胃と腸 56巻1号 (2021年1月)

今月の主題 早期胃癌内視鏡治療・適応のUPDATE

序説

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 胃癌に対する内視鏡治療のガイドラインは,消化管内視鏡領域ではおそらく最も初期に作成されたガイドラインと思われる.

 2001年に日本胃癌学会より「胃癌治療ガイドライン」の第1版が刊行され,それまで「胃癌取扱い規約」に記載されていた適応や治療について,「胃癌治療ガイドライン」に移行されることになった.第1版および次の第2版(2004年)には,一括切除可能かつ転移がほぼないとされる2cm以下,潰瘍所見のない分化型粘膜内癌が内視鏡治療の絶対適応病変と記載され,2018年の第5版までこの絶対適応の定義は変わらなかった.

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要旨●早期胃癌の通常内視鏡観察では,分化型癌は発赤調,未分化型癌は褪色調を呈することが多く,隆起型(0-I/0-IIa)の早期胃癌のほとんどは分化型である.拡大内視鏡観察では,表面微細構造が視認される場合は分化型癌と考える.一方,視認されない場合は微小血管構築像を評価し,開放性ループであれば未分化型癌,そのほかは分化型癌と考える.内視鏡検査による腫瘍径の評価方法には,スコープ径や生検鉗子の開口径との比較,あるいはメジャー鉗子を用いる方法がある.ただし,現時点では,内視鏡治療前は生検病理組織学的診断による組織型の確認,治療後は切除標本による組織型と腫瘍径の確認が必要である.

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要旨●台状挙上所見を用いた通常色素内視鏡診断による早期胃癌の深達度診断における診断基準,必要な観察条件,代表症例の提示,限界,治療アルゴリズムについて解説した.台状挙上所見は早期胃癌深達度診断において単一のマーカーを用いた簡便な指標であり,本稿に記載した正しい観察条件下において判定すれば,高い診断能を有する.

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要旨●早期胃癌の深達度診断においてEUSは有用であるが,通常内視鏡検査(CE)に対する上乗せ効果に関しては不明な点も多い.治療前精査症例を対象にした筆者らの検討では,簡便な診断基準に則ったCEの正診率は,EUSと有意差なく粘膜癌では90%を超えていたものの,深部浸潤癌では65%と低かった.一方,EUSはCEで深読みした粘膜癌の約6割を正診していた.そこで,CEで深部浸潤を疑った症例に対してのみEUS診断を適用しCEとEUSを組み合わせると,CE単独・EUS単独での診断に比して有意に正診率が向上したことから,粘膜癌はCEで診断し,深部浸潤を疑う病変に対してのみEUSを行う方法が効率的で正確な診断を可能にすることが示唆された.EUSの付加価値は限定的であると考えられ,特性を理解し役割を明確にしながら診断に用いる必要がある.

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要旨●潰瘍瘢痕併存(ULs)早期胃癌の診断能に関して,過去の報告から後述の4点がわかった.①ULs早期胃癌の潰瘍の有無に関する術前診断は感度とPPVが低く,術前にULsの有無の判断自体が難しいことが浮き彫りになった.②範囲診断に関する詳細なデータは得られなかった.ただし,ULs早期胃癌ではHM1が多く,その原因は技術的要因であると考えられた.③深達度診断も正診率は72〜85%でULsなしの早期胃癌より低い傾向がみられた.④ESDの難易度の予測にはEUSが有用と考えられ,当院のデータでは第3層の断裂距離が5mmを超えると標本に挫滅を残す場合が73%で認められた.このことから,EUSの第3層断裂距離が5mmを超える場合は技術的な適応を超えている可能性がある.ただし,ULs早期胃癌に対するESDは,線維化領域の部位や面積,瘢痕化の時期,個々の内視鏡技術により成績が左右されるため,これらの要素も加味して治療適応を決定すべきと考えた.

