胃と腸 9巻11号 (1974年11月)

今月の主題 膵疾患の展望(1)―膵炎を中心に

主題

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 近年,膵疾患への関心がとみにたかまってきた.これは,膵疾患へのアプローチを従前より容易にした診断技術の急速な進歩によるところが大きい,膵に対する当面の大きな問題は,膵炎の臨床の整理と膵癌とくに膵癌の手術の可能例(このうちには早期胃癌に相当する早期膵癌が含まれてくる)をいかにして増加させるかにある.現状では,未だ悲観的材料のほうが多いといわざるをえないが,近い将来には大きな飛躍が期待されるし,また左様でなくてはならないと考える.今度の膵疾患特集にあたって,膵疾患の展望というか,問題点をいくつか選んで概説を加えることにし,今回は膵炎を,次回は膵癌を中心に,主として我国の現状を欧米と比較して反省してみたいと思う.

 なお,日本における膵疾患の現状は座談会でおわかりかと思うが,他領域に比べると未だしの感が深い.今後の発展がつよく期待されるところである.

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 膵は70~90gていどの小さな臓器であるにかかわらず,1日に約1,500ml,またはそれ以上の膵液を分泌している(Bodanskyら).たんぱく量にすると,10~20gまたはそれ以上になると考えられ,大きなたんぱく合成能力をもっている,このたんぱくのほとんどが消化酵素である.

 Davenportの“Physiology of the Digestive Tract”によると,ネズミの膵組織は0.2gのたんぱく量であるが,1日に0.4gの膵酵素を合成し,分泌しているという.すなわち膵自体のもつたんぱくよりも多くのたんぱくを合成している.実験的にはラベルしたアミノ酸を注射すると,1分以内に膵外分泌細胞内のリボゾーム上にキモトリプシノーゲンとしてあらわれ,5分以内に膵酵素の前駆物質としてラベルされ,36分で分泌顆粒の中に酵素として存在し分泌状態となる.このことは臨床的には,75Se-メチオニンによる膵のシンチグラフィーのときによく観察される.

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 与えられた課題が非常に広範にわたるので,急性あるいは慢性の膵炎の診断と治療について概括的に述べ,さらに,現在のわれわれが当面している問題点について触れてみたい.

急性膵炎について

 われわれがかつて急性膵炎の治療に関する考察を試みたさい,本症の治療を考える上にはいくつかの基本的な問題を踏えねばならぬことを指摘した1).その中の1つは,本症のように急激に変化する病状に対しては治療を一括して論ずるのでなく,病期に対応してこれを考慮することが望ましいという点であった.これを診断の立場から眺めると,急速に変遷する病態を正確に把握して,治療の指針をたてるのに役立つ診断法の確立がつよく望まれる.いいかえると,必ずしも急性膵炎の診断が確定してから治療が始まるのでなく,患者に接触すると同時に治療が開始され,両者は併行して進められることが少くない.この間の消息を表1で模式的に示す.

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 一般に膵炎といわれている疾患は大きく分けて急性膵炎と慢性膵炎とに分けられるが,一般に急性膵炎といわれている疾患概念は学者によりその内容が若干異なり,膵壊死や出血壊死を含めて一括して急性膵炎といっている人もある.著者は病理形態学的に急性間質性(化膿性)膵炎・膵壊死・出血~出血壊死等はそれぞれ発生原因・発生機序も異なるので別個に取扱った方がよいと考え,急性膵障害あるいは“いわゆる”急性膵炎と呼称している.一方,慢性膵炎も学者によりいろいろで,膵線維症,膵硬変症,石灰化膵炎(膵石症)を含めているものと別個に取扱っている学者とある.著者は発生原因・発生機序も異なる点があるので別個に取扱い,慢性膵障害あるいは“いわゆる”慢性膵炎と呼んでいる.

 今回与えられたテーマ“膵炎を中心とした膵疾患の病理”の内容は極めて広範で到底与えられた紙面で全てを述べることができないので,今回は次の問題について著者の考えを述べてみたい.忌憚のないご批判を賜りたい.

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 慢性膵炎にたいする関心が急速にたかまっている現在,膵石症に関する報告例もしだいに増加しつつあるが,家族性にみられた膵石症となると,本邦では,まだわずか4家系の報告をみるにすぎない.このたび,われわれは兄弟にみられた膵石症例を経験したので,その概要について述べる.

