胃と腸 49巻12号 (2014年11月)

今月の主題 大腸LSTの診断と意義—拡大内視鏡を中心に

序説

大腸LSTの歴史的背景 藤井 隆広
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はじめに

 側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)という名称は,現在では国際的に広く認知され,使用されている.しかし,これに至るまでの経緯は簡単ではなく,1990年代に秋田で開催されていた大腸IIc研究会などをはじめとして,LSTという名称は発育進展を加味したニックネームにすぎず,肉眼型分類には適さないとする不要論が上がったり,その名称そのものの存在が否定されたりする状況にあった.しかし,日本国内の議論を外に,国際学会では欧米よりLSTについての発表が数多く提示されるようになり,本邦でも学会・論文などを通してLSTの必要性が理解され,支持されるようになった.このような経緯から,2013年7月に出版された「大腸癌取扱い規約第8版」1)には,“肉眼型分類には含めない”という条件付きではあるが,初めてLSTという名称が掲載された.

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要旨 大腸LST(laterally spreading tumor)とは,“最大径10mm以上の水平発育する大腸腫瘍群に対する呼称”であり,世界中で広く使用されている.「大腸癌取扱い規約」にはこれまでLSTという用語は掲載されていなかったが,2013年7月発刊の「大腸癌取扱い規約第8版」にその定義や画像が掲載された.なお,LSTは,肉眼型を示す用語ではなく,食道や胃で使用されている“表層拡大型腫瘍”というニックネームと同義である.本稿では,典型例の内視鏡画像を示しながら,LSTの定義・細分類とその歴史的変遷と臨床的特徴について解説した.

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要旨 側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)は形態的特徴により顆粒型と非顆粒型に大別され,さらに顆粒型はG-H(homogeneous type),G-M(nodular mixed type),非顆粒型はNG-F(flat elevated type),NG-PD(pseudo-depressed type)に亜分類される.各分類におけるpit patternの特徴について,II型,IIIL型およびIV型の亜分類も含めて検討した.G-H群はIVB型,IIIL-1型が多く,G-M群はIVB型,IVV型,VI型が多かった.NG-F群はIIIL-2型,IIIL-1型を多く認めた.NG-PD群は大部分がIIIL型で構成され,辺縁部はIIIL-2型,偽陥凹部はIIIL-1型,VI型が多かった.G-M群は結節部が,NG-PD群は偽陥凹部において周囲よりも異型度が高く,また癌化も認めた.全体的にpit pattern診断が“浅読み”される傾向があり,亜分類ごとの特性を踏まえて慎重に診断する必要がある.

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要旨 LSTをLST-G-H,LST-G-MとLST-NG-FE,LST-NG-PDに分類し,LSTの肉眼型亜分類とpit patternの関係,pit patternと病理組織の関係,pit pattern診断の質診断能および深達度診断能を検討した.肉眼型とpit patternの関係では顆粒型,非顆粒型ともにIII/IV型が主体を成していた.VN型pit patternを示した病変は全例pT1b癌であった.しかし,VI型pit patternを示した病変では粘膜内癌を中心に腺腫からSM癌まで幅広く存在した.pit patternによる質診断能は異型度を高く読む傾向がみられ,深達度診断能は深達度を深く読む傾向がみられた.

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要旨 側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)は,その形態的特徴より顆粒型(granular type ; LST-G)と非顆粒型(non-granular type ; LST-NG)に大別される.さらに,前者は顆粒均一型〔homogeneous type ; LST-G(H)〕と結節混在型〔nodular mixed type ; LST-G(M)〕に,後者は平坦隆起型〔flat-elevated type ; LST-NG(F)〕と偽陥凹型〔pseudo-depressed type ; LST-NG(PD)〕に亜分類される.それぞれの群は形態だけでなく,病理学的特徴や生物学的悪性度が異なっている.LSTの内視鏡診断においても拡大内視鏡は有用である.NBI拡大観察において,LST-GとLST-NG(F)でirregular patternを呈する病変,LST-NG(PD)でsparse patternを呈する病変はSM深部浸潤癌の可能性が高い.NBIでirregular patternやsparse patternを呈した病変にはクリスタルバイオレット染色による色素拡大観察を併用することで,より正確に深達度診断をすることができる.LST亜分類別の特徴を十分に認識して拡大観察を行うことで,より病変の本質に迫る診断が可能になる.

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要旨 レーザー光を光源とした内視鏡システムによる狭帯域光観察であるBLI(blue laser imaging)は大腸腫瘍の診断に有用であり,拡大観察においては明瞭なvascular patternおよびsurface patternの描出が可能である.LST(laterally spreading tumor)の診断においては,SM深部浸潤の頻度が高いとされるLST granular typeのnodular mixed typeやLST non-granular typeのpseudo depressed typeにおいて良好な表面構造の描出により精密な診断が可能となる例も少なくはない.本稿では当科での経験を踏まえて大腸LSTのBLI診断について詳述する.

