臨床整形外科 54巻4号 (2019年4月)

誌上シンポジウム 超高齢社会における脊椎手術

緒言 山田 宏
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 昨今,「人生100年時代」という概念がブームになっている.この概念の登場は,「自分の人生は,せいぜい長生きしても80年程度」と考えていた人々に対して,大きな衝撃を与えたに違いないと思う.なぜなら,80年ですら健康を保つのが難しいのに,さらにあと20年もとなると,“本当に自分の健康は大丈夫かな”と,不安な気持ちを抱く人が大多数だと考えるからである.人生100年時代を迎え,今後ますます,健康寿命の概念が重要視されるであろう.

 現時点で,わが国の平均寿命と健康寿命の間には約10年の差が存在する.「人生の最後の10年が介護生活」という衝撃的な事実は,超高齢社会に突入して明らかになった新しい課題である.このため,われわれ医療人は総力を挙げて,国民の幸せのために健康寿命延伸に取り組まなければならない.

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 超高齢社会における運動器疾患,とりわけ脊椎外科分野では最近のトピックスに取り上げられることの多い成人脊柱変形は,経皮的椎弓根スクリュー(PPS),XLIFやOLIFなどのlateral interbody fusionの応用や脊柱骨盤パラメータの計測による手術計画によって優れた手術成績を獲得することが可能となった.一方で,成人脊柱変形患者の中には脊柱管狭窄症を合併している患者も見受けられるが,すべての患者が矯正固定手術を受ける訳ではない.脊柱変形を合併していても,変形に起因する症状が軽微で,神経圧迫症状などが主症状である場合は,内視鏡下脊椎手術のような低侵襲手術を行うことによってADLの改善が見込める場合も多い.脊椎内視鏡を用いた低侵襲の除圧単独手術は適応となる病態も広く,治療の選択肢のひとつになり得る.

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 近年,経皮的椎弓根スクリュー(percutaneous pedicle screw:PPS)刺入法の普及に伴い,単椎間PLIF(posterior lumbar interbody fusion)の小侵襲化から始まった最小侵襲脊椎安定術と名付けられたminimally invasive spine stabilization(MISt)手技も徐々に多椎間固定へとその適応範囲が拡大されつつある.従来sagittal面でのglobal balanceが悪化した例にはMISt手技は適応困難と考えられてきたが,近年,XLIF(eXtreme Lateral Interbody Fusion)の導入により,前方から推間板の解離と10°前方開大が得られるcageの挿入が,L5/S椎間を除く全腰椎椎間に少量の出血で小侵襲に挿入可能となったため,後方もMIStすなわちall PPS(C-MIS:circumferential MIS)での十分な矯正が可能となってきた.

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 超高齢社会の現在,骨粗鬆症性椎体骨折(OVFs)に対する治療は大きな問題である.従来,保存療法と薬物療法が基本とされてきたが,奏効しない場合には外科的介入が必要となる.椎体形成術の登場によりOVFsに対する治療戦略は大きく変化したが,椎体形成術だけで解決できない椎体骨折例も多数存在し,それらに対しては脊椎固定術が必要となる.脊椎固定の手術手技はIn situ固定,椎体形成術+後方固定,骨切り,前方固定など多岐にわたり,病態に応じた術式の選択と合併症を回避する高度な技術力が要求される.

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 当科における高齢者脊椎転移に対する根治的切除術の治療成績,合併症,予後を,若年例と比較して検討した.生命予後,合併症の出現率に関しては両群間に有意差を認めなかったが,高齢者群で胸水貯留による呼吸器合併症や髄液漏関連の合併症が多い傾向にあった.高齢者群では腎癌・甲状腺癌症例が多数を占めており,手術により良好な局所コントロールが得られ,下肢機能を維持することが可能であり,予後も良好であった.高齢者であっても,長期予後が見込める腎癌や甲状腺癌の脊椎転移であれば,合併症の出現に注意が必要だが,根治的切除が有効である.

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 超高齢化社会を急速に迎えている本邦において,高齢者の脊椎・脊髄損傷は増加傾向にある.高齢者の脊髄損傷としては,脊柱管狭窄を伴う非骨傷性頚髄損傷が代表的であるが,本稿では強直性脊椎に合併した脊椎・脊髄損傷について述べる.

