The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 53巻4号 (2016年4月)

特集 高次脳機能障害のリハビリテーション—回復の可能性—

  • 文献概要を表示

高次脳機能障害は「どこまで回復するのか」という切り口から,各分野で臨床経験の豊富な先生方に総説をお願いしました.右半球損傷例そして失語症(左半球損傷)例は,脳血管障害をあまり対象としないリハ医にもわかりやすい内容となっています.また,高次脳機能障害を専門としている先生にも,抗NMDA受容体脳炎,軽度外傷性脳損傷,小児の外傷性脳損傷や低酸素性脳症など,最近話題の疾患について明日からの診療に役立つ内容となっています.リハ医が今後,この分野をリードしていくことを願います(担当:先崎 章,企画:編集委員会).

  • 文献概要を表示

要旨 右半球の脳血管障害後の主要な高次脳機能障害は,半側空間無視,病態失認,半側身体失認である.特に半側空間無視は,急性期を過ぎても残ることが少なくなく,リハビリテーションの実施にあたって見落としのない評価と対応が重要である.日常生活動作を念頭に置いた探索訓練に加えて,プリズム順応などのボトムアップアプローチ,低頻度反復経頭蓋磁気刺激も含めて,幅広く改善の手がかりを得たい.また,半側空間無視があるなりに日常生活動作を可能とする機能的アプローチも欠かせない.右半球損傷では,言語性に頭でわかったような応答をすることが多い一方で,真の病識は乏しい.転倒リスクも高くチームアプローチでの評価と対応が大切である.

  • 文献概要を表示

要旨 失語症は,いったん獲得された言語機能が,言語領野の器質的病変によって障害を受けた状態をいう.失語症の回復は,発症直後から数カ月以上にわたってみられる.そのメカニズムとして,①損傷された機能領域の回復,②残存領域における機能の再構成,③対側半球による代償機能あるいは対側皮質の賦活などが考えられているが,発症からの時期によって異なる機序を示す可能性がある.失語症の治療として,種々の言語聴覚療法に加え,薬物療法,電気刺激療法などが試みられている.失語症に対する言語治療のエビデンスを示すためには,常に客観的評価を行い,課題の量や頻度が適切かどうかを検証する必要がある.言語療法の効果は言語機能に対するものだけでなく,コミュニケーション能力向上としての役割が大きい.

3 前交通動脈瘤破裂 青木 重陽
  • 文献概要を表示

要旨 前交通動脈瘤破裂患者は,記憶障害を呈することが多く,前脳基底部との関連性が議論されている.また,実際には複数部位の脳損傷を伴うことが多く,さまざまな症状を呈することにもなる.戦略獲得訓練や代償手段の導入が考慮されるが,使用すべき残存機能の部分も障害されていることが多いため,より丁寧な対応が求められる.転帰については,発症1年を過ぎても症状が残っていることが多く,情動面と社会面に課題を残す者が多い.このように発症後時間を経た後に顕在化する情動面や社会面の課題に対しても,リハビリテーションの必要性があることが指摘されている.

  • 文献概要を表示

要旨 ヘルペス脳炎と抗NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体脳炎の記憶障害の特徴と回復,予後,リハビリテーションを検討する.ヘルペス脳炎では側頭葉内側部が損傷され,前向性健忘と逆行性健忘を生じ,50%以上の例では1年後も持続する.前向性健忘の著明な改善は認められず,代償手段の活用が必要となる.保たれている手続き記憶を活用した視知覚運動学習が生活全般に汎化され,生活障害の改善につながる可能性がある.抗NMDA受容体脳炎では急性期の免疫療法後の記憶障害全般の回復は良好な場合が多いが,免疫療法の開始が遅れた場合,健忘が残存することもある.遂行機能や展望記憶は改善する場合が多く,これらの機能を汎化して社会参加を促進することが必要である.

  • 文献概要を表示

要旨 外傷性脳損傷(traumatic brain injury,以下TBI)はび漫性軸索損傷を伴う場合,回復期以降に症状が深刻化する傾向があり,認知リハビリテーション(以下,リハ)の介入が重要である.Ciceroneらは,認知リハに関する論文を総括し,有効な介入のエビデンスを3段階に分けて示し,中等度〜重度障害のTBIに対して,メタ認知訓練,外的補助手段の利用,実践的なコミュニケーション技術の習得,自己モニタ法,全人的包括的アプローチを,最も高い推奨レベルとした.エビデンスが検証されたこれらの介入のエッセンスを捉え,実際の臨床の場で応用・工夫を加えていくことが,リハ担当者には求められる.

