JIM 20巻5号 (2010年5月)

特集 ヘルシー・シティ,ヘルシー・コミュニティ

今月のQuestion & Keyword Index
  • 文献概要を表示

より早く,より的確に内容をとらえるために,QuestionとKeywordによるIndexをご利用ください.それぞれ各論文の要点を示す質問とキーワードで構成されています.

Question

Q1 環境汚染と健康影響の関連性の解明に関わるプライマリ・ケアの現場で働く医療スタッフの役割で大切なことは? 330

Q2 WHOが推奨する「健康都市プログラム」(“Healthy Cities”)とは何か? 334

Q3 先進国でも健康格差が起きる理由は? 340

Q4 社会的に孤立している人びととは? 344

Q5 プライマリ・ケア医が自動車に乗車する人に対し,アドバイスできることは何か? 348

Q6 子どもにとって「健康的な環境づくり」に対して,医師が果たせる役割は? 352

Q7 地域にある薬物依存の相談窓口として最も望ましいのは? 356

Q8 ヘルシー・シティ,ヘルシー・コミュニティ実現のための栄養・食生活分野のあり方は? 360

Q9 不眠への対応の注意点は? 364

Q10 なぜ開業医の立場でスズメバチ駆除を思いついたのですか? 368

One more JIM
  • 文献概要を表示

Q1 医師にとって,なぜ患者の生活環境にまで注意を払わなければならないのか教えてください.

A1 疾病の治療を行い保健指導をすることが医師の役割であって,患者の生活環境,ましてや地域全体の事柄は,大きすぎて医師の守備範囲を超えている,と考える方もいるのではないかと思います.しかし,医師,とくにプライマリ・ケア医は,地域の福祉や介護,母子保健,学校保健,環境保健に関わっており,地域の人びとに信頼されているのではないでしょうか.

 最近は,まちづくりに関して,行政がトップダウンで施策を行うのではなく,広く地域住民の意見を反映させる方法がとられています.その過程で,医師個人としてももちろん,たとえば地域の医師会,高齢者介護や障害者支援の地域組織の代表として,単に当該組織の利益を代表するというだけではなく,地域の他の団体や行政,そして市民と連携して,健康を支援する生活環境を提案することが求められています.プライマリ・ケア医には,一人ひとりの患者の疾病の診断や治療だけでなく,患者や地域住民の生活環境にも幅広い見識を持ち,地域の公衆衛生の向上に寄与し,住民の健康な生活を確保する役割が期待されています.(髙野健人→p334)

【総論】

環境と人間,そして医療 山崎 新
  • 文献概要を表示

 現代においてわれわれの生活環境は,地球温暖化,オゾン層破壊,あるいは残留性有機汚染物質の拡散のような地球規模の環境問題に直面している.これらの問題を根本的に解決するためには政治・経済を動かし社会全体としての取り組みが必要である.そうしたなかで,人びとの健康を守るためには,異変を察知し何が危険でどのようにすれば予防できるのかという科学的な知見を示すことが必要である.そのような科学的な知見は,環境問題に関わる研究者と医療関係者との協働により初めて得ることができ,そのなかでプライマリ・ケアの現場の医療スタッフに期待される役割は重要かつ大きい.

地域・都市環境と健康 髙野 健人
  • 文献概要を表示

 私事になるが,筆者の父親は,戦後の東京下町で医院を開業していた.医院といっても,焼け跡復興後の粗末な小さな自宅の大半を使っての開業なので,筆者らの家族は診療所のなかで暮らしていたようなものであった.下町という気安さもあって,自分の生活圏内で患者さんやその家族とつきあっていたわけだから,子どもながらにも,病気というものは,その人の生き方や生活条件によって大きく影響を受けるものであるという実感があった.これが,筆者が医学部をめざし,公衆衛生学という社会医学の分野に出会うきっかけとなった.

 したがって,健康な生活環境づくりに地域の医師がどのように関わっていくべきかを考えるという今回のテーマは,筆者が長年携わってきた社会医学分野ともオーバーラップするところの多い課題である.