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要旨 大腸腫瘍性病変の中でも側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)は,最大径10mm以上の側方浸潤を主体とした発育進展様式が特徴的な腫瘍である.その大きな腫瘍径により4亜型に分けられ,おのおのの臨床病理学的特徴を理解しつつ診断・治療に当たることが重要である.一体型超拡大内視鏡(CF-Y0001,prototype,オリンパス社製)により拡大倍率450倍の画像取得が可能になり,pit patternによる構造異型診断のみならず,核異型の所見を基に新しい診断学が展開されつつある.腫瘍・非腫瘍の診断では正診率97.1%,SM深部浸潤の診断では正診率96.0%と非常に高い診断能を得られた.とりわけ,表面平坦型腫瘍であるLSTはその他の肉眼形態と比べ比較的良好な画像が得られやすいので,今後さらに症例を検討し,将来的には大腸用超拡大内視鏡(endocytoscopy ; EC)診断により,さらに精度の高い深達度診断を展開していける可能性がある.

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要旨 肉眼亜型分類に基づいた側方発育型大腸腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)の臨床病理学的および分子病理学的解析を行った.岩手医科大学および関連施設で内視鏡的切除が施行されたLST 72例(腺腫症例48例および腺腫内癌症例24例)について,肉眼型をLST-GH,GM,NG-FおよびNG-PDの4型に亜分類し,臨床病理学的,免疫組織化学的検討(粘液形質およびp53過剰発現)およびDNAメチル化解析を行った.臨床病理学的にはLST-GMでは病変の大きさが他の亜型と比較して有意に大きかった.組織学的には腺腫症例では管状絨毛腺腫はLST-GHおよびLST-GMで多くみられた.担癌率はLST-GMおよびLST-NG-PDで高かった.粘液形質は腺腫症例ではほとんどが大腸型であったが,腺腫内癌の腺腫成分から腺癌成分への移行に伴い,形質転換が約半数の症例にみられた.LST-NG-FおよびLST-NG-PDでは小腸型へ形質転換する症例が多かった.p53過剰発現は腺腫および腺腫成分のいずれでも認められず,腺腫内癌の腺癌成分ではLST-GMおよびLST-NG-PDに過剰発現を示す症例が認められた.DNAメチル化はほとんどの症例で低メチル化状態を示し,腺腫から腺癌への移行の際には,DNAメチル化状態の変化は認められなかった.腺腫症例と腺腫内癌腺腫成分との比較では,後者で混合型形質を示す症例が多かったが,臨床病理学的および分子病理学的差異はほとんどみられなかった.LSTにおいては肉眼亜型により,臨床病理学的特徴,粘液形質に差異がみられた.DNAメチル化異常はLSTの腫瘍発生および癌化において関与が低いことが推測された.

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要旨 患者は60歳代,女性.下部消化管内視鏡検査で直腸Rb左壁に35mm大の顆粒型側方発育型腫瘍(結節混在型)を認めた.通常観察では浸潤癌と確信できる所見に乏しかったが,内部に顆粒状の表面構造が消失した8mm程度の発赤陥凹部を認めた.狭帯域フィルター内視鏡拡大観察では病変の大半で粘膜内病変と判断したが,発赤陥凹部は広島大学分類C3 Type,CP分類Type IIIBと判断した.クリスタルバイオレット染色拡大観察でも病変の大部分は粘膜内病変と判断したが,発赤陥凹部ではVI高度不整ないしVNと判断した.病理診断は,混合型(鋸歯状および管状)腺腫から発生した中分化型腺癌で,発赤陥凹部でSM 1,800μmの浸潤を認めた.

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要旨 患者は70歳代,男性.健診で便潜血反応陽性を指摘され,近医を受診した.下部消化管内視鏡検査を施行したところ直腸下部に約40mm大のLST-G(結節混在型)を指摘され,当科へ紹介,受診となった.通常光観察では,結節隆起部位で発赤調の陥凹面を認めた.NBI拡大観察では陥凹面で血管の口径不同が目立ち,一部では血管密度が低下し,surface patternは不整であった.色素拡大観察では,結節隆起の陥凹面でVN型pitと診断した.SM深部浸潤癌が疑われたが,完全摘除生検目的にESDを施行した.周囲の顆粒均一部は腺腫成分が主体で,結節隆起部は異型の高い高〜中分化型腺癌の増生を認めた.結節部の直下で,筋板を破って粘膜下層浸潤を来していた.最終病理診断は,well to moderately differentiated adenocarcinoma with tubular adenoma,T1b(SM 2,250μm),ly0,v0,簇出Grade 1であった.

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要旨 患者は80歳代,男性.便潜血陽性にて下部消化管内視鏡検査を施行したところ大腸腫瘍を指摘され,当院へ紹介され受診となった.当部門での内視鏡検査ではS状結腸に15mmのLST-NG(PD)を認めた.インジゴカルミン撒布下色素内視鏡検査にて一部境界明瞭な陥凹面を認めた.陥凹面のNBI併用拡大観察ではcapillary pattern Type IIIAであったが,クリスタルバイオレット染色下拡大観察ではVI型高度不整pit patternを認めた.陥凹面が平坦で空気変形は良好であったことからSM浅層までの早期大腸癌と診断し,ESDを施行した.病理所見は粘膜内にとどまる高分化腺癌で治癒切除であった.

