訪問看護と介護 25巻5号 (2020年5月)

特集 「喪失」に直面する人へのケア

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「喪失」は、誰もが人生の中で幾度となく経験するものです。

「老化や病気、障害によって心身の健康が損なわれる」

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喪失(ロス)とは?

個別性の高い体験

 最近、「○○ロス」という言葉をしばしば見かけます。以前から、ペットとの死別を示す「ペットロス」という言葉はありましたが、近頃は著名人の結婚や引退、テレビ番組の終了などでも、ファン心理を表す表現として用いられています。片仮名表記でのロスという表現は目新しいですが、ロス(loss)、すなわち「喪失」という体験自体は、もちろん最近の現象でも特殊なものでもありません。

 「喪失」とは自らの生活や人生にとって大切と思う何かを失うことであり、それが本人にとって重大な意味を持つ主観的な体験です。客観的には同種の喪失であったとしても、その受け止め方は人によって違います。直面した喪失を過大に捉える人もいれば、そうでない人もいて、その出来事が及ぼす影響も人によって大きく異なります。喪失体験は個別性の高い体験であり、周囲の人が想像している以上に、本人は大きな苦痛を抱えているかもしれません。

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あいまいな喪失とは何か

医療・福祉にもヒントをもたらす概念

 「あいまいな喪失」は、英語ではAmbiguous Lossといい、「Ambiguous」は「曖昧な」「不明瞭な」という意味を表す言葉です。例えば災害に巻き込まれ、その方のご遺体が見つからないとき、それはその方が「生きている」のか、「亡くなった」のかがはっきりしない状態であり、その方の家族にとっては「あいまいな喪失を経験している」と言うことができます。

 私が最初にこの言葉とその概念を知ったのは、東日本大震災の直後でした。私はもともと遺族支援を専門に研究や実践活動を行っていましたが、東日本大震災で多くの方が行方不明となり、家族が行方不明となったご家族への支援は、遺族と同じ対応でよいのだろうか、と疑問をもったことが知ったきっかけでした。いろいろと調べる中で、家族が行方不明のまま見つからない人たちを数多く支援してきたポーリン・ボス(Pauline Boss)博士がアメリカにいることを知り、博士にコンタクトをとりました。それを契機に、博士が提唱する「あいまいな喪失の理論と介入方法」をアメリカで学ぶ機会に恵まれました。その後、仲間とともにその考え方を日本に持ち帰り、東日本大震災の被災地で「あいまいな喪失」をテーマとした事例検討会を開催したり、あいまいな喪失を紹介するウェブサイト*1を作成したり、書籍*2・3を翻訳・出版したりしてきました。

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対人援助職にもケアが必要だ

 どうしてケアする人のケアが必要なのでしょう? 対人援助者はよりよいケアを提供するために、常に相手のニーズに応えようとしています。特に、在宅や地域でケアが必要な方の暮らしに寄り添う訪問看護師などの援助者は、利用者の生活に直接的に関わり、本人とその家族を支援するチームの欠かせないメンバーとして、彼らのニーズに応えようと努めます。利用者が安心して生活を送ることができるのを見ることで、専門職としてのやりがいや達成感を得ることができます。

 援助は、そのように報われる側面もあるのですが、同時に、非常にストレスフルな仕事でもあります。一昔前には、プロフェッショナルであれば、職務によって受ける精神的な負担は自分で乗り越えるのが当然であると考えられていたのですが、近年、病気で亡くなりゆく人や悲嘆の中にある人と接する援助者の「悲嘆」が、バーンアウトを引き起こすストレス要因の1つとなることが注目され、離職につながっているという報告が多く見られるようになりました。

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 訪問看護の対象者はさまざまである。老化、慢性疾患、神経難病、がん、小児から高齢者まで、疾患も病期も年齢も、生活環境や介護者の状況もみな違っている。

 訪問看護師が初めて出会う時期もまちまちだ。安定期から関わり、本人・家族らと関係を保った中で終末期に近付いてくる人もいれば、急性期で回復を目指して治療を望んでいる人、出会ったときにはすでに残りの時間がわずかになっている人もいる。時間がない中で本人や家族と関係をつくり、やがて訪れる喪失へのケアがどのようにできるかは、私たちに課せられた課題でもある。

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 「ひだまりの会」は、葬儀会社である株式会社公益社が社会貢献事業の一環として2003年12月に開始したものです。活動目的はサポートグループを中心とした遺族ケアであり、具体的には遺族同士が集まり体験を語り合う場、有識者の講演会などの企画を中心に、会員が有志で学習会を実施するほか、会報誌の発行も行っています。

 葬儀社スタッフの「ご葬儀後も何かお役に立てないだろうか」という思いから始まった、つまりグリーフケアとは何たるかをよく理解していないところから手探りで開始した活動でしたが、2020年2月末時点での総参加者数は1005人に上ります。この間、参加者からの声を頂戴しながら、提供するサービスを充実させ続けてきました。

連載 マグネットステーション インタビュー・55

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学会発表の場で、良い意味で“異彩”を放つステーションがある——そう感じていたのが「ななーる訪問看護ステーション」です。理路整然とプレゼンテーションをしながらも、謙虚で、地域に対して温かなまなざしを向ける若いスタッフの皆さんたち。これからは、こんな訪問看護師たちが増えていくのだな、と思わせられました。