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 膵島は数種の異なるホルモンを産生する細胞から成り,そこに生ずる腫瘍にはホルモン産生能を保持して臨床的に特有なホルモン過剰症を顕わす症例も稀でない.先ず1927年Wilder et al.がインシュリン産生β細胞腫を報告,手術的摘除により完治せしめ得る事から症例の報告が次第に増して来た.続いて1955年Zollinger,Ellisonは多発性胃潰瘍と胃液亢進を主症状とするいわゆるZollinger-Ellison症候群を呈する非β細胞腫を報告,後にガストリン産生亢進が認められた.他にグルカゴン産生α細胞腫の症例や,又膵島細胞とは直接の関係は明らかでないが,セロトニン産生のカルチノイド症例等も確認されている.本学中央検査部病理検査室で経験された膵島腫瘍の手術摘出症例8例から数例を選び報告する.

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 常岡(司会) 今日お集まりの先生方は,膵疾患に関してはベテランの先生方ばかりですから,座談会もりっぱな内容が期待されます.よろしく.

 膵疾患は,肝臓の病気などに比べますと,少ないと思われますけれど,最近,いろいろな検査手技が発達してきたため,以前よりは膵疾患の頻度も高い,あるいはそれに関連していろいろ新しい問題点も出ておるかと思います.

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 いわゆるシモフリ(サラミ)病変は球部の潰瘍性病変の周辺にはごく普通に認められるものであるが,潰瘍性病変部からかなり離れた部位や,はっきりした潰瘍性病変を認めない球部に単独のシモフリ(サラミ)病変を認めることは比較的少ない.

 図は球部全体に散在性および一部ビマン性に軽度の発赤を認め,十二指腸球部炎として経過観察中であった症例で,自覚症状の増悪とともに球部全体に散在性に発生したシモフリ(サラミ)病変の一部分のGIF-Dによる近接拡大像(0.2%インジゴカルミン液撒布)である.図のようにシモフリ(サラミ)病変の白苔(色素液によって淡青色に着色している)は淡雪あるいはアイスクリームが粘膜表面に附着したような状態で観察され,その周辺粘膜の絨毛は前回に述べた「イクラ型」絨毛とまでは変化していないが,やや浮腫状で,中心発赤も明らかである.生検ではビランおよび中等度から高度の炎症性細胞浸潤を認めた.本例の経過観察では,2週後には図のようなシモフリ(サラミ)病変の数はかなり少なくなり,大きさも小さくなっていたが,依然として認められた.しかし4週後にはシモフリ(サラミ)病変は全く消失し,軽度の発赤と絨毛の軽度不整を認めるのみとなった.

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 内視鏡機器の進歩に伴ない,食道癌をはじめとする各種食道疾患に対する内視鏡診断学が漸次確立されつつあり,食道炎においても第14回日本内視鏡学会シンポジウムにてとりあげられ,検討がなされた.そして食道炎,ことに逆流性食道炎の所見として食道粘膜の発赤(線状,樹枝状,地図状など),びらん,白苔などがあげられ,その診断は内視鏡的には比較的容易である1).しかしこれらの変化は生検組織にみるように好中球浸潤を中心とした急性炎症性変化であり,食道炎における慢性変化については内視鏡診断学上,まだ十分な検討がなされていない.

 食道の内視鏡観察上,少数のロイコプラキー,小顆粒の存在はほとんど全例にみられ,われわれはこのような小顆粒の存在,粘膜の肥厚感,粗大顆粒,ロイコプラキーなどの所見を食道粘膜の粗糙

性所見としてとらえ,その程度をⅠ~Ⅲ度に分類している.この所見は加齢と共にその程度が強くなっており,粗糙性所見のない0度は若年者のごく少数例にしかみられない.一方,このような症例に食道3点生検(食道上部・中部・下部より生検)を行ない,その組織所見をみると,炎症性細胞浸潤の出現頻度は粗糙性所見が高度になるにつれ,高くなっている.しかし剖検材料の検討においては加齢と細胞浸潤の出現頻度とは相関せず,粗糙性所見は一方で加齢による影響をうけ,他方,加齢と関係なく炎症性変化の要素をもっていることがうかがわれた.

一冊の本

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 「胃と腸」の内視鏡的ポリペクトミーの特集号がでたのは1974年3月,第9巻,第3号であった.読者の諸先生のなかには主題がかたよりすぎると感じられた方も少なくないかもしれない.

 私がこのうすい73頁の本を入手したのは日本消化器内視鏡学会総会の展示場であったから,'74年5月ということになる.

