糖尿病診療マスター 6巻3号 (2008年5月)

特集 見逃してはならない10のSigns & Symptoms

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見逃しを防ぐポイント

●身体症状を主訴にうつ病患者が一般病院を受診することは珍しいものではない.

●糖尿病をはじめとする慢性疾患はうつ病を併発しやすいことを頭の片隅に入れ,目の前の患者さんがうつ病に当てはまるかどうか疑ってみることから始まる.

●合衆国国立精神保健研究所疫学的抑うつ尺度(CES-Dうつ病自己評価表)またはベックうつ病調査票(BDI)の活用,あるいはDSM-Ⅳ-TRの大うつ病診断基準(Box 1)を参考に,一つ一つの項目を患者さんに伺うとよい.

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血糖コントロールが悪化した場合の診療のポイント

・内分泌疾患の合併

・悪性腫瘍の合併

・感染症の合併

・SPIDDMなど内因性インスリン分泌の枯渇

・他科,他施設から投与された薬剤の影響

・不適切なインスリン注射手技,内服の中断

・不適切な食事療法

●これらの可能性を想起して,問診,診察,検査を行う.

●複数の目でさまざまな角度からチェックする.

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糖尿病診療における医原性障害として最もよく遭遇するのが低血糖である.低血糖の訴えがあった場合,何を考えどう対応するのかを述べたい.また,必ずしも患者から「低血糖がでた」と申告があるとは限らないので,無自覚低血糖なども含め常に患者の言動や変化に気をつける必要がある.見逃しを防ぐポイントは以下のとおりである.

●低血糖は思わぬタイミングで思わぬ症状で現れることがある.

●おかしいと思ったら低血糖を疑う.

●薬剤の相互作用,他院からの処方薬にも注意する.

●無自覚低血糖を見逃さない.

●転ばぬ先の杖:日頃から患者に低血糖時の対応を教育する(Tips 1,2).

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見逃しを防ぐポイント

●突然発症する複視と眼瞼下垂(動眼神経麻痺の場合).

●瞳孔異常を伴わないことが多い.あっても軽度.

●発症時あるいは発症数日~2週間前から頭痛あるいは眼窩部痛を認める.

●臨床症状から糖尿病性外眼筋麻痺が最も疑われる場合でも,必ずMRIなど画像診断を行い,他の疾患(特に脳動脈瘤)の除外をする.

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見逃しを防ぐポイント

●高血糖が急激に改善すると一過性の屈折異常(遠視化)が起こり,ものが見えにくくなる.

●見えにくいのは一時的であり自然に回復するので,眼鏡作成は急がないほうがよい.

●糖尿病網膜症悪化による視力障害である可能性もあるので,必ず眼科でもみてもらう.

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見逃しを防ぐポイント

●手のしびれを訴える患者は多く,特に頸椎症に由来する頻度は非常に高い.詳細な問診と理学所見,神経学的検査所見が診断の鍵である.

●糖尿病性末梢神経障害では,一般に手のしびれは両側性である.

●頸椎症の中でも,神経根症では左右どちらかの片側性であり,肩甲帯・上腕から手指に放散するように存在する.

●脊髄症では両側性であるが,下肢のしびれを伴うことが多い.

●頸椎症を基盤とする場合,頸椎後屈での症状悪化が最も重要な所見である.

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見逃しを防ぐポイント

●糖尿病性神経障害による痛みは下肢末端から両側対称性に生じる.

●左右非対称性の疼痛が生じる場合は整形外科的疾患と血管病変を疑う.

●歩行時に生じ,休むと良くなる疼痛(間欠性跛行)では閉塞性動脈硬化症,脊柱管狭窄症などを鑑別する.

●閉塞性動脈硬化症のある患者では虚血性心疾患,脳血管障害など他の動脈硬化性疾患を合併していることが多い.

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見逃しを防ぐポイント

糖尿病患者で「足がむくんできた」と訴えてきた場合,糖尿病腎症の悪化による浮腫が念頭に浮かぶが,他の腎疾患の合併や浮腫を起こす疾患の合併を考慮し,慎重に鑑別のうえ加療すべきである.

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見逃しを防ぐポイント

比較的急速な高血圧の出現あるいはすでに安定した血圧管理が得られていた症例で急速に降圧薬の効果が減弱した場合,以下の可能性を念頭に置き診療に当たる必要がある.

(1)増悪因子の存在(過剰な飲酒,ストレス,慢性疼痛,食塩過剰摂取,急激な体重増加)

(2)服薬コンプライアンス不良

(3)血圧に影響し得る薬剤の使用

(4)睡眠時無呼吸症候群

(5)腎症の出現・増悪

(6)腎血管性高血圧

(7)内分泌性高血圧

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見逃しを防ぐポイント

●糖尿病患者では心不全を発症するリスクが高いが,必ずしも典型的な症状・所見を呈さないこともあり,心不全の診断には血漿BNP値も参考にする.

