臨床整形外科 52巻3号 (2017年3月)

誌上シンポジウム 股関節疾患の保存的治療とリハビリテーション

緒言 大谷 卓也
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 整形外科は外科学であり,若手ドクターの中には手術には大変興味があるが,保存的治療にはあまり興味がないという人も少なくないかもしれない.しかし,すべての整形外科的治療の基本は保存的治療にあり,整形外科医はさまざまな保存的治療を自在に操ることができる必要がある.これには以下のような理由がある.

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 近年,変形性股関節症の疼痛に対する薬物療法の選択肢は増えてきている.どの薬剤にも長所と副作用があるので,各薬剤の特徴を十分に把握することが大切である.そのうえで,股関節痛の程度・性状を十分に把握して,適切な薬剤選択を行う必要がある.運動器疾患を有する患者の多くは高齢者であるが,高齢者の疼痛管理では予備能の低下,併存症,多剤内服など多くの問題があることを十分に考慮する必要がある.また,スタンダードな薬物処方の指針として,変形性股関節症の治療ガイドラインを念頭に置くことも重要である.

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 股関節症に対して保存的治療を行う場合は運動療法が主体となる.病態と病期にしたがってさまざまな種類から運動を選択する必要がある.ジグリングなどの可動域訓練はすべての股関節症に行うべきだが,特に進行期・末期で重要となる.筋力強化訓練は痛みのない状態で行うべきで,亜脱臼性股関節症の前・初期では関節安定性を高めるために中殿筋が重要となる.体幹筋,大殿筋,大腿四頭筋はすべての股関節症に行うべきで,骨盤後傾を呈する高齢者では特に重要である.股関節症は治療期間が長いため,運動療法を継続できるように工夫する必要がある.

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 変形性股関節症の保存的治療として,薬物,運動療法のほかに装具療法がある.WISH型股関節用S字型装具(WISH型股装具)は,股関節機能の定量的改善が装着後1カ月から明らかに認められ,この改善効果は,疼痛,歩行,ADLに有意に現われ,さらに日常の運動に関与していると示唆される.患者立脚的評価においても,WISH型股装具は装着後早期に自覚的なADL能力・身体機能を良好に改善させ,その後の精神的QOLへの継続的な効果が認められる.WISH型股装具は,変形性股関節症における装具療法として有用であり,歩行能力の改善効果も期待できる.

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 大腿骨頭壊死症の最も重要な治療目標は,骨頭圧潰の発生・進行防止を通じて疼痛や機能障害低下を制御することである.免荷療法,運動療法は過去の臨床研究が乏しく,圧潰進行や人工関節置換などの手術治療を回避する効果は不明である.体外衝撃波治療や高気圧酸素治療は,少数の報告例であるが除痛効果を中心とした有効性が示されている.薬物療法では骨粗鬆症治療時と同等量のアレンドロネート療法に関する短期臨床効果の検証が整いつつあるが,疼痛軽減や圧潰発生/進行への有効性については報告間でばらつきがある.今後,より多くの症例を用い年齢・病態関連因子(ステロイド・アルコール・凝固線溶系機能異常など)や病期・病型に応じた解析を進めることが必要であるとともに,壊死領域に選択的に高密度に骨リモデリング作用を発現・制御し得るような治療手法の開発も重要な課題である.

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 股関節における画像評価の向上により,大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)や寛骨臼関節唇損傷(関節唇損傷)の関節内疾患が注目されるようになった.また,股関節鏡下手術の手技の発展も伴いFAIや関節唇損傷に対する手術療法が増加している.一方,FAIや関節唇損傷例に対する保存的治療についての報告は少なく,いまだ確立されていない.当科では股関節内外への注射,薬物療法,およびリハビリテーション指導による保存的治療を試みており,より適切な手術症例の選択に心がけている.当科における保存的治療の方法と今後の課題について概説する.

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 人工股関節置換術(THA)後早期のいくつかの機能障害や愁訴に対するリハビリテーションの要点を述べた.術前に下肢長差,筋力低下,関節拘縮による跛行が著明な例では,閉鎖運動連鎖(CKC)理論と骨盤運動に着目した下肢押し出し訓練を利用して歩容改善を目指している.術後早期の外転拘縮と自覚的下肢延長を訴える症例は多く,押し出しとは逆方向の骨盤回旋運動と腸脛索(ITT)のストレッチが有効である.実際の下肢長差がある場合は,十分な筋力とバランスの訓練を実施後,腰椎,骨盤,下肢全長のX線像から補高を検討する.可動域とADLの回復には,早期から複合的な運動評価と訓練が重要である.

視座

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 一人前の整形外科医になるには膨大な知識を身につけることが必要です.整形外科が扱う領域は広く,骨関節,脊椎,神経,筋などに極めて多数の疾患や外傷があります.医療面接,身体所見の取り方から始まり,検査データ,画像のみかた,診断,保存的治療,手術適応,術式選択,手術手技,後療法,合併症などを各疾患,外傷ごとに理解する必要が求められます.バイブルと呼ばれるぶ厚い専門書はありますが,それを初めから読み通して勉強する者は稀です.一例一例,その症例に関係するテキストなどを読み,先輩の指導を受けて身につけていきます.

