BRAIN and NERVE 72巻2号 (2020年2月)

特集 αシヌクレイノパチーの新たな展開

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特集の意図

胎児黒質ドパミンニューロン移植療法を受けたパーキンソン病(PD)患者においてαシヌクレイン(αS)沈着がドナー細胞に認められたことから,神経変性疾患における異常蛋白の細胞間伝播の概念が提唱された。これに端を発し,細胞間に放出されたαSをキャプチャーする免疫療法が実際に疾患の進行を抑制するかに注目が集まっている。本特集では免疫療法・伝播抑制療法が成立するかという観点から,PD,多系統萎縮症の早期診断,バイオマーカー,関連疾患についてαシヌクレイノパチーの新たな展開を紹介する。

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桑原 本日は,αシヌクレイノパチーの代表的な疾患である,パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)と多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)の専門家お2人をお招きしました。PDについては主に長谷川先生に,MSAについては主に下畑先生に,エキスパートオピニオンをお聞かせいただこうと思います。

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レム睡眠行動異常症(RBD)は約20年の経過でパーキンソン病,レヴィ小体型認知症,多系統萎縮症へ進展する。RBDの正確な診断が重要で,さらに短期的にαシヌクレイノパチーを発症する高リスク群を抽出あるいは候補治療薬の効果判定を鋭敏にできるバイオマーカーの開発は治験を成功させる鍵となる。現在,臨床ではαシヌクレイノパチーの早期診断の準備は整いつつあり,次のステージは候補治療薬の治験の遂行の段階にある。

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この20年の間に家族性パーキンソン病の原因遺伝子や疾患感受性遺伝子の同定が相次いでいる。PARK分類は23まで増えており,さらに関連遺伝子の報告は続いている。本総説では,SNCA遺伝子変異の同定から,その歴史について述べ,その後,近年同定された遺伝子の中で,レヴィ小体の形成に関与する遺伝子群について解説を行う。同定された背景,その臨床像や分子病態,機能について,自験例も踏まえながら解説を行う。

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疾患修飾療法の成功のためには,より正確で早期の診断が必要である。しかし多系統萎縮症(MSA)では,多様な臨床表現型を呈すること,mimicsと呼ばれるMSAに類似した表現型を呈する疾患が多数存在することから,その臨床診断は容易ではない。本論では臨床診断を困難にしているこれらの要因について提示し,最近の臨床試験の状況を踏まえた新たな診断基準作成に向けての動きを紹介したい。

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αシヌクレイン(αS)は,モノマーからオリゴマーや線維といった多量体に凝集していくが,近年,早期中間体であるオリゴマーの毒性がより強いとされている。パーキンソン病やレヴィ小体型認知症では脳脊髄液中のαS蛋白濃度が減少している一方で,パーキンソン病ではαSオリゴマー濃度が上昇していることが報告されている。生体試料中αSの詳細な解析はαシヌクレイノパチーのバイオマーカーの発見につながる可能性がある。

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パーキンソン病(PD)はアルツハイマー病に次いで頻度の高い神経変性疾患である。標準的治療であるドパミン補充療法は運動症状を改善させるが,進行を抑える治療法はいまだ確立されていない。ゆえに,病態の鍵となるαシヌクレイン(αS)の脳内蓄積を阻止する疾患修飾療法の必要性が唱えられている。近年,PDをはじめとする神経変性疾患において,異常凝集したαSがプリオン同様に細胞間を伝播し周囲へと病変を拡大させるという細胞非自律的な病態機序が提唱され,抗体療法など疾患修飾療法の標的として注目されている。本論では,αS分子の構造と機能,PD病態における重要性について解説したうえで,αSを標的としたPDの疾患修飾療法開発の現状および今後の展望について概説する。

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ペリサイトは末梢血管では内皮細胞を被覆して構造的に安定させている。一方,脳や末梢神経などの神経系ではペリサイトが豊富に存在し,血液脳関門や血液神経関門の維持,脳血流調整,微小血管の安定化など多様な生理的役割を果たしている。アルツハイマー病や糖尿病性末梢神経障害,脳梗塞などさまざまな疾患でペリサイト障害が病態機序に重要な役割を担うことが次々と報告され,神経疾患の新たな治療標的として注目されている。

