BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 70巻3号 (2018年3月)

特集 『認知症疾患診療ガイドライン2017』を読み解く

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特集の意図

『認知症疾患診療ガイドライン2017』が2017年8月に出版された。得てしてとっつきにくい印象を持たれがちなガイドラインだが,本特集ではこのたび改訂された本ガイドラインの背景やガイドラインの中では説明しきれなかった点などを紹介し,ガイドラインを立体的に読み解くためのガイドとして企画した。はからずも,本ガイドラインにしみ込んだ作成者たちの意気込みと本音までが感じられる内容となっている。

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『認知症疾患診療ガイドライン2017』は日本神経学会が監修し,ガイドライン作成委員会が3年の歳月をかけて上梓したものである。2010年の旧ガイドラインと比べ,アルツハイマー病の概念の変遷や2010年以降に報告された認知症に関連する主要な新しい診断ガイドラインを網羅している。また,新規の検査法,抗認知症薬の治療アルゴリズム,医療資源・社会制度の項目を追加し,臨床現場で使いやすい実用的な指南書として作成された。

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認知症の危険因子として,加齢や遺伝的要因のほかに血管性危険因子(高血圧,糖尿病,脂質異常症,肥満)や喫煙,睡眠時無呼吸症候群,うつ病,頭部外傷などがある。一方,防御因子として,運動習慣や余暇活動,社会参加,健康的な食生活,教育などが知られている。最近,欧米から認知症者数が減少しているという報告が多くみられ,教育歴の向上とともに生活習慣(病)の改善やコントロールが背景要因として挙げられている。

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これまでのメタ解析によって,認知機能障害に対する認知刺激療法,日常生活動作に対する運動療法,行動・心理症状(BPSD)に対する音楽療法と行動マネジメントの有効性が確認されている。行動マネジメントのエッセンスはケアを行う人たちに広く知ってもらうことが重要で,そのような活動がわが国でも行われている。また非薬物療法を認知症患者の普段の生活の中に取り入れ,BPSDを予防するという観点も重要である。

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『認知症疾患診療ガイドライン2017』の内容を踏まえたうえで,認知症疾患の薬物療法について,ガイドラインでは触れることのできなかった実臨床のデータ,観察研究の結果などについて,総論およびアルツハイマー型認知症に対する治療を中心に記載した。日々の診療においては,ガイドラインに記載のあるエビデンスに基づく診療と実臨床の実態のバランスを取りながら個々の症例に応じた個別の対応をする必要がある。

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『認知症疾患診療ガイドライン2017』では,旧版では記載の乏しかった「認知症の本人や家族を支えるための諸制度と社会資源」の項目が大幅に増加した。本論では旧版発行以来,新たに創設された制度や,重要度の増した社会資源として,新オレンジプラン,認知症疾患医療センター,認知症サポート医,地域包括支援センター,認知症初期集中支援チーム,高齢者虐待防止法,若年性認知症を解説した。今後はこれらの意義,有用性についてエビデンスを確立していくことが重要である。

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診療ガイドラインは,複数の診療オプションが存在する重要臨床課題に対して推奨を提示することで患者アウトカムの改善を目指す。日常診療において診療ガイドラインを活用することで,患者と医師による適切な意思決定が可能となり,診療の質の向上が期待できる。診療ガイドラインは,論文,教科書,経験などと総合して用いるべきであり,さらに,患者が置かれている個別的な状況を深く理解することで適切な活用が可能である。

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日本神経治療学会と公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団は,2013年に共同で「神経疾患に関する医療ニーズ調査」を実施した。神経内科領域に特化して実施された調査は初めてであり,行政,産業界,アカデミアにとってアンメットメディカルニーズの把握など,重要な情報を提供する調査であった。引き続き,5年後の2018年にもフォローアップ調査が予定されている。

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自己の表象と認識を担う脳部位の検討から,内側眼窩前頭前皮質,背内側前頭前皮質,前帯状皮質,楔前部および後帯状皮質から成るcortical midline structures(CMS)の重要性が明らかになってきた。これらの部位は安静時における同期的な活動を示す安静時ネットワークのデフォルトモードネットワークやサリエンスネットワークを構成する領域であり,これらのネットワークの異常と精神・神経疾患との関連が近年数多く報告されている。さらに,CMSを構成する領域の多くが痛みの認知に関わっており,そのことが他の感覚にはみられない痛みの特徴を生み出しているように思われる。また,病的な痛みの発生と維持には,脳における痛みの認知機構の異常が関与しているとの考え方が受け入れられるようになってきており,慢性痛患者を対象とした研究によってCMSとCMSに密接に関連する脳部位において構造的・機能的な変化が生じていることが数多く報告されている。痛みの認知に関係する多くの領域が自己に関連する情報の処理に関わっているという事実は,痛みの認知特性や慢性痛の病態を考えるうえでも,脳において表象される自己を考えるうえでも,貴重な視座を与えるものとなるだろう。