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要旨●JCOG0607において,潰瘍を有しない〔以下,UL(−)〕2cmを超えるcT1a分化型癌,および潰瘍を合併〔以下,UL(+)〕する3cm以下のcT1a分化型癌に対する胃内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の有効性と安全性が示され,同病変が2018年の「胃癌治療ガイドライン」の改訂で絶対適応病変に変更された.適応が拡大することで,技術的にESDが難しい症例が増えることが予想される.ESDの治療困難因子について検討したJCOG0607の副次解析では,UL(−)かつ>3cm,局在がUまたはM領域,60歳以下が治療困難因子として挙げられた.牽引法などの治療の工夫や技術の進歩,処置具などの治療機器の開発により,ESDの治療困難性は徐々に解決してきていると思われる.これからもわれわれは,ESDをより安全な治療法とするために,治療困難性に影響する因子をしっかりと理解したうえで,新しい処置具や治療方法を開発していく努力を続ける必要がある.

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要旨●早期胃癌のESD適応は外科手術例と同等の治療成績が得られる病変とガイドラインで定義されてきた.胃癌Stage I外科手術後の全生存率と疾患特異的生存率は80歳以上で乖離してくることから,高齢者では病変側の因子だけでなく,年齢,併存疾患,全身状態,手術侵襲や術後QOL低下などの患者因子を総合的に考慮する必要がある.SM1胃癌に対しESDを施行した検討では,R0切除率が高く,eCura systemからみたリンパ節再発リスクは7%程度のものが多く占めた.本研究において,CCIとサルコペニア関連因子であるPMIが高齢者胃癌ESD治療後の予後に関連する独立した因子として抽出された.以上より,CCIやPMIなど患者因子をもとに一部の高齢者においてはSM1胃癌へもESDの適応拡大が考えられる.今後の前向き研究で高齢者ESDに関するエビデンスを構築する必要がある.

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要旨●早期胃癌に対する内視鏡的治療が急速な広がりをみせている昨今,切除検体の正確な病理組織学的評価は必須の要件となっている.例えば,腫瘍径,主たる組織型,壁深達度,脈管侵襲の有無,未分化型癌混在の有無,未分化型癌混在部の大きさ,癌巣内消化性潰瘍の有無,切除断端の癌の有無は,必須の検索項目となっている.また,これらは根治度評価の際の重要な判断材料となる.胃癌は,その発育・進展の過程で,しばしば腫瘍内に異なる組織型が出現・混在することがある.こうした癌組織の不均一性・多様性(heterogeneity)を踏まえて,丁寧かつ慎重な病理診断を心がけることが重要である.

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要旨●内視鏡的根治度(eCura)B(SM1),eCura C-2の長期予後について検討した.eCura B(SM1)症例は197例(全例経過観察,観察期間中央値58か月)で,5年全生存割合(OS)87.4%,5年疾患特異的生存割合(DSS)100%であった.eCura C-2のうち,3年以上追跡可能であった814例(追加外科的切除535/経過観察279,観察期間中央値63か月)では,5年OS(90.5%/72.0%)で,追加外科的切除群で良好な成績であったが,5年DSSでは(98.0%/97.6%)で,両群に差は認めなかった.eCura systemによるリスク群ごとのDSSは低リスク(99.1%/100%),中リスク(98.5%/94.8%)高リスク(94.0%/87.2%)であり,リスクスコアが上昇すると胃癌死が多い傾向で,リスク群ごとに層別化することは追加治療選択の参考になると思われた.

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要旨●特殊型胃癌の中でもリンパ球浸潤癌(GCLS),胃底腺型胃癌は比較的予後がよいことが知られている.今回筆者らは当院で内視鏡的切除を施行し,pT1bと診断されたGCLS 14例15病変と,胃底腺型胃癌13例13病変を対象とし,それらの臨床病理学的特徴と治療後の中・長期予後を検討した.経過観察は年1〜2回の上部消化管内視鏡検査と,年1回の腹部超音波検査および胸腹部CTを行った.経過観察期間はGCLSで平均4年2か月,胃底腺型胃癌で平均2年7か月であり,内視鏡的切除単独群,追加外科手術群ともに局所再発,リンパ節転移,臓器転移例は認めなかった.