 しかし,手術テクニックに関しては,テキストを読んでも身につきません.先輩と一緒に手術に入り,その手つきをみて手技を覚えます.「学ぶ」は「真似る」と同じ語源であり,手術手技を学ぶことは,正しく先輩の手つきを真似ることです.先輩の手つきは,また,その先輩から受け継ぎ発展させたものですから,手つきを真似ることは先人の功績を学ぶことになります.この過程を大切にせず,すぐ自己流で手術を行う者には,進歩は望めません.

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背景:女性整形外科医師のサブスペシャリティーやワークライフバランスの実態調査は極めて少ない.

対象と方法:大阪大学整形外科教室所属の女性医師31名からアンケート調査の回答を得た.

結果:16名がサブスペシャリティーを持ち,手外科,リハビリテーションが多かった.15名が卒後平均8.5年で第1子を出産し育児と両立していた.27名が腕力不足やX線被曝など,整形外科業務で女性特有の困難を感じていた.

まとめ:女性整形外科医師の7割以上がサブスペシャリティーを持ち,個々の多様なワークライフバランスを実現していた.

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 拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging:DTI)を用いて,腰椎神経障害:腰椎椎間孔狭窄,double-crush lesionについて検討した.椎間孔狭窄部神経根の途絶像,狭窄など椎間孔狭窄を示唆する所見を認めた.また圧迫病変でfractional anisotropy(FA)値は有意に低下,apparent diffusion coefficient(ADC)値は有意に上昇した.Double-crush群では脊柱管内側から外側にわたり広範に神経障害を示すDTIパラメーター変化(FA低値,ADC高値)を認めた.Double-crushが術前に疑われる症例では,DTIを評価することによりfailed back surgery syndromeを予防できる可能性がある.

境界領域/知っておきたい

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はじめに

 一般にアクネ菌感染と聞いてまず思い浮かぶのは,思春期の肌の悩みの種「ニキビ」である.しかし近年,アクネ菌が「ニキビ」以外にも人体にいろいろなトラブルを引き起こすことが指摘されている.アクネ菌はグラム陽性桿菌であり,皮膚の他に口腔内,上気道,大腸,結膜,外耳道などの常在菌として知られている1).従来,アクネ菌は弱毒菌のためあまり注目されていなかったが,近年,さまざまな領域で感染症の起因菌となることが報告されている.

最新基礎科学/知っておきたい

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はじめに

 厚生労働省が実施している平成25年(2013年)国民生活基礎調査では,腰痛において普段感じている自覚症状の割合が男女とも約3割で,男性では最多,女性でも2番目に高い割合であることが示された.また,通院する疾患として腰痛は男性で4番目に,女性では2番目に多いと指摘されている1).腰痛と関連の強い椎間板は加齢や変性に伴って大きく変化する組織であり,椎間板が変性すると椎間板ヘルニアやさまざまな脊柱変性疾患の発症に繋がる.しかし,正常な椎間板とその細胞を取り巻く“ニッチ”,すなわち微小環境は十分に理解されているとは言いにくく,その分子機構となると,多くが未知である.

 本稿では,椎間板の形態学的,組織学的,生理学的分子機構の理解を,最近の新たな知見と絡め紹介することで,今後の椎間板変性疾患の研究や治療に役立てるヒントになることを目指したい.

連載 慢性疼痛の治療戦略 治療法確立を目指して・6

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アセトアミノフェン

 アセトアミノフェンは,1873年に米国の生化学者であるHarmon Northrop Morseが合成に成功し,空腹時でも飲める鎮痛薬として,欧米および本邦においても一般用医薬品(OTC drug:over the counter drug)として広く普及している.

 疼痛発現の機序ははっきりしていないが,最近では,アセトアミノフェンは,まず肝臓でp-アミノフェノールに代謝され,脳,脊髄に移行した後,AM404となる.AM404はカンナビノイド(CB)1受容体のリガンドであるとともに,アナンダミドの細胞内取り込みを阻害し鎮痛作用をもたらすと考えられている1)

連載 「勘違い」から始める臨床研究—研究の旅で遭難しないために・15

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 第14回では,大風呂医師の「不要な救急車の利用により,本当に必要な人の利用が阻害されていないか? 特に高齢者の救急車の過剰使用があるのではないか?」という問題意識から発想されたリサーチ・クエスチョンに基づいて作成された抄録をブラッシュアップしました.さて,今回も「研究抄録を評価する5つのチェックポイント」に沿って,特に3.「目的と方法が一致しているか?」について解説します.

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背景:腰椎各椎間での体位変化による腸管および腎臓位置移動に関する報告はみられない.

