臨床整形外科 52巻11号 (2017年11月)

視座

報道と現実 松峯 昭彦
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 先日,熊本を訪問する機会があった.宿泊のホテルが熊本城のすぐ近くだったため,タクシーの運転手さんにお願いして,熊本城に立ち寄ってみた.平成28年4月の熊本地震での熊本城天守の石垣(清正流:通称武者返し)の状況をぜひこの目で見てみたいと思ったからである.行って大変驚いた.熊本城は,私が想像していたよりはるかに大きな被害を受けているのである.天守の石垣の一部が損壊しているのはテレビの報道番組でみたとおりだが,損壊は天守だけでなく,城内の石垣という石垣が,広範囲に崩壊しているのである.城内の広場では崩れた石垣が番号をつけられ,整然と整理されているが,現状では再建にはほど遠い状況.崩壊しているのは石垣ばかりではない.現存している上級武家屋敷として有数の歴史的価値がある旧細川刑部邸の立派な外塀は,大きく傾き倒壊したままである.立ち入り禁止になっているため,内部の状況をうかがい知ることはできなかったが,大きな被害を受けているようである.

 テレビニュースは,“武者返し”として有名な天守の石垣の崩壊ばかり報道していたように記憶する.崩壊した石垣上で何とか姿を保っている天守をバックに現地の報道担当者がレポートしている様子や,ヘリコプターからの空撮で天守とその下の石垣を映し出しているのを,皆さんも何度も見たのではないだろうか.もちろん,天守の石垣は,今回,熊本城が受けた被害として象徴的なものではあるが,実際はそれ以上の広範な被害を受けているのである.熊本城一帯は重要文化財,特別史跡に指定されている.国民の重要な歴史的財産の被害の全貌が十分に伝わっていなかったのではないかと思った.また,現在の修復状況も十分に伝わっているとはとうてい思えない.

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背景:巨趾症は,まれな先天異常であり個々の症例によっても巨趾の成長の勢いが異なるため,手術内容やそのタイミングの選択が重要である.

目的:巨趾症を巨趾の成長率に基づいて分類し,それぞれのtypeの治療経過,結果から,巨趾症に対する治療の進め方を検討する.

方法:当科で経験した巨趾症29例30足を対象とし,巨趾の成長率に基づいて,Static type,Progressive type,Massive typeの3つに分類し,後方視的に治療経過,合併症,および最終観察時現症について調査した.

結果:Static type 14例では成長抑制術が行われていたが,Progressive type 13例では,手術内容は多岐にわたっていた.Massive type 2例では広汎切除術を要した.最終観察時には,靴のサイズの差や巨趾術後の醜形が問題となる例もあったが,約半数の13例で問題点はなく,全例で歩行障害もなかった.

まとめ:巨趾症は成長率の違いで治療経過は異なっており,そのtypeを治療初期段階で把握することで,適切な治療方針を立てるための一助となる.

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はじめに:膝内側半月板(MM)後角をpull-out法で縫合している.断裂様式と術後成績の関連を調査した.

対象と方法:2014年1月〜2015年12月の39例とし,うち22例は再鏡視可能であった.男性4例,女性35例で,年齢は平均65.0歳であった.

結果:断裂様式は完全断裂32例,部分断裂2例,陳旧性変化5例であった.抜釘時に完全癒合は5例,不完全癒合は17例であった.

考察:断裂様式と術後成績は相関せず,MM後角部の治癒能力が高いためと考えられた.

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背景:介護職員の腰痛において心理社会的要因が腰痛の程度に影響を及ぼすことが明らかにされているが,JOABPEQを用いた報告はあまりみられない.

対象・方法:介護士・介護福祉士98人を対象とし,腰痛の有病率とQOLとの関係についてRDQ,SF-36に加えてJOABPEQを用いて調査を行った.

結果:全体の65%が腰痛を有しており,腰痛あり群は腰痛なし群と比較しQOL評価の疼痛・心理面で有意に劣っていた.

まとめ:介護職員の腰痛については器質的要因だけではなく,心理社会的要因が影響している可能性がある.

Lecture

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難治性慢性疼痛の病態仮説

 発症後3カ月以上経過しても疼痛が改善しない疼痛は,慢性疼痛と定義される.特に,各種治療法を駆使しても疼痛が改善されない疼痛,疼痛によって生じている機能障害,あるいは,疼痛が残存する現状に満足できない状態のような「治療に難渋する」疼痛を難治性疼痛と呼ぶ1)(図1).疼痛の難治化には,多かれ少なかれ,解剖学(身体)的な原因のみならず,心理的あるいは社会的因子,個人の性格や人格的な問題,あるいは精神医学的疾患の関与が複雑に絡み合っていると考えられている.慢性疼痛を「生物・心理・社会的症候群」として捉えるべきであるとされる所以である2).一方,最近の神経科学の進歩から,脳機能が疼痛の先鋭化や遷延化に関与していることが明らかにされつつある3)