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症例は90歳男性。2014年3月右耳痛が出現。発熱,右外耳道に発赤・腫脹を伴う複数の小丘疹を認めた。脳神経では右末梢性顔面神経麻痺を認め,項部硬直とケルニッヒ徴候を認めた。脳脊髄液検査では細胞数572個/μL(単核球212個),蛋白631mg/dLと増加を認め水痘-帯状疱疹ウイルスPCRが陽性であり,頭部MRI FLAIR画像にて左橋底部および左側頭葉先端部に高信号を認めた。水痘-帯状疱疹ウイルス性髄膜脳炎と診断し,アシクロビル投与を開始したところ,全身に皮疹が拡大し播種性帯状疱疹に進展したが,次第に意識レベル・皮疹の改善を認めた。4月中旬に突然の嘔吐,黒色便および貧血を認め,死亡した。剖検では,左側頭葉および島を中心として脳表および血管周囲腔に沿った小血管主体のリンパ球浸潤を認めた。帯状疱疹ウイルス感染を示唆する血管炎を病理学的に確認できた点で貴重な症例と考えられた。

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 2017年9月12日,日本を出発してから約15時間,9月とは思えない機内の寒さに耐え,米国アリゾナ州にあるフェニックス・スカイハーバー国際空港に到着。外に出ると,今度は一転,熱風が吹いているかのような暑さにめまいを覚えながらも,今回もまた,このフェニックスで開催される米国神経筋電気診断学会(American Association of Neuromuscular and Electrodiagnostic Medicine:AANEM)に参加できることに心躍らせていました。

 私が初めてAANEMに参加したのは,電気生理の勉強を本格的に始めて1年ほどたった2006年ワシントンD.C.開催のときでした。欧米人の迫力に押され,言語というハードルと戦いながら,学会に参加していた記憶があります。それから12年,今回は私の参加10回目記念でもありました。今回の会期は9月13〜16日,京都では世界神経学会(World Congress of Neurology:WCM)が9月16〜21日の日程で開催されており,時差も考えると両方の学会に参加するのは難しくありました。例年,AANEMにはわれわれのグループも10名弱ぐらいで参加することが多いのですが,そんな理由から4名での参加となりました。もちろん日本からの参加はわれわれのグループ4名のみ(写真1)。今回のような状況でもAANEMに参加し,AANEMに魅せられ参加し続けた理由はなんだろう,と改めて考えてみました。

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目次

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 わが国では,高齢者人口が未曾有の速さで増加し,それに伴い認知症を有する高齢者が増え,大きな医療・社会問題となっている。認知症高齢者の数は現在,全国に約462万人と推計されており,2025年には700万人を超えると推計され,これは,65歳以上の高齢者のうち,5人に1人が認知症に罹患する計算となる(厚生労働省,2015年1月)。

 認知症の中でも最も頻度の高い疾患がAlzheimer型認知症であり,わが国では治療薬としてドネペジル,ガランタミン,リバスチグミン,メマンチンが用いられているが,これらの薬剤は投与を続けても認知機能低下の速度を低下させることができないため,認知機能低下の速度を低下させる薬剤,すなわち,早期投与によって進行そのものを修正できる疾患修飾薬(disease-modifying drug:DMT)の開発が活発に行われ,実際にわが国においてもDMTの臨床治験が増えてきている。

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 このたび,医学書院から待望の『ENGアトラス』が出版された。ENG(electronystagmograhy,電気眼振計)とは言うまでもなく,眼振を含む眼球運動の電気的な記録・検査のことである。眼振や眼球運動の異常はめまいや平衡障害時に多く出現し,病変部位や原因疾患を同定する上で極めて有用であるが,その診察所見を客観的かつ定量的に記録し,分析や比較を可能としてくれるのがENGである。めまいや平衡障害を扱う耳鼻咽喉科,特に神経耳科,神経内科,脳神経外科などにおいては必須の検査である。ENGは基本的に両眼の上下,左右に付けた電極で両側の眼球の上下,左右の動きの速度,加速度,振幅が表示される。

 著者の小松崎篤先生は日本耳鼻咽喉科学会理事長も歴任された斯界の大家であるが,特に神経耳科学の領域では世界を代表する第一人者であり,PPRF(paramedian pontine reticular formation)の発見,OKP(opkinetic pattern test)の開発などその業績は枚挙に暇がない。この『ENGアトラス』は700件もの図のほとんどが自験例という,まさに小松崎先生ならではの快挙といえる。

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 今回の写真は,「頸筋と顔面筋の両側性攣縮」1)と題された論文に掲載されたものです。症例は23歳男性で,歩兵隊の兵士です。以下に詳細を示します。

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あとがき 神田 隆
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 神経内科の標榜診療科名が脳神経内科に正式に変更されることは,もうご存知と思います。神経内科という呼称は,われわれの諸先輩が長きにわたって育ててこられた歴史あるものです。私自身neuromuscular diseaseを専門としていることもあって,“脳”神経内科という名称には多少抵抗感がないでもなかったのですが,山口県に赴任して13年余が経ち,neurologistがどのような仕事をしているかについての認識は確実に深まっていると実感する一方で,精神科,心療内科との混同,はたまた精神内科などという名称を使われることは日常茶飯事,神経内科という名称を使い続けていては,今後20年経ってもこの地には定着しないなという感覚を強く持つに至りました。脳神経内科という名称には,既に国民の間に根を下ろした感のある脳神経外科のカウンターパートであるという立ち位置をはっきりさせるというメリットがあるだけでなく,脳に関連する数多くのcommon diseaseを診る診療科であるというメッセージを発する強いインパクトがあるように思います。脳血管障害然り,てんかん然り,そして本号の特集である認知症然り,です。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
70巻3号 (2018年3月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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