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このたび,東京都医学総合研究所神経病理解析室長の新井信隆先生の手になる本書を拝読する機会を得て,まさにその迫力と美しさに息をのんだ。本書の帯にある「大迫力…!」の文句のとおりであった。写真は極めて美しく,必要に応じて破線で輪郭を示したり指示線を活用したりして,かゆいところに手が届く工夫がなされている。長年,神経病理学の教育に尽力してこられた先生の面目躍如である。先生は2年間の研修の後は病理学の道に入られた神経病理学のプロフェッショナルであり,片や私は脳神経内科医でありながら研究手法として神経病理学を学んだ者であるが,神経病理学会では親しくお付き合いをさせていただいた。
病の人を診るときに,まずよく観て(視診),触って(触診),あるいは叩く(打診)など目,耳,手などを動員して病気を探り診断に導く。神経病理学もまさに同様であり,自らの眼をもって脳や脊髄をその場で観察し,取り出して観察し,割を入れて内面・断面を開いて観察することが大切である。本文はほぼすべて貴重なマクロ(肉眼)写真とその理解を助けるための少数の大切片染色像で占められている。最初の40頁が正常像である。硬膜で覆われた大脳から始まり,脊髄の馬尾に至るまでが,外面,内面,背面,底面,水平断,冠状断,矢状断などさまざまな方向から呈示されている。また,神経解剖学は学生にはあまり人気はないそうであるが,実はその名称は非常に自然でわかりやすい。すなわち,断面に多数の線状が見えるので線条体,あたかも歯のように見えるから歯状回といった具合に,見えるとおりに素直に命名されている。そのような由来が極めてよくわかるようになっている。このような観察には当然ながら脳を切り出す必要があり,その仕方がわかりやすく写真で表示されているのも本書ならではの特徴である。
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