胃と腸 55巻3号 (2020年3月)

今月の主題 いま知っておきたい食道良性疾患

序説

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はじめに

 臨床の場で多く遭遇する食道腫瘍は悪性腫瘍である食道癌であり,拡大観察を含めた内視鏡診断は近年目まぐるしく進歩している.一方,食道の良性腫瘍および腫瘍様病変などの良性疾患は,GA(glycogenic acanthosis),乳頭腫,平滑筋腫を除きまれなものが多く,検査時に遭遇する機会は少ない.さらに食道良性疾患の多くは上皮に由来する病変ではなく,結合組織,神経組織や脈管などの非上皮性のものや炎症に関連した病態をとるものが多く,生検による病理組織学的検査に頼るだけではなかなか確定診断に結びつかない.

 これらのまれで特殊な食道疾患の領域にターゲットを絞った特集は,筆者が知る限り,書籍では「食道疾患レアケース・アトラス」(1999)1),本誌では43巻3号「まれな食道良性腫瘍および腫瘍様病変」(2008)2),51巻2号「まれな食道疾患の鑑別診断」(2016)3),54巻10号「知っておきたい特殊な食道腫瘍・腫瘍様病変」(2019)4)で取り上げられ,各疾患についてきれいな画像提示と詳細な解説がなされている.まれな疾患は多数例の経験が困難であり,容易に確定診断に至らないことも多いが,各病変は,その形態,色調や硬さ,発生部位などに特徴を有することも多く,それらを理解し知識を積み重ねていけば実臨床の場での診断能の向上に寄与すると考える.

 以下に本特集号で取り上げられた疾患の形態的特徴,要点について簡単に述べる.

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要旨●代表的な食道良性腫瘍および腫瘍様病変について臨床病理学的所見を提示するとともに,文献的にも検討し病変の特徴を概説した.これらの病変の中で,臨床的に嚥下時のつかえ感や嚥下困難をきっかけに発見される場合,悪性腫瘍との鑑別が問題となる.一方,乳頭腫のように無症状で内視鏡検査で発見され,積極的な治療を要さない疾患もある.肉眼的には粘膜下腫瘍として認識される病変,内腔に突出する病変,壁在に存在する病変に大別される.それぞれの臨床病理学的特徴を知っておくと,鑑別診断の助けになる.また,これらの病変の中には,悪性腫瘍や遺伝性疾患との関連や併存が知られているものもあり,良性病変という判断だけではなく,他の疾患との関連にも注意を払うべきである.

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疾患の概念

 食道顆粒細胞腫(granular cell tumor ; GCT)は1931年にAbrikossoff1)により報告された疾患で,2.7〜8.1%は消化管に発生し,食道,大腸,胃の順に多い2).単発が多いが,多発する場合もある3)5)

 食道GCTは食道良性粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)のうち平滑筋腫に次ぎ2番目に多く,約5%を占める.好発部位は中下部食道であり,約90%を占める.多くは良性腫瘍であるが,1〜3%で悪性の報告6)7)もある.

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疾患の概念

 食道平滑筋腫は,食道では最も頻度の高い粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)である.食道のGIMT(gastrointestinal mesenchymal tumor)の約90%を占めることが明らかとなっている1).一般的に無症状であり,健康診断や他疾患の精査中に偶然発見されることが多い.病理組織学的には,紡錘形細胞が束状に交錯し,細胞密度が低く,核分裂像をほとんど認めない.免疫組織染色では,α-SMAとdesminが強陽性であり,CD34,KITおよびS-100蛋白が陰性であることで診断される.

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疾患の概念

 食道に発生する神経性腫瘍として,神経鞘腫,神経線維腫,顆粒細胞腫などが挙げられる.

 神経鞘腫(Schwannoma)はSchwann細胞由来の腫瘍で,頭頸部や四肢などに好発する.消化管に発生する神経鞘腫は少なく,腸管筋層間に存在するAuerbach神経叢より発生し,胃,十二指腸,空腸,回腸の順に多いとされるが,食道ではまれとされる.