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 従来,出血性びらんという用語は,びらんまたは,びらん性胃炎の用語と混用されてきた.Table 1に示すように,既に1897年,Lainé1)によるÉrosions Hémorrhagiquesが初めでその後著者により,その命名はまちまちで統一されておらず,ほとんどが肉眼所見に基づくもので,現在用いられているものは,この内わずか3~4に過ぎない.この混乱に対しKatz2)(1968年)がAcute erosive gastritis,Hemorrhagic gastritis,Acute gastric ulcerをAcute gastric mucosal lesions(以下AGMLと略)と総称することを提唱したが,本邦でも,川井ら3)の急性胃病変の呼称がある.

 出血性びらんの内視鏡的観察については,1939年Schindler4)がこれを詳細に記述している.即ち出血性びらんは,新しいかつ重要な疾患であることを強調し,Mucosal Hemorrhage,Hemorrhagic erosion,およびPigment spotに分類しその症例を述べているが,この業績が35年前に発表されたこと,およびその卓越した内容は,今日なお我々に感動大きなものを与える,同様に,Fodden5)も胃・十二指腸潰瘍に合併する出血性びらんについて述べている.このほか,AGMLとアルコール,種々な薬剤,または中枢神経系疾患との関連を論じた報告は,まさに枚挙にいとまがない.

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 小腸のX線診断は小腸が長く錯綜しているため,検査に長時間を要し,頻回の検査をする必要があり,しかも連続充盈像が得られず,また悪性腫瘍や潰瘍などの器質的疾患が比較的少いために敬遠される傾向にある.胃透視にひきつづいて行なうルーチン小腸X線検査法の弱点を改善するために,造影剤の分劃投与法1)~3),冷水,冷食塩水併用法4)~7),ソルビトール併用法8)9),胆のう造影剤併用法10),ガストログラフイン併用法11),非経口薬剤投与法12))などの種々の試みが行われてきたが,決め手になる方法が確立されずに現在に至っている,小腸全体の連続充盈像を短時間にしかも確実にえて,局在する器質的病変を描出する目的で,ゾンデを直接十二指腸内に挿入して造影剤を注入する方法はDavid13)(1913)に始まり,Pesquera14)(1924)およびGershon-Cohen15)(1939)によりbarium enteroclysisの名称で試みられている.Pesquera14)は全小腸の観察が30分以内にできることを報告し,Gershon-Cohen15)は二重造影法を試みて大腸の二重造影と同様の意味づけをしている.Schatzki16)(1943)はsmall intestinal enemaと呼び経肛門的に行なう大腸の充満像と同様の意味で十二指腸チューブを通して500~1,000mlのうすい造影剤を注入し,短時間に小腸全体の観察ができ,器質病変の診断には最も優れた方法であろうと述べている.

 たしかに局在する器質病変の診断能は向上するが,ゾンデを十二指腸に挿入するのに時間を要することと,揚合によっては挿入不能のこともあるために,あまり普及されなかった.しかしBilbao et al.17)がゾンデを十二指腸に挿入する時,フォルクスワーゲンのスピードメーターケーブルをガイドワイヤーとして使用すれば非常に簡単で短時間に挿入可能であることを報告して以来,さらにSeldingerカテーテル用ガイドワイヤーが使用されるようになり,小腸X線検査にも応用されるようになった.Sellink18)は造影剤の濃度,比重を検討し,比重1.25~1.35のバリウム600~1,200mlをゾンデを通して注入し,全小腸の美麗な充盈像が15分以内に得られたと報告している.

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 Vater乳頭部や膵頭部の病変の診断法としてHypotonic duodenographyや十二指腸ファイバースコープによる内視鏡的観察および逆行性膵胆管造影法は手技的にもほぼ完成され,その進歩普及はめざましいものがある.しかしながら,乳頭部の腫大を呈する場合,乳頭部の炎症性腫大と膨大部癌とを内視鏡的観察のみで鑑別診断することは必ずしも容易でなく1)2),また,レ線上,膵頭部の腫大を認める場合にも,炎症性腫大と癌との鑑別診断が困難な症例も少なくない.このように鑑別困難で,かつ悪性病変が強く疑がわれる症例に対しては,開腹し術中生検によって確診をうるという努力が従来より払われてきた.

 術中膵生検に関してはincisional biopsyの限界が指摘されていらい,膵内の硬結を触知する部位に針を用いて生検を行なう方法(fine-needle aspiration biopsy)が赤司ら3),Forsgrenら4)により,良好な診断成績を報告されているが,他方,非開腹的に膵組織を得る方法については詳細な報告をみないようである.

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欧文目次

書評「新臨床内科学」 和田 武雄
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 「意を尽くして,要を得る」.それが新臨床内科学を通覧してまず感ずることである.