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はじめに

 関節軟骨には血管および神経ネットワークが存在しないため,組織修復能に乏しい.そのため,大きな軟骨損傷が起こった場合,その欠損部は修復されずに,変形性関節症へと移行していく.本病態への進行を抑制するために,装具療法,運動療法,高分子ヒアルロン酸製剤の関節内注射といった保存治療が試みられる.特にヒアルロン酸を製剤化した製品は,関節腔内に投与することで関節の潤滑機能を改善し,かつ疼痛抑制作用も有することから,本邦では変形性関節症における関節機能改善薬として多く使用されている.しかし,軟骨変性の進行を十分に抑える効果は認められず,軟骨損傷が進んだ変形性関節症においては,最終的には人工関節への置換を行う以外に方法がない.また,外科的治療として,骨髄刺激法(marrow stimulation technique),自家骨軟骨柱移植術(mosaicplasty),および自家培養軟骨移植術(autologous chondrocyte implantation)といった外科的処置が試みられる.しかし,これらの治療法はいずれも適応の限界があり,また移植片採取による手術侵襲の問題や,医療費用・治療期間などの問題があり,新たな治療法・治療基材の開発が待ち望まれる.

 一方,アルギン酸は,海藻から抽出された酸性物質で,D-マンヌロン酸とL-グルロン酸が直鎖上に重合したヘテロポリマーである.アルギン酸は陽イオンと結びついて,塩を作る性質がある.特に2価のカチオンであるCaイオンとの親和性が高く,イオン化したアルギン酸とCaを接触させると,ただちにゲル化が起こる.このゲル化の際に熱反応を起こさないため,移植細胞やたんぱく質などの活性を落とすことなく,ゲル内に包埋することが可能となる.また,アルギン酸と軟骨細胞との相性がよいことは知られており,軟骨細胞やその前駆細胞,幹細胞の担体としての有用性に多くの期待が寄せられている.

 本稿では,これまでわれわれが行ってきた関節軟骨治療用の医療材料としてアルギン酸を応用する近年の試みを紹介する.

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背景:近年,術中脊髄機能モニタリングは普及しているが,ゴールドスタンダードといえるアラームポイントの合意には達していない.

方法と対象:可能な限りfalse negative例を減らすためにアラームポイントを振幅低下30%,潜時遅延10%と設定し,脊椎変性疾患を中心とした318症例に対して前向きにモニタリングを試みた.

結果・まとめ:感度100%,特異度95.7%,false negative 0例と良好な結果を得たが,false positive例が多く,さらなる検討が必要と考えられた.

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背景:両側殿筋内脱臼股の矢状面腰仙椎アライメントについて調査した.

対象と方法:女性の両側殿筋内脱臼股群60例と大腿骨頭壊死群50例の腰椎前弯角(Lumbar lordosis:LL,L1-S1),仙椎傾斜角(Sacral slope:SS),椎体角,椎間板角を比較した.

結果:両側殿筋内脱臼股群は大腿骨頭壊死群に比べて,有意にLL,SS,椎体角(L5),椎間板角(全椎間)が大きかった.

まとめ:両側殿筋内脱臼股は骨盤前傾増強に伴う腰椎過前弯を呈し,寄与因子は,L5椎体と全腰椎椎間板の形状であった.

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背景:非特異的腰痛の全体像に関する報告は少なく,非特異的腰痛の定義も明確ではない.

方法と対象:当院を受診した腰痛・腰下肢痛を主訴とした非特異的腰痛542例を,ペインドローイングを用いた4型に分類し,年代との関係について調べた.

結果:非特異的腰痛の50%弱を30〜40代が占めた.ペインドローイング分類別では腸骨稜上下群が最も多く,各年代とも約40%前後だった.腸骨稜上下群は年代とともに減少し,腸骨稜下方群は年代とともに増加した.増加した腸骨稜下方群は殿部下肢群が主体だった.70歳以上では殿部下肢群が79%と大半を占めた.一方,30〜40代では殿部群が多かった.

まとめ:ペインドローイング分類を用いることで,非特異的腰痛の病態研究が前進する可能性がある.

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 セメントレス人工膝関節全置換術から術後2年でporous tantalum monoblock patella component(以下,PTMP)の折損により再置換術を施行した症例を経験したので報告する.症例は57歳男性,右変形性膝関節症に対しTKAを施行した.術後2年でPTMPのペグ折損を認めた.PTMPはリーミングしたスクリューより1mm大きい六角形構造からなるpress-fitタイプ(1つのペグ)であり,全サイズ一律の厚みである(10mm)ことが特徴である.アライメント不良や肥満などの危険因子は認めなかったが,術後早期に土木作業員として活動性の高い仕事に従事していた.術中軟部組織には金属溶解に伴う黒色沈着を認めたが,ポリエチレン摩耗粉による異物反応での骨溶解はなく,PTMPの機械的強度との関係性が示唆された.

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 Custom cutting guide(以下,CCG)を併用した人工膝関節全置換術(以下,TKA)は,conventional TKAと比べ臨床成績は改善しないとの報告がある.しかし,重度関節外変形,骨内異物残存や重度内反変形に対し,CCGを併用することで最小侵襲かつ,骨内異物を干渉することなくTKA施行が可能であった症例を経験したので,文献的考察を含め報告する.