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疾患の概念

 食道乳頭腫は上皮性の食道良性腫瘍である.臨床的にしばしば遭遇し,悪性化することは極めてまれで病的な意義は薄い.ほとんどが無症状のため内視鏡検査時に偶然発見されることが多い.男女比は2:1と男性に多く,中高年者に多く認められる1).好発部位は食道下部とされ平均径7mmと小さく,頻度は0.07 2)〜0.44%1)と報告されている.逆流性食道炎や裂孔ヘルニアに合併することが多いことから,病因として酸逆流による慢性刺激が考えられている.また,1980年代以降HPV(human papilloma virus)の関与も報告されているが,現在では否定的とされる.

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疾患の概念

 血管性病変の分類と用語には多少の混乱があったが,現在のISSVA(International Society for the Study of Vascular Anomalies)分類では,血管腫と血管奇形に大別されている1)2).血管を構成する細胞(血管内皮細胞,周皮細胞)が増殖する病変は腫瘍,血管の形態異常による病変は奇形とされている.

 従来の分類では,増殖した血管の形態などから,毛細管性血管腫,海綿状血管腫,静脈性血管腫,蔓状血管腫,化膿性肉芽腫,類上皮血管腫などに分類され,消化管の血管腫の大半は,海綿状血管腫,毛細管性血管腫,化膿性肉芽腫に含まれる.

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疾患の概念

 PG(pyogenic granuloma)は皮膚や口腔粘膜に好発する易出血性の良性腫瘍で,多くは外傷,慢性刺激,ホルモンの影響などで後天的に発生すると推測されている1)

 病理組織学的には血管内皮細胞の腫大を伴う毛細血管の分葉状増生が特徴で,炎症細胞浸潤や間質の浮腫もみられlobular capillary hemangiomaとも呼称される.この点から化膿性肉芽腫という呼称は適切ではないが,現在でも慣習的に用いられている.表層は扁平上皮に覆われ,びらん・潰瘍を伴った部分には炎症性滲出物が付着する.消化管における発生はまれであるが,その中では食道が最も多く,次いで小腸,大腸,胃,十二指腸の順に発生する.

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疾患の概念

 食道の腫瘍性病変の多くは食道癌が占めている一方,食道原発の良性腫瘍の頻度は低く,特に食道脂肪腫は消化管脂肪腫において約4%と報告され1),最も低い頻度である.食道良性腫瘍の中では平滑筋腫が最も頻度が高く,脂肪腫は約2%を占めるのみで2)3),まれとされている.

 病理組織学的には,主に粘膜下層を主体に成熟した脂肪細胞の増生と少量の血管を含む結合織から成る非上皮性良性腫瘍であるため,肉眼型は表面が平滑な粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)を呈し,やや黄色調で軟らかいことが特徴とされる.

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疾患の概念

 リンパ管腫(lymphangioma)は,頭頸部や腋窩が好発部位であり,ほかにも四肢,縦隔などリンパ管の存在する場所であれば,どこにでも発生する.しかし,消化管に生じることは非常に少なく,その頻度は1%未満とされる1).消化管では,主に大腸,次いで小腸に発生し,食道への発症は極めてまれである.食道リンパ管腫の本邦からの症例報告は,これまで20例に満たない.

 病理組織学的にリンパ管腫は,1層の内皮細胞を伴ったリンパ管が,囊胞状に拡張,増生しながら腫瘤を形成している.先天性あるいは後天性に生じたリンパ管の形成異常が原因であり,腫瘍ではないため,最近ではリンパ管奇形(lymphatic malformation)と呼称されることが増えてきた2).一方,WHO消化器腫瘍分類(いわゆるBlue book)の最新版(第5版・2019年発行)では,従来どおり“lymphangioma”と記載されている1)

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はじめに

 hyperkeratosis(過角化)およびhyperparakeratosis(錯過角化)は病理組織学的な用語であり,病理組織学的所見を表現する際に使用される.一方,epidermization(表皮化)は,白色調隆起性病変の鑑別疾患として挙げられるように,疾患単位として使用される.しかし,hyperkeratosisおよびhyperparakeratosisとepidermizationは,混同して使用されることが多い.本稿では,病理組織学的所見を表現する,hyperkeratosis,hyperparakeratosisについて述べた後,epidermizationという疾患について概説する.

