臨床整形外科 52巻12号 (2017年12月)

誌上シンポジウム 慢性腰痛のサイエンス

緒言 大鳥 精司
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 非特異的腰痛は,ぎっくり腰,筋膜性,椎間板性,椎間関節性,神経根性などが含まれる.慢性腰痛患者へのブロック注射から得られた知見として,疼痛発生部位の可能性について,椎間板の可能性39%,椎間関節の可能性,15〜32%,仙腸関節の可能性13〜18.5%と報告された.近年,高齢社会を迎え,骨粗鬆症,それに付随するサルコペニア,脊柱変形の患者が増加している.実際にPubMedで検索してみた場合,椎間板や神経根由来の腰痛の研究はここ数年プラトーに達しているが,骨粗鬆症,筋由来の腰痛研究は年々増加の一途である.ただ残念ながら,実臨床で腰痛の発生源を限定することは,85%は困難とされている.

 一方で,腰痛の病態としては,侵害受容性疼痛(炎症性疼痛)と神経障害性疼痛に分類され,それに見合った薬物療法,ブロック療法が施行される.臨床では,炎症性疼痛と,神経障害性疼痛を判別するさまざまなサポートツールが開発されている.平成23年(2011年)に日本脊椎脊髄病学会主導研究として実施された脊椎関連慢性疼痛患者における神経障害性疼痛の有病率調査により,脊椎関連慢性疼痛患者の神経障害性疼痛有病率は53.3%,うち腰痛患者では29.4%と報告された.この結果は本邦の脊椎関連慢性疼痛患者の神経障害性疼痛有病率に関する一定の見解を与えたが,腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などでの殿部痛・下肢痛などの神経障害性疼痛由来を否定できない病態の罹患率と比較すると,必ずしも実情を正確に反映していない可能性がある.さらには下肢痛のない,腰痛のみの患者でも痛みが強い場合,神経障害性疼痛に含まれてしまう問題点があった.

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 慢性腰痛のうち,多くは病因を特定できない非特異的腰痛であると言われており,しばしば治療に難渋する.非特異的腰痛の原因として,椎間板由来,椎間関節由来,仙腸関節由来,筋膜由来,椎体由来などの要素が報告されているが,その詳細な機序は不明である.本稿では,非特異的腰痛の代表として椎間板性腰痛の病態に焦点を当て,炎症性サイトカインを介した椎間板性腰痛の基礎的発生機序について概説する.

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 The Wakayama Spine Study(WSS)は大規模コホート研究ROAD(Research on Osteoarthritis Against Disability)studyのサブコホートとして,脊椎疾患の疫学データを報告してきた.本稿は腰痛の疫学として,椎間板および周囲のMRI変化と腰痛に関して述べる.腰椎にT2強調矢状断像で低信号変化した椎間板変性を1つでも有する場合は,有意に腰痛を有する結果であった(オッズ比1.57).しかしながら椎間板変性,終板変化,そしてSchmorl結節を各画像単独で検討すると有意な関連がみられなかった.一方,画像変化がすべて組み合わさると,画像変化がない場合と比べて有意に腰痛が生じていることがわかった(オッズ比2.17).以上から,椎間板変性および周囲の変化は組み合わせることによって腰痛との関連があることがわかった.

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 近年,腰椎変性疾患に対する画像診断技術の進歩はめざましく,従来の方法では捉えられなかった腰痛・下肢痛の病態が把握できるようになってきた.それに伴って,得られた画像についての新たな解析・評価法についても多数の報告がなされている.本稿では,腰椎変性疾患に伴う腰痛・下肢痛の画像診断における最近の知見を紹介し,それらの臨床的な有効性と限界について検討する.今回は特に,1)馬尾・神経根の圧迫病変,2)椎体終板・椎間板変性,3)筋変性,4)脊椎アライメント異常,5)仙腸関節障害,6)脳の器質的・機能的変化の各病態の画像診断について述べる.