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 非骨傷性脊髄損傷の分類と手術選択につき筆者の考えを述べた.高齢化に伴い非骨傷性頚髄損傷は増加傾向である.症例ごとに病態は異なるため,分類と治療方針について整理すべきである.安易な除圧術は推奨しないが,むしろ固定術を要する症例が潜在することに留意すべきである.

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はじめに

 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は成人発症の致死的な進行性の神経変性疾患である1).永年,その解決の糸口が見つからなかった本症であるが,近年,病態解明が進み,数多くの病態修飾薬の開発がなされている2).しかし,その効果は乏しい.一般に,進行性の疾病の場合,治療効果を上げるためには,早期介入が必要なことは言うまでもない.ALSでも,その進行メカニズムが判明し,早期介入の必要性を示唆する病態が明らかとなってきている.しかし,本症ではいまだに,診断に直結する生化学的マーカーは得られておらず,それゆえ,診断において理学所見の意義は大きい.

 ALSは四肢から始まるものと,球麻痺から始まるものとに大別されるが,本症の半数以上は,四肢の筋力低下で気付かれる1).よって,最初に整形外科を受診することが多い.日本では,実に四肢発症者の48%,球麻痺型でも13%が整形外科を初診している3).結果として34%が整形外科を受診する.本症の予後を考えると,できるだけ早く正しい診断することは重要である.このことから,本症の診断面で整形外科医の果たす役割は大きい.

 本稿では整形外科診療に紛れる本疾患について最新の知見と,それに基づく診療のヒントについて紹介したい.しかし,後述するように,多くの患者さんでは,髄節レベルと臨床症状の乖離を認める.このような乖離は頚椎症による二次運動神経細胞の圧迫性の病態では認められることが少ない.しかし,近年の一次運動野の知見により,一次運動神経領域からALSの病態が始まると考えれば,この髄節との不一致も説明できる可能性がある.

整形外科/知ってるつもり

健康スポーツナース 帖佐 悦男
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はじめに

 2009年に新たに提唱した健康スポーツナース(健康運動看護師)とは,看護師の立場から運動・スポーツを通して健康をトータルにサポートする看護師のことである.具体的には,看護師の立場からスポーツ選手・愛好家・地域住民を対象に健康管理,スポーツ外傷・障害の初期対応・予防やロコモティブシンドローム(ロコモ)やメタボリックシンドロームの予防などに取り組む.その基盤体制として宮崎大学では,スポーツ選手・スポーツ愛好家・地域住民を医学の面から支える「スポーツメディカルサポートシステム:スポーツメディカルランド宮崎」を展開している(図1).ウェブサイト「健スポ:健康スポーツネットワーク」(http://www.kenspo.jp/)に概要を示している.

 これまで宮崎では,医師を中心に様々な運動,スポーツ(健康スポーツ,競技スポーツや障がい者スポーツなど)をサポートしてきたが,その領域に限界を感じていた.実際,十分なサポートには医師だけでなく,療法士,トレーナー,看護師,栄養士,薬剤師など各専門分野の手助けおよび連携が必要である.しかし,現状の課題である医師やメディカルスタッフのマンパワー不足に加え,スタッフ間の連携が十分ではなかった.スポーツメディカルサポートシステムの構築により連携は進んだが,マンパワーの問題は解消されていなかった.

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はじめに

 医療分野における放射線の利用は国民の健康に多大な恩恵をもたらし,整形外科領域においても日常診療に必要不可欠なものとなっている.一方で,放射線被ばくには健康被害を伴う可能性があり,中でも放射線被ばくによる発がんリスクは,患者のみならず透視下検査などを行う医療従事者にとっても重大な懸案事項である.わが国ではCT装置の台数・検査数ともに世界最高水準であり,診断用X線によってがんが3.2%増加する可能性があると報告され,社会的に大きな問題となった1).また,福島第一原発事故後は低線量被ばくの人体影響にも社会的に注目が集まっており,放射線被ばくに対する関心はこれまでにも増して高くなっている.

 電離放射線による発がんは,放射線照射を受けた細胞核内のDNAに生じる損傷や染色体異常などの遺伝情報の変化に起因すると考えられている.本稿では,放射線被ばくによって引き起こされるがんの発症機構についての理解を深めるため,DNA損傷と修復,染色体異常とその解析手法について,最近の知見を交えながら概説する.

