糖尿病診療マスター 6巻4号 (2008年7月)

特集 Pros & Cons 糖尿病腎症と慢性腎臓病(CKD)

糖尿病腎症とCKDの定義および病期分類には乖離がある

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●正常アルブミン尿の糖尿病患者のうち,38%でGFRの低下(60mL/min/1.73m2未満)がみられる.

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●糖尿病性腎症の病期は腎症病期分類に準拠し判定するがCKD分類のどのstageかも確認する.

慢性糸球体腎炎からの透析導入が減少しているのに対し糖尿病腎症からの透析が増加しているのは,血糖コントロールが不十分だからである

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●慢性糸球体腎炎の半数を占めるIgA腎症において,近年,治療目標が従来の「腎症がある程度進行した段階で治療介入し,腎症の進行を遅らせる」から「早期の段階から治療介入し,腎症の寛解・治癒を目指す」にパラダイムシフトした.

●このパラダイムシフトに伴い,慢性糸球体腎炎による透析導入患者数は減少傾向に転じた.

●糖尿病性腎症による透析導入患者数を減少させるためには早期の段階からの腎症の寛解を目指した積極的治療介入が必要である.

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●大規模臨床試験の強化療法群でさえもHbA1c値の平均は7%程度である.

●糖尿病を全て正常血糖近くにコントロールするのは極めて困難であり,腎症などの合併症を完全になくすことは不可能である.

●さらに厳格なコントロールを目指した試験が進行中であり,その結果が待たれる.

●日常診療では,生活習慣の改善による血糖,血圧,体重コントロールを目指す.

健診において高血糖とCKD所見の合併例では,取り扱いをもっと積極的にすべきである

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●糖尿病患者の透析導入と心血管イベントはできるだけ早期からの集学的強化療法で予防できる.

●そのためには,健診・保健指導・医療の連携による耐糖能異常・糖尿病・腎症の早期発見,介入が必要条件である.

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●現在,健診によって糖尿病性早期腎症を把握することは困難である.

●また,糖尿病の経過中に尿蛋白が陽性となるのは糖尿病性腎症のみならず,慢性糸球体腎炎や良性腎硬化症の合併も念頭におく必要がある.

糖尿病診療では尿検査を毎回実施すべきである

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●糖尿病性腎症の発症を見逃さないために定期的な尿検査が必要である.

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●何度か通院し病状がわかれば,尿検査を毎回実施しなくともよい

多量の蛋白尿あるいは腎機能低下例では早めに腎臓医に管理を依頼すべきである

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●高度蛋白尿と腎機能低下例は進行が早いため,腎機能改善外来のようなチーム医療による強力な治療が必要である.

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●糖尿病腎症は末期腎不全への進行のみならず心血管疾患の大きなリスクファクターであり,腎臓専門医との連携のみならず,チーム医療により血糖,血圧,脂質など多くの因子を厳格にコントロールする集約的治療が必要である.

顕性腎症においては血糖コントロールは厳格にすべきであり,インスリン治療も必須である

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●糖尿病性腎症(腎症)には様々な成因が存在するが,その根本にあるのは高血糖である.

●したがって,血糖コントロールは腎症のどの病期であっても根本的な原因を解決する極めて重要な治療法である.

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●顕性腎症期にどの程度の血糖コントロールが望ましいかを示す科学的根拠は極めて乏しい.

●最も重要なのは厳格な血圧管理であり,血糖コントロールは無理のない範囲で行う.

顕性腎症の血圧は降圧薬が何剤になっても降圧目標を達成すべきである

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●糖尿病性腎症の進行抑制には,厳格な降圧とレニンアンジオテンシン系制御のいずれもが必要である.

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●顕性腎症を呈する2型糖尿症においても血糖,血圧,体重,血清脂質を管理する集約的治療が重要である.

●血圧コントロールの際には,起立性低血圧など合併症への配慮が必要である.

糖尿病腎症においてはスタチン系高脂血症薬を積極的に使うべきである

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●腎症における脂質代謝異常は,心血管疾患のリスクとなるばかりでなく,腎障害の増悪機転にも関与している.

●腎症では積極的な脂質管理が望まれ,スタチンはその中心的な役割を果たす.

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●どのような症例であれば,スタチンを安全に使用でき,その効果が望めるかというコンセンサスは得られておらず,さらなる臨床研究の実施が期待される.

低蛋白食は0.5~0.6g/kg/日以下でなければ腎保護効果は期待できない

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●透析療法導入患者の原疾患の割合は糖尿病腎症が著しく増加しており,2006年には42.9%に上った.

●糖尿病腎症による透析療法導入患者を減少させる治療法を積極的に適用するべきである.

