書評
「マウス組織アトラス」—岩永敏彦,小林純子,木村俊介【著】
阪上 洋行
1
1北里大学医学部解剖学
pp.174
発行日 2020年2月1日
Published Date 2020/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416201499
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マウスは,実験動物として古くから利用されてきたが,1980年代に外来性の遺伝子を導入し発現させるトランスジェニックマウスが,続いて1980年代後半にES細胞を用いた標的遺伝子の相同組換えによるノックアウトマウスの作製技術が確立されたことにより,確固たる地位を築いた。さらに,近年のゲノム編集技術の進歩により遺伝子改変マウスはより安価かつ短時間で手に入る時代に入り,その重要度は増すばかりである。本書は,獣医学部や医学部で組織学の教鞭をとる傍ら,さまざまな臓器の機能を組織構造から解き明かし,長年にわたって世界をリードしてきた著名な顕微鏡解剖学者による待望のマウス組織アトラスである。
本書の最大の特色は,模式図や表による説明を極力省き,美術書の絵画を鑑賞しているような錯覚に陥る厳選された美しい顕微鏡画像を用いて,マウスの全身臓器の組織構築を語っている点である。1枚1枚の画像から,「いよいよ明日観察するというときは,朝が来るのが待ち遠しい」と前書きに記した著者の研究者としての高揚感が生き生きと伝わってくる。また,マウスの全身の臓器をこれだけ網羅的に掲載したアトラスは世界で初めてであろう。各項目では,臓器の基本的な組織構築をHE染色で示すとともに,臓器を構成する細胞や構造物をタンパク質とmRNAレベルで可視化した免疫組織染色やin situハイブリダイゼーション法による図を多数取り入れている。特に,免疫組織染色により,臓器の主要な構成細胞を示すとともに,臓器における脈管や神経の走行を染め出すことにより,脈管と神経により制御されている臓器の構造と機能に関する見逃されがちな大局的な視点を与えてくれる。
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