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はじめに

 頚椎前方固定術(前方固定)や後頭頚椎固定術(O-C固定)といった頚椎固定の手術後に,嚥下障害が稀に合併する.嚥下障害では,食物が通りにくくなる通過障害や気管に入る誤嚥が問題になる.さらに誤嚥性肺炎や栄養障害による体力や意欲の低下のために,日常生活活動や生活の質にも支障を来す.前方固定の場合は,神経障害による機能低下や浮腫による咽頭腔の狭小化が原因で嚥下障害が起こり,リハビリテーションが必要となる1).一方,O-C固定の場合には,手術による下顎の後退による咽頭腔の狭小化が原因で,手術での対策が重要となる2,3)

 そこで頚椎固定術後の嚥下障害へ対応するために知っておきたい嚥下のしくみと評価の方法,および前方固定とO-C固定それぞれの場合の病態と対処法を解説する.

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はじめに

 マルチモーダル鎮痛(multimodal analgesia:MMA)は,数種類の非オピオイド薬剤を併用することで相乗効果を引き起こし,優れた鎮痛効果を発揮する.フェンタニルやモルヒネをはじめとするオピオイドは,術後急性疼痛の管理において重要な役割を担っているが,過度の使用は呼吸抑制,悪心・嘔吐,傾眠,排尿障害,イレウスなど様々な副作用を引き起こす.MMAは,オピオイド使用量を削減することができ,オピオイド副作用を軽減する.わが国でも急速に受け入れられ,有効な術後鎮痛法として広がりつつある.

 本稿では,主に脊椎手術に関するMMAを概説するとともに,脊髄神経後枝をターゲットにした新しい神経ブロックを紹介する.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・8

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 前回は英語論文執筆にあたっての準備を概説しました.何を伝えたいのか,そしてどのように伝えるかをあらかじめ検討しておくのは,英語論文執筆を始めるにあたって必須です.英語論文執筆は一見難攻不落ですが,実はいくつかの項目にはっきり分かれており,それぞれ書くことが必然的に決まってきます.英語論文を分解して小さな仕事に分けていけば,いつか終わらせることができます.今回はあらゆる英語論文の礎となる「IMRaD」を中心にお話しします.

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 頚椎前方固定術後の深部感染は極めて稀な合併症である.当科で2006年以降に前方除圧固定術を965名に施行し,深部感染は8名で発生した.術後1カ月以降の発症が6名で,そのうちの少なくとも2名で食道穿孔を合併していた.感染症状が顕在化するよりも早い段階から嚥下障害を訴えていたが,局所の感染徴候が乏しく,気付かれなかった.感染を示唆する画像所見として,MRI・T2強調画像で椎体前方に広がる高輝度変化,CTやX線写真での移植骨・プレート周囲のfree air,移植骨の異常な骨吸収が挙げられた.再手術後,全例で感染は治癒した.感染が疑われる症例では,食道穿孔を合併している可能性も考慮し,嚥下造影や経鼻内視鏡による評価が必要で,プレート抜去と局所のデブリドマンを速やかに行うことが大切である.

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 輪状靱帯の異所性骨化が原因となった稀な外傷性近位橈尺骨癒合症を経験したので報告する.症例は60歳男性で,橈骨頭骨折の観血的整復固定術後3カ月で前腕が回内30°で強直した.CTで輪状靱帯に骨化がみられた.術後1年で骨化巣の切除を施行し,良好な前腕可動域が獲得された.骨化巣切除後1年の経過観察時,骨化巣の再発はなく,前腕可動域は維持されていた.外傷性橈尺骨癒合症は橈尺骨間が直接骨性に架橋される報告が多いが,本症例では輪状靱帯のみに骨化が生じ橈尺骨間を架橋していた.治療は骨化巣の切除のみで良好な成績が得られた.

