訪問看護と介護 26巻1号 (2021年1月)

特集 倫理的感受性を高める—ACPにも必要な「価値観を揺さぶられる」感性

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誰かの人生に深く関わる訪問看護の現場では、倫理的葛藤に直面することが多くあります。

ただ、それを「課題」であると意識する機会がない限り、ケアを提供すべき療養者や家族を知らず知らずのうちに傷つけてしまう可能性さえあります。

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穏やかな生活を取り戻していたAさん

Aさん、65歳、男性。2年前に食道がんと診断され、手術療法を行うが半年後に再発した。その後、化学放射線療法を実施し、その後に徐々に通過障害が進行し、胃ろうを造設した。

胃ろうからの注入のみの生活が1年以上経過している。最近は痛みや倦怠感が強く、自力での注入は困難となり、妻に頼っている。

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「誰かがいること」を優先してしまう

 ある療養者、Aさんのこと。訪問看護の依頼時にその背景を聞き、生活環境を見た時点で、「今は元気だけど、この病気は進行性だし、独居。早めにケアマネジャーとヘルパーに介入してもらって、よい関係をつくってもらい、安否確認ができるようにしなきゃ」と思い、早々にサービス導入を決めた。

 しかし、Aさんは介護保険の仕組みも訪問看護の必要性も認識できておらず、「頼みたいこと」と「介護保険の範疇でやってもらえること」が合致しなかった。最初はこちらの提案を渋々受け入れてくれたものの、ヘルパーが来ても「頼めることがない」と途中で断わってしまった。安否確認も含めてサービスを導入しておきたかった“こちらの理由”は本人にとって関係ないものであった。

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 介護支援専門員(以下、ケアマネ)の倫理綱領には、「自立支援」「利用者の権利擁護」「専門的知識と技術の向上」「公正・中立な立場の堅持」「社会的信頼の確立」「秘密保持」「法令遵守」「説明責任」「苦情への対応」「他の専門職との連携」「地域包括ケアへの推進」「より良い社会づくりへの貢献」が掲げられています。

 私は介護保険制度開始時からケアマネとして活動し、この間、多くの利用者を担当させていただきました。最初の頃は、相談援助者としての基本や、ケアマネジメントの理解も浅く、本来の役割が果たせていなかったと思います。

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叫びながら、物を投げながら家にいる男性

 私は東京多摩地区にある精神科病院の訪問看護室に勤務して、12年になろうとしている。

 利用者さんは全て当院の外来に通院しており、いわゆる未治療の人はいない。とはいえ、精神科医療を受けてはいても、効果は人によって違う。中には、常時妄想や幻聴などの陽性症状が強い人もいて、こうした人はさまざまな支援を受けながら、どうにか地域で暮らしている。

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2020年は新型コロナウイルス感染症で、医療と介護の現場は一変してしまいました。

その中でも、感染対策を重視した入院中の面会制限が与える患者や家族への負の影響はあまりにも大きく、在宅医療の現場で働く私にとってもどう理解し、どうしたらよいのか分からない倫理的なジレンマです。

それでも、今よりも少しでも前に進みたいと書いたのが、この「もやもやちゃん」の物語です。

皆さんとこのジレンマをどうしたらよいのか、考えてみたいと思います。

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訪問現場は倫理的課題にあふれている

 訪問看護の現場で働いていると「本当にこれでいいのかな」と思うことや、「(自分の中で)あり得ない!」と思うような出来事を経験することがあります。家の中に「トイレがない」「お風呂がない」ことを知ったときには、今どきそんな家があるんだと驚いたり、足の踏み場がないくらいにゴミが散乱している部屋に足を一歩踏み入れたら靴下にじんわりと染み込むもの(尿失禁)があったりと、「うそでしょう!?」と思うようなことが、私にもたくさんありました。