  • 文献概要を表示

 健康に影響を与える主な要因には,遺伝子,行動(生活習慣),医療政策・サービス,環境がある.これらのなかで環境を重視するのが,ヘルシー・シティ,ヘルシー・コミュニティの考え方である.環境にも,自然,物理,文化,社会的な環境などいろいろな側面がある.そのなかで健康との関連が想像しやすいのは,大気汚染や交通事情であろう.車が多い環境では排気ガスによる大気汚染が進み,沿道に暮らす人びとへの健康影響が危倶される.また長距離通勤をしている人ほど,心血管疾患の危険因子とみなせる交感神経系優位の状態であることも報告されている.

 では,どのような人が大気汚染が危倶される地域や長距離通勤が必要な(都心から離れた)ところに住まいを持っているであろうか.環境の良いところ,都心で便利なところほど,住宅の価格は高い.つまり低所得に代表される社会階層が低い人たちほど,健康にとって望ましくない環境を選ばざるを得ない現実がある.つまり社会経済的要因が,健康に良くない環境への曝露をもたらしている.

【各論】

  • 文献概要を表示

 平成の大不況や産業構造の変化,社会情勢の悪化,さらに社会保障制度の不備もあり,この数年間にて失業者をはじめとする野宿者が激増している.また,地方大都市の周辺部の地域に暮らす人びとの間で,高齢化・低所得化が急激に進んでいる.

 格差社会が進行するなか,彼らのように社会的に弱く排除されてしまいがちな人びとに対して,プライマリ・ケア医は一体どのような支援ができるだろうか? 本稿では,野宿者への支援ボランティア医や低所得者家庭への在宅診療を行ってきた筆者自らの体験も踏まえ,社会的に孤立している人びとも健康に生きられるための社会・環境づくりについていくつかの提言をしたい.

  • 文献概要を表示

 国民の多くは日常の移動手段として自動車を利用する.疾患を有する患者が自動車を運転すること,長時間自動車に乗車すること,また,健康であった運転者が何らかの疾病に罹患し,その後も自動車の運転を希望することなどの状況がある.これらの人に対して,プライマリ・ケア医がアドバイスを行ううえで役立つ医学的知識について紹介する.

  • 文献概要を表示

Case

肥満児童のための健康教育の困難例

 小児科の待合室に「早寝,早起き,朝ごはん」のポスターが貼ってある.今日も子どもの太りすぎを医師に注意され,ポスターと同じことを言われた母親がこれを見る.「なるほど,やってみよう」と思う.その晩,そろそろ子どもを寝かせようとした夜9時,夫が帰宅.子どもははしゃぎ,自分は夕食を温めなおさなければならない.寝かせるのは10時を過ぎる.早起きをして朝食を準備したが,家族は誰も起きてこない.このような日がいつまでも続く.結局は,遅い父親の夕食に合わせ,家族もテレビを見ながら甘いものをつまみ,ひとしきり団らんして夜遅く寝る.朝はギリギリまで起きない.空腹感がないので朝食を抜いて出掛けていく.いつもの生活の繰り返し.「早寝,早起き,朝ごはん」の実現は夢の夢.

  • 文献概要を表示

 近年,芸能人や大学生による覚せい剤や大麻の薬物事件が続いており,薬物依存に対する社会的な関心は高まりつつあるようだ.こうした報道の影響もあり,薬物依存といえば麻薬・覚せい剤などの違法薬物を思い浮かべる方が多いだろう.地域のプライマリ・ケア医が日常診療で違法薬物に関する相談を受けるケースはあまり考えにくいが,実際の依存対象は,麻薬・覚せい剤など法で規制されている薬物だけではない.たとえば全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査によれば,睡眠薬・抗不安薬・鎮痛薬・鎮咳薬を主な依存薬物とする,いわゆる「医薬品依存症例」は全体の約1/4を占めている1).またニコチンもアルコールも依存性物質であり,喫煙・飲酒に対する健康指導に携わる医師は少なくないだろう.したがって薬物依存とプライマリ・ケア医との距離は,想像以上に近いのかもしれない.

 本稿では,薬物依存の病態,およびその予防・治療・リハビリテーションの概要に触れたうえで,地域の医師として関われるような活動を考察したい.

