BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 70巻5号 (2018年5月)

特集 非アルツハイマー型認知症の病理学

  • 文献概要を表示

特集の意図

認知症患者の半数は非アルツハイマー病である。本特集では4つの代表的な認知症疾患を取り上げ,4人の神経病理エキスパートに美しい病理写真とともに解説をいただいた。最新の臨床診断基準も参考にしつつ,アルツハイマー病の病理とはどこがどう違うのか,どのような病理学的変化がそれぞれの疾患のコアであるのかを把握していただき,さらに深い認知症診療に役立てていただきたい。

  • 文献概要を表示

パーキンソン病(PD)とレヴィ小体型認知症(DLB)ではαシヌクレインの蓄積は中枢神経系のみならず,交感神経節,消化管,心臓,副腎,皮膚にも広がっている。さらに,パーキンソン症状も認知症も認められないが,剖検により偶発的にレヴィ小体が認められた例でも中枢および末梢におけるレヴィ小体の広がりはPDやDLBとほぼ同様である。これより中枢と末梢はほぼ同時的におかされると思われる。このことはレヴィ小体病の病変が多中心性に起こっていることを意味する。

  • 文献概要を表示

前頭側頭葉変性症(FTLD)は,多様な背景病理と遺伝子変異を含む不均一な疾患群である。近年,いくつかの関連遺伝子の発見と,脳内に異常蓄積する蛋白の同定により,FTLDの大部分がFTLD-tau,FTLD-TDP,FTLD-FUSに分類されることが明らかになった。本稿では各群の主要な疾患の組織像について述べ,臨床病型および遺伝子変異との関連について概説する。

  • 文献概要を表示

血管性認知症をきたす病態の中核は脳小血管病である。動脈硬化性孤発性脳小血管病,CADASIL,CARASILなどの遺伝性脳小血管病,アミロイド血管症,アミロイドβ関連血管炎などが代表的疾患である。小血管の障害機序は疾患ごとに異なるが,大脳白質や深部灰白質に対して慢性的な低灌流状態を惹起する点で共通する病態が存在する。さらに脳小血管病はアルツハイマー病などの変性疾患の認知症にも影響を与えている。

  • 文献概要を表示

神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)は海馬領域に多量の神経原線維変化(NFT)を有するが老人斑[アミロイドβ蛋白(Aβ)沈着]を欠く高齢者の認知症疾患である。近年,加齢に伴い内側側頭葉にNFTが出現するがAβ沈着を欠く状態を示す病理用語として原発性年齢関連タウオパチー(PART)が提案され,SD-NFTはPART病理の進展による認知症と考えられている。

  • 文献概要を表示

脳腫瘍の分子遺伝学的解析の発展を背景に,2016年にWHO中枢神経系腫瘍分類が改訂された。今回の改訂で脳腫瘍分類は,従来の組織分類から分子分類へと大きく転換された。特にびまん性膠腫群と胎児性腫瘍群で,組織診断名に分子情報を加えた統合診断名が導入された。この新分類により,脳腫瘍の診断精度の向上,適切な治療選択,精密な予後予測などが期待される。現在,診療現場で新分類に対する対応が始まっている。

  • 文献概要を表示

パーキンソン病に対するドパミン補充療法は,神経疾患治療史における偉大なマイルストーンである一方,その効果に限界があることも事実である。ゆえに,病態の鍵となるαシヌクレインの脳内蓄積を阻止する進行抑制治療の必要性が唱えられている。近年,αシヌクレインがプリオンのように細胞間を伝播し周辺へと病変を拡大させる細胞非自律的な病態機序が明らかとなってきた。プリオン様伝播は疾患修飾療法の標的として注目されている。

  • 文献概要を表示

急性期増悪・再発リスクが高い虚血性脳卒中に対して,抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)などのより積極的な抗血栓療法が行われているが,一方では出血リスクが増加する。本研究では,ハイリスク例に対してアルガトロバン併用DAPTを行った急性期虚血性脳卒中341例を対象に,退院または入院30日目までの出血性合併症を調査した。症候性頭蓋内出血は認められず,重篤な出血性合併症は1例(0.3%)に認められるのみであった。