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●糖尿病腎症の治療法として

① 厳格な血糖管理(HbA1c6.5%未満)

② レニン-アンジオテンシン系阻害薬を第一選択とした厳格な降圧療法(130/80mmHg未満)

③ 適切な食塩摂取の制限(6g/日未満)

④ 適切な蛋白摂取の制限(0.8~1.0g/kg/日)

低蛋白食には低蛋白米やエネルギー調整食品を積極的に使用すべきである

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●低蛋白・エネルギー調整食品の利用は腎臓食に必須である.

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●糖尿病性腎症の食事は,低蛋白米やエネルギー調整食品を使用しただけでは,蛋白質摂取量は減らせない.

顕性腎症期にも運動療法を積極的に勧めるべきである

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●適切な運動療法は,あらゆる病期において,腎症進展,心血管事故の防止およびADL維持に有益である.

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●顕性腎症期以降は,積極的な運動療法の適応はなく,体力維持のための運動が推奨される.

●慢性腎不全患者における長期間の運動の影響をみた報告では,腎機能は不変であるものが多い.

●他の合併症の程度,腎不全の管理状況をみたうえで運動が許容できるか判断する.

●腎血流を低下させる病態(脱水,併用薬剤など)に注意する.

腎性貧血のエリスロポエチン治療ではHb10g/dL以上を維持すべきである

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●血清Cre2mg/dL以上あるいはCCR30mL/分以下の貧血ではエリスロポエチン投与を検討する.

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●エリスロポエチン製剤による腎性貧血の是正が可能となったが,目標とすべきヘモグロビン(Hb)値はいまだ明らかでない.

●全身性に動脈硬化症が高度な例ではヘモグロビン10g/dL以上の貧血是正が危険な場合がある.このことは糖尿病患者には限らないが,その可能性はより高い.

●重要臓器の血管系に狭窄ないしは閉塞病変が強く予想される例では,灌流障害を惹起して危険な合併症の原因となる可能性があることに十分に留意すべきである.

CKD患者の大血管障害のハイリスク群には,心筋シンチよりもCAGを積極的に行うべきである

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●糖尿病+CKD(糖尿病腎症3期まで)においては,CAGによる積極的冠動脈狭窄の発見の意義が造影剤リスクを上回る.

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●慢性腎臓病患者の診察においては,常に,虚血性心疾患の合併を考え,安静時の心電図のほか定期的な負荷検査が必要である.

●検査は,運動負荷心電図を基本とするが,安静時の心電図で,異常が見られる場合は,診断精度が下がることがあり,この場合,運動負荷心エコー検査が有用である.

●心臓核医学検査は,診断のみならず,リスクの層別化も可能であり,中等度以上の有病率と考えられる症例には非常に有用な検査である.

糖尿病腎症は組織像も含め可逆的である

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●結節性病変を伴う糖尿病性糸球体硬化症も集学的治療により改善する.

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●糖尿病性腎症の寛解を目指した治療は原疾患である糖代謝異常の是正を基本として蛋白尿,高血圧,高脂血症,肥満,血液凝固異常,心血管病,動脈硬化症,貧血,尿毒症毒素貯留など併発するすべての異常病態へのきめ細かな対応が欠かせない.それゆえ,すべての患者が集学的治療を実践できるかというと,そうではない.結局のところ,総体として糖尿病性腎症は不可逆的となる.

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 糖尿病の食事療法においては毎食100~120gの野菜を摂ることが大切です.しかし生野菜を毎食十分量継続して食べるのは簡単ではありません.今回は作りやすく食べやすい,お手軽野菜炒めをご紹介します.

Perspective●展望

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 糖尿病の治療の基本は食事療法にあることは言うまでもない.メタボリックシンドローム的な内臓脂肪型肥満の体型の人に食事の仕方を聞くと,多くの人が晩酌しながらいろいろなおかずを食べ,あらかたお腹が満ちてきたところでご飯と漬け物,お茶漬けなどでお腹を満たし,そして「ごちそう様」にしていることがわかる.料亭の食事パターンを家庭に持ち込んだもののようだ.「いただきます」からご飯とおかずをバランスよく食べることを勧めても,料亭型のコースは日本食の伝統に基づくものだと思うという患者さんの反論が返ってきて答えに窮していた.高級料亭に対するあこがれと自分の欲求が一致しているので,患者さんは強気である.しかし日本食の伝統は本来一汁三菜で,お膳にはおかずとご飯と汁椀が一緒に載っていたことも事実であるはずなので,なんとか確認したいと思っていたところ熊倉先生の研究を知り,今回のインタビューになった.一汁三菜のパターンはなんと平安時代,それも京の庶民の食事にまでさかのぼれるのであり,長年の伝統的な食のパターンが崩れることと糖尿病の増加とが重なってきているように思われる.糖尿病食は由緒正しい日本食の伝統に近い食事であることを一言付け加えると患者さんのわだかまりも解消するのではないだろうか.