栄養・食生活 小谷 和彦
  • 文献概要を表示

 社会情勢やライフスタイルの変化,公衆衛生における考え方や方法論の進展などとともに,ヘルシー・シティ,ヘルシー・コミュニティの実現を模索する時代を迎えている.「健康日本21(J1)」に提示されているようなコンセプトは,まさにこれに符合した流れにあるだろう.本稿では,とくに栄養・食生活分野に関した動向や基本的事項について,プライマリ(ヘルス)・ケアやコミュニティケアの面を意識しながら概説する.

  • 文献概要を表示

 本稿では,ヘルシー・シティの実践例として,“働き盛りのメンタルヘルス日本一を目指して”をスローガンに,うつ・自殺予防対策に取り組んでいる「富士モデル事業」1~3)を紹介する.自殺予防に向けて地域社会ではどのような活動が考えられるのか,また,プライマリ・ケア医はうつ病対応としてどんなことに留意すべきかに焦点をあてて報告する.

  • 文献概要を表示

 スズメバチのなかでもオオスズメバチの蜂毒はとくに毒性が高い.刺されると腫脹や疼痛が強いだけではなく,アナフィラキシーショックを起こして死亡することもある.そのため日本では最も危険な有害動物とされる.今回,当院診療圏の小千谷市片貝町で地域住民とともに女王スズメバチの駆除を試みたので紹介する.

  • 文献概要を表示

 ベルベッド・アンダーグラウンド.アバンギャルド,実験的,退廃的.こんな形容詞で語られるこのバンドの音楽が学生時代の私は好きだった.アンディ・ウォーホールのバナナ・ジャケットで有名なデビュー・アルバムや,「スウィート・ジェーン」「ロックン・ロール」などの代表作を含む4枚目のアルバムより,収録曲わずか6曲,しかも最後はヒステリックでノイジーな曲が延々17分も続く表題のセカンド・アルバムを,かつての私は好んで聴いた.当時北国で暮らしていた私は,夜中に結構な度数のアルコールをかっくらいながら,こたつに半分身を沈めたまま,大音量のヘッドフォンでこのアルバムを聴きながら夜更けまで雑多な本を読んで過ごしたものだ.当時は金もなかったし,別に好んでこんな生活をするつもりもなかったのだけれど,今振り返ってみるとずいぶん贅沢な時間の使い方をしていたものだ,とつくづく思う.

 さて,今回の特集「ヘルシー・シティー,ヘルシー・コミュニティ」は,他のどの専門医よりも深く,そして密に地域の人びとと関わることの多い家庭医/総合医が,一見遠くに見える社会の問題にどう関わっていけばよいのか,という問題意識から企画した.この壮大すぎるテーマに対し当初は戸惑いもあったのだが,環境,格差,交通,教育,薬物依存,食の問題など,地域住民に大きな影響を与える都市をめぐるさまざまな問題について,わが国の第一人者の先生方からの力のこもった論文が集まるにつれて,戸惑いは消えていった.また富士モデル,女王スズメバチ駆除,という地域の医師が深く関わった2つの事例をその当事者に報告していただいた.「現実を変革することこそ,私どもの任務であるべきだ」と,故 若月俊一はその著書のなかで記している1).本特集の論文のそれぞれに込められた力強いメッセージは,地域で活動する一医療者としての私に対して本当の意味での地域貢献,社会貢献を担う力を与えてくれているようだ.

What's your diagnosis?[89]

  • 文献概要を表示

病歴

患者:56歳,女性.

現病歴:以前より,顔のほてり,一過性の血圧上昇などの症状に対し「自律神経失調症でしょう」と言われていた.10月某日,38.8℃の発熱,咽頭痛,軟便出現.翌日37℃台の発熱があり,近医にて内服薬(ロキソプロフェンナトリウム,PL顆粒)を処方され,その後解熱したが,嘔気,嘔吐が出現し,経口摂取も不可能となった.2日後の朝,嘔気,嘔吐が悪化したため再度近医を受診し,制吐薬(メトクロプラミド),栄養輸液製剤などの点滴を受けたが症状が改善しなかったため,当科紹介受診となる.ill contactとしては1週間ほど前に孫に感冒様症状あり.経過中,悪寒,戦慄,頭痛,腹痛,下痢,動悸,胸痛などなし.3カ月で13kgの体重減少あり.

