胃と腸 55巻2号 (2020年2月)

今月の主題 潰瘍性大腸炎関連腫瘍—診断・治療の現状と課題

序説

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 本邦では,近年,炎症性腸疾患の長期経過例の増加に伴い,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)のみならずCrohn病においても炎症性腸疾患関連大腸腫瘍が増加しつつある.本特集号では特にUCに焦点を絞って,「UC関連腫瘍(UC associated neoplasia ; UCAN)—診断・治療の現状と課題」というテーマを取り上げた.

 欧米では,SCENIC(Surveillance for Colorectal Endoscopic Neoplasia Detection and Management in Inflammatory Bowel Disease Patients:International Consensus Recommendations)consensus1)2)やECCO(European Crohn's and Colitis Organisation)ガイドライン3)によってUCANの取り扱いが提唱されているが,本号では,内視鏡診断学/治療学が世界のトップに位置する本邦の専門家に執筆を依頼し,それらを踏まえたうえでのUCANの診断と治療の現状と課題について特集した.

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要旨●潰瘍性大腸炎関連腫瘍(UCAN)の通常内視鏡診断について検討した.対象はUCAN 67病変で,内訳はcolitic cancer 38病変,dysplasia 29病変である.UCANを発見する契機となった通常内視鏡所見は,限局性の隆起や発赤が多く,診断には色素内視鏡観察の併用が有用であった.UCANの肉眼型は隆起型が多いが,dysplasiaでは平坦型も認められた.通常内視鏡所見では,UCANは発赤調を呈する病変が多かった.腫瘍の境界が不明瞭な病変はcolitic cancerの61%,dysplasiaの34%を占め,UCANの特徴的所見であると考える.UCANの中でcolitic cancerの多くは通常内視鏡検査で診断可能と考えられるが,平坦型の病変は存在診断さえ難しい場合がある.通常内視鏡所見で,UCの罹患範囲に限局性の隆起や色調変化,凹凸不整や陥凹などが観察される場合は色素内視鏡観察を行い,積極的な狙撃生検を行うことがUCANの診断に必要であると考える.しかし通常内視鏡検査では診断困難な病変や,sporadicに発生する腫瘍との鑑別が難しい病変があることを認識しておく必要がある.

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要旨●潰瘍性大腸炎(UC)に慢性炎症を背景に発生するUC関連腫瘍(UCAN)は早期発見が容易でなく,特に初期病変である平坦型dysplasiaの内視鏡診断は困難と考えられてきた.しかし,近年,早期で発見される病変の増加とともに,平坦型を含めたUCAN,dysplasiaの拡大観察所見の蓄積・解析が進み,腫瘍・非腫瘍の鑑別,異型度診断が可能になりつつある.平坦型病変の発見のためには,粘膜模様の異なる領域,局所的な発赤領域などに着目し,境界を意識して拡大観察を加えることが重要である.

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要旨●潰瘍性大腸炎の長期経過例にdysplasiaやcolitic cancerが高率に合併することはよく知られている.背景粘膜に炎症を伴うため,早期の内視鏡診断は容易ではない.近年,超拡大内視鏡(EC)による生体内での細胞レベルの観察が可能となり,UC関連腫瘍のEC観察を経験している.今後,症例を重ねることで,EC診断の精度が上がり,UC関連腫瘍の診断に寄与すると考える.

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要旨●潰瘍性大腸炎関連腫瘍,特にhigh grade dysplasiaやcolorectal cancerに対する標準的な治療は全大腸切除術である.近年,有効な抗炎症薬物治療の増加とともに,サーベイランス内視鏡検査の普及によりdysplasiaや粘膜内癌を内視鏡的に診断することが可能となってきた.当科で“治癒切除”を目的とし,内視鏡的粘膜下層剝離術を施行した潰瘍性大腸炎関連腫瘍の特徴を検討した.水平断端陰性率が低く境界診断が難しいこと,同時多発率が高く見落としやすいことがピットフォールと言える.したがって,周囲生検を行うなど十分に境界診断を検討したhigh grade dysplasiaおよび粘膜内癌で,治療後は4〜6か月ごとの内視鏡検査を行うことが可能な症例が,内視鏡治療の適応と考えた.

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はじめに

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)患者において浸潤癌ないしHGD(high grade dysplasia)が検出された場合,大腸全摘術が治療の第一選択であることは世界的にもコンセンサスが得られてきた1).その理由として,UC関連腫瘍(UC associated neoplasia ; UCAN)は多発する傾向にあることに加え,存在診断のみならず範囲診断や深達度診断が困難な場合が少なくないことが挙げられる.