  • 文献概要を表示

要旨 軽度外傷性脳損傷(mild traumatic brain injury,以下MTBI)は情報処理速度,注意,記憶の機能障害と関連していて,決して症状が軽いというわけではない.これらの損傷は受傷直後からあらわれ,数週間続く.スポーツによるMTBIでは,脳震盪後症候群の症状が1カ月程度の間に急速に改善するが,一方,数%の例で長い期間,後遺症が持続する.交通外傷によるMTBIでは,かなりの割合で自覚症状が持続しうる.患者にMTBIは認知機能に低下を生じうるとの危惧を伝えると,検査の値の一部が低下傾向を示すという報告がある.改善がみられず,回復が遅れることに関連する要因として,微細な神経病理学的な損傷のほかに,受傷時の年齢,ある種の合併症,受傷前に患っていた精神医学的疾患や受傷による精神医学的疾患の発症や悪化,他の身体系統の損傷,心理社会的な要因などが考えられる.受傷後の脳神経外科的症状,精神医学的症状の両方を,MTBIによって直接生じる症状として扱うことが欧米のスタンダードになっている.

  • 文献概要を表示

要旨 小児の高次脳機能障害を考えるにあたり,成人との大きな相違はコミュニケーション能力まで含む教育を受ける学習環境下にあることと,発達過程にあるため正常発育の観点から障害回復程度を判断する必要があることである.リハビリテーション(以下,リハ)においては,神経心理学的・心理社会的・就学(就労)の3つのアウトカム評価をもとに,①障害そのものの改善,②代償手段の活用・環境調整,③復学(就学)支援,④周囲関係者を含めた障害の理解受容や養育者支援を展開していく.米国をはじめとした先進諸外国と比較し,わが国では小児外傷性脳損傷後高次脳機能障害のリハはその緒についたばかりだが,近年就学支援体制構築への方向づけがされつつある.

8 小児の低酸素性脳症 栗原 まな
  • 文献概要を表示

要旨 当院で入院リハビリテーションを行った16歳未満で発症した低酸素性脳症例35例(発症年齢平均5歳8カ月)の,急性期の状況と後遺症の状況を調査し,高次脳機能障害に焦点をあてて検討した.発症原因は溺水12例,窒息6例,心疾患10例などで,原因により年齢分布が異なっていた.後遺症は身体障害28例,知的障害30例,てんかん16例,高次脳機能障害12例であった.高次脳機能障害の内訳では視覚認知障害・注意障害が多かったが,小児では評価バッテリーに頼りきらず生活の中での把握が大切であった.それらへの対応についても述べた.

  • 文献概要を表示

 日本リハビリテーション医学会は,新しく英文誌“Progress in Rehabilitation Medicine”を創刊し,本年4月1日より原稿を募集しています.

 近年,医学上の重要な知見や発見の多くが,英語論文にて発表される流れがあります.本医学会としてもこれに応じて,学会独自の英文誌の創刊が望まれておりました.一方,医学を含む理系の論文公表は近年,紙媒体からオンライン・ジャーナルへの移行を迎えています.とりわけ閲覧無料の英文オープン・アクセス・オンライン・ジャーナルは迅速な国際情報発信に大きく貢献しています.このような状況の中,時代に応じた情報発信のために,本医学会は新しく創刊する英文誌をオープン・アクセス・オンライン・ジャーナルとすることにしました.英文誌創刊による効果として,以下のようなことを考えています.

巻頭言

  • 文献概要を表示

 徳島大学の梶龍兒先生から華岡青洲(1760〜1835年)の「物を活かして理を突き詰める」というこの言葉を耳にしたのは2010年11月でした.そして,翌年11月,青洲の仕事場(というよりは彼の町)の跡地に造られた「青洲の里」(和歌山県)を訪れ,その仕事ぶりを味わいました.彼が自分で設計し暮らした,工夫あふれる住居兼仕事場の春林軒は見ていてうれしくなるものでした.