対象と方法:XLIF®(eXtreme Lateral Interbody Fusion)を行った連続する49症例を対象とし,術前に撮影した仰臥位・左側臥位・右側臥位におけるMRIを用いて後ろ向きに調査した.

結果:L4/5高位では左側臥位で上行結腸が26.5%,右側臥位では下行結腸が18.4%の症例でXLIF®アプローチの経路に存在する.

まとめ:XLIF®では,側臥位で撮影したMRI画像を用いた腸管・腎臓位置の術前評価が重要である.

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背景:先天性膝関節脱臼は,10万人に1人の極めて稀な疾患である.

方法と対象:直近10年間で先天性膝関節脱臼8例10膝を経験し,可及的早期に徒手整復,シーネ固定を行った.基礎疾患の有無,分娩時の経過,脱臼の重症度(Curtis分類),治療成績を調査した.

結果:基礎疾患のない7例8膝ではCurtis分類Grade 1が6例7膝,Grade 2が1例1膝で全例治療成績はExcellentだったが,猫鳴き症候群に合併した1例2膝はGrade 3で,治療成績はPoorだった.

まとめ:本疾患は,基礎疾患がない場合,早期徒手整復とシーネ固定による良肢位保持が有効である.

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背景:S2腸骨スクリュー(alar iliac screw)の前方逸脱を防ぐための安全域を計測し,さらに術中の指標としてS1棘突起を評価した.

対象と方法:術前CTを撮影した48名を対象に,刺入点と仙腸関節前方,中央,後方をそれぞれ結んだ線と水平面のなす角,S1棘突起に沿わせた刺入角度および仙腸関節の通過点を計測した.

結果:男性では53°,女性では49°以下が安全域であった.S1棘突起に沿わせると刺入角度39°であり,仙腸関節前方1/3を通過するものはなかった.

まとめ:S1棘突起は前方逸脱を防ぐために有用な指標である.

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背景:アセトアミノフェン静注液の使用により,術後疼痛緩和が期待される.

方法:頚椎椎弓形成術を施行した症例に対し,アセトアミノフェノン静注液投与群と非投与群の2群に分け検討した.検討項目は,年齢・性別・手術時間・術後24時間の安静時と動作時のvisual analog scale(VAS),疼痛緩和薬の使用の有無と使用回数である.

結果:投与群21例,非投与群16例であった.術後VASに有意差はなかった.疼痛緩和薬の使用頻度は投与群で低い傾向を示した.

まとめ:アセトアミノフェノン静注液は,術後疼痛緩和薬の使用頻度を軽減でき,有用である可能性がある.

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 今回われわれは,頚胸髄上衣腫に対して二期的に摘出術を行い,経過良好な1例を経験したので報告する.症例は27歳,女性である.主訴は頚部痛および右手のしびれであった.第5頚椎から第1胸椎にかけて長径8cm大の囊胞を伴う髄内腫瘍を認め,上衣腫を疑い手術を行った.術中高度な脊髄誘発電位低下を認めたため,手術を中断し,3カ月後に二期的に摘出術を行い,腫瘍は全摘された.髄内腫瘍においても術中脊髄誘発電位が低下した場合には二期的な摘出術が選択肢の1つになりうると思われた.

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欧文目次

INFORMATION 2017 ICJR Japan

投稿規定改定のお知らせ

次号予告

あとがき 松本 守雄
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あとがき

 2017年がスタートいたしました.今年は世界的に激動の年になりそうです.米国ではトランプ政権が発足し,オバマ政権の政策(TPP,環境保護,オバマケアなど)を否定し廃止しようとしております.そして米国第一を掲げた保護主義を推進しようとしています.英国でもメイ首相がEUからの完全な強硬離脱(ハードブレグジット)を表明しました.韓国,フランス,ドイツでも大統領,首相の選挙が予定されており,保護主義的な動きが強まる恐れがあるとされています.このように世界の情勢は混沌としております.一方,米国の経営学者のジム・コリンズは著書『ビジョナリー・カンパニー』の中で,長年にわたって発展を遂げている超一流企業の重要な要素として,外部要因が大きく変化しようとも基本理念を見失わないことを挙げています.医療・医学を取り巻く環境も,近年大きく変わってきておりますが,われわれ整形外科医は「運動器疾患患者のQOL改善に貢献する」という基本的な理念・使命を見失わないようにする必要があります.

 さて,本号では誌上シンポジウムとして,大谷卓也先生のご企画による「股関節疾患の保存的治療とリハビリテーション」が取り上げられました.最近,股関節領域では人工関節や内視鏡下手術などが大変注目されておりますが,一方で,保存的治療やリハビリテーションは非常に重要な基本的治療であることは論を俟ちません.各シンポジストが股関節疾患に対するさまざまな保存的治療の実際と有効性・問題点をご提示していただいており,大変有用なシンポジウムになったと思います.

基本情報

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臨床整形外科
52巻3号 (2017年3月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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