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 近年,MRI装置の高磁場化やパルスシーケンスの改良に伴い,水分子の拡散を強調し画像化した拡散強調画像が発展してきた.化膿性脊椎炎において拡散強調画像はpositron emission tomography(PET)に相同性のある集積像を示し,早期鑑別に有用であった.さらに拡散テンソル画像diffusion tensor imaging(DTI)により腰部神経叢の3次元走行を鮮明に描出でき,診断困難とされる腰椎椎間孔狭窄部でtractographyの途絶を認め,拡散異方性の強さを示す指標fractional anisotropy(FA)値は低下し臨床症状と相関した.拡散強調画像により化膿性脊椎炎の早期診断や腰神経病変を可視化・定量化できる可能性があり,さらなる飛躍が期待される.

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 当教室で行った骨粗鬆症性椎体骨折に対する多施設研究の結果について概説する.1回目の研究から,約80%は予後良好であるが,骨癒合不全に至ると臨床上の問題が増え,予後不良例の予測においては,装具や入院などの治療的介入よりも,後壁損傷を認めること,T2強調画像の特徴的な所見,運動習慣のないことなどの要因が重要であることが判明した.2回目の研究からは,MRIでの骨折部の信号変化は長期にわたり残存すること,椎体骨折後の腰痛の推移には4つのパターンがあり,骨折部の安定化が疼痛緩和に寄与することが判明した.

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 高齢者では,椎間板変性,骨粗鬆症による椎体骨折後の椎体変形,腰背筋筋力低下などのさまざまな原因から脊柱変形を来す.高齢者の脊柱変形では,容姿上の問題だけでなく腰痛などによるADL障害を伴うことも多い.成人脊柱変形患者の病態への理解が深まるにつれて,画像上では脊柱管や椎間孔に異常を認めないような症例で,脊柱変形による腰痛であると診断されるケースも増えてきた.本稿では,高齢者脊柱変形に伴う腰痛について最近の知見を交えて概説を行う.

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 腰痛患者65名を対象にしてdual energy X-ray absorptiometry(DXA)法とbioelectrical impedance analysis(BIA)法の四肢筋量の相関関係と実際の測定値の差異について調査した.四肢筋量測定において,DXA法とBIA法の測定値は強い正の相関関係を認めたが,BIA法の測定値が有意に高値であった.また,四肢筋量と骨密度も正の相関関係を認めた.骨粗鬆症患者130例において,骨粗鬆症薬の筋量に対する効果について調べた.骨粗鬆症がなく経過観察を行ったコントロール群に比し投与後6カ月で骨密度は有意に増加したが,下肢筋量は有意に減少した.ビタミンD併用患者では下肢筋量の減少量が有意に少なかった.

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はじめに

 近年の足関節鏡手技・器械の進歩に伴い,陳旧性足関節外側靱帯損傷の手術治療において,鏡視下手術に代表される低侵襲手術に関する報告が増えている1,2).鏡視下手術は遺残靱帯を用いる靱帯修復術,移植腱を用いる靱帯再建術の2つに大別され,遺残靱帯の状態が良好であれば靱帯修復術が,遺残靱帯の状態が悪ければ靱帯再建術が選択される.

 筆者らも遺残靱帯の状態によって,スーチャーアンカーを用いた鏡視下靱帯修復術3),自家薄筋腱を用いた鏡視下靱帯再建術(A-AntiROLL)のいずれかを選択し行っている4)

 本稿では筆者らが行っている陳旧性足関節外側靱帯損傷における鏡視下手術について述べる.

境界領域/知っておきたい

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はじめに

 腰痛に占める椎間関節由来の疼痛の頻度は,約15%と報告されている1).山口県で行った腰痛の原因についての臨床研究でも,椎間関節は診断可能な,いわゆる非特異的腰痛の37%(非特異的腰痛全体の27%,腰痛全体の21%)を占めており,最も頻度の高い原因であった2).現在,難治性の椎間関節性腰痛に対する後枝内側枝の高周波熱凝固(電気焼灼術)は“gold standard”の治療法として推奨されている3).本稿では椎間関節性腰痛の診断,われわれが行っている複合筋活動電位(compound muscle action potential:以下,CMAP)を併用した電気焼灼術の実際について述べる.