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37歳女性,左下肢筋力低下を認め,頭部MRIで右大脳半球に多発性造影陽性腫瘤を認めた。他臓器に病変はなく,開頭腫瘍生検術を施行,脳原発リンパ腫様肉芽腫症(LYG)grade 1と診断した。ステロイド単独治療を行った結果,治療終了後24カ月間にわたり完全寛解を維持している。エプスタイン・バーウイルス陰性を含めた病理検査や全身画像検査を経て,脳原発LYG grade 1であれば,ステロイド単独治療が奏効する可能性があると考えられ,確実な診断が望まれる。

連載 臨床で役立つ末梢神経病理の読み方・考え方・11

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はじめに

 末梢神経障害の原因となり得る薬剤は,既に100種類を超えている。脳神経内科診療では,薬剤性ニューロパチーが紹介患者の2〜4%の頻度を占めるとされ1),決して稀な疾患ではない。また,日々,新たな薬剤が上市されるため,われわれ脳神経内科医は常に知識をアップデートしておく必要がある。代表的な薬剤性ニューロパチーが,化学療法誘発性ニューロパチー(chemotherapy-induced peripheral neuropathy:CIPN)である。薬剤性ニューロパチーの中には,緩徐進行性の四肢遠位部優位の感覚運動性ニューロパチーの臨床像を呈するものがあり,糖尿病性ニューロパチーなどの他のニューロパチーとの鑑別が困難であることが少なくない。そのため薬剤性ニューロパチーの臨床では,被疑薬の同定と他疾患との鑑別が重要である。そして,各薬剤によるニューロパチーの病態や腓腹神経病理の知識を身につけておくことは,薬剤性ニューロパチーが疑われる患者に遭遇したときに,正確に鑑別診断を進め,被疑薬を正しく扱うために必要不可欠である。連載第11回となる今回は,CIPNを中心に薬剤性ニューロパチーの病理所見を提示する。

学会印象記

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はじめに

 2019年10月19〜23日に米国シカゴで開催された第49回北米神経科学大会(Neuroscience 2019)に参加してきた。本大会は,1969年に設立された北米神経科学会(Society for Neuroscience)の年次大会であり,2019年は学会設立50周年という記念の年での開催であった。シカゴでの開催は2015年以来4年ぶりとのことであり,私にとっては初めて訪れる都市での大会参加であった。日本とシカゴ・オヘア国際空港を結ぶ直行便があるため,シカゴへのアクセスはとてもよかった。シカゴ・オヘア国際空港とダウンタウンとはCTAトレインのブルーラインで結ばれており,時間に正確で頻繁にかつ低価格で運行しているために利用しやすかった。

 シカゴと聞くと私は,2019年1月にニュースで報道された北極からの旋風「極渦」による記録的大寒波と,“Windy City”の名のとおりの強い風が吹き荒れる都市を思い浮かべる。そのため10月中旬で既に寒いのではないかと考え厚手の服装をいくつか用意して向かった。しかし,現地に到着すると朝夕は5℃程度になるが,日中は15℃近くに上昇したため,厚手の洋服の出番はなく余計な荷物になってしまった。

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 マウスは,実験動物として古くから利用されてきたが,1980年代に外来性の遺伝子を導入し発現させるトランスジェニックマウスが,続いて1980年代後半にES細胞を用いた標的遺伝子の相同組換えによるノックアウトマウスの作製技術が確立されたことにより,確固たる地位を築いた。さらに,近年のゲノム編集技術の進歩により遺伝子改変マウスはより安価かつ短時間で手に入る時代に入り,その重要度は増すばかりである。本書は,獣医学部や医学部で組織学の教鞭をとる傍ら,さまざまな臓器の機能を組織構造から解き明かし,長年にわたって世界をリードしてきた著名な顕微鏡解剖学者による待望のマウス組織アトラスである。