 一方,内視鏡機器の進歩により,従来invisibleとされてきた表面型dysplasiaについても多くは認識可能と考えられるようになり,UCANに対する治療戦略にも変化が生じてきた.とりわけSCENIC(Surveillance for Colorectal Endoscopic Neoplasia Detection and Management in Inflammatory Bowel Disease Patients:International Consensus Recommendations)コンセンサスステートメントの報告2)以降,UCANに対する内視鏡治療の可否が取り沙汰されている.

 本稿では,UCANに対する内視鏡治療の適応について私見を述べる.

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はじめに

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)の長期罹患は癌合併のリスク因子であり,癌合併は患者予後に大きく関わる.UCにおいてはdysplasiaが癌の前駆病変とされ,dysplasia-carcinoma sequenceがUCの発癌経路と考えられていることから1),UCの経過中にdysplasiaをいかに発見し,適切に取り扱うかがUC長期罹患患者の腸管温存を含めた予後において重要である.しかし,dysplasiaの発見は容易ではなく,発見されたdysplasiaの取り扱いには十分なコンセンサスが得られていない.また,そもそも発見された病変のUC関連腫瘍と散発性腫瘍の鑑別が困難なことが多いことや内視鏡的切除の介入の是非など,解決すべき課題は多い.

 一方,米国のSCENIC(Surveillance for Colorectal Endoscopic Neoplasia Detection and Management in Inflammatory Bowel Disease Patients-International Consensus statement)やECCO(European Crohn's and Colitis Organisation)のガイドラインでは,発見された境界明瞭な病変,特に隆起性病変に対する内視鏡的切除が推奨されている2)3)

 本稿では,UC関連腫瘍に対する内視鏡的切除の現在の立ち位置について,筆者らの考えを述べていきたい.

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はじめに

 潰瘍性大腸炎関連腫瘍(ulcerative colitis associated neoplasia ; UCAN)は大腸腫瘍の中でも,①発見,②質的診断,③範囲診断,④深達度診断のすべてにおいて最も難しい腫瘍と考える.

 さらにUCANに対する内視鏡治療は線維化を伴うことが多くやはり治療困難例が多い.

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はじめに

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)患者では,大腸癌が発生した場合の大腸粘膜は全体として癌化の危険性が高い状態であると考えられ,UC関連癌の治療は大腸全摘が原則である.しかしながら近年,UC関連腫瘍(dysplasia ; Dys)に対して内視鏡切除の有用性が提唱されているが,その是非について考えてみたい.

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はじめに

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)関連腫瘍の中でも,粘膜内にとどまる初期病変の組織診断は難しく,その診断における問題点については以前に本誌で述べさせていただいた1).一般に消化管の粘膜内病変は内視鏡治療の適応と考えられるが,UC関連腫瘍に対する症例はまだ十分な症例数がなく,経験豊富な内視鏡医・病理医も少ないのが現状である2)

 筆者は炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)外科をメインにしている病院の病理医なので内視鏡治療例の組織診断は少数しか経験していないが,UC関連腫瘍は多発することが多く,組織診断が難しいことも踏まえ,安易に内視鏡治療の適応を拡大すべきではないと考える.一方で,大腸全摘を行わずにすむメリットは,特に寛解を維持できている患者にとって大きく,内視鏡治療を行う場合に予測される病理医の対応を主に考えてみる.

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要旨●潰瘍性大腸炎に合併する癌/dysplasiaで手術となる症例が著明に増加している.ただ,サーベイランス内視鏡検査の技術の向上に伴い,比較的早期に診断される症例が増加している.そのため病理組織学的には,高分化型腺癌が最も多い組織型であり,予後も比較的良好で,累積5年生存率は約90%である.外科的問題点としては潰瘍性大腸炎に合併する大腸癌症例は比較的栄養状態の良好な症例に多く,肥満体型の症例ではJ-pouchが肛門まで届かない症例が増加していることである.また,今後の問題点としては,難治性回腸囊炎症例のpouch内の発癌についても注意する必要がある.大腸の部分切除や内視鏡的治療は症例を慎重に選ばなければならない.