●心不全の原因として冠動脈疾患が重要であるが,冠動脈疾患が存在しても典型的な心筋虚血の症状を訴えない場合があり,高リスク患者では冠動脈疾患のスクリーニングを施行する.

●スクリーニングとしては従来施行されてきた運動負荷心電図,心筋シンチグラフィに加え,心臓CTが有用である.

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糖尿病の日常診療の中には,見逃してはならない患者からの訴えや身体所見,検査成績の異常など(Signs & Symptoms)が隠されています.きょうの座談会は,具体的な事例を挙げながら,患者さんの訴えや,検査値のわずかな異常をうまくとらえるためのコツを伺いたいと思います.

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 必須脂肪酸のなかでも,n-3系,n-6系脂肪酸の摂取量についてはひと工夫必要です.

 今回は肉料理でもおいしくヘルシーな献立をご紹介いたします.

Perspective●展望

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 糖尿病治療の目標は,細小血管障害,大血管障害の発症・進展を抑止し,非糖尿病者と変わらない高いQOLを維持した人生を過ごすことにあります.糖尿病における血管障害を抑止するためには,厳格な代謝管理が重要であることが,多くの大規模臨床試験によって示されています.

 1型糖尿病患者を対象にしたDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)1),さらにはその後に発表されたEDIC(Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications Research Group)2)の結果により,発症早期の厳格な血糖コントロールが,その後20年間にも及ぶ期間の細小血管障害・大血管障害の発症・進展に重要な意味を持つことが示されています.一方,2型糖尿病患者においては,熊本スタディ3),UKPDS(UK prospective Diabetes Study)4,5)などにより,血糖の管理,血圧の管理が網膜症や腎症のみならず大血管障害の発症・進展阻止に有用であることが確認されています.さらに,Steno-2研究では,スタチンとフィブラートによる厳格な脂質管理,ACE-IやARBを中心とした薬剤による血圧管理,アスピリンの併用,抗酸化薬などの併用のもとに厳格な血糖コントロールをめざす集約的な治療は,血管障害の発症・進展に重要な役割を担っていることが報告されています6~8)

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 良好な医療,リスク管理という点から,医療の現場でも,患者さんとのコミュニケーション,患者さんの接遇ということがとても重要になってきています.救急の疾患を扱う場面では,患者さんの訴えや検査データをもとに,医師主導の,いわゆるパターナリズムの医療を実践することに大きな問題はありません.しかし,糖尿病のような慢性疾患では,患者さんの理解,解釈,病気に対する思いなどが重要になってきます.そのような場面では,患者さんと医療スタッフのコミュニケーション(コミュニケーションによる医療情報の収集)が診療の現場でとても重要な要素を占めるようになります.

 今回は,接遇マナー,人間関係,スピーチ,プレゼンテーションのインストラクターとして全国各地を飛び回っている大井澄子さんに,医療の現場に必要なコミュニケーションテクニックの『コツ』についてお話を伺おうと思います.

Consultation Diabetology●コンサルテーションから考える糖尿病外来診療 第9回

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他院の一般内科からの紹介状

 57歳,女性.4カ月ほど前に口渇,多飲,体重減少にて受診.糖尿病と診断し,以後,インスリンの頻回注射を行っています.現在,随時血糖127mg/dL,HbA1C7.2%です.2カ月ほど前より,下肢の焼けつくようなしびれがあり,最近では下痢もひどく外出ができないほどだとのことです.御高診のうえ,ご加療の程お願い申し上げます.

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日本人2型糖尿病の遺伝素因を明らかにする.

◆日本人2型糖尿病の候補遺伝子

 インスリンの分泌不全は日本人を含むアジア系人種における2型糖尿病の特徴であり1),膵β細胞機能に関与する分子は2型糖尿病の候補遺伝子と考えられる.膵β細胞の発生,分化および維持に重要な役割を担う転写因子群の遺伝子異常は糖尿病を引き起こすことが知られる2).また,膵β細胞におけるインスリン分泌に中心的役割を果たすATP感受性カリウムチャネル(KATPチャネル)3)の遺伝子異常のいくつかは重篤な糖尿病を引き起こす.これまでさまざまの人種においてこれら膵β細胞機能に関与する遺伝子の多型と2型糖尿病との関連が報告されてきたが,日本人において大規模な検討は行われていなかった.

Brush Up ! CDE●糖尿病療養指導のためのオリジナル教材 第3回

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 済生会松山病院のオリジナル教材の中から,2006年に一部改良した糖尿病教育入院クリニカルパス(Box 1)と,糖尿病教育入院アウトカム表(医療者用)(Box 2)の2点を紹介させていただきます.

1.糖尿病教育入院クリニカルパス

 パスは,1週目・2週目と2枚あります(オリジナルはA3版2枚ですが,Box 1には,偏倍して合成したものを示します).