 青洲は江戸時代の外科医で,世界で初めて自分で考案した麻酔薬を用い麻酔下での手術(乳がん)を成功させたとして知られています.彼は麻酔薬だけを考案したのではなく,手術器具をはじめ,自分が生み出した数多くの道具の中で暮らしていました.外科医であった彼が麻酔薬を創ったのはその必要性からであり,それは,すぐれた専門家になるにはすぐれた道具が必要であり,なければ創る,という合理的生き方をあらわすものです.

  • 文献概要を表示

はじめに

 本稿では,慶應義塾大学理工学部リハビリテーション神経科学研究室と同大学医学部リハビリテーション医学教室がこれまでに取り組んできた「ブレイン・マシン・インターフェース(Brain-Machine Interface,以下BMI)を用いた脳卒中片麻痺治療」の取り組みを紹介しながら,その背景で検討してきた研究上の考え方を紹介し,リハビリテーション(以下,リハ)医学研究の発展に広く資することを目的とする.BMIを含むニューロリハ研究は国内外を問わず流行しているが,研究はまだ個別的であり,背景にある理論の整備は未整備か,あるいは部分的であるように思われる.そこで,本稿は特に初学者を想定読者として,BMIやニューロリハの背景が理解しやすいように,これまでの研究上の考え方をできるだけ構造化するように工夫した.ここでまとめた考え方を基本として,修正や拡張が行われ,神経科学とリハを結びつけた新学術の創出につながれば,望外の喜びである.

 文中で重要と思われるキーワードには下線をつけた.これらは,これまでのリハ医学ではどちらかというと馴染みのない用語であり,制御工学,システムバイオロジー,再生医学などの学術領域で用いられているものを意識的に導入している.これは,ある特定の現象,状態,部位をあらわす静的な用語だけでなく,ある状態からある状態へ遷移する過程や,そのダイナミクスが起きる仕組み,そしてそれを人工的に誘導するための方法を指す,動的な用語が中心に据えられるようにしたいと考えたからである.下線のついた用語に関心がある場合には,文末文献1-3)を併せてお読みになることをお薦めする.

  • 文献概要を表示

はじめに

 救命救急医療の発展に伴い心肺停止後の蘇生率は向上したが,蘇生後脳症としての低酸素脳症は重度の多彩な後遺症が残る場合が多く,その回復は一般的に脳外傷と比べて緩慢である.機能回復過程では,障害を客観的に認識することができず,逆に障害に気がつくことで,不安や抑うつ気分が増強し,適切な行動を遂行できなくなる場合がある1)

 今回,われわれは,心筋梗塞による心肺停止後に蘇生され,低酸素脳症をきたし,機能回復の過程で,障害を客観的に認識することができないまま「仕事ができる」と主張する一方,できないということを体験することで不安や抑うつ気分を訴えた症例を経験した.多専門職種による医学的リハビリテーション(以下,リハ)の中で,作業療法(以下,OT)部門では,標準的な認知訓練2)に加えて,こうした障害を「患者自身がどう感じているか?」ということに焦点を置き,気づきを促し,適応的な考えをもって目標達成に向けた行動に至るようにはたらきかけた.適応的思考に至る経過について考察を加えて報告する.

 本報告に関して患者本人ならびにご家族に内容の把握や個人情報の保護について文書で説明し,書面で同意を得,国立障害者リハビリテーションセンター倫理審査委員会の承認を得た.

連載 ISPRM招致活動記録・第4回

Kenes担当者による視察 道免 和久
  • 文献概要を表示

 連載第2回の経緯のとおり,2015年1月早々に大阪,名古屋,神戸各都市へのKenes(国際的なPCO:前回連載参照)担当者の視察が決まりました.3都市ともアピールのため視察時間を少しでも長く確保したかったようですが,すべてJNTO(日本政府観光局)が調整してくれました.基本的に各都市とのやりとりはJNTOの役割でした.正味3日間の視察の詳細なスケジュールが決定し,都市や学会の対応担当者の割り当ても決まりました.また,心強いことにJNTO担当者も終始同行してくださることになりました.