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要旨●2015年に欧米の研究者を主要メンバーとした潰瘍性大腸炎(UC)の大腸癌サーベイランス法に関する国際会議が開催され,合議の結果がSCENIC国際ステートメントとして発表された.このステートメントでは,臨床データに基づいたUCのサーベイランス法が検討され,色素内視鏡検査による観察と境界明瞭な病変に対する内視鏡的切除が推奨されている.本ステートメントの発表以降,欧米では画像強調内視鏡検査を用いたUCの腫瘍性病変の診断法に関する臨床研究と内視鏡治療に関する議論が活発となった.すなわち,SCENIC国際ステートメントを契機として,欧米では潰瘍性大腸炎のサーベイランス内視鏡に対する考え方が大きく変化したと言えよう.

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要旨●EUSが診断の契機となった潰瘍性大腸炎(UC)関連大腸癌の症例を提示した.患者は30歳代,男性で,発症後19年を経過した全大腸炎型の再燃寛解型UCである.定期検査で実施したS状結腸の内視鏡検査で近位側直腸に多発ポリープ様隆起がみられた.同時に実施したEUSで最口側の隆起直下および周囲の粘膜下層に明瞭な低エコー領域が観察された.同部位からの生検で低分化腺癌と印環細胞癌の集塊が証明された.精査後,結腸亜全摘術が施行された.切除標本肉眼所見で近位側直腸の隆起周囲には径約15mmの陥凹がみられ,病理組織学的には低分化腺癌,粘液癌,印環細胞癌から成り,粘膜下層最深部に及ぶ浸潤を示すとともに漿膜下層にも非連続的に癌巣がみられた.肛門側の隆起は高分化腺癌で粘膜に限局していた.これら2病変の周囲には平坦なdysplasiaが分布していた.郭清したリンパ節に転移はみられなかった.本症例からEUSがUC関連浸潤大腸癌を検出する上で有用である可能性があると考えられる.

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要旨●潰瘍性大腸炎(UC)サーベイランス内視鏡の必要性は,その対象となる長期経過例の国内増加に伴い,今後も低下しないと思われる.国際的なガイドラインやコンセンサス,欧米の主要ジャーナルに発表された多くの既報は,発生機序や内視鏡所見,病理組織学的所見の異なるUC関連腫瘍と非関連腫瘍の鑑別を意識しておらず,この分野の精度向上や臨床研究発展の障害であった.内視鏡所見と病理組織学的所見の対比による精密な内視鏡診断を得意とする本邦からUC関連腫瘍に特化した新内視鏡分類を開発するため,本邦の第一人者による研究グループにより本研究(NAVIGATOR Study 2)を行っている.

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はじめに

 炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)は潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)とCrohn病に大別され,腸炎関連大腸癌(colitis associated colorectal carcinoma ; CAC)の発生リスクが高まることが知られている.CACは散発性大腸癌(i.e.,非腸炎関連癌,非症候性発癌)の発生メカニズムとは異なり,IBDにおける持続性の炎症や繰り返される粘膜障害に伴う遺伝子変異と密接に関連していると考えられている1)

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 斉藤 裕輔
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 本特集号は近年増加の著しい潰瘍性大腸炎(UC)の長期経過例に伴うUC関連腫瘍(UC associated neoplasia ; UCAN)の内視鏡治療の可能性,適応とその是非について特集した.本号を読むにあたり,まずは本号企画の背景を田中信治先生の序説で理解した後,次は変則的ではあるが,世界におけるUCANの定義・取り扱いの現状について理解するために,主題関連研究の松本論文「潰瘍性大腸炎に対するサーベイランス—SCENIC international consensus statementの概要と問題点」を先に読み,その後に主題論文などへと読み進めることをお勧めしたい.多くの著者がSCENICのstatementを引用しながら論理を展開しているため,SCENICのstatementの内容を十分理解したうえで主題論文に入るほうが本号全体の内容が理解しやすくなると思われる.

 さて,UCANの内視鏡治療に関する問題点として,①DALMではないflatなdysplasia,Tisの発見/診断が極めて困難であること(invisibleとされてきた),②発見された病変が,内視鏡的切除してよい病変か?すなわち,sporadicな腫瘍とdysplasiaの鑑別が困難である,dysplasiaは多発する,限局した内視鏡的切除可能なdysplasiaと診断しても表層分化のために表面の異型は乏しいが既に深部浸潤癌である場合があり,(NBI)拡大内視鏡でもその診断が困難であること,③発見された主病巣周囲にdysplasiaが高頻度にみられるため,内視鏡的切除範囲診断が困難である,また線維化が強いために内視鏡治療手技自体(ESD)の難易度が高い(切除断端陽性になりやすく合併症を生じやすい),などが挙げられる.これらの問題に関して,本邦のトップリーダーの先生方から珠玉の論文(データと考察)をいただいた.

基本情報

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胃と腸
55巻2号 (2020年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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