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 熊倉先生は,日本の喫茶文化・食文化の研究の第一人者でいらっしゃいます.私は以前,熊倉先生のご講演で,日本人の奈良時代からの食事の歴史をうかがい,ぜひ糖尿病患者さんに,和食の伝統を広めなくてはいけないと思いました.熊倉先生のお話の中から,日本にあまり糖尿病がなかった時代の,バランスのとれた日本人の食事のパターンを,みなさんにもう一度思い出していただければと思います.

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 血糖自己モニタリング(self monitoring of blood glucose:SMBG)が重要であることは1型糖尿病のみならず2型糖尿病においても示され(ROSSO研究,Diabetologia 49:271-278, 2006),糖尿病診療ガイドラインにおいても「血糖自己測定はすべての糖尿病患者の自己管理と代謝コントロールのために必要である」(グレードA:行うよう強く勧める)とされる.しかしながら,SMBGはその痛みや手技の煩わしさよりSMBGのみならず糖尿病治療そのもののコンプライアンスにも大きく影響するため,各患者で少しでもコンプライアンスが向上するようにSMBGの機種選択を支援することが大切となる.今回SMBGの機器選択志向に影響する因子に関して,特に高齢者と非高齢者で異なることが明らかとなったので紹介する.

 当院内分泌代謝内科入院中で,国内で汎用度の高い機種(グルテストエース(R)-エースレット(R))によるSMBGを習熟した52名の糖尿病患者を対象とした.その操作性,ディスプレー,痛み,血液量などに関する11項目のアンケート(5段階評点)を行った後,他の機種(フリースタイル(R)-フリースタイルフラッシュキッセイ穿刺器(R),ワンタッチウルトラ(R)-ワンタッチウルトラソフト(R),アキュチェックコンパクト(R)-ソフトクリックスミニ(R)のいずれか1つ)へと変更,1週間の使用後再び同じアンケートを行い,最後にどちらの機種を使用したいかの希望についてもアンケートを行った.この使用希望機種の選択を予測する因子を多重回帰により抽出した.

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◆膵β細胞のシミュレーション

 近年の計算機能力の向上に伴ってシミュレーションは工学分野で特に発展してきたが,医学分野への応用は始まったばかりである.現在膵β細胞でのインスリン分泌機構は主要な分子基盤が明らかとなり,グルコースやスルホニル尿素薬などの刺激に対するシグナル伝達機構の解析も進んでいる1,2).最近これらの情報をもとに膵β細胞での反応を数式で表現し,計算機内でインスリン分泌をシミュレーションしようとする試みがなされている.しかし,計算機能力の限界から,ほとんどが細胞内を均一と仮定したシミュレーションである.近年計算機能力の急速な向上とともに細胞内を時間的・空間的に考慮したシミュレーションが可能になりつつある.

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循環器内科からの紹介状

 今回心不全で入院した69歳の女性です.心不全は落ち着きましたが,入院時に尿糖が陽性,随時血糖値311mg/dL,HbA1cは8.3%でした.また,下肢のしびれがあり,筋力も低下しているようです.糖尿病につき御高診の程お願いいたします.

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□外来指導におけるSMBGデータ管理ソフトの利用

 当科でインスリン治療中の患者は,毎月の外来診察の前に検査科血糖管理部門に血糖測定器を持ち込み,管理ソフト“アキュチェックコンパスJ”による分析結果を出力してもらう.診察室では計算されグラフ化されたデータを患者と一緒に見ながら,より良い血糖コントロールについて話し合い指導している.

 SMBGノートの数値の並んだ表に比べて,管理ソフトによる分析結果は,グラフ化されて視覚的に傾向が把握しやすいだけでなく,期間・時間帯・曜日など多面的な分析が可能であり,また,血糖値の統計処理による平均・分散・分布などの指標も得られるので,指導における有用性が高い.

Introduction to Diabetic Patient Management●糖尿病医療学入門 第10回

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□プロローグ:糖尿病治療なんてする気はなかった

【症例10-1】:50歳代男性;2型糖尿病

 20年前に診断され,近医にときおり通院していたが,治療中断を繰り返していた.最近視力低下を自覚し当院眼科受診.増殖網膜症で硝子体出血をきたしていることが判明する.HbA1c10.8%.

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糖尿病網膜症と空腹時血糖値の関係からみた糖尿病の診断基準の妥当性

福嶋 清香・中神 朋子

適度の飲酒は,肝酵素高値例においても糖尿病発症リスクを下げるか?

森本 彩・西村 理明

インスリン治療は脳心血管疾患死亡と関連はあるのか?

─16年間追跡した成人発症糖尿病患者の血糖コントロール,Cペプチド,インスリン投与量と虚血性心疾患死亡,脳卒中死亡との関係

細井 雅之

基本情報

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糖尿病診療マスター
6巻4号 (2008年7月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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