胃と腸 5巻9号 (1970年8月)

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 「高位の胃病変」と言った場合,果してどの範囲までを指すのであろうか.それは研究目的によって異なるであろうし,また同じ診断学の分野でもX線と内視鏡では,おのおのの検査方法が全く違うので,問題となる高位としての部位が当然異なるであろう.しかし,X線診断だけでも,著者により,名称や部位の取り扱いが全く一定していない.たとえば,噴門口の水平線以上を一般に穹窿部という名称で呼ばれているが,外国では,fornix2)3)とfundus4)~8)という言葉が用いられ,著者によって様々である.

 胃高位を示す言葉として穹窿部,fornix fundus以外に噴門部,cardiaまたはpars cardiacaなどがある.しかし,その範囲も一定しておらず「噴門を中心とする小部分」9)と,噴門を含めた広い部分とに用いられている.小部分を示すものとして,Holzknecht10),Finby11)が1インチ平方Braasch12)が2インチ平方Portis13)が3cm平方,胃癌取扱規約14)が2cmとしており,広範囲を示すものとして,三宅15)は「第1斜位で弧を描く噴門後壁が,垂直な後壁と鈍角に交叉する点以上」,松浦16)は「食道胃接合部下2cm以上」を噴門部とし,松永17)は「食道開口部の下3.5cm以上」を噴門部および穹窿部と定義している.また,沢田18),藤平19)は「体部上1/3以上」を噴門部および胃体上部として,胃上部の病変を扱っている.

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 噴門を中心とした胃上部の疾患は,頻度も少なく,また疾患の性状把握にも種々の問題があり,その正確な診断のむずかしい部位とされている.従来,筆者らは内視鏡(主にVa型胃カメラ)による胃内の広範囲撮影をルーチンとして行なって来ているが,このことが噴門を中心とした部位の疾患の診断にいかに寄与しているかを検討し,今後解決すべき点についても,若干の考察を加えたい.

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 従来高位の胃病変は解剖学的に,X線的にも内視鏡的にも他部位に比して診断が困難であった.しかし,胃疾患に対するX線診断技術の進歩により現在では全胃粘膜の診断が可能となった.

 胃内視鏡は経口的に行なう限りにおいて噴門を通過して胃内に挿入されるので,噴門部,穹窿部および胃体上部の観察は解部学的な制約があり不充分であった1).しかし胃カメラの反転2)ファイバースコープにアングル機構の装着3)あるいはJ-turn4),二曲式胃ファイバースコープの開発5)により漸次該部の観察診断も可能となって来た.

高位の胃癌の組織発生 中村 恭一
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 筆者らは2)3),“癌組織は,それが発生した正常臓器の構造・機能を多少とも模倣する”との,癌腫一般の基本概念にもとづき,微小胃癌(最大径5mm以下),粘膜内癌および進行癌を対象として①細胞水準で正常細胞に類似を求める,②組織水準で癌発生の場である粘膜の性状と癌組織型との関係,の2点について光顕的・電顕的ならびに統計的に解析を行ない,“分化型癌(乳頭管状腺癌・管状腺癌)は胃の腸上皮化生粘膜を,一方,未分化型癌(粘液細胞性腺癌・硬癌)は胃固有粘膜を発生母地とする”との胃癌組織発生についての一つの概念を得た.

 この概念は,おもに胃幽門前庭部に発生した癌を対象として導かれたものである.ということは胃幽門前庭部は胃癌の好発部位4)であり,多数の胃癌をあつかう場合にはその大部分が幽門前庭部に発生した癌で占められるからである.

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芦沢 今日のテーマの高位の病変はすでに消化器病学会,放射線学会,胃癌研究会などでとりあげられてきておりますが,このようにつづけてとり上げられて来たということは,胃の病気の診断でとり残された場所として胃上部が残っているということにもなると思います.一方では小さい病変の発見も非常に進んでいるのですから,その両面から攻めてゆくと胃の診断はますます完壁なものになるわけです.

 本日のテーマでは,胃上部にはどんな病気があるか,なにか特殊性があるかというようなことがまず問題になるかと思います.そういうこともふくめて今日は,みなさんとお話ししたいと思います.

