいトピックで,北米の救急医学にはフェローシップコースもできている。救命・集中治療と緩和ケアなんて,スポコン漫画と恋愛小説ぐらいベクトルの違うもののように見えるが,どっちも必要なんだ。生きとし生けるものはすべてに始まりと終わりがあり,人間の死亡率はなんと100%! 一世を風靡した『鬼滅の刃』の炎柱,煉獄杏寿郎も「老いることも死ぬことも人間というはかない生き物の美しさだ」と言っているではないか。患者さんの人生において,その人自身の価値観を尊重し,その人らしい人生を送る「生き方(死に方ではないよ)」をお手伝いすることもわれわれ医療者の大事な仕事であり,救急・集中治療も緩和ケアも目の前の患者さんにとっては非常に重要だ。患者さんの意思に反した延命処置がいかに医学的に無駄であり,患者さんの自尊心を傷つけているかということは,世間でもたびたび議論の的になっている。その意味では,本書は手探り状態の日本の「救急・集中治療の緩和ケア」において「一寸先は光」をまさしく照らしてくれる。

 医学生や研修医も含め,多くの医師はこんなの習ったことがない。目の前の困難事例を各自の臨床能力と経験だけで乗り切ってつらい思いをしていることだろう。でも本書を読めば大丈夫。本書はその歴史的成り立ちから,考え方,さらには具体的な対処法まで,熱く深く記載されている渾身の1冊となっている。決してhow toだけでは語れないんだ。

--------------------

目次

欧文目次

バックナンバーのご案内

次号予告

あとがき 髙尾 昌樹
  • 文献概要を表示

 本誌は,神経系に関する総合誌です。さまざまな特集が組まれ,毎月多くの総説が掲載されています。個々の論文はPubMedに掲載され,簡単に検索もできます。私が研修医をしていた30年前,まだ医学の論文を検索するシステムに優れたものはなく,Index Medicusの本を調べていました(でも,便利だと思っていました)。しかし,それも大学で勤務をしていたときまでで,市中病院に出てからは,自分で購入したり医局で購入したりしていた医学総合雑誌(医学書院で言えば『medicina』ですね)を,パラパラ読んで情報を得ていました。

 医学雑誌は種類も多く,いまやオンラインだけの雑誌もあって,本誌のような冊子体の雑誌というものは,いつまでも続くのであろうかと思うこともあります。私のような世代の人間は,冊子体のほうがよいかもしれませんが,最初からオンライン版に馴染んでいる若手医師には冊子体など読まない方もいるでしょう。しかし,形式はともなく,雑誌のよいところはなんだろうと思っていたら,なるほどと思うコメントがありました。『シリーズ江沢洋選集第6巻 教育の場における物理』(日本評論社,2020)の中に掲載されている,「理科教育再生のために」という対談にあった江沢氏の発言を少し長いですが引用します。

基本情報

18816096.73.8.jpg
BRAIN and NERVE
73巻8号 (2021年8月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

文献閲覧数ランキング(
10月11日~10月17日
)