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 非常に稀な第5手根中手関節(CM関節)掌側脱臼骨折を経験した.手術は有鉤骨掌側関節面を整復し背側からKirschner鋼線(K鋼線)で固定した.4週間のシーネ外固定後,可動域訓練を開始した.術後7カ月でK鋼線を抜釘し,鉤を含め転位はなく骨癒合し関節面の適合性は良好であり,手指可動域,握力,中手骨降下(metacarpal descent)ともに良好であった.CM関節軽度屈曲位で中手骨の骨軸が掌側へ移動した状態での軸圧が中手骨の掌側脱臼骨折を生じさせ,さらにその力が有鉤骨鉤に及んで鉤骨折させたと考える.

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 小児上腕骨内側顆骨折の1例を報告する.6歳男児.鉄棒から転落し受傷した.X線写真,CT検査で右上腕骨遠位内側に剥離骨片様陰影を認めたが診断に至らず,MRIで軟骨片が反転した内側顆骨折を認めた.同日,骨折観血的手術を施行した.術後1年で伸展制限が25°であるが日常生活に支障なく経過している.骨端核出現前の上腕骨内側顆骨折はX線写真,CTでは診断が困難で,軟骨が描出できるMRIは有用であった.また,小児肘周辺骨折症例に対して,内側顆骨折も鑑別診断に挙げて診察に当たる必要がある.

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 今回われわれは極めて稀である四肢体幹部におけるsoft tissue osteomaの1例を経験したので報告する.22歳男性,11年前に出現し,緩徐に増大する左足底部腫脹を主訴に来院された.悪性も考慮し部分切除生検を行った,術中迅速検査の結果,悪性所見のない骨腫との診断であったため一期的に全摘出を行った.摘出検体は48×40×42mmと骨腫としても大きいものであった.病理組織学的には,成熟した正常骨組織像を示し,辺縁優位の骨化を認めず,軟部組織内での発生であったことからsoft tissue osteomaと診断した.過去の報告例など,文献的考察を加えて報告する.

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欧文目次

INFORMATION 第10回セメントTHAセミナー

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 このたび,和歌山県立医大整形外科学教室𠮷田宗人名誉教授の編集によって『脊椎内視鏡下手術[Web動画付]』が医学書院から発刊された.表紙の帯に記載されているように,和歌山県立医大がめざしてきた洗練された手術手技,そのために積み重ねてきた技術と真理のすべてが本書に集約されている.内視鏡下脊椎手術は1991年にObenchainが腹腔鏡視下手術を施行したのに始まり,その後,1997年にはSmithとFoleyによって後方からの内視鏡による椎間板切除術が施行された.

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 本書は,脊椎・脊髄疾患の外科治療を専門とする医師,およびそれを志す医師にとって,必須の書籍と思われる.編著者の菊地臣一先生が序文で述べているように,本書のコンセプトは,「脊椎・脊髄外科の臨床というart」と「解剖というscience」の統合といえる.いうまでもなく,あらゆる手術の基本は,外科医が局所解剖を正確に把握し,そのうえで,病変に対する,手術体位を含めた適切な到達方法の選択が肝要である.特に,脊椎・脊髄手術におけるこれらの重要性は論をまたないであろう.

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 畏友で,同志でもある福原俊一先生が『臨床研究の道標(みちしるべ)』の第2版を出版された.第2版は,2013年に出版された第1版と違って,上・下の2巻で構成されている.

 第1版の発行から4年での第2版,しかも上・下2巻と,より充実した内容である.この事実は,いかに臨床研究の領域が深化し,そして多岐に渡り,しかも進歩が早いかを示している.もう1つは,医療者の臨床研究への関心が高くなっていることを明らかにしている.私が若かった頃,「私の経験では」という言葉が学会では通用していた.本書が好評を以て迎えられている事実は,そのような時代が今は過去になったという証左でもある.

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 小児骨折では長らくBlountの“Non-operative dogma”(非手術治療の教義)というものがあった.すなわち,小児骨折は早期の骨癒合とリモデリンングのため,通常は保存的治療で良好な結果が期待できるというもので,これが小児骨折治療の常識とされていた.私が整形外科医になりたてのころは,①10歳以下の骨折は小児骨折の範疇に入り,リモデリングが期待できる,②関節可動方向の変形はよく矯正される(例えば肘・膝では矢状面),③内外反/回旋変形は矯正されない,と教わり,今でもこのようなことを記載している成書をみかけることがある.

次号予告

あとがき 松山 幸弘
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 視座に「報道と現実」といったタイトルで福井大学整形外科教授の松峯昭彦先生が執筆されている.熊本地震時の熊本城の凄惨な破壊状態の現実は,報道とは違いさらに大きなものであり,そのギャップに驚かされたといった内容であった.おそらく報道は,一部の,人の目を引き付ける部分だけをクローズアップする傾向が原因であろうと考察されていた.

 テレビ報道や,現在の電子メディア(ツイッターやフェイスブックなど)を介しての報道や情報伝達には,報道する側も,視聴する側も,十分配慮していかねばなるまい.私も報道に関しては苦い経験がある.

基本情報

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臨床整形外科
52巻11号 (2017年11月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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