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 一端が粘膜皺襞に連らなる棍捧状隆起,ならびにこれに隣接するV字形の特異な肉眼的形態を呈した隆起型早期胃癌と胃ポリープの共存した1症例を経験したので報告する.

1.症例

患者:元○義 64歳 女子 無職

主訴:上腹部膨満感

家族歴:姉が胃癌にて死亡.

既往歴:昭和41年11月高血圧症.昭和43年5月乳癌(左)にて手術.

現病歴:昭和42年3月より高血圧症の治療を受けていた.昭和44年10月初め頃より上腹部膨満感を訴えるようになり,当院第2内科にて胃X線,内視鏡検査を行ない隆起型早期胃癌および胃ポリープと診断,昭和44年ll月10日当院第2外科へ入院した.

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 本症例は,昭和44年12月の早期胃癌研究会において御検討をいただいた,深達度は深いが早期胃癌様肉眼所見を呈した症例である.比較的まれな型を示し,また部分的(隆起部分)には,急速な発育をしたと考えられる点が注目される.

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 最近,筆者らは,いわゆる保健栄養食品として市販されている“コンフリー粉末”服用によって生じた胃石の1症例を経験し,胃生検用ファイバースコープを用い,縫合絹糸にて経口的にその胃石を除去しえたので,報告する.

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 与えられたテーマ「高位の胃病変の観察と撮影法」とは単に観察,写真撮影をするだけではなく生検も含め高位の胃病変の診断法であると解釈し内視鏡検査上のいくつかのテクニックと注意すべき点について略記したい.なお「高位」とは一応胃体上部より口側と考えると,胃体上部,噴門部穹窿部がその領域に入る.近年,胃上部病変が注目されて来ており,1969年の内視鏡学会秋期大会ではこれがシンポジウムとなっており,胃高位の早期胃癌の症例も数を重ねている.これは,レントゲン学的にも,内視鏡的にも診断の充分でなかった高位病変を正しく診断するため種々工夫がこらされ,これと併行して行なわれた胃カメラ,ファイバーガストロスコープ(以下FGSと略す)など内視鏡の器種の改良が高位観察を容易にしたためでもある.

 しかし,一般的には胃上部の観察は,他の部位に比べて難かしいことはたしかであり,また,病変の存在は確認されても,その質的診断に関しては不十分であることが少なくない.そこで,内視鏡観察時の条件をよくするためには工夫が必要となる.同じ内視鏡診断でも胃カメラによる写真診断と,ファイバースコープによる直視下診断では,その診断に至る手技,過程は大いに異なる.胃上部診断上にも,各々その長所,短所はあるが,胃カメラでは反転撮影法を含めて,その撮影手技をルーチン化することが比較的容易であるのに対してFGS検査では,ことに初心者では,時に胃上部の観察が憶劫がられ,十分行なわれない嫌いがある.この点最近の改良されたFGSを用いれば「見てやろう」という気持になって行ないさえすれば観察・撮影は容易である.

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 近年消化器疾患においてグラスファイバーを使用した内視鏡が発達するにつれて生検材料採取の機会が増加し,内視鏡診断の中で生検所見の占める位置は大きく,肉眼的に疑わしい例では生検による確定診断は不可欠となっているのであるが,正しい病理診断を得るためには良い組織標本を作成することが必須の条件であって,また日常診療上の必要性から可及的速かに材料の処理が行なわれることは医師および患者の両面より望まれることである.

 この迅速性という目的のために従来より凍結切片法が行なわれて来たが,組織保存性および染色性の点で制約があり,時に所見を正確に把握し難い標本に遭遇する場合もある.これに反して一般に行なわれている10%ホルマリンに始まるパラフィン包埋切片は作成に数日を要するのが通常で,その作成の過程で最近種々の自動化が試みられているが時間的な制約の改善は望めないのが現状である.

診断の手ほどき

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症例

患者:41歳 女性

家族歴および既往歴:特記すべきことなし.

現症:1968年1月初めから,脊部および腰部に疼痛を訴え,食慾は良好であるが,たべると胸につかえるような感じがする.胸やけもむかつきもない.全身倦怠もない.最近1年間に1kgやせた.