 内科学は本来臨床医学全般の基礎面に付して学ばれるべき学問的性格のものであり,それだけに,きのう・きょうの基礎医学周辺の広い学問の進歩をとり入れながら新しくされなければならない.性急にそれをとり入れればとかく半可通の難解性をまぬがれ得ないし,内容が錯雑化して硬直となるきらいなしとしない.

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〔質問〕

 消化管ホルモンの治療面での応用についてお教え下さい(岡山 I生)

 消化管ホルモンは消化管粘膜から分泌され,主として消化管の分泌,運動,代謝を調節するホルモンとして最近概念が確立されたものである.しかし,そのようなものが存在するだろうといわれたのはかなり古く,既に今世紀の始めにセクレチン,ガストリンの存在が指摘されているが,各々が抽出され分子構造が明らかになったのはここ10年程のことであり,最近は2,3の綜説も出ている1)2)

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 この20余年間,胃の内視鏡からはじまって食道・十二指腸・小腸の内視鏡へと,わが国の消化器内視鏡学会の研究陣は国際的に引きつづき指導的役割を演じてきた.さらに大腸の内視鏡診断学についても,弘前大学松永藤雄教授らを先達として早くから研究が進められてきており,とくに大腸カメラと大腸ファイバースコープの開発,腸管深部への挿入法,生検材料採取法,撮影,記録法などについて輝かしい業績をあげている.

 今回,消化管内視鏡診断学大系の第10巻として大腸の部が刊行されるに至った.本巻は,関東逓信病院故内海胖博士と東大内科丹羽寛文博士らを中心にして,わが国の第1線の内視鏡学者19名によって執筆されている.全300余頁の中に,大腸内視鏡の歴史・器種・検査法,良性腫瘍・癌・潰瘍性大腸炎・非特異性大腸炎・肉芽性大腸炎・憩室症・赤痢・結核その他の内視鏡学的診断が記載されている,そして,内視鏡像を主とした200余のカラー写真,それらのシェーマやX線像200余,表60,文献300余などが附属している.

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 Prognosis in Intestinal-Type and Diffuse Gastric Carcinoma with Special Reference to the Effect of the Stomal Reaction: M.V.Inberg, P.Lauren, J.Vuori, S.J.Viikari (Avta.Chir.Scand. 139: 273~278, 1973)

 1946年から1965年までの20年間にTurkuの大学中央病院で1963例の胃がんが診断された.このうち十分な病理組織学的知見の得られたのは579例である.Laurén分類による腸上皮型胃がんの頻度は55.8%,び漫型胃がんは,33.9%だった.éによれば,腸上皮型胃がんは,男子に多く,患者の平均年齢は高い.一方40歳以下の胃がんの多くは,び漫型で,60歳以上では腸上皮型が多くなり,び漫型は減少する.種々の文献からも,この両型が,原因的に異なること,そして病理学的にも明かに異種のものであることが推察される腸上皮型の前がん病変は,慢性胃炎と腸上皮化生だが,び漫型では不明である.手術に関して,び漫型では手術不能例がより多いとの結果は出てこないが,治療手術の行われたグループでは,5生率は,び漫型で明らかに低い.このシリーズでは,腸上皮型で31.1%,び漫型で21.7%の5生率を示した.腸上皮型の組織学的分化度と予後の間に有意の相関は認められなかった.境界明瞭な腫瘍は,常に腸上皮型で,この種のものの予後は,境界不明瞭なものより良好だった.粘液性がんの予後は,腸上皮型の中で最も良いが,び漫性中の粘液性がんの予後は,不良だった.腸上皮型での5年生存は,筋層までの浸潤病変では50%,筋層を貫通したものでは15.8%だった.次に間質反応と予後について言及している.び漫型では,強い線維増生と軽度の細胞浸潤を特徴としている.一方腸上皮型では,もっと強い細胞反応をしばしば認める.高度の細胞反応を示す腫瘍の5生率は40.4%,中等度では25.0%,軽度のものでは20.5%だった.線維性間質反応と5年生存率間には関連を見出さなかった.以上より全般的に,び漫型胃がんは,腸上皮型胃がんに比して,生物学的により一層悪性と考えられる.胃がんで予後関連因子を評価するに,Laurénの腸上皮型,び漫型に分けると都合がよい.このことはStoutやDaileも,他の組織学的分類では,こうした関連を見出すことは不可能だったとのべている.

編集後記 高木 国夫
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 新しい検査法が開発されると,その対象となる臓器や疾患が新しく見なおされて,驚異的進歩をとげるものである.胃における早期癌がその典型である.胃に続く十二指腸および膵が内視鏡検査の対象となり,内臓の暗黒大陸と思われていた膵臓が新しく見なおされて来ている.

基本情報

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胃と腸
9巻11号 (1974年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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