特集 「喪失」に直面する人へのケア
「あいまいな喪失」という概念と、それに対するケア
瀬藤 乃理子
1
1福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座
pp.364-369
発行日 2020年5月15日
Published Date 2020/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688201436
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あいまいな喪失とは何か
医療・福祉にもヒントをもたらす概念
「あいまいな喪失」は、英語ではAmbiguous Lossといい、「Ambiguous」は「曖昧な」「不明瞭な」という意味を表す言葉です。例えば災害に巻き込まれ、その方のご遺体が見つからないとき、それはその方が「生きている」のか、「亡くなった」のかがはっきりしない状態であり、その方の家族にとっては「あいまいな喪失を経験している」と言うことができます。
私が最初にこの言葉とその概念を知ったのは、東日本大震災の直後でした。私はもともと遺族支援を専門に研究や実践活動を行っていましたが、東日本大震災で多くの方が行方不明となり、家族が行方不明となったご家族への支援は、遺族と同じ対応でよいのだろうか、と疑問をもったことが知ったきっかけでした。いろいろと調べる中で、家族が行方不明のまま見つからない人たちを数多く支援してきたポーリン・ボス(Pauline Boss)博士がアメリカにいることを知り、博士にコンタクトをとりました。それを契機に、博士が提唱する「あいまいな喪失の理論と介入方法」をアメリカで学ぶ機会に恵まれました。その後、仲間とともにその考え方を日本に持ち帰り、東日本大震災の被災地で「あいまいな喪失」をテーマとした事例検討会を開催したり、あいまいな喪失を紹介するウェブサイト*1を作成したり、書籍*2・3を翻訳・出版したりしてきました。
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