  • 文献概要を表示

 サンディエゴは米国西海岸のカリフォルニア州にあるロサンゼルスに次いで人口の多い温暖な地で,学会が多く開かれることでも有名な街です。しかしもともとはファイタータウンとも呼ばれる米軍の基地の街で,太平洋艦隊の旗艦港でもあります。ひとたび極東を含む環太平洋地域で有事が起こった場合は,この港から艦隊が出発することになっている軍事的重要拠点です。同じ米国と言いながら東海岸と西海岸の気質は結構異なっていて,東海岸はよく言えばヨーロッパ文化の影響を受けて整然としている,悪く言えば守旧的なのに対し,西海岸はよく言えば開拓時代の影響というか,新しいものに興味を持つ気風が強い,悪く言えば新しもの好きのお調子者的な性質があることは皆様よくご存知のことでしょう。サンディエゴはそんな西海岸の街で,米国住みやすい街ランキングベストテンの中によく選ばれる街でもあります。

 米国の神経学には2つの学会があり,1つはAANと略される米国神経アカデミー学会(American Academy of Neurology),もう1つはANAと略される米国神経学会(American Neurological Association)です。今回サンディエゴで開催されたのは,ANAのほうです。ANAとAANとではその構成メンバーにも多少違いがあります。また,AANは参加者も多く,会場の数も大きさも大きい傾向があり,会場中を駆け回って聞きたい講演を聞いて回る必要があるうえ,米国の神経内科医がボードを維持するために参加しているので,必要な講演を聴講するには別途に聴講料が必要なセッションもあり,日本人にとっては何の役にも立たない単位とひきかえにお金を支払わなければならないという,どうも納得いかないところがありました。

--------------------

目次

欧文目次

  • 文献概要を表示

 今回の写真はフォア(Charles Foix;1882-1927)の「頭蓋内球部神経末梢性病変による片側延髄症候群」という論文からのものです。ご覧のとおり,いくつかの脳神経麻痺を一側性に認める症例ですが,写真からすべての麻痺を言い当てることができるでしょうか。

 本症例は,72歳の女性で,前兆や痛みを伴わず,朝起きたら「顔が歪んでいた」という主訴です。脚や腕に異常はありませんでしたが,夕方仕事から帰ると後頭部から頸部にかけて激しい痛みに襲われます。この頭頸部痛には硬さが伴い,頭部を回すことはできませんでした。

「読者からの手紙」募集

バックナンバーのご案内

次号予告

あとがき 森 啓
  • 文献概要を表示

非アルツハイマー病を知る

 本号は,非アルツハイマー型認知症の病理学特集である。認知症は多くの疾患群であることは理解されているし,大まかな区別も普及してきたと言えるが,なお正確な診断という点では不案内な側面が拭えない。認知症の大部分がアルツハイマー病であることから,同じことを繰り返す,記憶が曖昧ということで,アルツハイマー病と診断することでよしとする「功罪」を考えたい。

 認知症は単に患者が多いと言うだけではなく,生理的物忘れから病的な病気まで実にバラエティに富む。十把一絡げでアルツハイマー病とはならないことは言を俟たないが,では正しい鑑別診断がどうなのか。十分なバイオマーカーや各種の脳画像検査に簡単に頼ることも実臨床の場では必ずしも現実的ではない。やはり臨床現場での精査が診療の原点であり,重要であることに変わりはない。本特集は,認知症診療のスキルアップをゴールとして,アルツハイマー病の外堀とも言える非アルツハイマー病を埋めることで,本丸であるアルツハイマー病および認知症全体への理解の完成を目標としている。

読者アンケート用紙

基本情報

18816096.70.5.jpg
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
70巻5号 (2018年5月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

文献閲覧数ランキング(
5月21日~5月27日
)