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要旨●患者は60歳代,男性.白色光通常内視鏡観察で,胃体下部から前庭部の広い範囲にわたり,主に褪色調,一部に発赤が混在した粘膜領域を認めた.病変の境界が一部不明瞭であったが,詳細なNBI併用拡大観察で,病変の全周にわたり範囲診断が可能であった.生検で中分化管状腺癌と診断されたが,白色光通常内視鏡観察では平坦な褪色粘膜領域を認め,NBI併用拡大観察ではVEC patternが確認されたことから組織混在型早期胃癌を疑った.しかし,未分化型癌の範囲を同定することは困難であった.同病変に対してESDを施行し,一括切除を行った.切除検体の病理組織学的所見は,組織混在型粘膜内癌で,脈管侵襲はみられず,切除断端は陰性であった.本症例は腫瘍組織内に分化型癌と未分化型癌が入り乱れて混在しており,未分化型癌のみの病変径を計測することは甚だ困難で,根治度の評価に苦慮した.早期胃癌の治療方針を決定する際,組織混在型早期胃癌に対する認識は重要であるが,内視鏡観察による腫瘍の組織型診断は現状では限界がある.

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要旨●患者は70歳代,女性.上部消化管内視鏡検査で幽門輪近傍の胃前庭部前壁を主座とする,中心に陥凹を伴う丈の低い平坦隆起性病変を指摘された.生検でtub1,早期胃癌の診断で精査加療目的に当院へ紹介となった.当院での精査の結果,ESDの適応拡大病変(現在のガイドラインにて絶対適応病変)と判断し2011年9月にESDが施行された.病理組織学的にはサイズは37mm,組織型はtub1,深達度はM,pUL0,脈管侵襲および断端陰性で適応拡大治癒切除(現在のガイドラインにて治癒切除:eCura A)と診断した.以後定期的な内視鏡検査は施行されていたが,遺残再発および異時多発病変は認めなかった.しかし,ESDから3年5か月後に腹部超音波検査およびCTで腹腔内リンパ節再発が指摘された.明らかな原発巣は指摘されず,早期胃癌ESD後のリンパ節転移再発と診断した.eCura Aを達成したESD症例において再発例の報告は非常に少なく,文献的考察を加えて報告する.

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要旨●患者は80歳代,男性.検診の上部消化管X線造影異常を契機に,前医のEGDで前庭部に早期胃癌疑いを指摘されて加療目的に当院を紹介受診された.open typeの粘膜萎縮(自然除菌後)を背景として,前庭部小彎を主座として白色調の平坦隆起性病変を認め,大彎後壁の一部を除いた亜全周性に平坦進展を認めた.術前生検で高分化管状腺癌を認め,L,Circ,Type 0-IIa+IIb,90mm,tub1,cT1a-M,UL0と診断しESDを施行した.病理組織学的診断結果はeCura Aであったが,術後約40日後より嘔吐を繰り返したため精査した.内視鏡上,ESD後潰瘍に伴う軽度狭窄を認めたがスコープは通過可能であった.しかし変形により通過障害を来したと考えられた.計6回内視鏡的バルーン拡張術を施行したがその後も症状改善なく,最終的に腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した.幽門前庭部にある広範な病変の内視鏡的切除後は,術後狭窄や変形に伴う通過障害を来すことがある.単純な狭窄と違い変形を伴えば内視鏡的バルーン拡張術を行っても改善せず外科手術が必要となる場合があるため,留意しておく必要がある.

追悼

西元寺 克禮君を悼む 八尾 恒良
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 本誌55巻12号に弔辞が掲載された故・渕上忠彦君の訃報後,間もない,2020年10月7日,北里大学病院にて解離性大動脈瘤とその合併症で加療中であった西元寺克禮君逝去の報を受けました.

 彼は渕上君の同級生で1968年九州大学医学部卒,享年77歳,故・岡部治弥先生の後任の2代目北里大学医学部内科学教授(1989〜2009年)です.1989〜2004年まで,本誌「胃と腸」の編集委員を務めています.そして,彼が執筆に関わった「胃と腸」の掲載論文(編集後記などを含む)は149編を数えます.