そんな、ななーる訪問看護ステーションの勝眞久美子さんに、どのようにスタッフを集め、育てているのか話を聞きました。

連載 家でのこと・第5回

もうひとつの家 高橋 恵子
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よし、終わり。

今日、私はうちを出る。

連載 在宅ケア もっとやさしく、もっと自由に!・128

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 新型コロナウイルス感染症の流行により、さまざまな影響が出ています。マスクや消毒アルコールの不足をはじめ、「高齢者が感染したら」という恐れから、各種の催しが中止されたり、通所が止められて要介護者が外に出られなくなったりといったことが起こっています。在宅でのインパクトも大きなものですが、皆さんの現場はいかがでしょうか。

 その落ち着かない時期と重なるように、秋田に住む81歳の私の兄が自宅で亡くなりました。肺がん肝転移でした。

連載 地域連携の技術 ファシリテーション・スキル・第5回

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 前回は、「ワールドカフェ」という話し合いの手法をざっくりと紹介しました。

 第5回では、その特徴を疑似体験してもらえるように、誌面で再現してみようと思います。訪問看護師であるあなたは、この会に参加したと想定し、自分ならどのように発言するかも含め、考えながら読んでみてください。

連載 「みんなの認知症見立て塾」出張講義 認知症「見立て」の知「対応」の技・第2回

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 今回から「みんなの認知症見立て塾」の内容をもとに、見立ての知と対応の技をお伝えしていきます。早速ですが、以下のケースをご覧ください。

CASE

 86歳男性のAさん。同世代の妻と2人暮らしをしています。元々は活動的な方で、仕事を定年退職した後も週3日、ゲートボールに行く習慣をもっていました。しかし、3〜4年ほど前からその頻度が減り、気付くと最近は自宅に引きこもり、テレビを観るばかりの生活となっています。

 息子は仕事が忙しく、最近実家に帰ることができていませんでした。しかし、久しぶりに実家に帰り父に会った息子は、以前とは異なる父の活気のない様子に驚きました。しばらく話をしていると、「仕事は忙しいのか」と同じ質問を何度も繰り返します。思わず母に尋ねると、「最近、急にというわけではないが、1〜2年前から物忘れが増えてきた」と言います——。

連載 訪問看護の夢を叶えるICT・第6回

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茨城県だからこそ

 茨城県は日本屈指の農業県です。海と山に恵まれ、太平洋に接した海岸線は190km続き、県北地区は山岳地帯が3分の1を占め、県央から県南西部にかけては関東平野が広がります。

 2016年の厚生労働省の調査によると、人口10万対医師数は全国46位、看護職員数は全国43位、訪問看護事業所数は全国45位、24時間体制を取っている訪問看護ステーション従事者数は全国43位、ターミナルケアを実施している訪問看護ステーション数は全国44位と、医療資源に恵まれているとは言えません。

連載 あなたの知らない重度訪問介護の世界・第5回

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 今回は、第4回の徳島県同様、重度訪問介護の24時間利用が立ち遅れていた、長野県での事例を紹介します。長野県で初めて重度訪問介護の24時間利用の事例が生まれたのは2015年のことです。現時点では3人の方が24時間の重度訪問介護を利用して生活されています。

 その最初の1人が、長野県上田市で一人暮らしをする井出今日我さんでした。

連載 [小説]ナースマン訪問看護編 あと、どれくらい?・第9回

なくした補聴器 小林 光恵
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 アミカのベテラン訪問看護師・山内愛は、利用者の佃かつ乃(89歳)の補聴器をなくしてしまった。

 入浴介助の脱衣の際に彼女の耳から外したところまでは記憶しているのだが、その後のことはまったく思い出せず、あたりのどこを探してもなかったのだ。

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 「このクラスメイトの中にLGBT当事者がいるんじゃないか!?」——若さゆえの好奇心と猜疑心から、ある高校のクラスにおいて大声で発された一言。映画『カランコエの花』が投げかけるテーマは、そこから始まります。

 LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった言葉です。その言葉は今や世に浸透しつつあり、LGBTをテーマとする内容がメディアでも多く取り上げられるようになりました。しかし実は今、その言葉を周知する意味を超えて、さまざまな歪みが生じつつあります。

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目次

今月の5冊

Information 学会・研究会情報

バックナンバー・年間購読のご案内

FAX購読申込書

次号予告・編集後記 小池 , 米沢
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本号の製作期間中、どんどんと新型コロナウイルスの警戒態勢が強まっていきました。市民には外出自粛が求められていますが、読者の皆さんは地域に出ていくことが必須なお仕事です。不安や葛藤もあるだろうと想像します。訪問看護をはじめとした在宅ケアの仕事は社会に欠かせぬものであり、暮らしを支えるインフラです。現場に立つ皆さんに敬意と感謝の意を申し上げます。▶今回の特集は「喪失」がテーマです。感染症の蔓延により、日常性は喪失したと言っていいのかもしれません。本号には、今の社会状況で過ごす人の心のうちを考えるヒントもあるのではないかと思います。…小池

弊社は東京にありますので、私たちもできる限りのリモートワーク実践中です。このような緊急事態だからこそ、連載「訪問看護の夢を叶えるICT」のこれまでの記事にもあるように、ICT技術を何かの“代替”としてではなく、大切なものを守るために使おうという心持ちが大事だと実感しています。…米沢

基本情報

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訪問看護と介護
25巻5号 (2020年5月)
電子版ISSN:1882-143X 印刷版ISSN:1341-7045 医学書院

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