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疾患の概念

 食道黄色腫(xanthoma)は,食道上皮下乳頭内に泡沫細胞(foam cell)が沈着する非上皮性腫瘍様病変である.1984年にRemmeleら1)が初めて報告し,その後の報告では食道黄色腫の頻度は極めてまれとされていたが,2008年に有馬ら2)は上部消化管内視鏡検査施行例中0.46%の頻度であったと報告している.

 病理組織像は粘膜固有層に炎症細胞浸潤と線維化を伴い,上皮下乳頭内に泡沫細胞が充満し,乳頭の拡張がみられることが特徴である.

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疾患の概念

 皮脂腺(sebaceous glands)は毛包上部や表皮,粘膜に開口する外分泌腺である.通常,手掌や足底を除く皮膚と一部の粘膜に広く分布し,外胚葉由来で毛包とともに毛包脂腺系を形成し,皮脂を産生している.

 毛包と無関係に存在するものは独立皮脂腺と呼ばれ,陰部や口唇,眼瞼などに存在する.他に口腔,唾液腺などの外胚葉起源の臓器において異所性に皮脂腺を認めることが知られているが,内胚葉起源である食道に皮脂腺組織を認めることはまれである1).しかし,近年では内視鏡診断技術の向上,および特徴的な内視鏡所見が周知されるにつれて,時に経験する病態の一つとなっている.

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疾患の概念

 食道壁内偽憩室症は,1960年にMendlら1)によって初めて報告された,粘膜および粘膜下層の食道腺導管が囊状に拡張したまれな疾患である.多発する小さい憩室様の所見を呈するが,通常の仮性憩室とは異なり,固有筋層の外側に伸展することはない.明らかな発症原因は不明であるが,真菌や細菌感染,逆流性食道炎,アルコール多飲などに伴う慢性炎症により,食道腺や導管に炎症が波及し病的拡張を来すと推察されている.

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疾患の概念

 天疱瘡は,皮膚や重層扁平上皮粘膜に病変が認められる自己免疫性水疱性疾患の一つである.表皮細胞間接着因子がIgG自己抗体により障害され表皮内水疱を形成する疾患であり,表皮細胞間接着に関わるカドヘリン型細胞間接着因子,デスモグレインが抗原蛋白である.天疱瘡は,①尋常性天疱瘡,②落葉状天疱瘡,③その他の3群に大別され,それぞれ臨床症状が異なる.①尋常性天疱瘡は,さらに粘膜優位型と粘膜皮膚型に分類されるが,尋常性天疱瘡が天疱瘡群中最も頻度が高く,最も特徴的な所見は口腔粘膜に認められる疼痛を伴う難治性のびらん,潰瘍である.初発症状としては口腔粘膜症状の頻度が高く,重症例では摂食不良となることもある.口腔粘膜以外に口唇,咽喉頭,食道,眼瞼結膜,腟などの重層扁平上皮が侵される病態で,約半数の症例で皮膚にも弛緩性水疱やびらんを生じる.

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疾患の概念

 重層扁平上皮に覆われた食道粘膜は,光沢があり血管透過性が保たれた赤白色調の粘膜である.食道粘膜上皮の基底層には,ごく少量のメラノサイトしかなく,メラニン顆粒が観察できないためである.食道メラノーシスは,基底層を主座にメラニン顆粒が増加したため,食道粘膜が褐色調から黒色調の色素斑として観察される病態である.