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 内側膝蓋大腿靱帯(medial patellofemoral ligament:以下,MPFL)再建術を施行した19例19膝を対象とし,術後臨床成績とスポーツ復帰の状況を検討した.検討項目は術前のスポーツ活動の有無,術後のスポーツ活動復帰・再開の有無,術前後のTegner Score,Kujala Scoreとした.術前にスポーツ活動を行っていたのは13例68%で,全例がTegner Score 7のスポーツであった.術後スポーツ活動を行っていたのは14例74%で,術前からスポーツを行っていた症例のうち復帰が13例,術後新たに開始したのが1例であった.Tegner Scoreは術前後で変化なく,Kujara Scoreは58から96に改善した.MPFL再建術の術後経過は良好で,Tegner Scoreでのレクリエーショナルスポーツ以下の活動であればスポーツ復帰に問題はないと考えられた.

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背景:頚椎に後弯のない頚椎後縦靱帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)に対し,頚椎椎弓形成術(expansive cervical laminoplasty:ELAP)術後頚椎後弯発生の危険因子を検討した.

対象と方法:術前C2-7 SVA(sagittal vertical axis)≦80mm,SVA≦95mmの頚椎OPLL患者27例に対し,術前の頚椎形態と全脊柱矢状面アライメントを評価した.

結果:術後後弯は26%で発生し,鎌田の分類でlordosis typeを呈する症例では術後後弯は発生せず,後弯群では,術前C2-7角,C2-7 SVAが小さかった.

まとめ:術前に頚椎前弯が小さく,直線化した頚胸椎アライメントは,術後頚椎後弯のリスクとなる.

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 肘関節の後外側回旋不安定症(posterolateral rotatory instability:PLRI)は,その概念が広く認識されるまで,その存在が考慮されずに治療されてきたものと考えられる.われわれは,最近の軽微な外傷により顕在化したPLRIと思われる1例を経験したので報告する.尺骨鉤状突起骨折の観血的整復固定術と外側側副靱帯の修復術により,PLRIは消失した.PLRIは,放置されると,変形性肘関節症を引き起こし得る.よって,変形性肘関節症患者の診察においては,潜在するPLRIを考慮する必要がある.

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 小児膝蓋骨脱臼は放置すると膝蓋骨や滑車形成の発達に影響するため,できるだけ早期の観血的整復術が推奨されている.今回われわれは小児膝蓋骨脱臼の2例3膝を経験した.症例は4歳5カ月男児と7歳3カ月男児で,ともに母親が膝蓋骨脱臼に気付いたため当院を受診した.2例3膝ともdistal realignment法の1つであるRoux-Goldthwait法に外側支帯解離術と内側広筋縫縮術(Insall法)を追加した術式を行った.術後7年から9年の時点で良好な結果を得たので報告する.

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欧文目次

INFORMATION 第10回セメントTHAセミナー

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 脊椎・脊髄外科の手術手技は,新規の手術機器やインプラントの開発に伴って,近年,長足の進歩を遂げており,多くの脊椎疾患が従来と比較してより低侵襲に治療することが可能となった.一方で,手術解剖に関する理解が不十分なまま行われた低侵襲手術や新規手術手技による合併症の報告が相次いでいるのも残念ながら事実である.解剖の知識を持たずに手術を行うことは,海図も持たずに荒波に漕ぎ出すようなもので,いかに新しいインプラントや手術機器を用いたとしても無謀な冒険以外のなにものでもない.われわれ外科医は常に手術解剖という基本に基づいた手術を心掛ける必要がある.

次号予告

あとがき 土屋 弘行
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 秋の学会シーズンもそろそろ落ち着きをみせる頃でしょうか.暦の上では立冬も過ぎ,雪の便りも聞こえるようになりました.ここ北陸でも,例年よりも早く白山連峰や立山連峰は雪化粧をしています.北陸の冬は,過去3シーズン,雪がほとんど降りませんでしたので,久々に大雪が来そうな気がしています.

 トランプ大統領が日本を訪れました.何やかんやと話題の多い方ですが,安倍首相の頑張りもあって,良好な日米関係の構築が期待できそうです.政治,経済,外交の諸問題が,よい方向へ行ってくれることを切に願っています.医療関係者としましては,貿易の不均衡で日本の車や精密機器などが取り沙汰されていますが,医療機器や薬剤においては米国製が猛威を奮っているわけでして,医療経済的にこれを何とかしないといけないといつも思っています.

基本情報

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臨床整形外科
52巻12号 (2017年12月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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