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 2017年からわが師,西元寺克禮名誉教授は,持病であるROW(Rendu-Osler-Weber)病によると考えられる脳膿瘍,消化管出血を発症していました.その大変な状況をご本人の頑張りと北里大学病院をあげてのサポートによりやっと乗り越えて一時の安泰を得たと思って医局員一同安心しておりました.しかし,2020年に突然の解離性大動脈瘤の発症し,これに対しても北里大学病院をあげて対応しましたが,その甲斐もなく2020年10月7日,解離性大動脈瘤とその合併症で,北里大学病院で永眠されました.最後まで西元寺教授を苦しめたROW病が憎く,悔しくて堪りません.

 西元寺克禮名誉教授は,1943年に福岡県大牟田市で生まれ,地元では神童と呼ばれ,九州大学医学部に入学されました.1968年同医学部を学生運動,医師国家試験拒否運動の最中に卒業され,研修場所にも困ったなどのお話を聞いたことがあります(この辺りの経緯は八尾先生が詳しく書かれると思います).この辺りのお話しになるとわれわれが思い出すのは,西元寺先生が“僕は大学にも行かず,毎日のように飲み歩いていた”というような武勇談を話してくれたことです.しかし,西元寺先生をまず一言で言い現すのは,抜群の記憶力,学習能力です.先生は,一度読めば記憶できると豪語されておりましたが,毎日のように飲み歩いていたにもかかわらず実際優秀な成績で九州大学医学部を卒業されているのですから,その能力が大変優れていたのがおわかりいただけると思います.その後の北里大学消化器内科医局員との昔話でも,医局員が忘れていたようなことを指摘して,われわれをビックリさせることに数限りありませんでした.

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目次

欧文目次

早期胃癌研究会 症例募集

「今月の症例」症例募集

次号予告

編集後記 小澤 俊文
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 JCOG(Japan Clinical Oncology Group)0607の結果を踏まえ,2018年に「胃癌治療ガイドライン」が次のように改訂された.すなわち,早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)の絶対適応病変として“①2cmを超えるUL0のcT1a,分化型癌,②3cm以下のUL1のcT1a,分化型癌”が追加された.また,“③2cm以下のUL0のcT1a,未分化型癌”もeCura Bとされていたが,2020年2月発行の「胃癌に対するESD/EMRガイドライン(第2版)」では絶対適応病変に格上げされた.これらを限りなく過不足のないものにするためには,詳細な術前診断が求められるのが必然である.UL合併病変が適応に加えられたことによりULと癌浸潤との鑑別はもちろんだが,ULの程度や面積を術前に知ることでESDの技術的難易度を予測することも可能となるだろう.pSM 500μmまでの浸潤にとどまる癌の術前診断がいまだに難しいのも事実で,少なくともSM massive癌=cT1b2をESDするover indicationにより患者に時間的あるいは余剰な経済的負荷をかけるようなことは避けなければならない.これらの課題に関しては,超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography ; EUS)診断のKnack&pitfallも含め辻井ら,平澤らの記述に明るいので熟読を勧めたい.また,2cmを超えるcT1a病変が絶対適応病変となることで境界診断すべき領域が絶対的に増える,すなわち検査にかける時間も増加する.加えて病変径が大きくなることにより“組織混在”という課題も念頭に置かなければならない.本誌読者には既知と思われるが,組織混在型のほうが単一組織型に比べて脈管侵襲率が高く予後が悪いことも知られている.これが術前検査,特にIEE(image enhanced endoscopy)を用いて術前にどこまで予測できるのか? 中でも,金坂らの報告には基本的な検査の進め方や解釈方法がコンパクトにまとめられているので初学者にも理解しやすい内容となっている.

 以上の課題を本邦ならではの視点/切り口でUp-to-dateの現状を知るべく本特集を組んでみた.術前検査はほどほどにして,まずは切除してから評価する,といった哲学やメンタリティが日本人にそぐわないと思うのは小生だけではあるまい.

基本情報

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胃と腸
56巻1号 (2021年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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