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要旨●食道アカラシアは,EGDで拾い上げが可能であることが多いものの,治療選択に関わるサブタイプの診断は困難である.また,その他の食道運動障害では内視鏡検査時に異常所見を認めることはまれである.食道X線造影検査は食道運動障害の拾い上げに有用であるが,やはり食道アカラシアのサブタイプやその他の疾患の診断には,食道内圧検査,特にHRM(high-resolution manometry)が欠かせない.食道アカラシアをはじめとする食道運動障害の診断では,EGDや食道X線造影検査,HRMなどの検査所見を総合的に評価することが必須と考える.

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要旨●高解像度食道内圧検査(HRM)の開発によって食道運動機能の詳細な評価が可能となり,HRMに基づく食道運動異常症(EMD)の国際分類であるシカゴ分類が提唱されたことで,機能的な食道疾患が注目されるようになった.EMD診断のゴールドスタンダードはHRMであるが,いまだ検査可能な施設は限られており,EMDを拾い上げる検査として食道X線造影検査に期待される役割は大きい.本稿では食道X線造影所見を,正常,数珠様・コークスクリュー様,波様,蠕動波なしに分類し検討した.食道X線造影所見のみでEMDの各疾患を鑑別することは困難であったが,EMD全体の拾い上げに対する食道X線造影検査の感度(73.3%)と特異度(92.7%)は満足な結果であった.加えて,中下部食道憩室がEMDを疑う重要な所見の一つであることに留意が必要である.

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要旨●食道アカラシアおよびその類縁疾患の診断および治療は,近年新たな低侵襲治療の内視鏡的食道筋層切開術(POEM)やhigh resolution manometryが登場したことによって飛躍的に進歩した.運動機能の異常である本疾患群は,形態学のみでは診断困難な場合も多く,内視鏡の典型像を知る以外にも,食道X線検査や食道内圧測定などの検査所見から総合的に病態を把握することが重要である.本稿では,食道アカラシアや遠位食道痙攣,jackhammer食道などの食道運動機能障害の内視鏡所見について概説する.

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要旨●患者は70歳代,女性.意識消失を主訴に救急外来を受診し,その際,胸部CTにて食道腫瘤を指摘された.上部消化管内視鏡検査を施行したところ,頸部食道に基部を有する長径10cm弱の有茎性病変を認めた.病変の大部分は扁平上皮で覆われていたが,病変辺縁はうろこ状外観を呈した.診断的治療としてハサミ型ナイフを使用し,全身麻酔下にて内視鏡的切除を行った.ハサミ型ナイフを用いることで安定した視野が得られ,安全に一括切除を施行し得た.病理組織学的所見からfibrovascular polypと診断した.うろこ状外観は病変辺縁と食道内腔面との摩擦による“熱傷”と考えられ,食道fibrovascular polypに付随するまれな肉眼所見と考えられた.

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 小山 恒男
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 本号は55巻3号である.本誌が発刊された当初は胃潰瘍,胃癌の話題が多く,誌名も「胃と腸」と“腸”という字が小さかった.しかし,次第に炎症性腸疾患や大腸癌の企画が取り上げられ,“腸”の活字も大きくなり「胃と腸」誌になった.一方,食道はいまだに誌名に反映されていないが,本誌は食道疾患の診断と治療の進化に貢献してきた.

 過去の企画を振り返ってみたが,食道良性腫瘍の企画は意外に少なく,2008年に43巻3号として「まれな食道良性腫瘍および腫瘍様病変」が企画されていた.このときは吉田操が序説を,幕内博康が「まれな食道良性腫瘍および腫瘍様病変の分類と頻度」として主題論文を報告した.あれから12年が経過し,内視鏡画像は大きく進歩した.また,H. pylori感染率の低下,肥満の増加などの影響から,上部消化管の疾患体系は大きく変化した.また,HRM(high resolution manometry)の開発,普及に伴い,食道運動機能障害の研究が大きく進んだ.そこで,今回は新井,竹内とともに「いま知っておきたい食道良性疾患」という企画を行った.執筆者は吉田,幕内らから薫陶を受けた,当時の若者(?)たちである.

基本情報

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胃と腸
55巻3号 (2020年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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