 在宅には、多くの人にとって「これまでに体験したことがない現場」があります。当然、訪問看護を始めたばかりの頃は戸惑うことも多いでしょう。

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「協働する仕組み」として始めた研修

 ステーションイルカは、営利法人の訪問看護ステーションとして2002年、京都市に開業しました。住み慣れた自宅で療養を続けたいと願う方々に寄り添い、「ひとりひとりの想いを大切に、その人にとって生きがいのある生活を支援する」ことを理念に、訪問看護活動に取り組んでいます。

 自宅での療養を継続し、最期まで自宅で過ごしてもらうためには、多職種の協力は必須です。特に独居高齢者の終末期では、本人が意向を表明しにくくなったとしても「その人の意思決定を大切にしていく」には、いくつもの課題にぶつかることがあります。その課題を解決するには、地域の医療・介護・福祉職がよりよい形で協働し、それぞれの専門性を発揮できるような「仕組みづくり」が重要だと考え、組織の枠を超えて多職種が共に学ぶ機会(研修)をつくりました。これをきっかけとして日常的に連携が図られ、地域の力が拡大することを目指したものです。

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人の印象とステレオタイプ

 私たちは、周りの人たちについての印象を絶え間なく形成しています。これを「印象形成」と呼び、心理学、特に社会心理学の研究領域の中に古くから含まれてきました。なぜなら、人に対してどのような行動をとるか、その人との関わり合いを決めている1つの要因として「印象」があるからです。自分がよい印象を抱いている人には積極的に近寄っていくかもしれませんし、逆にあまりよい印象を抱いていない人に対しては最小限の関わりに抑えたり、できる場合は避けたりしがちです。そこで、心理学の研究としてはこうした印象が本当に合っているのかという点にも関心が向けられました。

 そもそも私たちは、どのように人の印象を形成しているのでしょうか。

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 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の第2波の波が収まらないうちに、第3波に入った。全国の重傷者数は既に第1波の際のそれを超えている*1。本稿では、ウィズコロナ時代、訪問看護に期待される機能、新型コロナの対応に関する国の方針、さらに利用者そして地域住民のいのちと健康、生活を守るための策として地域包括BCPを提案する。

レポート こちら現場からお届けします!・第10回

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小さな「教育研修部」

 名古屋市某所、2LDKの賃貸マンションの1室にある、関西弁が飛び交う訪問看護ステーション。その教育研修部門は、看護師である私と一般企業出身のスタッフとの2人体制で運営しています。

 数年前、私は1拠点の小さな訪問看護ステーションに入職しました。あれよあれよと大きくなり、今では市内10拠点、東京・岐阜を含めると全12拠点にまで成長しました。気付けば教育研修部という部署まで立ち上がりました。私が所属しているのは、みんなのかかりつけ訪問看護ステーションなどを運営する株式会社デザインケアで、現在130名ほどのスタッフが在籍しています。

連載 訪問看護師のための判断力トレーニング・1【新連載】

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命と暮らしを支える訪問看護師の判断力

 在宅の現場で訪問看護師は、限られた時間の中で情報を収集し、その時々の状況に応じて「判断」することが求められます。

 判断が必要な場面というのもさまざまです。緊急訪問の電話を受けた時のような「急を要する場面」もあれば、終末期や療養の場を選ぶ際のような「選択を支える場面」、「日々の生活を整えるためのケアマネンジメント場面」もあるなど、私たちは実に多様なシチュエーションで判断をしています。

連載 在宅ケア もっとやさしく、もっと自由に!・136

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 アメリカ発祥の「Continuing Care Retirement Community」、略称「CCRC」。これは、リタイア後の高齢者が健康な段階で入居し、継続的なケアを受けながら終身暮らすことができる生活共同体のことを指します。計画的に「街づくり」された郊外の広大な地域に、数百人規模の高齢者が住むイメージです。そんな場所が、全米で2000か所にも増えているといいます。

 一般的な高齢者施設と異なるのは、元気なうちからコミュニティに移り住む点。元気なうちから移り住むことによって、その地域共同体に新たな一員として加わることができます。そして、時間が経って医療や介護が必要となる段階が訪れても、そのころにはそこが「住み慣れた場所」となり、他地域にある施設へ移ることなく、適切なケアを受けながら暮らすことができるというわけです。