 本書の最大の特色は,模式図や表による説明を極力省き,美術書の絵画を鑑賞しているような錯覚に陥る厳選された美しい顕微鏡画像を用いて,マウスの全身臓器の組織構築を語っている点である。1枚1枚の画像から,「いよいよ明日観察するというときは,朝が来るのが待ち遠しい」と前書きに記した著者の研究者としての高揚感が生き生きと伝わってくる。また,マウスの全身の臓器をこれだけ網羅的に掲載したアトラスは世界で初めてであろう。各項目では,臓器の基本的な組織構築をHE染色で示すとともに,臓器を構成する細胞や構造物をタンパク質とmRNAレベルで可視化した免疫組織染色やin situハイブリダイゼーション法による図を多数取り入れている。特に,免疫組織染色により,臓器の主要な構成細胞を示すとともに,臓器における脈管や神経の走行を染め出すことにより,脈管と神経により制御されている臓器の構造と機能に関する見逃されがちな大局的な視点を与えてくれる。

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 このたび,東京都医学総合研究所神経病理解析室長の新井信隆先生の手になる本書を拝読する機会を得て,まさにその迫力と美しさに息をのんだ。本書の帯にある「大迫力…!」の文句のとおりであった。写真は極めて美しく,必要に応じて破線で輪郭を示したり指示線を活用したりして,かゆいところに手が届く工夫がなされている。長年,神経病理学の教育に尽力してこられた先生の面目躍如である。先生は2年間の研修の後は病理学の道に入られた神経病理学のプロフェッショナルであり,片や私は脳神経内科医でありながら研究手法として神経病理学を学んだ者であるが,神経病理学会では親しくお付き合いをさせていただいた。

 病の人を診るときに,まずよく観て(視診),触って(触診),あるいは叩く(打診)など目,耳,手などを動員して病気を探り診断に導く。神経病理学もまさに同様であり,自らの眼をもって脳や脊髄をその場で観察し,取り出して観察し,割を入れて内面・断面を開いて観察することが大切である。本文はほぼすべて貴重なマクロ(肉眼)写真とその理解を助けるための少数の大切片染色像で占められている。最初の40頁が正常像である。硬膜で覆われた大脳から始まり,脊髄の馬尾に至るまでが,外面,内面,背面,底面,水平断,冠状断,矢状断などさまざまな方向から呈示されている。また,神経解剖学は学生にはあまり人気はないそうであるが,実はその名称は非常に自然でわかりやすい。すなわち,断面に多数の線状が見えるので線条体,あたかも歯のように見えるから歯状回といった具合に,見えるとおりに素直に命名されている。そのような由来が極めてよくわかるようになっている。このような観察には当然ながら脳を切り出す必要があり,その仕方がわかりやすく写真で表示されているのも本書ならではの特徴である。

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目次

欧文目次

バックナンバーのご案内

次号予告

あとがき 髙尾 昌樹
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 今回は,αシヌクレイノパチーの特集です。パーキンソン病(PD),多系統萎縮症(MSA),遺伝性疾患,睡眠障害,新規診断手法,新規治療戦略と近年の進歩と未来が凝縮された内容となっています。また,疾患研究を着実に進められている著者の先生方に感銘を受けた次第です。鼎談も大変重要なテーマが扱われており,ぜひ手にとっていただき,すべてお読みになられることを切に願います。

 今日は,朝からシヌクレイノパチーの連続でした。まず,病理からご依頼のあった,がん患者の病理解剖例の脳を顕微鏡で見ておりました。小さい転移巣や急性期梗塞に加えて,動眼神経核,青斑核,迷走神経背側核などに,ヘマトキシリン・エオジン染色でわかる,たくさんのレヴィ小体がありました。それぞれの神経核などの神経細胞脱落は目立ちませんし,黒質の異常もないにもかかわらず,レヴィ小体だけが本当にたくさんありました。患者さんの生前は,パーキンソン症状はあったのか,非運動症状はあったのかなどちょっと気になりました。がん患者さんでも,神経学的な評価を加えることは重要かなと思っておりますが,それはまた別の機会に。

基本情報

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BRAIN and NERVE
72巻2号 (2020年2月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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