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欧文目次

編集後記 芦沢 真六
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 今月号のテーマはある意味では意地の悪いものである.実際に書かれた方たちは従来漠然とした考えはあったとしても,いざ症例を集め整理してみると厳密な意味で高位に入れてよい症例はどれか,更には高位とはどこだというような疑問が出,万人が共通に話し合える胃の特に上部の各部位をあらわす言葉のないことを感じられたことと思う.今後,早期癌分類のような簡明で解りやすい言葉で統一されることが望まれる.

 しかしその前に高位をも診断しようと努力することは,結局胃の中をすべて診断しようということ,即ちどこに病変があっても探し出せるぞということに通じるのではあるまいか.高位も,もう特別の場所としてではなく,日常検査の中に必ずそこの病変をも見逃さないような方法を組入れることが大切で,その意味で本号は読者の皆様に必ずお役に立つものと思う.

 たまたま本号に掲載されたT.Schopsの論文抄録およびその文献からは,外国における噴門部への関心,現状等が窺え,興味あるところである.

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はじめに

 胃上部,ことに胃の噴門より上方の部分は従来,著者によっていろいろの名称が与えられている.すなわち,胃穹窿(弓隆)部,円蓋部,胃泡部,胃底部などの命名も行なわれているが,わが国のレントゲン学会命名では“胃噴門部”との名称が採用されているものの,今日でも統一されて用いられていない現状である.一応,本文ではこれを用いることとする.

 最近の日本の胃X線診断学はX線,内視鏡,細胞診,胃生検の急速な発展普及とともに大いに進歩し,余すところがないようにも見えるが,胃噴門部に関しては未だ充分に解明できたとは言えない.その理由を要約すれば臨床的には,この部はX線検査,内視鏡検査が困難で,触診さえ不可能であるからである.したがって,噴門部病変に関する業績も,内外を問わず,胃のこれ以外の部分に比して乏しいことは否定できない事実である.胃噴門部についてのモノグラフとして筆者の知るところではT.Schopsが1961年に出版したLa Grosse Tubérosité de L'Estomac Normale et Pathologique, Etude Clinique et Radiologique(正常および病的胃噴門部,臨床的らびにX線学的研究)が唯一のもので,その後もこのテーマのみを扱かった著書を見ない.著者も日常の胃X線診断に際して噴門部について苦心しているものとして,本書はまことに参考となり座右に欠かせないものであるが,残念ながら原著が仏文のみで記され,入手も比較的困難であるため,わが国では一部の専門家の眼にふれたに過ぎないように思われる.ここに,求めに応じて本書の概略を紹介し,いささか論評することに多少の意義を感ずるので敢えて筆をとった次第である.

 本書の著者T.Schopsはわが国によく知られたR.A.Gutmannの門下で,内科医として消化器を専攻している.本書には噴門部病変のいろいろな症例102例を集大成したもので,それぞれのX線写真とスケッチを主とした475枚の附図を掲げている.これらのX線写真の大部分はパリのSaint-Antoine病院放射線科でP.Porcherの下で撮影されたものである.本文は543頁で,巻末に1961年までに発表された噴門部に関する欧米の主要文献413篇を列挙している.全体を十三章に分け,以下順に記すと,噴門部の解剖,X線解剖,噴門部潰瘍,噴門部憩室,噴門部癌,噴門部肉腫,良性腫瘍,噴門部静脈瘤噴門部胃炎,肝左葉欠損による胃泡の変位,裂口ヘルニアと噴門部の変位,左横隔膜ヘルニア,瀑状胃を扱っている.これらの中,最も多くの紙数をさいているのが噴門部癌で177頁,次いで噴門部潰瘍89頁に見られるようにこの部の癌について重点をおいていることが窺われる.記載はもちろん,表題のごとく上記各病変について多くの症例をあげながら,臨床,診断,経過,病理解剖治療について各章に要領よく小括している.この大著の全体を紹介し論評することは限られた紙数では不可能なので,以下にT.Schopsに独得な噴門部に関する記載と,最も重視されている胃噴門癌と潰瘍についてのみ,一部を紹介し,論評することとする.

基本情報

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胃と腸
5巻9号 (1970年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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