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はじめに
関節軟骨には血管および神経ネットワークが存在しないため,組織修復能に乏しい.そのため,大きな軟骨損傷が起こった場合,その欠損部は修復されずに,変形性関節症へと移行していく.本病態への進行を抑制するために,装具療法,運動療法,高分子ヒアルロン酸製剤の関節内注射といった保存治療が試みられる.特にヒアルロン酸を製剤化した製品は,関節腔内に投与することで関節の潤滑機能を改善し,かつ疼痛抑制作用も有することから,本邦では変形性関節症における関節機能改善薬として多く使用されている.しかし,軟骨変性の進行を十分に抑える効果は認められず,軟骨損傷が進んだ変形性関節症においては,最終的には人工関節への置換を行う以外に方法がない.また,外科的治療として,骨髄刺激法(marrow stimulation technique),自家骨軟骨柱移植術(mosaicplasty),および自家培養軟骨移植術(autologous chondrocyte implantation)といった外科的処置が試みられる.しかし,これらの治療法はいずれも適応の限界があり,また移植片採取による手術侵襲の問題や,医療費用・治療期間などの問題があり,新たな治療法・治療基材の開発が待ち望まれる.
一方,アルギン酸は,海藻から抽出された酸性物質で,D-マンヌロン酸とL-グルロン酸が直鎖上に重合したヘテロポリマーである.アルギン酸は陽イオンと結びついて,塩を作る性質がある.特に2価のカチオンであるCaイオンとの親和性が高く,イオン化したアルギン酸とCaを接触させると,ただちにゲル化が起こる.このゲル化の際に熱反応を起こさないため,移植細胞やたんぱく質などの活性を落とすことなく,ゲル内に包埋することが可能となる.また,アルギン酸と軟骨細胞との相性がよいことは知られており,軟骨細胞やその前駆細胞,幹細胞の担体としての有用性に多くの期待が寄せられている.
本稿では,これまでわれわれが行ってきた関節軟骨治療用の医療材料としてアルギン酸を応用する近年の試みを紹介する.
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