Introduction to Diabetic Patient Management●糖尿病医療学入門 第9回

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 1999年度のミス・アメリカに選ばれたニコール・ジョンソン(Nichole Johnson)さんは1型糖尿病を持っている.発病したのは19歳のときであった.そのとき彼女は大学2回生であり,ミス・アメリカのバージニア州代表コンテストに応募していた.そんな彼女を1型糖尿病が襲った.彼女はコンテストを断念し,糖尿病治療に専念することにした.しかしながら,彼女のこころを占拠し続けたのは,「なぜ私が糖尿病に」という気持ちであった.

 それが数年続いた後,再び彼女にもう一度やってみようという気持ちが起こった.一念発起して1999年にはついにミス・アメリカとなった.その後,彼女は世界中を回って1型糖尿病治療の啓蒙と支援の仕事をしている(Box 1).

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症例は,48歳時に糖尿病を指摘,52歳時にMEN1を確認された56歳女性.下垂体プロラクチノーマと副甲状腺腺腫,十二指腸ガストリノーマを指摘されている.二人の子供(長男と長女)にもMEN1の家族歴があり,そのうち長男は糖尿病も合併している点で共通している.本症例の糖尿病は軽度であるが,食事運動療法によるコントロールが不良となったため,経口血糖降下薬を内服開始した.その結果,現在の血糖コントロールは良好である.MEN1は比較的稀な疾患ではあるが,糖尿病患者の中にこの疾患が潜んでいる可能性を意識すること,特に高Ca血症および低P血症によって副甲状腺機能亢進症をスクリーニングすることは有益であると思われた.また,逆にMEN1患者を診療する際には患者本人およびその家族も含めて定期的に耐糖能を評価する必要があると思われた.

 Caseの教訓:糖尿病患者の中に隠れた副甲状腺機能亢進症を見逃さないため,血清の補正Ca値およびP値をチェックし,その中からさらにMEN1を除外することは有益であると思われる.

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糖尿病患者の血糖値管理にSMBGが重要な役割を果たすことは論を俟たない.診療報酬上も,在宅で血糖の自己測定をさせ,その記録に基づき指導を行った場合に在宅自己注射指導管理料に加算が認められている.しかし,糖尿病手帳に記録された血糖値の羅列の中から効果的な指導に結びつく傾向を読み取るには,医師にも十分な時間や経験が求められる.近年,これらの問題を解決するためにSMBGデータ管理ソフトが開発されている.本連載では,実際に診療の現場でSMBGデータ管理ソフトを使用されている先生方に,その具体的な使用方法やメリットをご紹介いただいた.

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1.The art and science of diabetes education

 5月22~24日に第51回日本糖尿病学会(JDS)が東京で開催されます.24日には,糖尿病教育に関する“Global trends in diabetes education:From instructions on diabetes care to tips on patient empowerment(療養指導システムからエンパワーメントの実際まで―糖尿病教育の国際的動向―)”と題するシンポジウムが行われ,「The Art of Empowerment」1)の著者の一人である,M.R. Anderson先生が講演されます.

 エンパワーメント法は,糖尿病を持つ患者さん自身が主体的に自己管理行動が行えるように,情報の共有と協調的な目標設定,問題解決(患者さんに自己決定権を委ねる)などを,医療チームと患者さんとの生産的な関わりを通して行おうとするものです.エンパワーメント法の第一人者であるAnderson先生は“The art and science of diabetes education”2)と題する論文の中で「信頼と尊敬と受容によって特色付けられる患者さんとの前向きな関係を,有効なコミュニケーションで築くことがArt(技)である.」と述べています.

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 このたび松村,箕輪両氏の編集による『コミュニケーションスキル・トレーニング―患者満足度の向上と効果的な診療のために』が出版された.その帯には「ベテラン医師を対象とした云々」とある.患者面接などに関する実践的な手法については,最近の医学部での教育や臨床研修医の採用において用いられていて,自らもおおよそのことを知ってはいたが,「ベテラン医師」から見ても確かに一読するとうなずくところが多々ある.

 さて,日本語はもともと敬語が発達していて,対話する相手との距離などを測りながらそれを巧みに使うことになっていて,そこにこそ言わば教養のなせるわざがある.したがって,医師はこの面でも研鑽すべきだろうと自らは漠然と考えていた.本書にはさすがにそのような言及はないが,それよりもっと基本的な面接などに関する体系的な仕組みについて解説されている.コミュニケーションスキル・トレーニングなどという教育が微塵もなかったわれわれでも,本書にある標準的な仕組みを頭に入れて医療を展開するなら,内科診断学やSigns & Symptomsの基本である患者情報をまずは効果的に得ることに役立つ.引き続く治療についても患者に大いにその気になってもらううえで,この体系的な仕組みを実践する意義は大いにあると言うべきであろう.

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非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の2型糖尿病への影響

和田 純子・中神 朋子

2型糖尿病の死亡率に対する多因子介入の効果(Steno-2研究)

瀧 謙太郎・西村 理明

あなたならどうする-次の一手

細井 雅之

基本情報

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糖尿病診療マスター
6巻3号 (2008年5月)
電子版ISSN:1347-8389 印刷版ISSN:1347-8176 医学書院

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