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LSTのイメージを一致させる

 田中 昨年(2013)の夏に,側方発育型大腸腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)の定義が「大腸癌取扱い規約第8版」に掲載されました.しかしながら,いまだに各施設で診断基準やイメージが若干異なり,同じ用語を使っていても,違う病変をイメージするといったズレが生じています.今回の座談会では,まずLSTの亜分類の具体的な診断基準とイメージをこの参加者のなかで統一し,その一致を前提に,LSTの診断,細分類とその意義などについて,拡大観察を中心に議論していきたいと思います.また,組織発生や発育進展,自然史,悪性度,分子生物学的特徴に加えて,今話題のSSA/P(sessile serrated adenoma/polyp)との関連も視野に入れて議論できればと思います.まずLSTの定義をここに提示しました(Fig. 1).

 LSTにはgranular(以下,G)とnon-granular(以下,NG)があり,それぞれ亜分類が顆粒均一型homogenous typeと結節混在型nodular mixed type,それと扁平隆起型flat elevatedと偽陷凹型pseudo-depressed typeと定義されているのはご存じのとおりだと思います.LSTは食道や胃の表層拡大型と同様のニックネーミングで定義されたわけですが,この亜分類のイメージが,どのくらいみなさんの間で一致しているのか,確認したいと思います(Fig. 2).

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 人が陥りやすい陥穽は,自分にはなんでも分かっている,見えているという思い込みである.人は見たいものしか見ない,見えない.人の心というものは馴染みないもののショックを和らげるために馴染みあるもの,ありきたりのものの姿かたちに寄り掛かる傾向を持つ.15〜16世紀,新大陸アメリカへ行ったヨーロッパ人は新奇な事物をよく観察し,細大漏らさず記録に残している.しかし,結局彼らが見たいと思ったものだけを見る,予測しなかったものは無視するという結果に終わっている.唐時代の中国が征服したヴェトナムに関する記録でも同じであったという.南方へ行った官吏は「生態学的語彙のとりこ」になって,既知の語彙でしか記録していない.見たいと思ったものだけしか見えなかった(JHエリオット『旧世界と新世界』).

 手術や解剖の経験から,胃癌は大きな魂ないしは潰瘍と思い込んでいる人には早期胃癌の形は思い描くこともできず,現に見ても癌とは見えなかった.欧米の教科書で学習して,大腸腫瘍はポリープなどの隆起と思い込んでいた人には平坦陥凹型は見えなかった,既知の語彙でしか見なかった.それらに気づいたのは先入観なく観察していた若い医者たちであった.経験をつむことは経験という殿堂に住むことである.殿堂に住むのは王様で,王様にはなにも見えない.裸である.愚かな人には愚かなために,理知的な人には理性的なために,経験不足な人には経験不足のために,経験豊富な人には経験豊富なために見えないものがある.大勢の人が集まって話している場において,自分の仲間の姿や声はよく見え聞こえるが,関係の薄い人の姿は見えにくい.遠くにいても知人はすぐ分かる(カクテル・パーティー効果).見つけやすいものを見つけて喜んでいるとき,そのことによって実はもっと大事なものが隠れてしまっているかもしれない.

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要旨 患者は40歳代,女性.血便を主訴に来院した.下部消化管内視鏡検査を施行したところ,直腸Ra〜Rs右壁側に径20mm大の表面やや不整な粘膜下腫瘍様隆起を認め,表層の一部に特徴的な発赤調の結節状隆起を伴っていた.EUSでは,病変部の第4層の肥厚を認め,肥厚部と連続して直腸壁外に径20mm大の内部に一部高エコーな領域を含む低エコー腫瘤が描出され,発赤調の結節部では第3層が途絶していた.生検組織では腺癌も疑われたが,特徴的な内視鏡像から本疾患を疑い,免疫染色を加えることで腸管子宮内膜症と診断した.診断後GnRH(gonadotropin-releasing hormone)アゴニスト療法を開始した.3か月後の下部消化管内視鏡検査では病変の退縮を認めた.

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投稿規定

編集後記 山野 泰穂
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 本号は「大腸癌取扱い規約第8版」に“LST(laterally spreading tumor)”が正式に収載されたことを受けて企画された.

 LSTは今でこそ市民権を得て,国際的にも広く用いられている用語であるが,本誌でLSTがタイトルを飾ったのは,つい最近とも言える45巻6号(2010年)「側方発育型大腸腫瘍(LST)—その分類と意義」が初めてであった.その理由は,藤井序説を読むと理解できる.LSTの誕生,亜分類(granular typeとnon-granular type)の成立秘話が示され,その後の学術論争の経緯,今後のLSTへの期待など,初期の段階からLSTに関わった者だけが書ける凄味のある内容であった.

次号予告

基本情報

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胃と腸
49巻12号 (2014年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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