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従来ペプシンと呼ばれて来た胃液消化酵素の中に数種のproteaseの含まれることが明らかになり現在では一般的な考え方となってきている.このproteaseの多様性を検討するために種々の方法が報告されているが,現段階ではSamloffらにより完成された寒天ゲル電気泳動法が,分析能力,再現性の点で最も信頼できるものである.この方法によると胃粘膜中に,は泳動度の速い順にpepsinogen 1~7と呼ばれるproenzymeと従来のpepsinとは性質を異にするslow moving protease(SMP)の計8種のproteolytic proteaseが認められる.一方,Anson & Mirskyによりペプシン測定法が開発されて以来,種々の測定方法が報告されて来た.殊に微量のペプシン定量にはradioactive assayが適している.筆者らは,寒天ゲル電気泳動法により分析され得る8種のproteaseの活性を定量することを試みた.まず,泳動の終了した寒天板上の資料を特殊のpunchにより100コの細片に分割した.それぞれの資料についてradioactive assyによりペプシン活性を測定すとる5コのmajorなproteolytic peaksと3コのminor peaksを認め夫々のpeaksは寒天板を染色した揚合に認められる8コのproteaseに一致する,この電気泳動とradioactive assayを組み合せた方法は定性的で,しかも定量的であることが今後のpepsinogenの研究に極めて有効である.
一方,Samloffらはpepsinogenを分泌細胞及びその分布,また排泄よりgroup Ⅰ及びⅡのpepsinogen(Pg ⅠおよびⅡ)に分類している.両者ともChief cellまたmucous neck cellより分泌されるが,Pg. Ⅱに限ってはその他にpyloric glandまたBrrunner's grandより分泌され,また正常人の尿中に排泄されるpepsinogenはPg. Ⅰに限られ,Pg. Ⅱは排泄されないことを報告している.Samloffらは最近尿中に排泄されるPg. Ⅰを抗原に血清中のPg. Ⅰ radioimmunoassayのに成功し非常に興味深い結果を報告している.彼等の報告によると血清Pg. Ⅰは正常人において102.7±32.5ng/ml,悪性貧血患者では10.2±6.4ng/ml,胃全摘術施行後では,3.8±2.9ng/ml,Zollinger-Ellison症候群においては456.1±187.3ng/mlの高値に認められている.Zollinger-EIIison症候群に見られる血清ペプシノーゲンの高値は従来報告されているChief cellの増加を裏づけるものであり,胃全摘後の対象に認められる血清ペプシノーゲンについては食道また小腸にしばしば見られる異所性のfundic mucosaによるものであろうと解説している.年齢的に見ると加齢と共に,また胃粘膜の萎縮が進むと共に血清中Pg. Ⅰの量は減少し正常の最低値は50ng/mlにまで低下することが認められ,また,この事実は血清ガストリン値に逆比例している点で興味深い.これらの一連の事実は副交感神経により支配されていると報告されているペプシノーゲンとガストリンの分泌が同じ機序のもとで行なわれていないことを示唆している,このPg. Ⅰの定量は臨床的な意義も大きく,胃・十二指腸潰瘍の発生,遷延化潰瘍の病態生理の解明および予後の推定に大きく貢献するものと期待される.
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