既往歴:20歳台で尿路結石,40歳台で虫垂炎手術,50歳台に3回,2週間ほど嘔吐が持続するエピソード,今回の受診2カ月前にブロック注射施行後嘔吐にて1カ月入院.50歳頃~高血圧にて内服治療開始.55歳時に境界型糖尿病にて食事療法開始.妊娠初期に嘔吐にて入院歴あるが2回の出産はとくに問題なし.48歳にて閉経.内服歴:オルメサルタン メドキソミル錠20mg 1錠.喫煙,飲酒歴なく,アレルギーもとくになし.家族歴:母,姉が高血圧.

構造と診断 ゼロからの診断学・2

診断と自我 岩田 健太郎
  • 文献概要を表示

そもそも医学に何を希望できるか,ぼくはあまり知らない.医学に対して警戒すべき点はたくさん知っているけれど.

アラン「幸福論」

自分の有り様に自覚的になる

■前回に引き続き,診断の障害となる諸条件を検討していきたい.そして,それに対する(絶対的ではないが)「さしあたっての」対応策も検証してみたい.

■診断のあり方を形づくるのは,患者や医療環境だけではない.自分自身のあり方がとても強く影響している.

オバマ政権下の米国プライマリ・ケア事情[5]

米国の救急事情 北野 正躬
  • 文献概要を表示

 「救急医療の崩壊」「患者のたらいまわし」,こんな言葉が日本のマスコミに取り上げるようになって久しいですが,背景には複雑な要因が絡みあっており,問題の解決は容易ではありません.救急現場を支える医療者の負担も限界に達しており,慢性的な人手不足とあいまって,状況はまったく好転の兆しをみせていません.

 実は米国でも同じような状況を抱えています.今回は,米国の救急医療をめぐる事情をお伝えしたいと思います.

  • 文献概要を表示

 市立堺病院総合内科 岡田麻衣子先生,北村大先生,藤本卓司先生.

 『JIM』誌2010年1月号に掲載されました論文,連載“What's your diagnosis?”[85]「きってもきれない」,大変興味深く拝見いたしました.

 偽性アルドステロン症のRed Herring(めくらまし)として,「グリチルリチン中止にもかかわらず1週間以上続いた低カリウム(K)血症の遷延」と解釈されていましたが,気になるところがありお伺いしたいと思います.

臨床の勘と画像診断力を鍛える コレクション呼吸器疾患[11]

  • 文献概要を表示

本連載では,沖縄県臨床呼吸器同好会の症例検討会をもとに,実況中継形式で読者のみなさんに呼吸器内科疾患を診る際のポイントとアプローチ方法を伝授したいと思います.宮城征四郎先生の豊富な臨床経験に基づいたコメントに注目しながら読み進めてください.画像診断のポイントと文献学的考察も押さえています.それでは早速始めましょう.今月のテーマは,発熱と低酸素血症を主訴とし,変動するSpO2を認めた89歳女性に対するアプローチです.

シネマ解題 映画は楽しい考える糧[35]

  • 文献概要を表示

喫煙問題から倫理的姿勢を考えてみる

 タバコ業界のロビイストを主人公にタバコの有害性を巡るストーリーが展開し,喫煙反対派の上院議員主催の公聴会でクライマックスを迎える,痛快でユーモアあふれる作品です.タイトルもなかなか刺激的ですね.ここ数年間,生命・医療倫理の問題を含んだ映画作品についての教育セッションがあるたびに,本作品の冒頭11分を参加者に紹介してきました.ストーリーやテーマが理由ではありません.

基本情報

0917138X.20.5.jpg
JIM
20巻5号 (2010年5月)
電子版ISSN:1882-1197 印刷版ISSN:0917-138X 医学書院

継続誌

文献閲覧数ランキング(
10月18日~10月24日
)