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 悪性末梢神経鞘腫(malignant peripheral nerve sheath tumor:MPNST)は予後不良な悪性腫瘍であり,頚椎発生の報告はわずかである.28歳,女性.C1/2高位にダンベル型腫瘍を認め,脊髄は高度に圧迫されていた.良性の神経原性腫瘍を疑い切除術を施行したが,病理診断はMPNSTであった.術後陽子線照射を行い,術後3年の現在,合併症や再発なく経過良好である.広範切除が困難な頚椎MPNSTには術後放射線照射が有効である.本症例から,X線照射で問題となる合併症のリスクを減らしながら十分な線量を照射できる陽子線が術後補助療法として有用である可能性が示された.

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 田島康介先生に初めてお会いしてから約7年が過ぎました.その当時,田島先生はちょうど,大学で整形外科から救急科に出向されており,ひたむきに整形外傷に取り組んでおられました.その様子を知っている者からすると,今回出版された『救急整形外傷レジデントマニュアル 第2版』は,ほとんどの内容が,先生御自身が日々の診療の中で経験されたことを中心に書かれたものであると推察できます.

 理路整然とした研究発表をされておられた田島先生のことを思い,期待をしつつページをめくると,創傷処置に始まり,シーネの当て方,関節穿刺,爪下血腫の除去の仕方まで,さらには軟部組織損傷,脱臼,骨折,非外傷性疾患,小児関連,高齢者関連へと続いています.時折,筆者の推奨する方法などを詳しく説明しながら,POINT,MEMOなどのわかりやすい解説もあり,心を惹きつけられました.読み終えた後で,「整形外科を専門としない救急医でも読みやすい内容となっている.いや,これは一人当直をする整形外科レジデントにもぜひ読んでもらいたいマニュアルだ」と直感しました.

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 本書はまず「研究とは何か?」の概説から始まる.研究とは,何らかの新規性があり,今まで知られていなかったことを明らかにすること,新たな因果関係や分類を見いだしたり,当然と思われていた常識を覆すこととされている.研究を志す者は,研究と勉強の違いをよく理解しておかないと研究現場で仕事を続けることは到底困難との忠告ともいえるが,研究を続けることのやりがいと社会的価値とともに,それをなし得るための厳しさも伝えたいという,後進に対する思いやりとエールだと感じた.また研究という言葉はとても曖昧に利用されており,医療機関においても混乱の原因ともなっているが,研究の分類とともに,この書籍によりよく理解することができた.

 各章に掲載されているチェックリスト一覧は,研究の立案から遂行,データ収集から解析,そして論文化に至るまでの重要事項が,各ステップごとにくまなくリストアップされている.それぞれの段階で,特に初心者が陥りやすい事項も網羅されており,ここまで詳細に実践的な内容が教示されている指南書を拝読できたのは初めてで,20年にわたり60人余りもの大学院生を指導されてきた豊富な教育経験に基づいた,その教える手法に感服した.私自身,今後新たな研究を立ち上げるときは,本書の手順を踏みながら進めていきたいと思う.

INFORMATION

第30回日本末梢神経学会学術集会

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目次

欧文目次

次号予告

あとがき 松本 守雄
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あとがき

 近頃三寒四温の天候が続くが,世間でも明るいニュースと暗いニュースが交互に報道されている.はやぶさ2の小惑星リュウグウへの着陸成功,米国と北朝鮮の交渉決裂,新元号への期待,「アポ電」強盗の増加などなどである.「高齢化を背景とした救急出動件数の増加」,「労働人口の高齢化」など社会の高齢化に関するニュースも非常に多い.超高齢社会において社会の持続性を維持するには高齢者の健康寿命延伸が不可欠であり,整形外科医の果たす役割は大きい.

 本号の誌上シンポジウムは「超高齢社会における脊椎手術」と題して山田 宏先生にご企画いただいた.脊柱管狭窄症,脊柱変形,骨粗鬆症椎体骨折,転移性腫瘍,外傷など高齢者に多く見られる脊椎疾患に対する手術治療について,本邦の第一人者の先生方が最新の情報を提供してくれている.高齢という理由で脊椎手術がためらわれていた時代から,高齢者のQOL改善に向けて積極的に手術を提供するというパラダイムシフトが起きている.脊椎手術は高齢者のQOLを劇的に改善することが可能であるが,一方で十分な術前保存療法,手術の安全性担保や費用対効果の検証などの観点も重要である.

基本情報

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臨床整形外科
54巻4号 (2019年4月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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