 最初のハプニングは,ヨーロッパの天候不良によりKenes担当者の来日が24時間遅れたことです.短い視察期間がさらに短くなったことで,各都市ともスケジュール変更に追われました.ここでもできるだけ視察内容を削りたくない各都市の意向の調整が大変だったようです.

  • 文献概要を表示

はじめに

 卵巣奇形腫に基づく傍腫瘍性辺縁系脳炎は,抗N-methyl-D-aspartate受容体(以下,NMDAR)抗体との関連が報告されており,他の傍腫瘍性神経症候群と比べて比較的良好な生命予後や機能予後が特徴とされている1).リハビリテーション(以下,リハ)の領域でも近年その臨床像の報告を散見するが,いまだ疾患概念が十分に浸透しているとは言いがたい.抗NMDAR脳炎における特徴的な回復過程について,高次脳機能評価を中心に,当科で経験した5症例の検討を行ったので,文献的考察を加えて報告する.

リハニュース【Topics】

  • 文献概要を表示

はじめに

 前回は,リハビリテーション(以下,リハ)科領域の新専門医制度の概要と研修プログラムについて解説した.今回は,新制度に向けた専門医資格の取得と更新について述べる.なお本稿の内容については,今後の日本リハ医学会,日本専門医機構で検討する中で変更になる可能性があり,最新の情報は学会ホームページなどを参照していただきたい.なお,日本リハ医学会が認定する認定臨床医制度は,現状のまま残ることになっている.

リハニュース【リハ医への期待】

  • 文献概要を表示

改めて問い直される「リハビリテーションとは何か」

 医療・介護の分野で改めて「リハビリテーション(以下,リハビリ)とは何か」が静かに問い直されようとしている.わが国が直面する急速な少子高齢化も背景にはある.しかし,事はそれだけではないのであろう.「回復期リハビリテーション病棟」の診療報酬への導入,リハビリ前置を理念とした「介護保険制度」創設など,新世紀2000年を機に医療と介護で相次いで制度化・普及へと舵がきられた“リハビリ”の成果やあり方が今日,問われているからではないか.

 サービスとしてのリハビリは一連の制度化で急速に普及,患者や住民にとって身近なものとなった.著名なスポーツ選手が集中的なリハビリで見違えるほどに回復,人々に感動と希望を与えた.地域のリハビリ・ニーズに呼応し,サービス提供者も大幅に増加した.溢れんばかりの“リハビリ・ブーム”と言っても過言ではないだろう.

リハニュース【REPORT】

  • 文献概要を表示

 第5回アジアオセアニアリハビリテーション医学会が,フィリピンのセブ島にて2016年2月18〜22日の会期でRaddisson Blu Cebu Hotelにて開催された.フィリピンのセブ島には,成田空港より直行便で約5時間,時差も1時間という距離にあり,移動の疲れもそれほど感じず学会を満喫することができた.

 本学会においては,脳卒中や頭部外傷のリハビリテーション(以下,リハ),ニューロリハ,ロボットリハなど,さまざまなテーマが設定されていた.特にスポーツリハや水中療法のセッションでは,実際のデモンストレーションも行われた.スポーツリハのセッションにおいては,各国の参加者が一緒になり運動療法を楽しみ,国の垣根を超えて皆で楽しんでいるのがたいへん印象的であった.スポーツリハと同タイミングで壁を挟んだ反対側では,災害時におけるリハ医の経験の発表がなされていた.ハイアン台風やネパールの大地震における被害の話や,その状況下におけるリハの現状についての実際の声を聞くことができた.特にアジア圏は自然災害が多く,それにより障害を負う方,また住居を失う割合が多いことが示されていた.口頭発表のセッションにおいて驚かされたのは,海外の方のディスカッション能力である.自分の名を名乗ることなく,積極的に質問しディスカッションする姿には驚かされた.日頃,日本の学会では味わうことのできない経験をたくさんすることができ,今後の臨床や研究に生かすことのできる貴重な機会であった.また英会話能力の重要性を再認識させられる学会でもあった.

--------------------

お知らせ

次号予告

基本情報

18813526.53.4.jpg
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine
53巻4号 (2016年4月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1881-3526 日本リハビリテーション医学会

文献閲覧数ランキング(
10月4日~10月10日
)