連載 「みんなの認知症見立て塾」出張講義 認知症「見立て」の知「対応」の技・第10回

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 前回から「認知症の病型分類」について解説しています。少し復習しておきましょう。認知症の状態にある人を前にしたとき、まずはそれが改善可能性のあるものかどうかの確認が必要です。そして、改善の可能性がないものであると判断された後に、認知症の病型分類、つまりその認知症の原因疾患が何であるのかを推測する。それが大きな流れであると説明しました。

 その上で前回は原因疾患の解説として、「4大認知症」と呼ばれるものの中からレビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症の3つについてお伝えしました。今回は、残りの1つであるアルツハイマー型認知症について解説していきます。

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 結論から書くと、「私はこんな本を待っていた」。臨床で学習者を支援する管理者やプリセプター、またはエルダーにあたる臨床家で教育に関わる人々には、本書をお薦めしたい。臨床に身を置きながら、半径数メートルの人々の学習・教育に携わる人こそ、「こういうふうに進めたかったのだ」と思うヒントが随所に散りばめられているはずだからだ。私自身、本書を参考にしながら、自組織の教育について新たな組み立てをしたいと考えている。

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おばあちゃんへの後悔

 看護職だった母が忙しく、私はおばあちゃんに育てられました。なぜだか分からないけれど、自分のことをとても好いてくれているのに、優しくできないでつらく当たってしまった、後悔の苦い思い出が残っています。

 最後に入院して亡くなるまでは、祖母は在宅で療養していました。その頃、高校3年生の受験期で学校の授業がなかった私は、祖母の昼食を作ってから図書館で勉強し、母が帰る頃に帰宅していました。自分が作った食事の塩分が多かったから死んだのではないかと、長い間、思っていました。

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 2020年10月6日(火)、第6回「山上の光賞」授賞式がオンラインで開催され、川村佐和子氏(聖隷クリストファー大学教授)が、難病看護と在宅看護の礎を築いたことを評価され受賞した。

 山上の光賞は、日本の広範な健康・医療・医学分野においてすばらしい活躍をし、よりよい社会を築くことに貢献している方々を表彰するもので、これまでに川島みどり氏や南裕子氏が受賞している。今回は、新型コロナウイルス感染症流行の影響で、授賞式はオンラインでのみ配信され、動画が同賞ウェブサイトに掲載されている(https://sanjo-no-hikari-sho.com/recipient2020)。

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目次

今月の5冊

Information 学会・研究会情報

バックナンバー・年間購読のご案内

FAX購読申込書

次号予告・編集後記 米沢 , 小池
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作者・高橋恵子さんによる巻頭漫画「家でのこと」が前号で最終回を迎え、待望の書籍化が実現します! 最終回掲載後、書籍用の描き下ろし原稿も完成させ、魂を削りながら家での物語たちに寄り添ってくださっていました。1年間、本当にありがとうございました。なお、2021年も引き続き表紙イラストはご担当いただきます。読者の皆さんのお忙しい日々に、一瞬でも、ホッとできる高橋さんの絵をお届けできたらと存じます。……米沢

この後記を書いているのは2020年12月頭。スケジュール帳を見返すと、今年は遠出の取材&出張はほぼしていません。コロナによって、仕事のスタイルもかなり変わってきました。皆、どうやって仕事しているんだろう。さて、前号から引き続く形で特別記事「ウィズコロナ時代の訪問看護(後編)」を掲載しています。「事業所」単位のミクロでやるべきことと、「地域(全国)」単位のマクロでやるべきことが整理できる記事です。マクロでやるべきことをミクロで挑んでしまって跳ね返されたり、あるいはミクロにやるべきことをマクロの問題に還元してスルーしてしまったりということは往々にしてあるもの。だからこそ、これらを整理しておくことは重要だなと感じます。…小池

基本情報

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訪問看護と介護
26巻1号 (2021年1月)
電子版ISSN:1882-143X 印刷版ISSN:1341-7045 医学書院

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